4話
宝物庫から戻り、大地が「ふぅー」と息を吐いた。
「凄く緊張しました。いい経験でしたけど、物を壊すかもしれないと思うと迂闊に動けないし、しばらくは遠慮したいところです」
そう言った大地からは疲れが見てとれる。
「確かに、僕も正直緊張したよ。大地と同じ気持ちだよ」
リューゼも大地の言葉に続いた。
そんな二人を気にしてか、王が微笑みながら話し掛ける。
「まあ、壊れたら壊れた時だ。宝の一つや二つ、壊れたからといって何もしないぞ?」
・・・そういう問題ではないんだよなあ。
大地とリューゼは互いに顔を見合わせると、苦笑いをした。
「さて、今日の所は早く休んで明日詳しく話し合おう。部屋はこちらで用意するから、安心してくれ」
そう言う王に大地が頭を下げる。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
「うん、ゆっくり休んで疲れを取るといいよ。では王様、私も自宅に戻ります」
「ああ、リューゼもご苦労だった。また明日もよろしく頼むぞ」
リューゼは深く頭を下げるとその場から立ち去った。
「では、部屋に案内するとしよう」
そう言うと、王は手をパンパンと叩く。
1人の女性が現れ、大地の横に立った。
綺麗な女性だったが、王と同じくあまり装飾品は身に付けておらず、素の美しさといったものを感じる人だった。
(綺麗な人だなあ、う~ん、でもなんだろ?どこか会ったような気が・・・)
勿論会ったことなどあるはずがないのだが、謎の既視感にみまわれる。
ぼけっとする大地に、王が声を掛ける。
「娘に部屋の案内をさせるからついていってくれ。ではまた明日会おう」
そう言って、王がその場を立ち去った。
・・・ん?娘?
つまりこの女性は・・・
「では、行きましょうか」
女性はそう言って大地の顔を見る。
「あ、はい、お願いします」
先を歩く女性に、遅れないように大地も後ろからついていく。
少し歩くと、目的地の部屋に到着した。
「ここがダイチさんの部屋です。ゆっくり休んでください」
「ありがとうございます。ところで、もしかしなくても貴女は王女様ですか?」
恐る恐る、大地が尋ねる。
「ああ!そうでした、自己紹介をすっかり忘れていました」
うっかり!みたいな表情をしながら、女性がスカートを摘まみながら頭を下げる。
「あらためまして、王女のベルベットです。よろしくお願いします」
「やはりそうでしたか、挨拶が遅れ失礼しました。大地といいます、こちらこそお願いします」
深く頭を下げる大地に、ベルベットが笑顔で話し掛ける。
「ふふふ、私にそんな丁寧な対応はいりませんよ?年齢も変わらないと思いますし、むしろ友達のように接してくれるとありがたいです」
「でも、それは・・・」
言い掛けて、ふと思い出す。
(そういえば、王様もこんな感じだったな。なら・・・)
「わかりました、よろしくね、ベルベットさん」
「さん、もいらないですよ?」
「よろしくね、ベルベット」
「ね、もいらないですよ?」
「・・・よろしく、ベルベット」
「よろしくお願いします♪」
なかなか芯の通った女性だなあ、と大地は思った。
「あら、いけない、早く休まないといけないのに、時間を取らせてしまいましたね。ごめんなさい、また明日会いましょう。それでは、お休みなさい」
「うん、お休み」
そう言うと、ベルベットは手を振りながら部屋から離れていった。
ベルベットを見送った大地は、部屋の扉を開け中に入った。
簡素ではあるが広く綺麗な室内、大地には不相応な部屋に思えた。
(こんなに良い部屋、本当に自分が寝ていいのだろうか?)
そう考えながらも、ベッドに飛び込んでみる。
ふかふかの柔らかい生地が、大地を包み込む。
「うわあ~気持ちいいなあ。最高級のホテルはきっとこんな感じなのかな?」
あまりの気持ち良さに、寝転がる大地を眠気が襲う。
「明日も・・・頑張ろう・・・」
そう言うと、大地は眠りの世界へと旅立った。