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第55話 吸血鬼の二度目

上空を飛んで数分後、冒険者から形成される前衛組の所まで到着した。

「ナーサ!!」

翼をたたんで、地面に降り大剣を振り回しているナーサの元へと向かう。

「ティ、ティアーシャ?」

ブンっ、と大剣を一凪。敵の体は数人まとめて四散していった。しかし、やはり重量のある大剣を使っているせいか彼女の疲労は見ただけでわかった。

「とりあえず後ろで休んで!その体じゃもたない!!」

「…」

俺がはち切れんばかりの声で叫んでもナーサは大剣を振り続けた。

「ナーサ!!」

「…私は重戦士(タンカー)だからね。一歩でもその場から下がったらそこで負けなのさ…」

「けど!」

「全てはあんたにかかってるんだ!!ティアーシャ!!」

「っ!」

空気が震え、辺りの時が止まったのかのような錯覚に陥った。

「あんたが、この大軍の親玉を倒すしかないのさ。本当なら私が行きたいところだけど…ソウカが削れちまったから行けないのさ…。だからティアーシャ、あんたに頼めるかい?」

初めて聞いたナーサの頼み。全て自己解決する彼女が他人に事を頼むなんてほとんどないだろうに。

「…あぁ。任せてくれ」

しかし、俺がやらねばならないのだ。俺以外に出来ないのだ。

「ソウカはさっきルントの店に運んでおいたから大丈夫だ」

「…ふっ、そうかい。心配かけさせやがって」

ナーサは苦笑を浮かべ、大剣を振り続けた。

「必ず、戻ってくる」

「あぁ、いつでも帰っておいで」

俺はそんな彼女の背中を見つめて、再び羽を広げた。


---


「…ふぅ…」

見つけた。あれは間違いなくターミシャルだ。しかし、向こうは俺に気がついている様子はない。

正面から、『吸血強化』までして敵わなかったのだ。上空から奇襲するしかあるまい。卑怯なんて言うなよ?

「…っ」

腰にかけてある短剣を抜こうと手を動かすが、その手は空ぶった。そうだ、忘れていた。短剣はソウカを助ける時に投剣として使ってしまい今手元に無いのだ。

「ちっ」

俺は懐から一本のダガーナイフを取り出し両手で握った。


狙うは、奴のうなじ。


背後からなら、玉座のような物に座っているやつでも攻撃を避けるのは難しいだろう。しかし、防がれればそこで終わり。一撃で仕留めなければ意味はない。

「…行くぜ」

翼を折り、一気に急降下。風を切って奴のうなじ目掛けてダガーを振る。


「っ!!」


しかし、俺のナイフは奴の首に届く前に止まった。

「な、にぃっ」

事を理解するのに時間がかかった。それほど一瞬の出来事だったのだ。

頭、足先、手先を除く全身が、地面から現れた氷柱によって飲み込まれ、動かなくなってしまっていたのだ。

「私が背後からの攻撃すら警戒していないとでもと思ったか?」

ターミシャルの体がゆっくりと後ろを向き、奴の目と俺の目が合った。

「てんめぇ…っ」

「いくら抵抗しても無駄だ。私の魔法によって作られた氷だからな」

「くっ…」

あと数センチなのに。そのナイフは届かない。

「お前を殺すのは、あの街が滅んでからだ。よく知った者たちの断末魔を聞いて絶望に浸って死んでいくがいい」

ターミシャルははっはっはっと大声を出して嘲笑した。

「お前が吸血鬼などという穢れた種族でなければなぁ。私が娶ってやったというのに…残念だ」

「触るなっ!!」

ターミシャルが俺の髪を撫で回すようにして触れた。背中に寒気と憎悪が走った。

「無力な自分が悔しいだろう?街の者を助けられない自分が悔しいだろう?」

「ぐ…うぁぁ…」

ターミシャルは俺の手からダガーを奪い、俺の体に服の上から浅く傷を入れていった。


諦める訳にはいかない。策は出来た。

確かにこの氷は強靭だ。だが、俺が自らを燃やすほどの火力で火属性魔法を放てば脱出出来るほどには溶かすことは出来る。

しかし、やはり数秒は掛かる。その間に奴にそれがバレてしまえば計画はおじゃんだ。

「『燃焼』!!」

体の周りに俺は火を放つ。ゆっくりとだが、氷柱は溶けていく。

「ぐぅおおお…」

「やけくそか?」

ふっ、と奴は笑い俺の心臓へダガーを構えた。

刹那。

「今だ!【解析者】!!」

『ええ、分かっています』

俺の体から紫色の光が溢れ、その光がターミシャルへとぶつかった。

「何っ!?」

それにぶつかったターミシャルはバランスを崩して一歩二歩と後ろに下がる。

「私の主はこのティアーシャです。あなたが危害を加えようというなら私はそれを阻止しなければなりません」

俺の前に現れたのは、髪色が紫色なこと以外は俺と同じ姿をした【解析者】。

その姿を実体化させ、今俺を守ってくれている。

「ぐぅおおおぉぉぉ…っ!」

その隙に体の周りの氷を溶かしていく。

「【解析者】!二十秒、稼げるか!?」

【解析者】は顔をこちらに向け、こくりと頷いた。【解析者】が姿を実体化させ、表に出てくるのには【解析者】本人の魔力を大量に使う。本来であれば三十秒。しかし、【解析者】の苗床である俺の体力的に三十秒は無理であろう。

「二十秒ですね、分かりました」

そうして【解析者】はターミシャルへと向き直る。既に体勢を整え終えたやつは【解析者】と向かい合うようにして立っていた。

「ふむ…?」

ターミシャルが手を扇ぐように動かすと、強風が【解析者】の周りだけ吹き荒れる。

「…」

しかし【解析者】はそんな風には一切動じず、むしろ奴に近づいていった。

「『水砲』」

そして右手を前へと突き出し、そこから発生した魔法陣から高圧の水流を放つ。

「無駄だと言っておろうが!なにやら小細工を仕掛けたようだが、なにも変わっていないではないか!!」

ターミシャルは指先でその水流を切り裂いた。

「ええ、届かせるつもりはありませんから」

「っ!?」

しかし、その『水砲』は偽物(ダミー)。視界を遮り、距離を詰めるためにあえて正面から放ったのだ。

「はっ!」

そして【解析者】は右手を握り締め、拳を叩き込んだ。

「がっ!?」

さすがのターミシャルも肉弾戦に持っていかれるとは予想していなかったのか。その拳は見事に顔面にクリーンヒット。よろよろとバランスを崩し、思いっきりコケた。

「きっちり二十秒、稼ぎました」

「どうもさん、まさか顔をぶん殴るとは…【解析者】って実は脳筋?」

「身体能力も魔力量もあなたを基盤にしていますから、そうなるとあなたが脳筋ということになりますよ」

ふっ、と苦笑を残し【解析者】は紫色の淡い光に包まれその姿を消した。

「ぬ、くぅ…」

俺の目の前には頭を抱えて悶絶するターミシャル。あれは『解析者パンチ』と命名させて頂こう。

「ターミシャル」

そして【解析者】の稼いだ二十秒で氷柱の拘束から逃れた俺は、彼を睨みつけた。

地から俺の足へ這い上がる一匹の蛇。俺はその蛇が口に咥えている短剣を受け取り、彼を睨みつけた。

「決着をつけようか」

短剣を彼に突きつける。

しん、と空気が凍りついたような気がした。果たしてどちらの緊張によるものなのか、俺は知る余地もないのだった。

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