10話・成功少女の謎
王子と魔女の絵本の主人公の一人である、赤い王子服の王子。その赤髪の少年が観戦する中、雑居ビルの屋上で失敗少女のステッキと成功少女のステッキが火花を散らす。すでにお互いに体力も魔力もかなり消耗しており、長期戦は出来ない。
『はあああ――っ!』
成功少女は王子が何かしてくるかも警戒していて、絵空には有利な状況とも言える。だが、目の前の欲に目が眩むのを至福と思う成功少女はステッキを振るいながら言う。
「私はこれからも成功し続ける! 全ての人間を踏み台にしてね! 貴女も王子も私の踏み台よ!」
「貴女は欲望を受け入れ過ぎてるわ。貴女は本当は魔女なの?」
「違うわよ。私は成功少女。魔女から魔力を与えられた特別な存在。成功する為に生まれた少女。つまり、全ての勝利を約束された女王なのよ」
「まるで魔女すら超えるような発言ね。恐ろしい欲を感じるわ」
冷静な絵空の攻撃がヒットし成功少女は後方に吹っ飛んだ。しかし、心の欲が痛みを消し去っているかのように笑う。この笑みは戦いの喜びなのか、真逆の存在との出会いの喜びなのかはわからない。
最後の時だと言わんばかりに、絵空はエラーステッキに魔力を集中する。この一撃でこの戦いに終止符を打とうとしていた。
「そろそろ終わるよ。失敗少女として成功少女の活躍は許せないわ。他人の成功を利用している行為は許せない。だから私が勝つ!」
「勝つのは私よ。今の魔女もそうだけど、王子にも戦闘能力は無いんでしょ? なら勝つのは私。この屋上にいるのは、私達だけじゃないの知ってた?」
『――!?』
絵空と王子はその場所を見た。屋上の入口にはフリーカメラマンらしき人物がカメラを構えて雑居ビルの入口にいた。まさか、この戦いを撮影してるような人物がいるとは思わなかった。
成功少女のいる方向から入口は見えるので、絵空も王子も戦いに集中し過ぎていて気付かなかった。その為、絵空の魔力集中が途切れてしまう。そのチャンスを成功少女は黒い笑みで見逃さない。
「バカな女。私が警戒してたのは王子だけじゃなかったのよ。ステルスマジックで追跡してなかった以上、野次馬が現れるのは目に見えていたわ。失敗少女は野次馬に慣れ過ぎて周囲の警戒を怠ったのが敗因よ」
他人から見られても本人とはわからず、写真でも魔力で顔がボヤける事で絵空は他者への警戒心が低かった。王子も魔女に近い成功少女に出会った事で我を忘れていた面もある。
成功少女は一年以上、活動する時はステルスマジックを使って存在を隠していた。徹底的な隠蔽工作の差が周囲への人間の警戒に繋がっていた。偶然にも見つけた成功少女を追跡した二人にとっては皮肉な話である。
瞬時にサクセスステッキから五芒星が描かれ、そこから闇の魔力が放出される――。
「今宵はここで眠りなさい。そして我が成功の踏み台になれ! サクセス・クラスター!!!」
成功少女は恐ろしい少女だった。
自身の放つ魔法を平然とフリーカメラマンらしき人間に放ったのである。これは、もう絵空が直撃を受ける事でしか男を助ける事は出来ないだろう。このタイミングと、体勢でエラー・インパクトを使うのは無理だった。
躊躇いのない攻撃をする成功少女に唖然とする王子だったが、絵空はすでに男を助ける為に動いていた――。
(この後ろ向きの態勢でエラー・インパクトを使っても大きな効果は無い。なら、目の前のカメラマンを助けるには……助けるには――)
瞬間、絵空の全身が白く発光し、その魔力は一気にエラーステッキに流れ込んだ。そうして闇のエネルギーが絵空に直撃する。直撃を受けたにも関わらず膨大な光の魔力を放出している絵空は叫んだ。
「エラー・リフレクト!!!」
闇のエネルギーが光のエネルギーに変換され、倍返しで反射したのである。王子もフリーカメラマンも驚き、それは成功少女も同様であった。光のエネルギーは成功少女に直撃した。それを見た王子は全ての魔力を使い果たす絵空に言う。
「……もうこの技まで使えるのか。2代目失敗少女が編み出したエラー・リフレクトは失敗すれば自分がただじゃ済まない捨て身の魔法。魔力もカラになるから使うに使えない。まさか、この土壇場でいきなり成功させるとはね。やはり、今までの失敗少女達の力も蓄積されている証拠かな」
そう王子が疲労困憊の絵空に言っていると、大ダメージを受けた成功少女は怨念のような呻き声を上げた。
「……ぐううっ。まさかこの成功少女である私をここまで追い詰めるとはね。次は殺すわよ……殺してからサクセスマジックは奪う……この恨みは忘れないわ。あうっ!」
ボロボロのゴシックロリータ服の成功少女はダメージが大き過ぎて変身が解けかけていた。ジジジ……と本来の姿が見え隠れしてるが暗くてよくわからない。そして、雑居ビルの屋上から飛び降りてその場から逃げた。
全ての魔力を使い果たし座り込む絵空は汗を流して呼吸が荒い。
「逃げられちゃった……ごめんね王子」
「いいんだ絵空。今回は十分過ぎる活躍だ。初の対人戦でここまで出来るのは凄い。しかも相手は成功少女だったんだから」
抱き締められた絵空は、自分は人に褒められる活躍をしたと思い嬉しかった。人にこうも強く抱き締められるのも初めてだった。これで、怖くても苦しくても次も頑張ろうと思えた。
「よし……私、次も頑張るよ。次こそは成功少女を倒してやるんだ。そして、魔女も倒す。それでみんなハッピーだね」
「あぁ、そうだよ絵空……」
そう、王子は真剣な瞳で呟いた。そして、絵空が助けたカメラマンらしき男の事が気になる。
「あれ? 屋上の入口にいた男の人ってまさか死んでないよね?」
「あのカメラマンらしき男は気絶してるよ。流石に、殺意を持って魔法を使われたら気絶もするさ。一つ、面白い物を見つけたよ」
「面白い物?」
フフフと微笑む王子は何かを手の中に持っているようだ。
「成功少女は失敗少女の力に焦ったんだろう。だから変身が解除されかけた。そして、これを落として行ったのさ」
その手のひらには、太陽が輝いている模様が描かれたバッジがあった。このバッジには絵空も見覚えどころか、よく知っているバッジだった。
「これって快晴中学校のバッジだよ。快晴中学校のバッジが何故ここに?」
「おそらく、成功少女の変身が解けかけた時に落としたんだよ。つまり、成功少女の正体は絵空と同じ快晴中学校の女子生徒だろう。学年はわからないが、成功少女の正体は意外と近い場所にいるようだ」
「成功少女が……私と同じ快晴中学校の女子生徒……」
まさか……と思う絵空はその快晴中学校のバッジをまじまじと見た。今、戦ったばかりの謎である成功少女が自分と同じ中学校という事に驚きを隠せない。
新たな戦いと、新たな事実が広がる夜はこうして幕を閉じた。全ての体力を使い果たした絵空は、王子にお姫様だっこをされて家路に着いた。その寝顔は、とても安らかな夢を見てる寝顔だった。




