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失敗少女  作者: 鬼京雅
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3話・失敗少女としての自覚


「ねぇ、王子! この失敗少女なら王子みたいに川の上を歩けるの?」


「あぁ、問題無い。ただこの流れで立ち止まるのは無理だ。常に動いていないと、まだ慣れて無い君なら流されてしまうよ」


「動いていればいいのね」


 素早く絵空は流れの速い川に飛んだ。そして、足場の悪い砂利道を駆けるように走る。子供が流されているのを自分から受け止める為に上流に向かいたいようだが、川の流れも早いので押し戻されてしまう。すると、流されて来た子供は何故か途中で何かにぶつかったように止まった。


「流されてた子供が止まった? 私は川の上にジャンプしながら立ってるのが精一杯。ここで待ち構えるしかないか」


「おそらくあの子供が止まった場所には岩がある。岩が支えてくれるうちに助けた方がいい」


「そうねと言いたいけど、あの子供の頭上にいる悪魔は何? あの存在は……」


 流れる川の上をジャンプしつつ、バランスを保っている絵空は驚愕の瞳でそれを見ていた。小型のゴブリンのような悪魔が、空に浮かびながら流される子供を槍で突いていた。しかし、子供は意識を失っている為か全く気付いていない。


「あの子供には見えていないの? あんな化物が存在するなんて……」


 すると、王子は河川敷からゴブリンのような悪魔の正体を話し出した。


「あれは「コモン」だ。運勢がいい時はスライムのような天使だが、悪い時はゴブリンのような悪魔になる。失敗も成功も全てあのコモンを倒せばゲット出来る。この事件を解決したいなら、あのコモンを倒すしかない」


「あれはコモン。今は悪魔コモンなのね……」


「絵空。もう迷ってる時間は無い。あのままだと子供はあの岩の場所での溺死になるだろう。魔法を使って倒すんだ。君の想いが魔法を生み出す」


 王子の言葉で絵空は魔法を使う事を考える。しかし、今いる場所は足場の悪い川の上だ。


(魔法なんて今は使えても、集中出来ないから川の上では無理。それに足場のいい河川敷に戻ってる時間も無い。なら――)


 迷いなく茶色いセミロング髪をなびかせて絵空は駆け出した――。


「こんな出来事! 失敗少女(わたし)が絵空事にしてあげる!」


 迷いの無い判断に王子は微笑む。子供を襲う悪魔コモンは絵空の接近に気付いた。しかし、魔法よりも気迫で気圧された為に動きが止まる。


「――エラーインパクト!」


 魔力を溜めた王冠ステッキでブン殴り、悪魔コモンを倒したのである。シュワァ……と粒子が弾けるように悪魔コモンは消え去った。撃退した場所にフワフワと現れたエラーの魔力も王冠ステッキでゲットして、絵空は助けた子供を抱えて河川敷に戻る。


 そして、川の上流から駆けて来ている子供の両親に子供を引き渡すと、絵空は名前を聞かれたので「失敗少女」と答えた。こうして、絵空の失敗少女としての初陣は終わった。パチパチパチと拍手をする赤髪の王子は爽やかな顔で絵空を褒めた。


「素晴らしい活躍だよ失敗少女。悪魔コモンを撃退しエラー魔力をゲットし、子供を助けた。子供の失敗を無かった事にした君の活躍は凄い」


「当たり前の事をしただけだよ。自分の……力を信じてね。私は失敗少女として、これからも人の役に立ちたいと思う。生きる希望が湧いて来たから!」


「それは頼もしい意見だ。やはり君を失敗少女に選んで良かった。今後も今の気持ちでいて欲しい」


 すると、絵空は王子に抱き締められた。少し驚く絵空だがそれを受け入れた。花火大会の観客達の車が走り出す快晴大橋の下で、二人は抱き合っていた。


 こうして、時外絵空(ときがいえそら)は失敗少女になった。他人の失敗であるエラーマジックを得る事で成長する魔法使いになったのである。失敗を防ぐ事で成長と成功を収める特別な存在に――。


「……いい所だけど、そろそろ変身解除だね」


「え? うわっ!」


 失敗少女の変身が解除して、二人は離れた。変身前の白い下着姿のままの絵空は焦るが、王子が魔法で制服を乾かしていたので絵空は制服を着用した。すると、王子は夏の暑さを少し和らげる川を見つめて言う。


「……君が自殺を願い、僕は生きるべく失敗少女の力を与えた。大きな川へ飛び込んで海の藻屑になりたいという覚悟があるなら、失敗少女になれる。そう感じてね。後悔してるかい?」


「後悔は無い。むしろ感謝してるわ」


 真っ直ぐな瞳で言う絵空に、王子も納得していた。河川敷にぬるい風が流れて二人の肌を撫でる。無数の星が浮かぶ夜空から一つの星が流れた。


「私は今までネットで知った事を実践していたら、みんなに嫌われた。学校ではいつでも正解を探さないとならない。だけど、何が正しいかなんてわからない。だからネットを頼ったのに……」


「……」


「ネットの真実は世の中の真実では無かった。真実は、自分の意思で掴み取るモノだった……失敗少女になってそれがわかったの」


「それに気づいたなら君は立派な失敗少女だ」


 その絵空には、王冠型の髪留めが左のこめかみ付近に現れていた。これは王子と契約した失敗少女という証の髪留め。契約者である王子は快晴大橋の上にジャンプし、手すりに座って真下でキョロキョロしてる絵空を見た。


「さぁ、君がどんな失敗少女になるか楽しみだよ。僕の望む存在に成長しておくれ。僕の失敗少女」


 こうして、時外絵空(ときがいえそら)は「失敗少女」として、様々な失敗から世の中を解決する魔法使いとして活躍する事になった。

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