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失敗少女  作者: 鬼京雅
2/21

2話・王子から失敗少女をプレゼントされる絵空

 

「死ぬのさえ失敗した……」


 時外絵空(ときがいえそら)は中学校での生活に疲れ果てて自殺をしようと、高さ60メートルの陸橋の上から川に飛び降りた――。


 しかし、本来なら死ねなくても川の流れに流されるはずが、何故か川の右端に流されていた。快晴陸橋の真ん中から落ちた以上、落ちたらそのまま真ん中を流れるはずなのにも関わらず。


 考えても結果はこうなったと思うしかないと決めた絵空は、茶色いセミロングの髪をゴムでポニーテールにする。ずぶ濡れになる身体に張り付くシャツとスカートを脱いで下着一枚姿になった。今は河川敷にも誰もいないので、シャツとスカートを絞って気休め程度に脱水する。そして、靴下を脱いで絞ると、花火大会がもう終わっている事に気付いた。


「……花火の音がもう聞こえないって事は、もう花火大会は終わったって事だね。最悪だ。本当に死ぬのを失敗するなんて」


 もう十分足らずでこの快晴陸橋にも車で来た花火大会の観客が通り出す。そして、その後は地元の歩行者も多くなるだろう。


(今日は……無理だな)


 それを悟った絵空は自殺を諦めた。

 次も決行するか否かを考える前に、ある物が自分の手に無いのに気付く。


「そういえば、抱えていた王子と魔女の絵本が無い。もう川に流されたかな?」


「王子と魔女の絵本は絵空事だよ。あれはあくまで物語だから頼っても、すがってもいけない」


「……誰?」


 最近どこかで見たような、赤い髪の王子のような貴族服のイケメンが、快晴陸橋の上から川の右端にいる絵空を見ている。その首元には高貴な王冠のネックレスが輝いていた。そして、その赤髪王子は当たり前の動作のように陸橋から飛び降りた――。


「……え?」


 という絵空の呟きと共に、流れの速い川に大きな水飛沫が上がる――だずだ。しかし、その起こるはずの現象は起こらずに赤髪王子は川の上を悠々と歩いて来た。


 ポロリと靴下を地面に落とす絵空は、自分が本当に現世にいるのかを理解出来なかった。人間が高さ60メートル程の陸橋から飛び降り、川の上に着地して平然と歩いて来るなんて人間ではない。


「何なの……貴方何なの!?」


「僕は王子だよ。この日本でなると、赤井王子(あかいおうじ)という事にしようかな」


「赤井王子にしようかなって……人間じゃないでしょ? それこそ絵空事だよ……」


 白い下着姿のまま絵空は河川敷で腰を抜かしていた。そうこうしてる間に、王子は絵空の前に立つ。すると、王子という少年は一冊の絵本を持っていた。


「あ! それは私の王子と魔女の絵本。返して――」


 奪い取るように絵本を取り戻し、絵空はその絵本を見た。王子の口元が笑うと、空白のページに「エラー」という文字が無数に浮かび上がる。


「エラー? 何がエラーなの? ひゃっ!?」


 すると、そのエラーの文字は一つに収束して行き、「失敗少女」という文字が浮かび上がった。まじまじと失敗少女という単語を見る絵空は呟く。


「失敗少女? 何なのこのスマホ画面みたいな表示は? これはただの絵本……サクセスガールのパクリみたいな、この失敗少女とは何?」


「失敗少女とは、失敗から成功へ進む少女の事を指す。ここにログインすれば今日から君は「失敗少女」になるんだよ」


「失敗……少女?」


 そこには絵空の言うサクセスガールのサイトではなく、「失敗少女」のサイトが映し出されていた。サクセスガールとは、写真や動画などをアップし、それを見た人間が人気投票してバロメーターを生む最近流行りのサイトだ。しかし、こんな失敗少女というサイトは絵空は知らない。


「失敗少女とは何? 他人の失敗でも集めて自分の成功にでもする事なの?」


「その通りだ。勘がいいね。その場合、君は魔法使いの「失敗少女」として生きて行く事になる。覚悟はあるかい?」


(何を言ってるのこの王子という人は? 私は数分前に王子と魔女の絵本のように、来世で幸せになれるよう自殺した。でも失敗した。この絵本もおかしくなってるし……私はおかしくなったのか?)


 状況がわからず混乱する絵空は、もう一度王子と魔女の絵本の内容を思い出す。


「王子と魔女はかつて交際していた。成功しても喜べ無い王子は病み、失敗ばかりで苦しい魔女は自殺。王子は後追い自殺をしてしまう。成功すれば周囲の人間は変わり、誰かに利用される事になる。失敗すれば誰にも使われる事も無く、あるのは目の前の闇だけ。絶望が二人を強く結び付け、来世の二人は幸せになれたのです……」


 絵本の内容を声に出して思い出す絵空は、自分の気持ちが落ち着く。


「絶望で結びついても喜べる事は無いよ。物語と現実は違う」


 しかし、王子は冷静に絵本を否定した。そして、失敗少女とページに書かれた絵本を自分の身体に溶け込ませた。


「絵本が吸い込まれた? ……それより! いきなり何なんですか貴方は? 私の好きな王子と魔女を否定されたくないです!」


「僕の事は王子と呼べばいい。君が失敗少女になるなら、過ちを犯さないか見守ってあげよう。ネットの意見ではなく、その物語を信じたなら、今度は君が君の物語を生み出すんだ。絶対に君は出来るはずだよ。失敗少女としてね」


「失敗少女って、あくまで失敗の少女ですよね? ちょ――」


「濡れてるね。下着のままじゃ可哀想だ。僕が最高の服をプレゼントしよう!」


「あれ? そういえば私ずぶ濡れで下着姿のままだった! って、抱き締めないでよエッチ!」


「……ログイン完了。コード・王子入力完了。……さぁ、解き放たれろ! 失敗少女よ!」


 わけもわからず下着姿の絵空は抱き締められ、それを押し返すとまばゆい光と共に「変身」をスタートした。


 まばゆい白の輝きと共に、「失敗少女」は変身する。フリルが付いた白いロリータ系魔法少女服。胸元はやや露出が多めで、豊かな乳が揺れている。下着が見えそうなほど短いスカートに、白い足が長く見えるような白のロングブーツ。

 右手には王冠が先端に付いた光のエラーステッキを持っている。絵空がウインクをすると、周囲のキラキラが弾けた――。


「失敗少女見参! みんなの失敗、絵空事にしてあげるわよ!」


 と、自分が何を言ってるのかわからないが、そう宣言していた。王子は頷いて拍手までして納得しているが、まるでアニメの魔法少女と同じような格好の自分に驚いている。


「変身……した。本当に変身した。これが失敗少女なの?」


 どう考えても変身している絵空だが、自分が失敗少女という魔法少女になった自覚はあまり無い。フフフと笑う王子は目の前の川の上流の方を指差した。


「驚いている暇は無いよ。失敗少女が生まれた魔力で川が暴走している。その影響かは知らないけど、上流から子供が流されているようだ。さて、どうする失敗少女?」


「……助けるに決まってるでしょ! 私が絵空事にしてあげるわ!」


「いいね。それでこそ僕の失敗少女だ」


 ニッと王子は口元を笑わせた。そうして、「失敗少女」として絵空は初の任務に挑む事になった。

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