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失敗少女  作者: 鬼京雅
16/21

16話・大晦日の決戦

 失敗少女と成功少女が世を賑わせた年の大晦日になった。


 その前日に絵空はある人物からの連絡を受けていた。その人物は敵である「魔女」の居場所を特定しているという話をしてきたのである。


 魔女の居場所を特定したフリーカメラマンの亀田から連絡を受ける絵空は困惑していた。何故、亀田が自分が失敗少女というのを知っているのか? という事を。


 翌日の朝も絵空の部屋では王子とその話をしていた。亀田の言葉を信用して魔女復活祭が行われるマジックサーバーポイントに向かっていいのかどうか? の話し合いをしている最中だ。


「絵空に直接コンタクトを取るとは良い度胸だよ亀田さんは。おそらく成功少女は何もしてないはず。魔女も現段階で一般人を利用するのは得策じゃない。わざわざ自分達が他人の成功を奪っている事がバレるような行為はしないはずだよ」


「じゃあ、亀田さんは敵の味方というわけじゃないの?」


「おそらく、その亀田というフリーカメラマンは独自で失敗少女などを追っていたんだろう。職業柄そうとしか言えないね」


「でも、何故わかったんだろ。あの人とはウミパラで出会っていただけなのに」


「失敗少女としては、色々な人間と関わっているからどこかで会っているんだろう。それに、世間を賑わせる魔法少女の二人が快晴市にしか出ないという事になれば、自ずと鼻が良い人間が勘付くのかもしれないね」


「そっか……。なら行くしかないね。これが罠であっても結局は魔女復活祭をする成功少女を倒さないとならない。そうすれば王子も魔女との因縁の決着がつく」


 そして、二人は大晦日の夕方に人気サイトであるサクセスガールのマジックサーバーポイントに到着した。そこは快晴市の東にある古びた教会だった。


 その名は快晴白夜教会。


 ここに、魔女が現世に復活し、数多の成功体験を魔力化したポイントがあるという話だ。


 この教会周辺は裏手が山になっており、一般人が入るような場所ではない。なので、教会は前方にしか入口は無い。ここを要塞として考えれば敵の侵入を感知できる場所でもある。郊外なので静かでもあり、教会なので人の出入りがあっても多くの人間は気にも留めない。


 ある意味、魔女がマジックサーバーポイントにする場所としてはうってつけとも言える場所だ。


 すでに変身を終えている絵空は、失敗少女として快晴白夜教会の入口を開けた。王子も絵空と共に快晴白夜教会内部へ入る。


『……』


 内部にはたった一人の黒衣の少女しかいない。いや、その黒い魔法少女の背後には顔に入れ墨のような黒い痣がある亀田の姿があった。その亀田の姿を見た二人は、洗脳などをされているなと気付く。


「……わざわざご招待いただきありがとう成功少女。後ろの亀田さんを使ってまで何をしたいか知らないけど、本当に成功少女がいるという事はここが魔女復活祭のマジックサーバーポイントなのね」


「そうよ。魔女が安心して確実に復活するには、失敗少女を倒さないとならない。だからここへ招待したのよ。この子の勧めもあったからねぇ」


「私は亀田さんに成りすました魔女じゃなくて、成功少女に聞いているの」


 亀田を洗脳していた魔女は苛立ちの顔を見せる。そしてそれに興味を示さない成功少女は言う。


「随分と勘がいいのね。魔女が亀田を洗脳してるのも良く気付いたわ。私のライバルとしては上出来よ」


「なら、貴女の失敗を絵空事にしてあげるよ。魔女と関わり合い、人の成功を奪った罪を絵空事にね」


「バカね。そんな事出来るわけないじゃない。この世の成功は全て私の成功。絵空事として消えるのは貴女よ失敗少女!」


 黒い矢のような魔力が失敗少女達に降り注ぐ。それを回避し、失敗少女も王冠ステッキからビームを放つ。成功少女と魔女亀田は左右に散って回避する。すると王子は、


「絵空、僕は魔女亀田を警戒してるから構わず戦ってくれ。魔女亀田は僕に任せてくれていい」


「任せた!」


 一気に肉弾戦へ持ち込む絵空は快晴白夜教会の壁を突き破り、外へ出た。夕日が沈む茜色の空に照らされる二人の魔法少女はこれが最後の戦いと思い、自分の魔力を全開にする。


「凄い魔力ね成功少女。しかも、教会の壁を突き破ったのは誘いでしょ?」


「バレてた? 教会内部じゃ狭いからね。それに、王子様と魔女の密会を邪魔しちゃ悪いし」


「仲間なのに放っておいていいのかな?」


「私の味方は私だけよ」


 そこから一分間――激烈なステッキの応酬となった。パワー、スピード共に互角であり、どちらも凄まじい魔力の一撃を繰り出している。


『はあああああ――っ!』


 どうやら、もう戦闘経験の差でも成功少女は失敗少女を上回っており、このままだと失敗少女は敗北必死である。この為、早期に決着する必要性が出て来た。少し距離を取る失敗少女は魔力を貯める。必殺技での対決でも勝つと思う成功少女も魔力を貯めた。


 二人の魔法少女の白と黒の魔力が高まって行き――。


「エラーストライカー!」


「サクセス・クラスター!」


 遠距離必殺技を繰り出す瞬間、絵空の足元からモンスターが現れていた。しかも、それは10体程の凄まじい数である。それに囲まれる絵空は魔女の力を借りた成功少女に叫んだ。


「一対一の勝負じゃないの!? 魔女の力を借りて勝って嬉しいの!?」


「……勝てば官軍よ。最後の勝利者になれば、私は煮え湯は飲むわ。今だけはね」


 教会の外の地面には魔女の生み出したモンスター達が現れ、失敗少女を道連れに自爆した。


 大きなクレーターが生まれる場所には失敗少女の衣服の布一枚も残されていない。


 魔女の罠を使った成功少女に失敗少女は敗北してしまったのである。それを感じ取る王子は魔女亀田との戦いを切り上げ、外に出た。魔女はクフフフと嗤いながら成功少女の隣に立った。


「あらぁん。納得いかない感じでもないわね?」


「私は失敗少女を倒せればいい。そして、魔女を復活させる……」


「いいわぁ。それでこそ私の成功少女」


 成功少女は曇り一つ無い芸能人の笑顔で、ニッコリと魔女に微笑んでいた。その魔女は亀田として王子を殺害しようとしていた。亀田の自前の拳銃を王子に向けているのである。


「さぁ、王子。もう失敗少女はいないわぁん。この魔女に敗北する時が来たのよ」


「そうか。君も長い年月をかけて人間の歴史の一部になったが、人間の執念というものがわかってないようだ」


「執念? 何を言っているの? 私の執念は人間なんかを遥かに超えているわ――」


「じゃあ、何で人間に憑依してるんだい?」


 瞬間、王子は指をパチンと鳴らした。

 すると、魔女亀田の顔の黒い痣が消えた。

 正気に戻った亀田が自分の肩口を拳銃で撃ち抜いたのである。


『――!?』


 その場の時が止まるような出来事が起こると同時に、自分で自分を撃つという失敗を絵空事にする為に一人の白い魔法少女が復活した。


 フリルが付いた白いロリータ系魔法少女服。胸元はやや露出が多めで、豊かな乳が揺れている。下着が見えそうなほど短いスカートに、白い足が長く見えるような白のロングブーツ。

 右手には王冠が先端に付いた光のエラーステッキを持っている。絵空がウインクをすると、周囲のキラキラが弾けた。それは勿論――。


「失敗少女!? まさか復活したの!? なんて言う魔力なの……完璧な失敗少女。ははは……それでこそ私のライバル……やはり貴女は私が倒さないとならない運命なのね……」


 成功少女は驚きと喜びの顔で言う。亀田から無理矢理意識を引き離されそうになる魔女は、必死に自分を亀田の意識より前に出す。


「まさか、教会内の戦いでこの人間の身体に細工をしていたとはね……やるじゃない王子様」


「そりゃどーも。そして、プレゼントはまだあるよ。気付いたかな?」


「プレゼント? 何? ま、魔力が――減っている? あ、有り得ない……まさか、あの失敗少女があそこまで完璧に復活した理由は――」


「御名答。魔女の魔力を媒介にして復活したのさ。これで、君の復活は阻止されたね」


 絵空は亀田の失敗から、魔女の魔力を媒介にして完璧な失敗少女へと復活していた。これにより、すでに敵の無い存在へ変化している。絵空は失敗少女として、この全てにケリをつける為に王冠ステッキを振りかざしていた。


「エラー……インパクト!!!」


 地面を抉るように突き刺さる王冠ステッキから、聖なる魔力が溢れ出て成功少女と魔女を支配する。それに耐えきれない二人は悶え苦しむ。王子は亀田の肩口を魔法で止血し、失敗少女の魔力に苦しむ魔女の亡霊を見た。


「カメラマンに憑依したのがアダになったね魔女」


「このクソがぁ! このクソがぁ! 私の魔力を奪った罪は必ず殺して償わせる。必ずぅ!」


 抵抗する魔女だが、このままだとここで消滅は必死である。仲間の成功少女も動けないので敵陣営は絶体絶命であった。最後の時だと思う王子はかつて愛した女に言う。


「もう疲れただろう。もう休もう。僕達は長い年月を彷徨いすぎて、悪になっている。物語として受け継がれる話なら、そこに落ち着こう」


「それは……無理よぉん」


「なら、このまま消滅だよ。僕の失敗少女が何もしなくても君達は消える」


「そもそも、ここはマジックサーバーポイントじゃないの。ここはあくまで予備のポイント。メインはここには無いわ。そしてぇ!」


 サクセスガールのメイン画面を浮かび上がらせた魔女は、それを破壊した。すると、異様な魔力が魔女へと流れ込んで行く。それにいち早く反応した王子は驚いた。


「まさか、サクセスガールを閉鎖したのか!? そうじゃなきゃ、その魔力は……」


「今は逃げるわ。サクセスガールは閉鎖しても、私は現世に復活する。三ヶ月以内に最終決戦よ。失敗少女がそれまで生きていたらねぇ……クフフフ……」


 失敗少女は王冠ステッキを振り抜くが、一足遅かった。

 そして、魔女と成功少女は消えた。

 去り際、成功少女は失敗少女に手を振っていた。それは魔女復活祭で必ず決着をつけるという意味であった。


「私は失敗少女として成功少女を助ける。私は必ず……この全てを絵空事にしてみせる」


 完成された失敗少女になる絵空は黒宮を助けようと心に決めた。


 その後、亀田フリーカメラマンは重症で病院へ搬送された。ネットからは大人気サイトであるサクセスガールも突如の閉鎖で世間でニュースになっている。


 勝利を手に入れた失敗少女だったが、この出来事により魔女の暴走が始まる事は予感していた。それに対処する為に動こうとしていたが、その暴走の波は「失敗少女包囲網」として日本全国に溢れている事までは予想出来なかった。


 こうして、地獄の年明けを失敗少女は迎えたのである。

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