20話・スーパー失敗少女vsマジー成功少女
スーパー失敗少女とマジー成功少女は、光のような速さで空に星を描くように白い翼と黒い翼を羽ばたかせ激突している。赤い髪の王子は魔法少女二人の個人的感情のこもる戦いを見つめている。この戦いが終われば、長きに渡った王子と魔女の因縁の歴史に終止符が打たれるのである。しかし、当の本人達は個人的な意思での戦いであった。
『はあああーーーっ!』
人を支配するだけの力を持つ魔法少女の二人は、その目的も衣装も考え方も対局である。これだけの力を手にしながらも、スーパー失敗少女である絵空は己が欲に負けていない。
「こんな力は虚しく無い? こんな力は度を超えすぎているよ? もう今の黒宮さんならこんな力はいらないでしょう!?」
「私は黒宮じゃない! マジー成功少女よ!」
自分の欲を優先するマジー成功少女。
自分の欲を制御するスーパー失敗少女。
その天使と悪魔の共演は、新世界を生み出すほどのエネルギーを秘めていた。あくまでも黒宮の心に問いかける絵空は、物理的攻撃と会話による攻撃を仕掛けていた。
「知ってる? 武田君は死んだよ。貴女が成功を奪っていく人間は自殺している人もいる。
「敗者は死ぬ。それだけよ。それがこの世の摂理」
「本当にそれだけ? 人間的な感情も無いの? 欲に溺れたらそこまでなっちゃうの? 貴女はそんなに弱く無いでしょう? 太ってた黒宮さんは努力して痩せた。それをサクセスガールに投稿したら、一気に人気が出てブレイクした……みんな黒宮さんに憧れていたんだよ?」
「そうよ。憧れられるなら、答えないとならない。だから私は世界を従える。黒宮聖子としてではなく、成功こそ全ての成功少女としてね!」
国会議事堂の上空では魔法少女達の火花が散り続けた。ほぼ、二人の力は互角である。
しかし、欲を解放する人間と欲を制御する人間とでは、次第にその差が生まれつつあった。それに王子も気付いていた。
「このままだと絵空が負ける。黒宮さんは欲に忠実だ。力をセーブしている絵空はこのままだと……」
大空を駆けるスーパー失敗少女である絵空も無論、それを知っていた。だが、目の前の人間の欲にくらんだ姿は失敗としてしか見られないので、強さという欲に溺れる事は無い。
「……黒宮さん! ついでに言うなら、快晴市の人間達も大半は精神崩壊している可能性があるよ。魔女の復活祭で使った五芒星魔力の影響は日本全土に広がっているだろうからね。まぁ、成功少女には関係無い話かな」
「当たり前でしょう!」
強烈な一撃を受け、スーパー失敗少女は地面に転落した。地面に着地するマジー成功少女は立ち上がる相手の笑顔に不快感を示す。
「私にやられて喜んでいるの? これから私は更に力を増す。次は致命傷かもよ?」
「……その割には、さっきより魔力が乱れてるね。ダメージが弱くなってるし」
「――黙れぇ!」
マジー成功少女は、目の前に現れた謎の名前達に驚いた。魔力で描かれた誰かの名前達が浮遊しているのである。
「どうしたの黒宮さん? 人が死んでも何も感じないでしょう? それは最近、自殺した芸能人の人間達の名前の羅列だよ?」
「……」
「何も感じないのに何で黙ってるの? く・ろ・み・や・さ・ん?」
怒りに任せたまま、マジー成功少女はスーパー失敗少女を殴った。そして、その胸ぐらを掴んで言い放つ。
「私の心が乱れる訳が無い! 成功こそが正義! 成功こそが人生の独壇場! 私は成功して成功して成功するの! その為に生まれた成功少女なんだから!」
「だから! 私達はいつまでも少女じゃいられないのよ! この分からず屋!」
スーパー失敗少女もビンタをかまして吹っ飛ばした。このまま戦っていても拉致があかない。故に、二人の魔法少女は次でトドメだと思うように最後の一撃を繰り出す――。
「失敗少女ともこれでお別れよ。次の新世界は魔女に変わって成功少女が支配するの。全てが終わり、全てが始まる」
瞬時にマジーサクセスステッキから五芒星が描かれ、そこから闇の魔力が放出される――。
「今宵はここで眠りなさい。そして踏み台になれ! マジー……サクセス・クラスター!!!」
闇の本流に対してスーパー失敗少女は構えた。全ての魔力が、スーパーエラーステッキに注がれて行く。
「スーパーエラーステッキよ! 私の全てを込めて絵空事にして! エラー……インパクト!!!」
光と闇のエネルギーが激突し、弾けた。
極限魔力のぶつかり合いは周囲にかつて無い衝撃波を生み出し、国会議事堂は消滅していた。瓦礫の山となる戦場には、二人の魔法少女と一人の王子が残された。
「私の勝ちね……時外絵空」
「最後まで強気だね黒宮さん。その調子なら、問題無いか」
すると、マジー成功少女は倒れた。
勝負はスーパー失敗少女が勝ったのである。絵空は何故負けたのか理解出来ない黒宮を抱き抱え、言う。
「今度会った時は友達だよ。私達は友達になれると思う」
「誰が……ガイちゃんなんかと……」
その顔は言葉とは裏腹に、優しい笑みを浮かべている。最後までツンデレのまま、マジー成功少女は意識を失った。そして、赤髪のプリンスは拍手をしながら歩いて来る。
「ダメージを受け続けてのカウンター。ハッキリ言ってマジー成功少女の魔力は乱れてもいなかった。彼女は自分の心が乱れているだけなのを勘違いしていたね。それが勝因だった。けど……」
「うん。ちょっとだけ厳しそうかなと思ったけど、黒宮さんの心を揺さぶれて勝てたの。流石は王子だね。良く分かってる」
「わかっている? 君は何も知らないだろう? これから始まる最後の宴をね」
王子は王子と魔女の絵本を取り出した。
そして、スーパー失敗少女が解除される絵空に向かって言い放つ。それは、王子との別れの始まりの言葉だった。
「失敗少女の最後の敵は、この王子だよ」
すると、王子と魔女の絵本のゲートに吸い込まれた絵空は周囲を見渡した。宇宙空間のような空間が壊れ出し、魔女が起こそうとしていた新世界を生み出すための時間破壊を行う、エターナルブラックが発動していたのだ。これが現実にも起これば世界は崩壊する。
失敗少女は最後の敵である王子と向き合った。




