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失敗少女  作者: 鬼京雅
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9話・失敗少女vs成功少女

 コインの表と裏のように失敗と成功は表裏一体。

 そして、この失敗少女と成功少女も表裏一体である。


 一方は他人の失敗を絵空事にする存在。

 一方は他人の成功を奪い去る存在。


 他人を助ける力と、他人の力を奪う力。

 相反する二つの力の持ち主は、白と黒の魔法少女服のように真逆の考えで相手を見つめていた。夜の雑居ビルの屋上は満月に照らされていて明るい。これから始まる戦いを王子はただ見守る。白い魔法少女服の失敗少女は、白のブーツを履いた足を踏み出して、先端に王冠が付いた失敗ステッキを突き出す。


「貴女が成功少女なの。私は失敗少女だから私達は真逆の存在だね。他人の成功を踏み台にするって事はどういう事なの?」


「あら気になる? でもそれはお遊びの中で話しましょうか。貴女が死ななければね!」


 先端に五芒星が付いた成功ステッキを振りかざすゴシックロリータ服の成功少女は突進する。長い黒髪を風になびかせる黒衣の悪魔に絵空は戦いを決意した。そうして、失敗少女と成功少女とのバトルが始まった。


『――!』


 頭に王冠が付いたエラーステッキと、五芒星が先端で黒く輝くサクセスステッキがぶつかり火花を散らす。茶色のセミロングヘアが満月に照らされる絵空は、下段蹴りを仕掛けた。足元をすくわれた成功少女は、その体制のまま成功ステッキで絵空を攻撃する。


「くっ!」


 絵空は転んだまま横に転がり、成功少女の攻撃で地面が少し砕ける。その絵空に成功少女は追撃をかけた。地面に座り込む絵空は、失敗ステッキを持つ右手を引く。


「そのまま地面に座り込んで、私の成功魔力の踏み台になるのよ!」


「――嫌だよ!」


 放たれる矢のように絵空は突きを繰り出し、迫る成功少女の勢いを利用して直撃を狙う。腰をひねって回避する成功少女は、絵空の右肩にすれ違い様に一撃をくらわせた。王子は屋上の入口から両者の実力はほぼ五分と見た。


(成功少女に切り札でも無い限りは勝てるね。絵空は失敗少女として、夏からエラーマジックをゲットしてきた強さがある。魔女が現れない限りは勝てる)


 そして、腹部にダメージを受ける成功少女は黒髪ロングヘアを乱しながら立ち上がる。絵空も右肩を抑えつつ立ち上がった。


「強いわね成功少女。私も結構強くなってるんだけどね。初の対人戦だからかな?」


「確かに私も対人戦は初めてね。けど、長引くのはゴメンよ。そろそろ幕引きと行きましょう」


 すると、成功少女は成功ステッキに闇の魔力を集め出した。背後を振り返る絵空も対抗して失敗ステッキに魔力を集めようとする。先程の右肩へのダメージの影響なのか、魔力の集中が上手く行っていない。その間、成功少女は闇魔法を放つ――。


「全ての成功は成功少女(わたし)の踏み台! 闇へ(いざな)え! サクセス・クラスター!!!」


 五芒星が描かれた闇のエネルギーが放出された。それを見た屋上の入口にいる王子は叫ぶ。しかし、サクセス・クラスターの音で絵空には聞こえていない。その絵空は覚悟を決めて失敗ステッキを振りかぶっていた。


(魔法には魔法で相殺出来るはず……!)


 闇のエネルギーに対して受ける姿勢で絵空は叫んだ。


「――エラー・インパクト!!!」


 闇と光の魔力が弾け、雑居ビルの屋上を花火のように彩る。成功少女は口元が歪み、王子はすぐに絵空の下に駆け寄った。プスプス……と白い魔法少女服が焦げてはいるが、瀕死では無かった。大丈夫と王子にアイコンタクトし、絵空は言う。


「こんな場所でそんな魔法使ったら、下に歩いている人は死んじゃうよ? 成功少女なら失敗しないとでも言うの?」


 ククク……と笑う成功少女は絵空の背後にある向かい側のビルの看板を見た。


「確かに今の魔法がこの直線上の向かい側の屋上の看板に直撃すれば、そのまま地面に落下して誰かが死ぬ可能性がある。でもいいじゃない。その失敗から魔力を得られるんだから」


「……ふざけた事を言わないで!」


「ふざけて無いわよ。ありのままの事を言ったまで」


 この成功少女は自分の成功の為なら他人などは本当に踏み台としか思っていないようだ。かなりのダメージを受けているが、闘志は失っていない。相反する二人の少女の戦いに、王子は介入した。


 成功少女の背後にいるであろう「魔女」の存在を知る為に――。


 そして、赤い王子服を着た王子は言う。


「サクセスガールというサイトを利用して、君は魔力を集めているんだろう成功少女?」


「何故それを……?」


 成功少女は驚いた顔でいた。しかし、すぐにニタァ……と笑う。


「そうか。貴方が魔女の言っていた王子様か。確かに王子と魔女の絵本に出てくる赤い髪の王子だわ。王子と魔女の絵本の王子がまさか、失敗少女を生み出しているなんてね。皮肉なものだわ。でも、どこかで……」


「やはり魔女との繋がりがあったか。あのサイトは今後かなり危険なサイトになるね。一般人が無作為に成功魔力を奪われる事になる」


「貴方が王子様なら隠しても無駄だから教えてあげる。成功少女の魔力ゲットは確かにそうよ。サクセスガールの成功体験を見てその気にさせる、サイトに誘う、成功者に媚びを売る、メッセージを貰って調子に乗る、私は凄いと自慢する、注目されていい男を選ぶ、その成功体験のエネルギーを私が奪う。それこそが成功少女よ」


 大きな満月をバックにしているせいか、やけに成功少女は大きな存在に見えた。真っ黒なゴシックロリータ服で、絹のような長い黒髪。全てが黒く、全てが自分の欲望に忠実なこの少女に絵空も王子も恐れすら感じた。それをこらえつつ絵空は聞いた。


「私が失敗少女として世の中に現れた時に、貴女はもう成功少女だったの?」


「一応はね。でもまだ成功少女を続けるかは不明だった。成功少女としてやって行くなら誰かを不幸にしないとならない。その覚悟が、失敗少女(あなた)のおかげで出来たのよ!」


 その通り、成功少女は絵空より一年以上前に魔女と関わって成功少女になっていた。しかし、他人の成功を奪ってまで自分が魔女に協力するのはおかしいとも思っていたので大きくは協力しなかった。


 二カ月ほど前の夏休みから失敗少女である絵空が現れ、成功少女は世の中に注目される失敗少女を妬んでいた。その心が一人の少女を成功少女として生きていく事に決めたのである。身体の痛みがこの会話によってだいぶ回復した絵空は、


「……要するに貴女は私に嫉妬したのね。成功少女は自分の利益だけを追求していて私に嫉妬したのよ。そして、一般人だけではなく失敗少女(わたし)の成功をいつか奪うとする。貴女のやり方は世の中には受け入れられないわ」


「全ての悪は失敗少女の罪として片付けるからいいの。それより王子様。貴方はいつから気付いていたの? サクセスガールが魔女に関係してるって?」


「最近さ。あの成功体験を語るサイトはおかしいと思っていた。魔女が絵本からネットの海に消えた後、どこかのサイトに現れるはずだと思っていたし、カンだけど成功少女が生まれるならあのサイトと感じただけさ」


「あらそう。なら、ここで二人共始末しなきゃね。そうすれば魔女も私に恐怖するでしょう?」


 そして、失敗少女と成功少女の第2ラウンドが幕を開ける――。


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