番外編 その重戦士と吸血鬼は ①
この番外編は以前投稿した物に加筆、修正を加えたものとなります。※以前投稿したものは削除させて頂きました。
重戦士。
冒険者達の数あるパーティの中でも極めて数の少ないその役職は極めて危険性の高いものだった。重戦士の役割、それは前線に自ずから赴き敵の攻撃から味方を守る、というもの。
怪我や傷を負わないことはほぼ無く、そんな役職に自ら就く人なんてほとんど当然だがいなかった。
しかし、そんな中。どんな攻撃も己の技術と立ち回りで捌き、敵を蹴散らす最強の重戦士が存在した。
彼女の名は、
ナーサ。
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「だから言ってんだろ!?あたしが攻撃を捌いてる間に攻撃を仕掛けろって!!」
とある街の小さな酒場に、空気を轟かすような大きな声が響き渡った。
「んなもん無理っつってんだろ!?あんな激しい攻撃の中に入れる訳がねえだろ!?どんな命知らずだってんだよ!」
ダァン!と、木製のコップが机に叩きつけられた音が店内に反響した。
「あんたらは?」
「「…」」
問う女の言葉を受け、他の面々は目を逸らして黙りこくっていた。
「あぁそうかいそうかい!!分かったよ!!あたしは邪魔物なんだね!?あたしはあんたらと仲良しごっこしてぇわけじゃないんだよ!あたしに着いてこれないってんなら、あたしはこのパーティを抜けるよ!たった今ね!!」
飲んだ酒の料金をテーブルに叩きつけると、女は席を立ちズカズカと店を出ていった。
「ったくあいつらは!!っ!あいつらとなんかパーティなんぞ組まなきゃよかった!!」
夜風に吹かれ、長い橙色の髪の毛を揺らしながら、のっしのっしと彼女は歩む。彼女の冒険者としての役職は重戦士。抜群の動体視力と戦闘センスを活かし戦う彼女の腕は本物だ。
しかし、その彼女の腕に合うパーティのメンバーがいないのだ。そこそこ腕の立つ冒険者でも、彼女が防ぐ敵の攻撃の中に入ってはいけない。だから彼女はこれまでに転々と様々なパーティを移動していた。まぁ、彼女と同等、はたまたそれ以上の人材なんてそう簡単に現れることも無くこの頃ナーサは途方に暮れていた。
「あ~やだやだ。いつになったら、あたしのライバルは現れるんだい。これじゃやる気が出ないっつの」
彼女は重戦士という単独戦闘に向いていない役職だから、結局は誰かとパーティを組まなくてはならないのだ。彼女の能力に見合った者で無ければ意味をなさないが。
「とりあえず、今日は寝っか」
ふぁぁ、と欠伸をし彼女は目元に浮かんだ涙を拭いながら己の家へと続く帰路を歩んで行った。
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--翌日、冒険者ギルド。
「ん?」
ギルドのロビーで愛用の大剣の調整をしているナーサがピタリと手を止めた。と、言うのもいつもに増して、さらに受付の前辺りに大きな人だかりが出来ていたからだ。
「なんか美味そうな依頼でも来たってのかい?」
こうなる要因はほぼ決まっている。低コスト、低難易度で儲けられる依頼が来た時だ。もちろん、彼女も生きる為に金は必要だからこういう依頼は積極的に受けるようにしていた。まぁ、彼女は駆除依頼やら護衛依頼やらしか受け付けていないが。
彼女は大剣を革製の鞘にしまい、それを肩に担いで席を立った。
「…?立て札じゃない?」
ナーサが足を止めたのは数多の依頼の内容が記載された紙がが貼り付けてある立て札の前。しかし、人だかりはその周囲には無く、これと言って依頼料の多い依頼も無かった。
ちらりと彼女が横を見ると人だかりはギルドの受付のところに多く集まっていた。それも、一箇所を中心とするように。
「…っ」
その中心が何かは一目で理解出来た。
白銀の長い髪の毛をたなびかせ、女性らしい体をしたこの場には不釣り合いな女性。どちらかというと少女寄りかもしれない。
そしてここは男だらけの場所。そんな娘がいたら男達に絡まれるに決まってる。
「ほら!どいたどいた!あんたらみたいな野郎達がこんな嬢ちゃんにちょっかいかけてないで、さっさと依頼でもこなしてきな!」
「う、ナ、ナーサ…」
皆がナーサの方に視線やり、冷や汗を流して少しずつ散っていく。なぜ、ナーサの言葉にここまで威力があるか。それはナーサのランクにある。
多くのギルドでは冒険者の強さ、能力、実績を合わせて各々にランクというものを授ける。ランクは上から順に『白金』、『金』、『銀』、『銅』に別れる。ナーサは『白金』だ。『白金』は通常であれば国家騎士などの大きな仕事に着くのだが、ナーサは違った。
ただでさえ少ない『白金』がギルドにいる時点で周りはビクビクしながら過ごしているのだ。そんな彼女に喝を入れられて、尻尾を巻いて逃げない者はほぼいないだろう。
「大丈夫だったかい?」
ナーサは白銀の髪の少女に近寄って声をかける。なるべく優しい声色で、表情を心がけて。
「ええ、助かったわ。ありがとう」
「…」
深紅色の瞳をきゅっと閉じ、うっすらと微笑んでお礼を言う彼女に、思わずナーサも息を飲んだ。本当にこことは不釣り合いな少女だとナーサは思った。
「このギルドになんか用かい?」
「ええ。もちろん依頼を受けに来たのよ」
「依頼?」
到底だが、彼女は冒険者には見えなかった。むしろ受付嬢などしていた方が儲かるのでないかと思ってしまうほどに。
「そんなに冒険者に見えないかしら?これでも一応…」
少女は懐から一枚の板を取り出した。その板はステータスプレートというもの。その者のランク、実績など細かく記された冒険者の身分証明書のようなものだ。
少女が差し出してきたステータスプレートをナーサは受け取って、その文面に目をやると思わず彼女は息を飲んだ。
「…は、白金…?」
「そうよ、私は白金ランクの冒険者よ」
少女はふふんと胸をはって誇らしげに言ってみせた。
「そ、そんなことが…」
さらにステータスプレートに目を通していくと彼女のランクが嘘ではないことが明らかになっていった。
飛龍の単独討伐、大量のベヒモスから村を単独で守った実績、その他もろもろ。
「どう?納得したかしら?」
「…」
ナーサは驚きと衝撃の他に高ぶる何かを感じていた。
その時、彼女は思いも寄らなかった。
この出会いが、彼女に大きな足枷をつくり、新たな出会いをもたらすことを。
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「にしても、あたしにゃ考えられないね。こんな細くてまっちろな腕のお嬢ちゃんが白金ランクだなんて」
ナーサはギルド全体に響き渡るくらいに豪快に笑った。
「あら、そう。なら手合わせしてみる?素手で」
「はあ?なーに言ってんだい。アンタみたいな綺麗な顔の持ち主を殴るわけには行かないに決まってるじゃないか。…大体アタシは人間と戦う為に強くなったんじゃない。金を稼いで地位を得るために強く…
「人間相手じゃない…なら戦えるわね」
「は?…ッ!!ガアッ!?」
ナーサがペラペラと口を動かしている、と思ったらその巨体は人混みを掻き分けてギルドの壁にもたれかかっていた。
「どう?少しは戦う気になった?」
「…へえ、なかなかやるじゃないか」
壁から身を離し、ゆっくりと体制を整えるナーサ。それに対して先程のように高貴な笑みを浮かべてゆっくりと近寄る銀髪の少女。
「そっちがその気ならこっちだって!!」
ナーサが大きく踏み出し、右拳を少女へ向けて放つ。
「なっ…!?」
しかし、その拳が少女の顔面を捉える寸前でナーサの視界から少女の姿が消える。
「動きが鈍いわね。ウスノロってこういうこと言うのかしら」
嘲笑混じりの声が、背後から聞こえる。
ナーサは振り向きつつ、その筋肉が詰まった足を振るう。
「…っ!?」
流石にノールックで蹴りを放たれるとは思っていなかったのか。反応が遅れ、腕で蹴りを受け止めるも勢いを殺しきれずに吹っ飛ぶ。
その体は、椅子やらテーブルやらを破壊しながら壁に当たる直前で止まる。
「いっつ…。あなたその蹴りの威力、本当に人間?危うく腕一本折れるところだったんだけど」
「それはアタシのセリフだよ、アンタこそあのスピードで動けるなんて人間じゃない。だからこそ、普通人間相手には使わないような蹴りを入れさせてもらったよ」
「へえ、面白いわね」
よろりと、机や椅子の破片をかき分けながら少女は起き上がる。まるで、何のダメージも受けて居ないかのように。
--おいおい、ナーサの蹴りを受けて平然としてるぞ。
--何者なんだ…、あの子。
--この戦い、どうなっちまうんだ。
「…」
二人を囲うようにして、彼女達の戦いを見守る野次馬達。よく見るとその中に、装備を着込んだ衛兵が数人紛れ込んでいた。
本来、冒険者同士の喧嘩は彼ら衛兵らが間に割って入って止めるのだろうが、彼らはそれすら出来ずにいた。次元が違っていた。戦いの。
けれど、衛兵が集まって来てしまっている以上、これ以降の喧嘩の続行はランクの降格や、今後の財布の重みが関わってくる話になりかねない。
…どうやら、双方その事に気がついた様だ。
「アンタ、気に入った。酒でも一杯やりに行かないかい?」
「乗ったわ。行きましょう」
さっきまで殴りあっていたのが嘘かのように。二人は近寄ると肩を組んで野次馬の中を掻き分けてギルドの外に出た。
「にしてもこんなほっそい体で、どっからあの力を出してるんだい?魔法かい?」
ナーサが嘲笑混じりに笑う。
この世界では、魔法が対して浸透していない。魔法という概念はあれど、生活の幅を広げたり、多少便利になったりはするのだが戦闘面では、回復魔法以外ほぼほぼおじゃんなのだ。
「あら、よく分かったわね。魔法よ」
銀髪の少女はナーサの目を見てパチンとウィンクをする。
「っ…。とは言ってもそれ以外、ないし疑う余地もないか」
魔法の才があり、それを扱うのに長けているのかもしれない。もしそうなのだとすれば、今までに類を見ない冒険者となる。
「アンタ、名前なんて言うんだい」
ナーサがおもむろに目を背けながら言った。
「そういう時は自分から名乗るのよ」
「…」
ナーサは一瞬言葉を詰まらせるも続けた。
「アタシはナーサ。重戦士の冒険者さ」
「ナーサ、ね。私はティアーシャよ。よろしくね」
「ティアーシャ、か。冒険者らしくない名前だな」
お互いの名前を理解し、苦笑を浮かべつつナーサが口を開く。
「なあティアーシャ。アンタ、アタシとパーティ組まないかい?」
「…ま、そういうと思ってたわよ」
「むぐ…。アタシは重戦士だ。いくら強くても背中を預けられる仲間が居ないと本気が出せない。でもティアーシャ、アンタになら任せられる。そんな感じがするんだよ、アタシは」
ナーサがティアーシャの肩から腕を外し正面を向き直った。
冒険者として冒険している時とは違う緊張感。求めていたものとようやく巡り会えた、喜びと期待に満ちた緊張感だった。
「…そうね、本当なら私だけで十分なのだけれど。アナタの拳に惚れたわ」
「と、言うと?」
ティアーシャの顔が綻んだ。
「良いわよ、私とあなた。このパーティで行きましょう」
たったの数時間の出来事だった。
ただ一人の冒険者が冒険者と出会うだけのはずだった。
しかし、何時からだろう。遠く離れていた歯車と歯車が合わさりゆっくりと回り始めたのは。
これは、ナーサと彼女の旧友ティアーシャの出会いの物語。
歯車が、噛み合う。そして回り出すまでの始まりの物語。




