第60話 記憶の結晶
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「酔った…吐きそう…」
「吐くなよ…?ここで吐かれたら大惨事間違いなしだ」
目の前でソウカが顔を青くして口元を抑えている。周囲の人もそんな彼女から少し距離を取る。
『解析者』に神石の大体の位置をマッピングしてもらい、その周囲まで近くを通りがかった運搬用の馬車に乗せてもらうことにしたのだ。森の中で翼広げて飛んだら全身傷だらけになりかねないしな。
「…ほれ、そこの嬢ちゃんに酔い止めの薬」
隣に座っていたしわがれた顔の老婆がちょんちょんと二の腕をつつきながら俺の手に黒色の飴玉サイズの薬を握らせてきた。
「ども。…おいソウカ、薬もらったぞ」
「あ…ありがとう」
俺は会釈してそれを受け取り、ソウカに手渡す。ソウカはそれをしげしげと見つめた後口に含んだ。
「嬢ちゃん達どっから来たんでえ?どっかのお金持ちんとこの娘かえ?」
「…うーん、有名っちゃ有名かも」
「顔立ちから分かるさ」
街一の料理の腕を持ち、店を開く旦那とその妻の大剣を片手でブルンブルン振り回す元冒険者のナーサだからな。一部界隈ではベリーフェイマスだろうさ。
…それってどんな顔立ちなんだよ。
「じゃあじゃあ、好きなタイプとか!」
「じゃあじゃあじゃあ、トイレットペーパーは一枚で済ます派??二枚に切って使う派??」
「ご飯は好きな物から食べる?嫌いな物から?」
その老婆の質問を引き金に周りからの質問攻めにあった。ほとんどがセクハラもんの質問だったので軽くゴミを見るような視線を向けておいた。なぜそんなに嬉しそうなんですかねぇ。
「おいソウカ、大丈夫か?」
「…なんとか」
外に身を乗り出し、口を抑えている。こりゃ今にもゲロるやつだな。恐らく口の中に胃酸が上がって来ている頃だろうか。酔い止めの効果は無かったか。
「すみません、相方がゲロりそうなんで降りても良いですか?」
俺は身を乗り出し、馬車を操る御者に声を掛ける。
「ええ、構いませんが…相方さん大丈夫そうですか?」
「三回くらい吐かせりゃ嫌でも治るっしょ」
「…強引ですね」
ドン引きされた。マジかよ。
「おい、ソウカ。降りるぞ」
「…うぇ」
馬車に乗っている人に軽く頭を下げ、止まった馬車からソウカの背中を擦りながら降りる。
その時だった。
何かが空気を斬る音が音が聞こえた。
「…?」
魔眼で見ている空気が少し、揺れた。そっとソウカの背中から手を離し、意識を耳に集中させる。
馬車の場所とは違う所から発される幾つもの呼吸音。なにか軋む音。
「これはっ!?」
急いでソウカを地面に押し倒し、その上に覆い被さるようにして身を伏せる。
「…!?!?」
「賊だ!!賊が出た!!」
馬車に乗っている人にも聞こえるように声を張る。その刹那、四方八方から空を切るようにして飛び交う大量の弓矢。
「…くっ!?」
姿勢を低くしても、数ある矢の内の数本は体を掠り幾つもの傷を作っていく。
「…ティ、ティアっ」
「大丈夫だから、お前はもう少しそうしてろっ」
弓をつがえる瞬間。いくらタイミングをずらして、常に弓を射れるようにしていたとしてもそれが重なる時があるはず。
「今だっ」
ほんの少し、弓矢の飛来が減ったタイミングで中腰になり地に手を当てる。すると褐色の魔法陣が展開され、馬車と俺達を囲うようにして巨大な土の壁が地面から現れる。
「これで弓は防げるけど…」
弓は防げるとはいえ、そうなった以上相手は俺達との距離を詰めざるをえないだろう。そうなるとこの土の結界が持つのも時間の問題、と言ったところか。
「そっちは大丈夫か!?」
俺は馬車の方に駆け寄り、荷台に飛び乗る。幸い、馬車の中にいた面々は伏せており重症の者はいなかった。
が。
「…こっちは、ダメか」
馬車の御者は首に矢が刺さり、息を引き取っていた。そして、馬車を引く二頭の馬もあちこちに矢が刺さり泡を吹いて横だおれになり痙攣を起こしていた。この矢の量からして、こちらの足を最初に潰してきたようだ。
「毒矢だったのか」
馬に刺さった矢を抜くと、鏃が黒く濡れていた。通りで掠った所がピリリと痺れる訳だ。俺は毒耐性を持っているからこの程度の毒であればすぐに解毒されるから大丈夫だが。
「こん中に戦える奴はいるか?」
どうにするしても、御者と馬が潰れてはここから動くことはままならない。山賊相手に戦えとは言わないが、俺がどうにかするにしても時間稼ぎのできる者が体調不良のソウカしかいないとなると…ちと厳しいものがある。
「…いないか」
馬車の面々はふるふると首を振るばかりだった。彼らの身なりからしてほとんどが行商人だろう。護身用に幾つかの剣は持っているだろうが、さすがに自分から戦いに行くとは無理か。
「じゃあなにか武器がある人は、それをくれ。そいつを使ってなんとか時間稼ぎしてみる」
俺が手を差し出すと、その上に幾つかの小さな護身用のナイフや売り物だろうか、少しばかり装飾の入った弓と数本の矢が置かれる。
「…ふっ、随分と物騒な弓だこと」
弓が手に入ったのはでかい。思わず顔がニヤリと歪んでしまった。
ナイフはダガーナイフのようにして使わせてもらおうか。
「土の結界はしばらく破られることは無いと思うから、こっちで時間稼ぎする。結界が破られた時は…諦めてくれ」
正直俺とソウカは逃げ出そうと思えば逃げ出せる。だが、この人数を連れて動くことはさすがに無理がある。賭けにはなるが、山賊の量が少ないことを願うばかりだ。
俺は弓を持ち、馬車から飛び降り結界に手を当てる。
「ソウカ、行けるか?」
「…なんとかね」
真っ青な顔をこちらに向けて膝を手に着いている。さすがに俺一人ではキツイので頑張ってもらうしか無いのだが…。
ソウカが俺の側まで来たのを確認すると触れていた部分の結界を一時的に崩れさせ、人一人通れる程度の入口が出来る。
「はっ」
すぐに弓に矢をつがえ、こちらに気がついていない山賊の一人に狙いを定める。
勢いよく発射されたそれは空気を切り、山賊の大腿部に突き刺さる。
突然の痛みにその山賊は悶絶し、矢を抜こうと試みる。が、
「…ぬ、ぐぅぅぅっ!?」
抜こうとすればするほど、傷は悪化する。それが返しの着いた弓の恐ろしさである。返しが着いた物が刺さった時はそのまま貫通させて抜き取る方が比較的傷は浅くなる、と言われているが…果たして矢のようなごついものはどうなるか分からないが。
「ぐっ!ぅぅぅ!!」
さて、そろそろ仲間が異変に気がつく頃か。痛みでもがき苦しむあいつのことを見て、近くにいた他の仲間が三人集まってくる。
「ほいっ」
矢を射り矢をつがえを繰り返し、その三人を再起不能にへと持ち込む。
「行くぞソウカ」
「…あい」
そして乗り気のないソウカの手を引きつつ、俺は結界の中から飛び出し近くの木陰に身を隠した。
(『解析者』、マッピングを頼む)
『了解しました』
脳内に周辺の簡略化された地図が浮かび上がり、その中にぽつぽつと赤点が記されている。これが盗賊を記している。
北に数名、南に少し数が多いな…。東にはまだ手は回っておらず、少し段差のある西側にも少し多い。が、他の場所より距離は離れている。数は十~二十、と言ったところか。これなら二人でも戦える。
「十数人程度だ、俺は北側をやるからソウカは反対側をっ」
「あい」
再び弓を構え、ソウカが移動できるように進路を確保する。ソウカは小走りで木陰に移動し、大量の蛇を呼び出す。
「行ってこいっ」
地面を這わせ、数え切れないほどの蛇を山賊の元へと向かわせる。あれがソウカなりの戦い方なのだろう。索敵と攻撃を同時に行う効率を重視した戦い方。集団戦ではとてつもない力を発揮してくれる。吸血鬼の血が混じったと言えど、そこは変わらないんだな。
「おっと」
ぼやぼやしている暇は無かった。数本の弓矢が近くの木の幹に刺さった。それと同時に数人の山賊達がマチェットのような鉈のような武器を持ちながら、飛びかかってくる。
俺は左手で弓を持ち、右手で短剣を引き抜く。まず一番距離の近い奴に向けて弓の弧の先を叩き込む。
「がはっ!?」
それは見事に鳩尾に直撃、これでしばらくは呼吸すらままならないだろう。
そしてもう一人にはその弓を投げつけ、怯ませてから股に蹴りを放つ。
「!!!!!」
しばらく動作を停止し、白目を向いてその場に倒れる。そりゃ痛てぇだろうさ、俺はその痛みをよぉーく知ってる。
それで、最後は得意な至近距離の間合いに詰め短剣で致命傷にならない程度に切っておいた。この三人組も、数時間はここから動けないだろう。
「さて、ソウカは?」
ちらりと振り返ると蛇の波に攫われる山賊の集団が。「ちょっと向こうの方が人数が多いみたいだな」
こちらはあらかた片付いたのでソウカの方に手助けをしに行くことにする。弓を回収して、小走りで彼女の方向にへと向かう。
その時の事だった。
『西側から急速に接近してくる物の反応がっ』
「西側?」
『解析者』が声を張り上げた。西側は土の結界を挟んだ逆側である。
「ソウカ!西側がヤバいらしい!」
俺は蛇を操作している彼女に向かって声を張り上げる。
「わかった。こっちが片付いたら向かうわ!」
俺はその場で頷き、土の結界に入口を作り中に入る。そのまま逆側に移動すれば結界を大回りしなくていい分ショートカットできる、という算段なのだが。
『結界になにかが衝突します!』
「衝突?…うぐっ!?」
反対側の結界に手を当てた瞬間、結界にヒビが入りそれを中心にして結界が崩れ始める。
「な、なぁっ!?」
その後、速度を上げて結界をぶち破ってきたのは、小さな馬車の荷台。西側の段差を利用して勢いをつけてこちらに流してきたのだろう。
「がっ!?」
避けようにも、あまりにも距離が近すぎる。
俺は馬車に巻き込まれ、土の結界の残骸に埋もれてた。
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「結界が…」
西側から、結界が崩れた。
「よそ見してんじゃねぇぞゴラァ!」
「邪魔!」
背後から飛びかかってきた盗賊に向けて腰からナーサから貰った剣を引き抜き、振り向きながら切りつける。
「ぐぇっ!?」
その剣は盗賊の太めの腹を切り裂き、再び鞘の中に収まる。
「ティア!!」
蛇を自分の体に戻しつつ、私は崩れた結界の方に駆けた。
どうやら山賊達が馬車を流し、結界をぶち破ったようだ。ただ、結界を壊したおかげでブレーキになったようでこちら側の馬車はほぼ無傷だった。
「…」
崩れた結界が形成された魔力を失いゆっくりと消えていく。そして消滅した結界の下に白銀色が輝いた。
「ティア!」
私はすぐさま駆け寄り、彼女の肩を担いだ。
「ん、んん?ソウカ?」
数秒程意識を失っていたようでティアはぐるぐると周りを見回した。
「大丈夫?」
「ん、ああ。多分大丈夫」
ティアは私の肩から腕を離してぴょんぴょん跳んだりして体の具合を確かめた。
「…さて、そんなに余裕がない感じだな」
そうして彼女は肩を回しながら徐々に距離を詰めてくる山賊を横目に剣を抜く。
「そうね」
私も続こうと、蛇達を呼び出そうと魔力を全身に流す。
「…っ!!??」
刹那、針でつつかれたような痛みが胸に走る。
「…ソウカ?」
「…大丈夫、、なんでも、ない」
「…うん」
ティアが背中を向けた瞬間に喉の奥から血が溢れる。視界がぐにゃりと歪み世界が紫色にへと変色する。
(なっ)
体が、勝手に動く。勝手に剣を引き抜いた。
(ち、違う)
そしてその剣は、ティアの背中に向けられた。
「……」
(声が、でないっ!?)
ティアに注意を向けさせようとするも、パクパクと口が動くだけで上手く声が出せなかった。
「…あ」
「ィア…」
「…ソウカ?」
そして、ティアが振り返り彼女の顔は真っ青になる。
「お前っ、何してっ」
剣は、ティアとの距離をじりじりと詰めていきもうすぐ切っ先が彼女に届いてしまう。
「いて…、ど、いて、ティ、ア…っ!!」
最後の力を振り絞り、その場に剣を落とす。
しかし、そこで意識は黒い憎悪のような塊に引き込まれるようにして飲み込まれていった。
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「ソウカっ!?」
剣をこちらに向けていたかと思えば、糸が切れたかのように動かなくなってしまったソウカ。体の重心がブレぐらりと体が揺れた瞬間、俺は慌てて駆け寄りその体を支えた。
「…一体、なにが」
刹那、彼女の目が開いた。
「うおっ!?」
「…」
ソウカはゆっくりと自分の足で地面を踏みしめ、自分の手を握ったり緩めたりして何かの感触を確かめているようだった。
「…ソウカ?」
「…」
まるでソウカではない、別の人物のようだった。どこか感情が欠如した動く人形のような気配を、彼女は放っていた。
「…ふっ」
「ん?」
そしてソウカは周りをぐるりと見回し、俺と目を合わせた。そしてその瞬間、無表情だったその顔に感情とれるものが現れた。
それは喜怒哀楽のどれでもない歪んだ笑顔。暗い、なにかに包まれた表情だった。
『すぐに離れてください!!彼女から殺気がっ溢れています!!』
「…けどっ!?」
『危ないっ!?』
ゆらりと彼女の体が動いたと思えば次の瞬間、懐に潜り込まれ鳩尾に重い拳を叩き込まれる。
「がっああっ!?」
体は宙を巻い、木の幹に背中から激突する。その衝撃で肺の空気が口から漏れ、意識が飛びそうになるが何とか繋ぎ止める。
「かっぁぁっ…」
鳩尾を殴られ、呼吸をしようにも上手くできない。ぶつかった木の幹によりかかりながら立ち上がり、水面に上がった金魚のように空気を肺に取り入れる。
『大丈夫ですか?』
「あ、ああ。何とかな」
ソウカの様子がおかしい。ハッキリしたことまでは分からないがどうにもあの行動には彼女の意思は関わっていないようにも感じられる。それにあの憎悪、とてもソウカが持つ殺気とは思えない。
「良くある操られたもんって感じか?」
『良くあるかは分かりませんが、その可能性は高いでしょう。剣を地面に投げ捨てたのも彼女なりの最後の抵抗だったのかも知れませんね』
「うーん」
ここで深く考えても何も生まれない。とりあえずあのソウカが何をするか分からない以上、野放しには出来ない。
彼女の様子を確認すると一見、何もせず惚けているように見える。だが、それはあくまでも一般的な眼から取り入れた情報に過ぎない。俺の左眼が使える魔眼からは彼女の体にゆっくりと魔力が包み込んでいるのが見えていた。
「蛇化だろっ!?」
すぐさま懐から貰ったナイフを取り出し、彼女の足元目掛けてなげつける。それだけでは終わらず、大地を蹴って短剣を抜き一気に彼女との距離を詰める。
致命傷を負わせる気は更々無い。とりあえず戦闘不能にして、彼女を元に戻す方法を模索するだけだ。彼女に直接触れて『解析者』が解析を行えば何かしらの解決策は見つかるだろう。
「っ、ちっ」
飛んできたナイフをソウカは片腕で弾き飛ばす。それに注意を引かせ、俺は気配を消し背後に回り込む。
「それで隠れたつもり?」
「っ!?」
しかし斬りかかったナイフを持っている腕を、意図も容易く掴まれてしまう。それも一切こちらに目を向けていない、ノールックで。
「うぐ、ああっ!?」
「私は、蛇よ」
メキメキと握力を掛けられ、手から短剣が零れ落ちる。
蛇の目は温度を見ることが出来るというが、まさか後ろに回った時の周りの熱の変化を見て気づいたとでも言うのだろうか?
「蛇の背後を取れるとでも思ったの?」
ソウカはこちらを向き、舌舐めずりをした。その舌は人間の物ではなく、先で二股に別れた細長い物に変化していた。彼女の皮膚もだんだんと鱗状に変化し、瞳は鋭く縦長の黒目がギロりとこちらを睨んだ。
「まずっ」
刹那、彼女の体が大蛇に変化しぐねぐねとうねってから馬車の方へと首を向けた。俺は咄嗟にその尻尾に捕まる。
「うああっ!?」
しかし、それで止まる事は無くソウカはどんどんスピードを上げ馬車へと激突した。
飛び散る木片が突き刺さり、誰のものかも分からない血液が全身を塗りたくる。
「止まれぇぇぇ!!」
非情にも、俺の声は届かず彼女は残党の盗賊までをも蹴散らし始めた。
どれもこれも決して食べたりとぐろで絞め殺したりしない。己の体の体重で押し潰す、それはまるで人が気づかずに蟻を踏み潰すように。
彼女のその行動に大した理由も感情も無いのだろう。ただ邪魔だから殺す。それだけなのだろう。
「ぐあはっ!」
ソウカが尻尾を振り、俺は地面に叩きつけられる。すぐに体勢を整え立ち上がる。
「あなたはもう、私の射程距離内に入ってるのよ」
「くっ」
囲まれた。
長い体を巻いて徐々に徐々に距離を狭めてくる蛇の胴体。逃げようにも逃げられない、完全包囲だ。
「がぁっ」
そしてとぐろは完全に俺の体を捉え体にとてつもない圧力がかかる。
「(ならいっその事ダメもとでっ)雷電っ!!」
普段は指先から放つ電撃を全身に纏わせ、放電させる。
「…?」
「き、かねぇかあっ!」
わざわざ顔をこちらに向けて「今何かしたのか?」とでも言いたそうな表情を向けて来る。蛇の顔とも相まってカチンと来た。
「ぎっ」
ゴキン、と鈍い音がし口から血の飛沫が吹き出る。どつやら肋骨が折れて肺に突き刺さったようだ。
「じわじわ締め付けるのが好きかよ、がはっ…サイコパスか?」
「さあどうかしらね」
ソウカはガパァと口を上げ、ゆっくりとその三角の頭をこちらに向けてきた。
「苦しんで死んでくれた方がこちらとしても良いのだけど?」
「な、にを…ぐっあぁぁっ!?」
上顎から伸びた湾曲のかかった二本の鋭い牙が俺の首と肩を貫いた。表現しようも無い激痛がそこを中心に全身にへと広がっていく。そして溢れる血とは反対にドクドクと牙から何かが体に注ぎ込まれているのが感覚的に分かった。
意識が遠のく。恐らく毒を体に回されたか。
「ごふっ!!」
とどめ、と言わんばかりに強い締めつけを受け体のあちこちの骨が碎けた音がした。
「…ふん、もう終わり?」
朦朧とする意識の中、ソウカのつまらなそうな声が聞こえた。
体の締め付けがなくなり、かわりに服を口で掴まれ宙ずりの状態になる。
「ふんっ」
ゴミのように投げつけられた俺は再び木に衝突。今度は頭からぶつかりぷつんと糸を切るようにして意識を手放した。