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現状最弱の吸血鬼に転生したのでとりあえず最強目指して頑張ります!  作者: あきゅうさん
第五章 吸血鬼、現実へ
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第73話 吸血鬼の文化祭

「文化祭、ねえ」

「やるんだけど来る?」

「行こうか、楓の文化祭だもんな」

夕方、寝起きで楓の夕食を作り終え彼女が風呂から上がってきた所で声をかけられる。

「でもお兄…お姉ちゃん目立つからなあ。ナンパとかには気をつけてね?」

楓が苦笑を浮かべながらこちらを見つめる。

「んん?大丈夫だろ、傷が出来ないように痛めつけてやればいいって事だろ?」

「…うーん、ちょっとどころか無限に違うかも」

ふむふむ、これがジェネレーションギャップならぬワールドギャップか。俺も数年向こうにいただけですっかりそまりきってしまっていた様だ。

「で?楓は何やるんだ?喫茶店とか?」

「うん、そんな感じ。…まあ、メイド喫茶なんだけどね」

「なんか言ったか?」

「ううん、何でも」

ふうん、メイド喫茶かあ。可愛い妹のメイド服は何がなんでも目に焼き付けないとな。ぐへへ。

「分かった、今週の土日だったよな?…ナーサとルントも呼んで来ようか」

「ナーサとルントって、お姉ちゃんのそっちの世界で面倒見てくれてた人だよね?」

「うん、今の俺の母親と父親だよ。この機会だから、こっちの世界にも遊びに来てもらおうかと思って」

楓は気恥しそうに頬をかいた。

「なんか、恥ずかしいな」

「俺の両親だからな。血は繋がってないとはいえ、それ以上の絆があるよ。きっと、楓も受け入れてくれる」

「だといいな」

ナーサとルントかあ、とタオルで頭を拭きながら楓が天井を見て言った。

「土日空けるように俺から話はつけておくよ」

「うん」

その夜は楓は夕飯を食べたっきり寝てしまった。文化祭の準備もあるのだろう、机の上で寝てしまった彼女をベッドの上に移して上から布団をかけてやる。

「おやすみ」

その目元にかかった栗色の髪の毛を手で避けてやりながら、俺は楓の部屋を後にした。

「はてさて、ナーサとルントのとこにでも行ってくるかね」

俺は『天道』を開いて、現れたゲートをくぐった。


---


「ぶんかさい?」

「なんだそれ」

「うーん、やっぱりこっちには無いのか…」

そもそも学校というもの自体数回程しかお目にかかったことがないからな。確かに文化祭なるものを知らないのも無理ない、か。

「俺の世界だと、学校で年に一回お祭りをするんだよ。出し物をしたり、売店を出したり」

「へえ、なかなか面白いじゃないか。…で?一体何を企んでるんだい?」

ナーサが俺の顔を覗き込んで不敵な笑いを浮かべる。やはり、こちらの考えていることはお見通しらしい。

「バレてるか…。その文化祭に一緒に行かないか?まだ楓にも会ったこと無いだろ?だからこの機会にでもどうかなって」

「…ふむ。あんたはどうする?ルント」

「ええ?俺ぇ?」

急に話を振られたルントは声をひっくり返す。

「あたしは何時でも空いてるんだから、あとはあんただけだよ」

「それって?」

「行くに決まってるよ、血は繋がってないけどもあたしとティアを通したれっきとした家族じゃないか。せっかくなんだし、楓に会いに行こうじゃないか」

ナーサはルントの背中をぶっ叩いて半ば強制的に言わせようとしていた。

「いって!俺だって聞いた時から行くつもりだったよ!いったぁ!だから叩くなって!!」

よし、これでナーサもルントも来れるな。へへ、週末が楽しみだ。

「文化祭は週末な?俺が『天道』で迎えに来るから、行けるようにだけ準備しといてくれ」

「ああ、任せな」

「おがあっ!!だぁぁかぁぁらぁぁ叩くなってぇぇぇぇ!!!」



-文化祭、当日-



「ナーサ、ルント、準備出来てる?」

「ああ、二人とも出来てるよ」

「おっけ、じゃあゲートをくぐってくれ」

俺が先導し、二人を『天道』を通して俺達の世界へと連れていく。

「ほれ、着いたよ。ここが俺達の世界だ」

繋げているのは俺と楓の住むマンション。とりあえずダイニングにでも、と繋げておいた。

「っと…。はあー、なんともまっちろな家だねえ」

普段木製の家に住んでる訳だからな。壁紙とはいえ壁が白い家なんて滅多に見たことないんじゃないだろうか。

「おお…。俺達の家と全然違うぞ…」

「そりゃそうに決まってるだろ、なんたって異世界なんだから」

二人はほへー、だとかなんだこれ、だとか言いながら部屋中を散策し始めていた。

「はいはい、また今度教えるからとりあえず楓の学校に行くぞー」

「あ、そうだったね。見たことないもんばっかりだっからついつい気になっちまってね」

「俺も俺も」

「あんたは調理場がどこか探していただけじゃないか」

「ええ…」

ガックリと肩を落とすルントの肩をポンポンと叩いて

「帰ってきたら調理器具見せてやっから、気ぃ落とすなって」

「…俺は娘に慰められるのか」

…どうやら逆効果だったみたいだ。めんどくせえな、この親父は。



---



「なんだいなんだいこの真っ黒な地面は」

「おいおいおいおい!でっかい獣が向かってきてるぞ!」

「…」

まあ、そうなるよな…。アスファルトと車を見ただけでこのリアクション。楓の学校に文化祭を見に行くのは些か早かったのかもしれない。

「とりあえず俺の日傘を掴むのを辞めてくれ…」

未知の文化に触れ、流石の歩く破壊兵器の異名を持つナーサでさえビビっているようだ。二人とも俺の生命線である日傘にしがみついてブルブル震えている。

「楓と会うんだろ!?こんなんでビビってたら失神すんぞ!」

「…一体、どんなもんが待ってるんだい…」

「俺はもう限界だァァァァ」

ギャーギャー喚く二人を引きずるように連れ、何とか楓の高校の校門の前まで連れていく。

そこには『文化祭』と墨と筆で書かれた立て看板があり、校門を覆うように巨大な木製のアーチがかかっている。

「このアーチはここの学生が作ったのかい?」

ナーサがそのペンキで彩られたアーチを見て顎を擦りながら言う。

「多分、な」

「決して美しい訳じゃないけど、頑張って作ったっていうのが滲み出てるよ。これならこの『文化祭』って言うのも楽しめそうだ」

「そりゃ良かった」

俺達はアーチの下をくぐってグルっと辺りを見回してみる。

ふむ、校舎には何かしらのクラスの出し物をやっていて、体育館では演劇、校庭ではバザーをやってるのか。

…なんとしょうもない『魔眼』の使い方なんだろう。


--え、外国の人?

--綺麗~

--うわ、あの人強そうだな…。筋肉すげえし。


「…」

まだ校門をくぐっただけなのに、随分の注目を浴びているようだ。よく考えたら『銀髪の少女』『オレンジ髪の巨大な筋肉質の女性』だもんな。注目浴びてないのはルントくらいか。

「なんかジロジロ見られてる気がするねえ」

「まあ…珍しいもんなあ。ルントはそんなに見られてないみたいだけども」

「また俺だけ…」

数多の視線を浴びつつ、俺達は靴を脱いで校舎に足を踏み入れる。

「あ、そうだ。好きなもん買えるようにお金渡しとくよ」

俺は懐から財布を取り出し、そこから数千円ずつ二人に渡す。

「けどねえ、娘から金を渡されるっていうのはねえ…」

「通貨が違うんだよ!それに俺は金銭物は換金してもらえるから困ってないし!」

渋い顔をする二人に半ば無理やりお金を握らせる。

「でも、今度返させてもらうからね。娘に金を貸されっぱなしってもなんかむず痒いものがあるもんだ」

「…別にいいのに。わかったよ」



校舎の中では様々な匂いが飛び交っていた。基本カフェ形式のが多いみたいだな。その他にも焼きそばだったり、フランクフルトだったり。え、ハマグリの酒蒸し…?文化祭で?若干人が集まってるのが不思議である。

「あ、お姉ちゃーん!」

ハマグリの酒蒸しを売る色黒の明らかに体育教師である男性を見ていると、背後から声をかけられた。

「お、楓」

踵を返してそちらを返りみると、そこには白と黒が基調となったメイド服に身を包んだ、栗色の髪を揺らしつつ駆けてくる楓がいた。

軽く手を振って声を掛ける。

「来てくれたんだ!そちらの二人が?」

「うん、そう。言ってた…」

「ナーサだよ、よろしくね楓」

「ルントだよ、ティアーシャから話は聞いてるよ」

「荒幡 楓です!お兄ちゃ…お姉ちゃんの妹です!」

すげえ、互いに初対面のはずなのにキラキラしてやがる…。これが…兄には無かったコミュ力の集大成、か。

「よく出来た妹じゃないか、ティアーシャ」

「まあね、目どころか心臓に突き立てても痛くない自慢の妹だよ」

「流石に心臓には突き立てて欲しくないんだけどね…」

ツッコまれた。

「あ、そうだ。お姉ちゃん、私のクラスのお店に来てもらってもいい?…そんなにお客さんの入りが良くなくってさ。まあそんなに人も居ないから三人ともゆっくりして貰えると思うよ?」

「…うん、どっちにしろ楓のクラスに行こうと思ってたからちょうどいいね」

「わーい!じゃあ早速行こうか!こっちこっち」

楓がテケテケと駆け、俺達を手招きしている。俺達三人は互いに顔を合わせて、微笑を浮かべた後に楓の後ろに続いていった。


…ちなみに余談なのだが、ハマグリの酒蒸しを売っていたゴリマッチョな男は家庭科の先生らしい。…、人は見た目で判断しちゃダメだな。反省反省。




「へえ、案外しっかりしてるじゃないか」

「うん、学生達が短い時間で作ったとは思えないクオリティだね」

楓の教室に入ると教室中に散りばめられた装飾と、学校の机を合わせた不思議だけど、どこか落ち着く空間が出来上がっていた。ナーサとルントの評価もなかなか良さげである。

「お待たせしました。Aセットのサンドイッチと紅茶です」

俺達が席について寸刻すると、頼んでいた料理が楓と同じメイド服に身を包んだ子がサンドイッチのセットを運んでくる。

「うん!良いじゃないか!よく出来てるよ!」

早速ルントが試食。サンドイッチを頬張りながら現役料理人のルントがそれに評価を出す。

「ルントは向こうだと料理人やってるんだよ」

「本当ですか?やったあ」

俺の正面に座る楓が満面の笑みで喜びを表す。……。アッ。トウトシシチャウ。

「でも店の作りも悪くないし、料理も悪くない。…なんでこんなに客入りが悪いんだろう」

教室には俺達以外に誰もいない。…ッチ。楓のメイド服だぞ。なんで誰も見にこねえんだよ。

「それが、この教室一番遠い所にあるから、ここまで来る前に他の場所で済むんじゃうみたい」

「…」

確かに結構昇降口から距離があったな。距離があるということはそこに辿り着く前に沢山の店があるということ。何か特別な目玉の売りが無い限り、ここまで足を運んでもらうのは難しいだろう。

「はあ、誰かここに人気な芸能人でもいてくれたらなあ。絶対人来るのに」

大丈夫。そこら辺の芸能人より楓の方が可愛いぞ。

「…」

「…?どした?」

楓が何か閃いた様にじっとこちらを見つめている。…何か思いついたのだろうか…?

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