19話・失敗少女vs魔女少女
失敗少女vs魔女少女――。
成功少女の身体を乗っ取る魔女は、若さと勢いを取り戻しかなりの力を蓄えていた。
状況としては圧倒的に失敗少女が劣勢である。
あらゆる攻撃や魔法も魔女少女に対して決定打にならない。そもそも魔力量の根底からして違うので、大人と子供以上の力さの差がある戦いだった。
もう、3分もかからずに戦闘は終わってしまうのは明白だった。この状況をカウンターする切り札はあるが、どうにも出来ない王子は呟いた。
「ねぇ、魔女少女。僕と取り引きしないか?」
失敗少女に蹴りを入れて吹き飛ばした魔女少女はゆっくりと王子に振り返る。
「あはぁん。貴方は取り引きが出来る立場? それに材料は? 交渉するとなれば貴方を私の王子にしてあげるわよ。奴隷という意味のね」
「辞めておこう。僕といすぎるのは良くないよ」
「なら、最後の失敗少女の死に様を見ておきなさい」
王子の時間稼ぎは失敗に終わる。
この失敗も、些細な事であるが失敗少女の力にはならない。状況は悪化して行き、国会議事堂周辺もカラスの群れが飛び回っており混沌は増して行く。
現状で王子の手助けは無意味であるが、それでも最後の抵抗として動くしか無いかと思案していた。
「失敗少女の強みは他者の失敗を活かせる事。僕が絵空を撃てればいいが、どうにもならない。僕の攻撃は失敗にカウントされないだろう……他の誰かが、今の失敗少女に致命的な失敗を与えられば……やはり、僕も特攻するしかないかな」
「なら、俺が失敗すればいいんだな」
「君は!?」
そこに、フリーカメラマンの亀田が現れた。唐突に自前の銃を構えた亀田は失敗少女に向けて弾丸を放つ。すでに魔力も尽きてボロボロの失敗少女には、通常の弾丸さえも普通の人間のように貫通してしまう。白い衣服の腹部から血が溢れ出した。
「亀田……さん?」
「おやぁ? アナタはフリーカメラマンの亀田じゃない。わざわざ殺されに来たのね。しかも、撃った相手が仲間じゃしょうがないわね。それとも、魔女の仲間になるかしらぁ?」
「誰が魔女の仲間になんぞなるか。俺は俺の正しい道を行くだけだ。ただのフリーカメラマンが世界を救えるなら、この人生も悪くなかったぜ」
「何を言ってるの? そう、遺言ね。つまらないわ」
瞬間、亀田はビームで心臓を貫かれて死亡する。この最悪な場面での大きな失敗に魔女は高笑いを上げる。すると、亀田の遺体を見つめる王子も高笑いを上げた。
「どうしたの王子。もしかして狂ったかしらぁ?」
「そうだね。狂ったようだ。狂わないと、こんな最悪の場面でこんな大失敗は出来ないよ! なあ! スーパー失敗少女!」
「スーパー失敗少女? っ――!」
失敗少女は最低最悪な場面で、味方に発砲して致命傷を負わせるという亀田の大きな失敗を生かして、スーパー失敗少女へ変身を始めた。
「亀田さんありがとう。こらから私が全て絵空事にしてあげるから……この新しい力で!」
まばゆい白の輝きと共に、「スーパー失敗少女」は変身する。フリルが付いた白いロリータ系魔法少女服。胸元はやや露出が多めで、豊かな乳が揺れている。自分の内面を隠すような長いスカートに、白い足が長く見えるような白のヒール。
右手には王冠が先端に付いた光のスーパーエラーステッキを持っている。絵空がウインクをすると、背中に白い翼が生えて周囲のキラキラが弾けた――。
「スーパー失敗少女見参! みんなの失敗、絵空事にしてあげるわよ!」
そうして、一人の人間の命を犠牲にしてスーパー失敗少女は誕生した。溢れんばかりの聖なる魔力は、魔女少女すら上回るパワーだ。
しかし、魔女少女はこんな存在を認めるわけにはいかない。
「……ふざけるなぁ! そ、そんなもの認められるか! この魔女少女こそがこの世界を――世界を――」
その叫び声も虚しく、一瞬にしてスーパー失敗少女が魔女少女を黙らせた。
「――エラー……インパクト!!!」
スーパー失敗少女のエラーインパクトが、魔女少女の全てを打ち砕いた。現在から過去の出来事が全て絵空事になり、魔女は真っさらな心に戻る。廃人のように座り込む魔女はただ王子を見つめていた。
「私は……何か長い夢を見ていた気がする。あまりにも欲深く長い悪夢を……永遠に続く悪夢を……」
「そうだよ。これは長い悪夢だ。それをこのスーパー失敗少女が絵空事にしてくれた。もう眠ろうか魔女。僕達は眠るべきだよ」
「それは、私と王子が永遠になるという事?」
「僕と君はもう、永遠じゃないか。絵本の中だけじゃなく、これからはずっとね」
「そうね……失敗少女に全てを絵空事にされて……私は昔の自分を取り戻すなんてね。王子の姿がやけにまぶしく見えるわ」
闇に染まらない魔女はかつての自分を取り戻した。これにより、魔女少女は敗北した。
全てが終結し、魔女は王子と抱きしめ合った。これから二人は絵本の存在として完全に消滅する。もう、二人には時間は無い。王子は絵空にありがとうと告げると、魔女と共にゲートのように現れた王子と魔女の絵本の中へと歩き出す。
「さぁ、行こう魔女。僕達は僕達の場所へ」
その後ろ姿を絵空は見送る。お別れの時間は無いのは悲しいけど、元々絵本の中の存在だから仕方ないと思った。だけど、まだやるべき事は残っているのを忘れてはいなかった。
「待って王子!」
ふと、絵空は王子を呼び止める。そして、魔女少女に攻撃を仕掛けた。
「何をするんだ絵空? もう戦いは終わったよ?」
「離れた方がいいよ王子。魔女よりも恐ろしい女がそろそろ出てくる見たいだから……」
すると、魔女少女である魔女の顔が大きく歪み出した。あらゆる憎悪を剥き出しにしたような顔になり、何かを話し出している。
「魔女が少女なんて、演じられるわけがないのよ……最強はこの私よ。成功少女こそ世界の独壇場にいなければならないの……」
「ぐううっ……こりないわねぇ成功少女。とにかく今は私の中で寝てなさい!」
「これは私の身体。だから私が使うの。私の成功の為に!」
欲の強さで勝る成功少女が魔女を吸収した。そして、魔女の膨大な魔力を取り入れたマジー成功少女が生まれ出す。
「はああっ……マジーよ。全てのマジーよ私に集まれぇ!」
漆黒の闇が広がり、「マジー成功少女」は変身する。
レースが付いた黒いゴシック系魔女服。高貴な肌は胸元まで大きく露わになり、妖艶さをかもち出している。スラリと伸びる足には、闇を秘めたような黒ニーソにショートのスカート。足元は鋭利なブラックのロングブーツを履いている。
左手には五芒星が付いた闇のマジーサクセスステッキを持っている。他者を見下すように微笑み、背中に黒い翼が生えて周囲の闇が弾けた――。
「マジー成功少女ですわよ。皆さんの成功で、世界は私の独壇場になるの」
スーパー失敗少女とマジー成功少女。
対を成す存在のラストバトルが幕を開けた。




