17話・失敗少女包囲網から魔女復活祭へ
年明けになると、相変わらず学校には登校していない黒宮に対して、絵空は何も思わなかった。すでにCMや街の広告などでも見かける為、黒宮はサクセスガールが閉鎖されながらもトップクラスのタレントになっていた。
大晦日の戦いで怪我をしたカメラマンの亀田の見舞いに行く絵空と王子は、そこで大きな出来事に巻き込まれた。
魔女による「失敗少女包囲網作戦」が開始されたのである。
それは唐突に、亀田の病室で映されるテレビから始まった。映像の中の黒宮はインタビューを受けていて、ライブ中継されているようだった。その黒宮は全ての現状を変えてしまうような言葉を言い放つ。
「……そうです。最近の芸能人の異常な転落劇の全ては失敗少女によるものです。快晴市で起こる魔法少女の事件は失敗少女が成功少女を妬んで起こした事件だったのです」
『……!?』
その映像に絵空も王子も亀田も驚かざるを得ない。
最近の成功者の魔力を奪う事で失敗少女は活躍していたと黒宮がテレビで言う。それはサクセスガールというサイトが閉鎖した原因でもあると黒宮は言った。自分もそれに利用されそうになったが逃げられたと話し、世間の同情さえも買っている。
「失敗少女の正体は時外絵空。快晴中学校一年の女です」
とうとう、黒宮は絵空の個人情報までも暴露した。これで一気に失敗少女の情報はネットにも広がり、絵空の日本での居場所は無くなった状態になった。
「あ……あ……」
あまりにものショックで絵空は床に尻もちをついて倒れる。王子も亀田も敵の容赦無い攻撃方法に吐き気がしていた。
前回の戦いで失敗した魔女は成功少女に残る魔力を分け与え、強硬策に出ようとしていた。完成した失敗少女を倒す為に、魔女は人間の悪意をとことん利用しようとしたのである。
それはウイルスのように世の中に伝染した。世の中は失敗少女包囲網になったのである。これから始まる地獄の前に王子は優しくも儚げな顔で呟いた。
「やはり君とは長くいすぎたのかも知れない」
「? 王子……?」
絵空が振り返ると王子はそこには居なかった。そして、病院の外を見ると明らかに外の人間達は誰かを探そうとしていた。銃弾で撃った肩の怪我が完治しているが、記憶が一部飛んでいる亀田は起き上がりながら話す。
「俺の記憶も怪我もほぼ大丈夫だ。今は寝てる時期じゃないな。敵は失敗少女を完全に消してしまいたいようだ」
「……あれは成功少女!」
病院の入口に成功少女が現れて、すでに街にはモンスターが現れている。そして、絵空自身の個人情報も流れているので居場所が無い。
「今はへたり込んでいる場合じゃないぞ失敗少女! 逃げて、逃げて、逃げて……この失敗を取り返すんだ!」
「だって……王子も消えたのに? 私はどう戦えば……?」
「王子がいなくても、失敗少女の力はあるだろ? 敵はもう容赦無く攻めて来てる。けど、これに勝てば全て終わる。今は耐えて、カウンター決めてやればいいのさ」
「……そうだね。亀田さんが味方で良かった。こんな出来事は全て絵空事にしてあげるわ。必ずね」
「よし。これが終われば、亀田の独占インタビューを失敗少女に予約させてくれよな」
「勿論よ!」
そうして、絵空は亀田と逃げた。向かう先は精神が混濁している武田の病院だ。その病院の地下倉庫で暮らす日々になった。そこは亀田が昔バイトしてたから使える倉庫でもあった。
そうして、その日の夜に昏睡状態の武田が絵空の前に現れ、突然新しいサクセスガールが開設されたと話し出す。それを聞いてネットを見ると、ニューサクセスガールのサイトが立ち上げられていた。武田はそのまま倒れた。
同時に、消えた赤髪の王子が絵空の前に現れた。
「始まったね。これで記憶の領域に行ける。ヘブンズドアは開かれた。絵空。君の知りたい失敗少女の歴史を見に行こうか」
「王子! 今までどこに消えてたの?」
「過去の記憶の領域さ。もう、君も感じるだろう? 新しいサクセスガールの始まりが、魔女復活祭の証だと。これから王子と魔女の絵本から生まれし最終決戦が始まる。そのプロローグとして、僕が失敗少女の歴史を紹介するという事さ」
記憶の領域。
エラーメモリーゾーン。
その過去の魔法少女の歴史のゾーンに王子は絵空を案内した。まばゆい光の中を通って行き、黄金の部屋に辿り着いた。そこは緩やかな時の流れを感じる事が出来、周囲には無数の本が浮かんでいる。
「ここが……記憶の領域。エラーメモリーゾーン」
「そうだよ。今まで、百年以上の歴史で幾人もの失敗少女も成功少女も全て死に絶えた。誰もがやがて自分の力に溺れ出す。あくまで他人が与えた力なのに」
「……」
「だから僕はずっと、自分の欲望に失敗しない少女を待っていたんだ。つまり、絵空をね」
記憶の領域とは、今までの失敗少女と成功少女が倒れてる場所。使用していた魔法少女が死ぬ前に、経験した魔力を取り出している。これの繰り返しにより、失敗少女も成功少女も練磨されて時代と共に成長した。そして、高まる欲望に敗北して来た。
「本来は失敗少女の練磨した魔力で僕が魔女を倒す目的だったんだけどね。僕も生きる魔力が必要で、激しい戦闘までは回せなかったんだ。それに、魔女を倒すのは今を生きる人間の役目だった。僕が失敗少女の魔力を蓄えても魔女への決定打にはならない。過去の亡霊を消し去るには、今の時代を生きる人間が倒すしかないんだよ」
「……そうだったのね。聞きたいんだけど歴代の失敗少女の中で、初めの失敗少女を選んだ理由は何? 私と似たタイプの人間なの?」
「そうだよ。孤独な少女で、多くの人間が悲しまないような少女を選んだ。欲の少なそうな少女をね」
初代の失敗少女は家族を事故で亡くしてる。その後も孤独な少女を選んでいた。
王子は人の孤独につけ込んで数々の失敗少女を生み出そうとしていた。孤独やイジメを受けているなら誰も心配しない、この少女なら元々死ぬ予定だったから問題無いと。
しかし、王子の心にも変化が訪れた。
失敗はやがて成功に向かう。
成功とは喜び。
自分は喜びを求めてるのに、こうまで無垢な少女を犠牲にしている自分に嫌気がさしていた。けど、魔女が世界制服する行いを防ぐ為に、数々の少女を利用して今に至る――。
二人はエラーメモリーゾーンの記憶の旅を終えた。
「さて時間のようだ。プロローグが終わり、メインストーリーが始まる。果たして、エピローグを迎えるのは誰かな?」
「ちょっと待って!? うわっ――」
そうして、絵空はエラーメモリーゾーンから解放された。暗い夜空、大きな建物、異様な儀式が行われている場所。絵空は現実世界に戻り周囲を見回す。
「この場所は……」
そこは欲望が渦巻き、年功序列で、金にしか興味が無いような人間達の集まる場所。日本の全てを担う中央部である国会議事堂に招待されたのだ。議事堂の前の広場で政府の老人達はメデューサのような魔女を崇めている。明らかに、魔女復活祭が行われる場所であった。
「マジックサーバーポイントは国会議事堂。ここが、魔女復活祭の場所。そっか……なら、私は失敗少女としてこの全てを絵空事にするだけよ!」
覚悟を決めた絵空は、失敗少女へと変身して最終決戦に挑む――。




