3話
宝物庫へと進む三人。
薄暗く、じめじめとしている。
しばらく歩くと、先頭を歩く王の足が止まる。
「さあ、ここが宝物庫だ」
王は鍵を取り出すと、錠前に差し込んだ。
カチッと音を立て、扉が開く。
見渡す限りの財宝・・・という事はなかったが、軽く見渡しただけでも、輝く宝石や装飾の施された剣が目に飛び込んでくる。
「俺には価値がわからないけど、すごい品物なんだろうな」
大地は置かれている宝物に恐縮しつつも、まじまじと見ている。
「そうだね、恐らくそこの剣一つだけで一生暮らして行けると思うよ」
宝物を見ている大地に、リューゼがさらっと答える。
「一生!?そんなに高いものなんだ・・・触らなくて良かった」
大地は伸ばしていた手を慌てて引っ込めた。
「二人ともこちらに来てくれ」
奥から王の声が響く。
急いで向かうと、王が某冒険ゲームに出てきそうな宝箱の前に立っていた。
「この中に入っているものは、数多の魔石を砕いた伝説のアイテムだ。今取り出すから見てくれ」
そう言って、王が宝箱からなにやら取り出した。
少し重そうに持ち上げると、そっと地面に置いた。
「これなんだが、解るかい?」
地面に置かれたものを、大地に尋ねる。
「う~ん・・・いや、まさかなあ」
大地が王に尋ねる。
「これですけど、どうやって手に入れたのですか?」
「これはな、君と同じように違う世界から来たという、ある人物が持っていたものなんだ」
「自分以外にもそんな人が!?」
王とリューゼが頷く。
(それで、リューゼたちは俺のことを不思議に思わなかったのか)
「それで、その人はどうしたんですか?」
尋ねる大地に王が答える。
「光に包まれ、忽然と姿を消してしまったんだ。役目を終え、在るべき所へ帰っていく、私たちはそう感じたよ」
「そうですか・・・」
もしその人がこの国にいるなら、なにかしらの情報が得られるかも知れないと思ったが、どうやら叶わないようだ。
残念そうにしている大地の肩に、王が手を置いた。
「私たちは彼に色々と世話になったが、彼には大した礼も出来なかったんだ。勿論、君と彼は違うが、恐らく同じ世界の人間だろう。その時の礼も含めて、我々は力になりたいと思っているよ」
優しい言葉に、思わず目尻が熱くなる。
大地は目を袖で拭った。
「ありがとうございます。また後で色々と教えて下さい」
そう言う大地に、王とリューゼが優しい笑顔を向ける。
「脱線してすみませんでした。この道具なんですけど、俺知ってます」
大地の言葉に、王が嬉しそうに答える。
「やはり、知っていたか!どうかな、使えそうかな?」
嬉しそうな王に対して、大地が首をかしげながら答える。
「どうかなあ、かなり古いと思いますし、壊れてなくてもバッテリーは切れてるかも知れないですね」
「バッテリー?」
王とリューゼが首をかしげる。
「ええっとですね、簡単に言うと電気、つまり雷の力です」
「雷!?そんなものがこの道具には使われていたのか!」
二人は驚きながら、顔を見合わせている。
(そりゃあそうだよな、お城に入ってから気付いたけど、松明だったもんな。照明とか電気を使ったものがないんだから、びっくりして当然だな)
「つまり、バッテリーとやらが切れていると動かないということかな?」
「その通りです、少し触っても良いですか?」
大地の言葉に王が頷く。
大地はそれのスイッチを入れ、ハンドルを握ってみる。
・・・やはり動かない。
バッテリーが切れているのだろうか。
とはいえ、この世界に充電器なんて在るわけもない。
(どうしたらいいかな、方法としてはバッテリーを充電するか、何かで代用するかだよな)
悩む大地だったが、ピン!と閃いた。
(まてよ、ここは異世界だし、もしかして魔法があったりしないかな?)
大地はリューゼに尋ねてみた。
「リューゼ、この世界には魔法とか魔術はあるのかな?」
「魔法かい?ああ、勿論あるよ。魔法には火、水、風、土、雷の五種類があるよ」
ビンゴ!大地がガッツポーズをする。
「王様、上手くいけばバッテリーが使えるようになるかもしれません」
大地の言葉に、王が驚きつつ答える。
「それが本当ならどれだけ助かる事か。しかし、どうやって?」
「雷の魔法です。それでバッテリーを充電出来るかもしれません。勿論、絶対ではありませんが試す価値はあると思います」
王は少しばかり目を閉じ、そしてゆっくりと目を開いた。
「これは我々にとっては、貴重な対魔石アイテムだから危険なことはしたくない。だがこのままでは使えないのだろう。なら答えは一つだけだ」
王が大地の顔を見ながら強く頷く。
「ダイチよ、よろしく頼む」
「はい、出来る限りのことをやってみます」
大地が王に頭を下げる。
「そんなことはしなくていい。むしろ、こちらが頭を下げないといかんぐらいだ、なあリューゼ?」
王の言葉に、リューゼも同意とばかりに頷く。
「それにな、ジュウデン?だったかな、わしらにはわからない言葉を知っているんだ。任せたほうが間違いはないだろう」
「確かにその通りですね。我々では壊すことは出来ても直すことは出来ないと思います。ダイチに任せて正解だと思います」
二人の言葉に、大地は少しばかり照れているようだった。
「そういえば、このアイテムだが名前はなんというんだ?」
王が大地に話し掛ける。
「そっか、名前言ってませんでしたね。これはですね、硬いものに対して使う【削岩機】というものなんです。父親が仕事に使っているのを見たことがあるので知ってたんです」
「サクガンキというのか。わしらは、これが魔石を容易く砕くのを見たのだが、そのためのアイテムなのかな?」
「そうですね、自分の世界に魔石はないですけど、硬い石や壁等を壊すのに使うので、そう思ってもらって大丈夫だと思います」
そう答える大地に、リューゼが話し掛ける。
「ところで、バッテリーが直れば僕でも使えたりするのかな?」
「使えると思うよ。慣れないといけないけど、誰でも使えるものだよ」
リューゼが安堵の表情を浮かべる。
「良かった、もしダイチにしか扱えないものだったら、危険な場所にダイチを連れていく可能性があったけど、それなら僕がサクガンキを使えばいいから、ダイチを危険な目にあわせなくて済むね。本当に良かったよ」
「ありがとうリューゼ。でも俺はリューゼに助けてもらったから今ここにいれるんだ。礼はさせてくれよな」
がっちりと握手を交わす大地とリューゼに、王が声を掛ける。
「そろそろ日が暮れてくる頃だろう。詳しい話は食事をしながらにしよう」
そう言うと、王は来た道を戻り始めた。
削岩機を宝箱に戻し、大地とリューゼも宝物庫を後にした。