表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失敗少女  作者: 鬼京雅
18/21

18話・魔女復活祭から始まる悪夢


 最終決戦の場所は国家議事堂だった。

 魔女は紙媒体の本から時代が変わり、インターネットの奥に潜みつつ、日本国家の中枢に侵食していたのである。


 今まで集めた魔女復活祭に必要な魔力は国会議事堂の地下にある。ここは核さえ防げる大規模シェルターであり、マジックサーバーポイントとしては最高の場所だった。


 日本政府の老人達に崇められる魔女は、ニタァ……と薄気味悪い微笑みを浮かべている。すでに日本の政府機構は魔女の奴隷であり、魔女復活祭が終われば日本だけでなく世界も魔女の奴隷となるだろう。それを、失敗少女は察している。


「今日は失敗少女一人なのぉ? アナタの王子様はどうしたの? まさか、見捨てられたぁ? 一人で私と戦うつもりなの? クフフフ……」


「魔女を倒すのは私の目的だけど、まずは成功少女との決着をつけるわ。魔女の復活は王子が防いでくれるから大丈夫」


「王子が防いでくれる? 何を言ってるの? ここには王子は居ないじゃない。居ない人を頼っても仕方ないわぁん。自分の目的は自分だけが達成出来るのよ」


「自分しか信じてない魔女にはわからないよね」


「小賢しいわよ小娘」


 表情が一変する魔女は失敗少女にプレッシャーをかける。そして、両手を広げて浮かび出す。上空に舞い上がる魔女と入れ違うように、成功少女が現れた。純黒のゴシックロリータ服は今日は一段と黒く見える。対極的な白い魔法少女の失敗少女は顔が輝いていた。


「……」


「……」


 二人の魔法少女はお互い、何も語らなかった。語れば、そこが戦闘のキッカケになるからである。


 魔女復活祭である五芒星が国会議事堂の上空に描かれ出し、近くの政府関係者はそこに生贄として吸い込まれた。魔女の復活祭には、人の肉と魔力の両方が必要なようだ。巨大な五芒星は日本の夜空に映し出され、それを見る人間達は精神が混濁し始める。


 日本中がパニックに陥る中、静かに物事が進む国会議事堂での成功少女との戦いが始まる。息を吐き出した二人の魔法少女は手に持つステッキを激突させる。一瞬のすれ違いで三度の応酬が有り、互いの頬と服は傷付いていた。フンと成功少女は真っ黒な衣装そのものの笑みを見せた。


「残念、残念。失敗少女の個人情報を暴露したけど、精神的に安定してるわね。戦闘力が落ちると思ったんだけどタフね」


「個人情報の件も、魔女復活祭で生贄になった人も私が後で絵空事にするから今は耐えるよ。私はまず貴女の失敗から絵空事にする」


「私の失敗? 私はその名の通りの成功少女。この世の全てにおいて成功する私は失敗しないのよ」


「その力は魔女から与えられたモノでしょ? 魔女に利用されてるだけでいいの?」


「貴女も見たのね。記憶の領域を。でもね……あれはただの失敗者よ。私はかつての成功少女のようにはならない。完成された成功少女として、私は魔女すらも超えて永遠に成功少女として輝くのよ!」


「前にも言ったはず。貴女は一つ忘れてる。私達はいつまでも少女じゃないの」





 その最中、魔女復活祭が始まり魔女が上空の五芒星の中での復活の儀式が開始されている様を見学している人物がいた。それは赤い髪の美少年である。当然、こんな場所に来られる人間は魔女にもわかっている。


「王子。最後の最後で現れたわね。もう、魔女復活祭は始まっているわ。これが始動している以上、戦闘力の低い王子では邪魔出来ないわよ」


「邪魔はしないよ。ただ僕は全てを終わらせるだけだ。僕の最後の失敗少女は君にとっても最悪な敵だっただろう?」


 王子は魔女を殺そうとしていた。全てを終わらせる為に。絵本で生きる存在の自分達を消す為にである。


「アハハハッ! お互いのパートナーの失敗少女も成功少女も所詮は手駒に過ぎないわぁん。私は自分の復活、王子は私の消滅を望み異なる魔法少女を生み出した……私は永遠になりたい。絵本の世界ではなくて、現世においての永遠にね」


「僕は永遠なんて願っていない。もう一度君の夢を見たかっただけだ」


「夢? 私と王子の夢は叶わなかった。いつまでも昔の事に関わり合いたくは無いわ。絵本の中で永遠になるのはアナタよ王子」


「そうだね。それにもう……君は昔の君じゃないよ」


 王子は赤いマジックキーを生み出し、それを魔女のいる五芒星へと投げつけた。それは瞬時に破壊され、何もなくチリと消える。


「……何のキーかは知らないけど、この魔女復活祭の五芒星は壊れないわ。これは私の魔力と人間の成功を混ぜ合わせた最高の魔力。魔女以外には扱えない魔力なのよ。今の魔力もただ吸収されるだけ」


「だからさ。魔女の魔力を利用して復活した人間を知らないか? 失敗少女包囲網が起こった原因は?」


「失敗少女が私の魔力を奪って復活したから……なら、さっきのマジックキーは――」


「絵空が魔女の魔力を自分の物にした時に、魔女を殺すキーを手に入れた。残念だったね。今まではこんな失敗は無かったから気付かなかったんだろう? 自分の魔力は体内まで入るが、失敗少女の聖なる魔力が体内で弾ければ魔女は内部崩壊する。いい鍵だろう?」


「お、おおおおお……王子ぃーーーーっ!」


 魔女復活祭の五芒星と共に、魔女は国会議事堂の上空で爆発した。





 失敗少女と成功少女はお互いがボロボロになりながら、上空の爆発を見上げていた。まさか、魔女の復活する五芒星が破壊されるとは思わなかったからである。それを成し遂げた王子は絵空の方を見て手を振る。現状把握の為に絵空は王子の元へ向かう。


「王子! 王子が魔女を倒したの? あの爆発で魔女は消滅したの?」


「おそらくは……だね。まだ確定じゃない。魔女の魔力粒子が周囲から消えない限りはわからない。今は成功少女に集中した方が――!?」


 すると、王子は驚愕の顔で成功少女の方を見ていた。それに気付く失敗少女も同じ方向を見る。そこには、黒い怨念を具現化させたような紫色の長い髪のメデューサのような女が、焼け焦げたゾンビのように立ち尽くしている。


「ま……魔女が生きてる? 復活したの!?」


 成功少女の背後には魔女が存在していた。幽体では無く実体がある。それに、かなりのダメージを受けていて黒の魔女服はボロボロであり、かなりの出血もしている。この生暖かい血が流れているという事は――。


 魔女が現世に復活したという事である。


「ようやく……ようやく復活したぁ! かなりのダメージは受けてるけど復活したわよ。久しぶりの血の匂いは興奮するわね。出来れば他人の血がいいわぁ。クフフフ」


 成功少女は顔をしかめ、失敗少女は驚きを隠せず、ただ王子だけが冷静に言った。


「魔女。その身体ではもう無理だ。諦めて僕に負けを認めるんだ」


「まだ負けて無いわよ。もしもの時のスペアは、もう用意しているんだからねぇ」


 視線がいきなり成功少女に注がれ、それを受ける成功少女は否定する。裏切りの否定を。


「……誰が敗北した魔女になんて身体を預けるものかしら。散れぇ!」


 失敗少女に放つはずの必殺技を魔女に放った。

 だが、肉体的なダメージが大きいとは言え魔女の魔力量は誰にも勝てないほど膨大な量だ。自分との力の差を認めた成功少女は淡々と言った。


「まさかノーダメージとはね。成功少女最高の一撃なのに。その復活した魔女の魔力だけは魅力ね」


「えぇ、だからこの魔女に身体を乗っ取られる事を光栄に思いなさい。クフフフ」


 魔女を裏切る成功少女はやられる。

 そうして、黒宮は魔女に肉体を乗っ取られた。成功少女とは魔女の魔力が源の存在の為に、適合はスムーズにいった。さっきまで魔女を否定していたのに、いきなり抵抗を辞めた成功少女に絵空は疑問に思った事がある。


「魔女を……受け入れたの?」


 絵空は成功少女の行動が読めなかった。

 こうして、魔女は現世に成功少女の身体を得て復活した。これから始まるのは魔女による人類の革命である。


 まるで、クラシックコンサートの指揮者のように指揮を執る魔女は話し出す。それは悪魔の歌声のように絵空と王子の耳に響いた。


「この魔女が永遠になる成功体験。エターナルブラックの始まりよ。エターナルブラックより、世界は一度崩壊してこの魔女が生み出す新世界が生まれるの。素晴らしいでしょう? クフフフ……」


 王子と魔女の絵本から溢れ出た永遠が世界崩壊の引き金になる。エターナルブラックとは、現在の時間崩壊を招く永遠の闇を意味していた。それに対して王子は言う。


「魔女が倒される時は、王子が後始末しなきゃいけない理由がこれだよ。頼んだよ僕の失敗少女」


「えぇ、あの魔女少女を倒せばいいなら話は簡単。全てを絵空事にするだけよ!」


 失敗少女は魔女に乗っ取られた成功少女という、最高の「魔女少女」となる存在との戦いに突入する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ