第61話 過去に追われる少女
おひさしぶりです、とあるゲームで日本上位をキープするべく投稿をサボってました(馬鹿)
ちょびちょび更新していきます((白目))
「…」
「思い出しましたか?」
「…なんか、俺気絶してばっかだな」
「なんででしょうかね」
いや、多分触れちゃいけないんだろうけどさ。
「…それで、ソウカがおかしくなっちまったと」
「そうですね。それが貴方の魂が裏に引っ張られたことと関係しているのです」
「…?」
解析者は手を組んで机の上に上げた。
「そもそもソウカさんが暴走した理由。そこまでは分かっています」
「ほう」
「馬車の中で彼女が貰った酔い止めの薬ですね。複雑な原理までは解析出来ていないのですがその薬が魂を裏から表に、表から裏に、無理矢理置換させる作用があるようなのです。…わかりやすく言うとするのであれば自分とは反対の性格を引き出される、一種の麻薬のようなものです」
「なら、あのソウカは本来のソウカじゃない、と?」
解析者はこくんと頷いた。
「あなたに向けていた剣を落としたのも、本来のソウカさんの必死の抵抗だったのでしょう。あなたを傷つけまいとする」
「…じゃあそもそも、そんな薬を渡したあのババアは一体何の目的があって…」
「はっきりとした目的はわかりませんが、ソウカさんに薬を渡したのはそのほうが一番怪しまれないからでしょうね。彼女は重度の乗り物酔いを起こしていましたから、酔い止めとして渡せばほぼ確実に飲んでくれると踏んだのでしょう。…まあ私はあまり人間の行動あまし理念を理解できないので、目的まではわかりませんがね」
ちょい、と解析者は肩をすくめた。
「けど、解析者がその薬の作用を解析できたのは?一体…」
「ああ、そうでした。簡単なことですよ。その毒の成分が、彼女の牙からあなたの体内に直接送り込まれたのですよ。蛇の毒を作る部分に薬が回って彼女の毒にもその成分が含まれたようですね」
「…それって」
「ええ。だからあなたの魂は裏に移ったのです。そして裏の人格が、今表で活動しています」
…なんてこったい。よくもこう悪い物事が連鎖するこった。
「じゃあ…今の俺の体は表で暴れてるんじゃあないのか?」
なんなら犬歯をむき出しにして道行く人の首筋に牙を立てまくっているんじゃないかと。
しかし、そんな俺の不安をよそに彼女はほくそ笑んだ。
「いえ、とても善良な魂のようですよ?元の魂が悪い魂だからですかね?」
「んなっ」
「冗談ですよ」
「冗談じゃなかったら、ブチギレてるよ」
互いに苦笑を浮かべ合う。…少なくとも、暴れていないのであれば良かった。けれど、俺も悠々とこちらで茶をすすっている時間はないのだ。
「…ソウカを助けて、神石を取りに行く。そのために、解析者。協力してくれるか?」
「何をいまさら。私の使命はあなたを補佐して、導くことですから。自由にこき使ってください」
そう言って彼女は微笑んだ。よく思えば初めはカタコトしか話せなかった彼女が、今はこうして談笑できる程度にまで感情を持ったのだ。解析者もれっきとした俺の、俺たちの仲間。
「力合わせて、ソウカを元に戻そう」
俺は、拳を作って前に突き出した。
「…?ええ」
それに対して解析者はその拳をパーで包み込んだ。
「…はは」
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「ただいまー」
「あ、新さんおかえりなさいー」
「おかえりなさいーー!!」
雪がててててー、と裸足で玄関に走り帰宅?してきた新さんを出迎える。
「おー!!雪ちゃん!!ただいまーー!!」
「おかえりー!!」
両腕を広げて、走って突撃してくる雪を迎える新さん。それにめがけてどしーんとタックルを決める雪。
「タックルが、あまーーい!」
そんな雪を両腕でぎゅっと抱き締める新さん。その姿はさながら母親である。ただし親バカである。
「ご飯もう少しで炊きあがるんで、先にお風呂入りますか?」
「ありがと、楓ちゃん。そうさせてもらうよ」
新さんは雪を離し、靴を脱いで玄関を上がった。するとその先に。
「しゃーっ」
雪の拾ってきた一匹の蛇が長い舌を伸ばしながら新さんの足を這い上がり始めた。
「!?!?!?!?」
あまりにも突然の事で流石の新さんも目を白黒させている。
「なななななに!!??これれは!」
「家の前に倒れてたんで保護したんです。…雪が」
「私が助けたの!」
新さんの足に絡まる蛇を雪は手早く回収すると、その蛇はまるでマフラーのようにして雪の首に収まった。
「…なんと、まあ。懐いてるね…」
「ちっちゃい頃はやたらと爬虫類が好きになりますからね」
私も然り、小さい頃はトカゲとか家守とかを捕まえてたっけなあ。その時にお兄ちゃんには渋い顔されてたっけ。
「その子に名前は?」
「…まだつけてないよー」
「ふむ…」
彼女は顎に手を当ててしばらく考え込んだのち、口を開いた。
「ソリダス」
「そりだす?」
「だめか…ソリッド」
「そりっど??」
「うーん…リキッド」
「らきっど???」
「『ら』じゃなくて『らりるれろ』の『り』だね」
結局蛇が嫌いなのか好きなのか分からない新さんがお風呂に入っている間に雪と二人で決めることにした。が、そもそも蛇に名前なんてつける機会などそうそうなくセオリー通りの名前の付け方も知らないのでその作業は難航し、結局私が『スン』と名付けた。由来は…英語にして掛けただけである。深く聞かないで欲しい。
「あ、明日少し遅くなるだろうからご飯は大丈夫。食べて帰るよ」
もぐもぐと口の中に豚キムチを放り込みながら新さんが言った。
「わかりましたー。夜軽くつまめる物を作る程度にしておきますね」
「いつもありがとう。別にめんどくさかったら良いからね?」
缶ビールを片手にケラケラと笑う新さん。なんだかんだ言って酒豪なので飲みすぎて二日酔いしなければいいのだが…。
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「もしもし…。ええ、はい。私ですが」
『…』
「…保護している子らの身柄をそちらに?それは一体なんの意図が…」
『…』
「それは単なる見間違いでは無いのですね?」
『…』
「…。わかりました。しかし、こちらも準備が必要でしょう。三日後、そちらにあの子達を移します」
『…』
「ええ、はい。よろしくお願いします」
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-ティアーシャの魂が入れ替わってから三日-
一行は森を抜け、近くの街に身を寄せていた。というのも冒険者ではないテンシアを連れて冒険に出る訳にも行かず、彼女がこの環境に慣れるまでしばらくの間は様々な物に触れさせよう。という決断に至ったのだ。
「これなんですか?」
「これはチカの実って言って、少し酸っぱい果物よ?食べてみる?」
アイビーは店先に陳列されたその紅色の小さな果物を手に取り、ひゅっとテンシアに向けて放った。テンシアはそれを両手で受け取り、しげしげとそれを見詰めた。
「そのままがぶっと」
戸惑うテンシアにアイビーが噛み付くような身振りを見せ、食べ方を教える。
「こう、ですか?」
テンシアはそれを見習ってその果物にかぶりつく。
「!!!!」
そして次の瞬間、その瑠璃色の瞳が潤み思わず手で口を抑える。
「な、なんですかっ!?これっ」
涙目のまま何とかそれを飲み込み、テンシアはチコの実を凝視する。そんな彼女を見て、アイビーは思わず吹き出し腹を抱えて笑いだした。
「ははははっ!あはっ!ごめんごめん、その実はそのまま食べたら激酸っぱなのよ。煮てジャムにしたりすると甘くなって美味しいんのよ」
「それを早く言ってくださいよお!」
釣られてテンシアも思わず笑い出す。
ひとしきり笑い終えた後、アイビーは懐から銅貨を取り出し指で弾いて店の店主に金を払った。店主の女性も彼女の様子を見ていたようで顔に笑みを浮かべていた。
「色んなもの見ていけばいつか何か思い出せるわよ。別に思い出せなければ、そのまま昔の自分を捨てて新しい自分になれば良いじゃない」
アイビーはテンシアから実を受け取り、一口でぺろりと食べてしまった。
「ちなみに、これは私の大好物」
「…はは」
やってやったぜ、という表情を向けるアイビー。テンシアは苦笑を浮かべた。
「…ん、そろそろお昼にでもする?スカーナとも合流して何か美味しいものでも食べましょ」
「…でも、お金が」
「大丈夫。お金の事は気にしないで。私、それなりに貯蓄はある方だから欲しいものがあったら何でも言うのよ?」
「…はい」
テンシアは思った。何故彼女はここまで自分に良くしてくれるのだろう、と。言ってしまえば彼女らは他人同士だ。金だって掛かるし、その場に切り捨てて、置いてきぼりにすることだって出来る。
正直、テンシアは後ろめたかった。自分がいつ捨てられるのか。いつ見捨てられるのか。
今自分が感じている幸福はそう長くは続かないのではないか、と。
「…あのっ」
「ん?」
その思いを、ぶつけることにした。
「なぜ…。アイビーさんも…スカーナさんも…スディ?さんも私にここまでしてくれるんですか…?」
怖かった。彼女らの行動の裏に何かおぞましい何かがあったら、どうしようと。
「…なんでだろうなあ。何となく、かな?」
「え」
しかし、帰ってきた言葉は素っ気ないものだった。
「もちろん何かして欲しいとか、何かに利用しようとか思ってる訳じゃあないのよ?…ただ、困ってる人がいるのに助けずに見て見ぬ振りをするのは、違うじゃない?もしそれで、その困ってる人が不幸な目にあったら私は後悔するだろうし、深い悲しみを負うと思う。…あなたを助けたのは本当に何となくなのよ。あなたがそこにいて、私がそこにいたから。それだけよ」
「…」
そんな裏など無かったのだ、とテンシアはほっと胸を撫で下ろすと同時にこんなことを聞いてしまったという罪悪感に苛まれた。アイビーらの親切心、針金のように真っ直ぐな心に疑りを掛けてしまった自分に、だ。
「なに?もしかして私達があなたを見捨てるとでも思ったの?」
「…ごめんなさい」
「なーに言ってんのよ。私があなたを見捨てる訳がないでしょっ!?」
ペチンと指先で俯くテンシアの額を弾いた。
「あなたの記憶を取り戻すのが私達の目的よ。もし戻らなければ一緒に旅でもしましょう」
ぎゅっと肩を掴むアイビーを見て、テンシアは再び目元に涙を浮かばせた。
「そんな、泣かないで」
「ち、違います。こ、これは、チコの実が」
「そんなに酸っぱかった?」
ふふっと笑うアイビーにテンシアは崩れるようにして彼女に体重を預け、静かに涙という涙を流し始めた。
「あらあら」
流石のアイビーもこれには両腕をホールドアップ。しかし、震える彼女を見てポンポンとその背中を摩ってあげるのであった。
二人はスディとスカーナと合流し、お昼を済ませた後一行はスカーナが手取りを済ませていた宿に赴いた。
「とりあえず部屋は確保出来ましたね!」
ぽーんとスカーナがベッドの上に飛び乗り、うーんと体を伸ばす。
女三人で一部屋、スディは一人で一部屋である。さすがに宿くらいは別の部屋にいたいというスカーナの思いがひしひしと感じられた。だが、スディは別に嫌そうな顔せず、そうかとだけ行って部屋の鍵を受け取っていたのだが。
「今日は、ゆっくりしましょうか。結構歩いたしね」
アイビーもベッドに腰掛け一息つく。
「とりあえず、テンシアが記憶を取り戻す鍵を見つけないとね…」
アイビーはうーん、と顎に手を当て俯いた。全てを試していないから分からないが、そこら辺の物に五感を使って触れさせて記憶が戻る。という様子は中々見られなさそうである。
何か、記憶を失う前のテンシアが知っている物、または深く関わっていた物に触れさせれば何か分かるかもしれない。
「…明日、あの場所に行ってみない?今のテンシアに関わりのある場所はあそこくらいしかないし…」
あの場所。それは森の中のテンシアが意識を失っていた場所である。
「…そうですね。そこなら何か分かるかもしれませんね」
スカーナも賛同するようにしてポンと手を叩いた。
「あまりああいう、所に戻りたくは無いですが…」
アイビーの長い耳がピクリと反応した。
そう、その場所には大量の遺体があったのだ。その唯一の生き残りとしてテンシアがいた。
死臭を放つ大量の死体の映像が脳裏に過り二人はうっと顔を顰める。
「私達が敬遠する訳にはいかないわ。テンシアを導くことが出来るのは、私達しかいないんだから」
「…その通りですね」
「よし!決まり!じゃあ明日は朝から森に向かうわよ!テンシアもそれでいい?」
「え、ええ。私は、大丈夫、です」
正直、内心彼女は不思議な感覚にいた。
「じゃあ今日はゆっくりしよう!お風呂!行こう!」
「お風呂!行きますか!」
「っとと」
二人はベッドからはね起き、テキパキと服の準備を済ませテンシアの手を引いて部屋を出た。
「着替えは私の貸すから、行きましょ!」
「アイビーさんのはお胸のサイズが合わないでしょうから私のも貸しますね」
「スカァァァナァァァァァ!!」
「だって真実じゃないですかぁぁぁ!!!」
スカーナの皮肉に目を尖らせ、追いかけるアイビー。そしてアイビーに引かれその後をついて行くテンシアはクスッと笑い。
「ありがとう、ございます」
と、一言。発したのだった。
久しぶりの登場だけど楓さん達覚えてる…??