第51話 蛇と人間
投稿遅れまして、ごめんなさい (´;ω;`)ウッ…
---
「…そろそろかい?」
「…はい。もうすぐで森を抜けます」
蛇との視覚を共有し、敵の位置をナーサに伝える。
「ふん…」
ナーサは少し考えるような仕草を取った後、体の向きを変え後ろで待機している冒険者達に向かって声を張り上げた。
「あんたら!よく聞きな!!」
張り詰めた雰囲気にナーサの響きの強い声が空気をビリビリと震わせた。その場にいたほとんどの人がこの瞬間息を飲んだのではないだろうか?
「これからしなきゃなんないのは、命のやり取りだ!自分の命が危ないと思ってるやつは後ろで前線をカバーするんだ!」
前線、第一部隊は剣や槍などを得意とするベテラン冒険者で構成されている。そして、その後ろでは弓などの遠距離武器を得意とする第二部隊。そして、街の中で傷付いた者を看護する第三部隊。つまり、第一部隊が敗れれば近距離戦の苦手な第二部隊も一瞬で制圧される。そうさせないために、第一部隊は極度の集中力が必要となる。
「あんたら準備はいいかい?」
「おうよ、任せとけ!」
「さっさと終わらせて、ルントの旦那の飯食いに行くか!」
「これが終わったらルントの旦那に頼んでツケをチャラにしてもらうかね」
各々が威勢の良い返事をする。
街全体を囲うようにして配置しているからか、そんな決意の言葉がまるでウェーブのように次に次にと繋がっていくのだった。
「もうすぐ森を抜けます!」
蛇との感覚共有を頼りに状況把握に徹する。もう数十秒で敵は森を超えてくるだろう。
「あんたら!相手はモンスターじゃないんだよ!!そこんとこ、きちんと覚悟決めときな!!」
ナーサがぎゅっと、大剣を握りしめた。
「…。来る!!」
森の方に目を向けると、木々の隙間からぽつぽつと橙色の光が盛れ始めていた。そして、秒単位でその数は増えていく。
「「「…!!??」」」
一瞬にして空気が凍りついた。
なぜなら、その光はぐるりと街を囲うようにして配置されていたのだ。
「…か、囲まれた」
思わず冷や汗が流れる。一箇所から攻めてくるのであれば、もし何かあった時でも逆側に引くことが出来る。しかし、周りを囲われてしまうと逃げ場がなくなる。
「まじかよ…」
皆が焦燥の念を顔を浮かべていた。戦力差だって一目瞭然だった。
「…っ!?」
ナーサを顔を伺うように視線を持ち上げると、彼女の顔には隠しきれない焦燥があった。
「…ナーサさん」
確かに周囲を囲うようにして襲ってくることは蛇との感覚共有で知っていた。しかし、まさかたかが一つの街を襲うのにこれだけの人員を総動員するなんて、誰も予想しえないことだ。
こうなってしまえば、人員を均等に割かなくてはならなくなる。そうなると、一人一人の壁が薄くなるため、知らず知らずの内に背後を取られてしまうかもしれない。
「…こりゃ、結構きつくなってきたねぇ!」
ナーサは下唇を噛み締めながら、引きつった笑みを浮かべた。
あぁ。きっとこの人はずっとこうやって生きてきたんだろう。ナーサの昔話はティアーシャに聞いたことあるけど、冒険者として生きている時もピンチになった時は、絶望する前に解決策を考える。それが彼女の生き方だ。
「けど…」
どれだけナーサが化け物だとしても、多勢に無勢。どんなに強い蜂一匹が蜜蜂の巣を襲ったとしても蜜蜂は数の力でその蜂を圧死させる。
「…ナーサさん」
「…ん?」
「…あなたは、ティアーシャが帰ってくるこの街を守るって言いましたよね?」
「あぁ」
「なら、あなたがいないとダメです。ナーサさん、あなたが居るこの街じゃないと、ダメです」
「っ…」
やっぱり。この人は己を犠牲にしようとしていた。自分の命と引替えにこの街を、ティアーシャの故郷を守ろうとしていた。
「ふふっ、ナーサさんって結構親バカなんですね」
「あの子の親バカなんて言われて、喜ばないやつなんているのかね」
私達は、互いに笑い合った。
「…生き残りましょう。この街と共に」
「…あぁ」
ナーサは大剣を、私は大量の蛇を地面に這わせる。
「…護る。絶対に」
---
「…ちっ」
なんだなんだなんだよ!この量は!おかしいだろ!!
一つの街を襲うのに何百人、いや何千人動員してんだよ!!
翼を使って空を飛んで街に帰ろうとしたところ、上空から街をぐるりと囲うようにして配置された大量の人と松明が見えた。松明を持っている人同士の間隔は均等で、全体が程よく照らされていた。
「…まずいな」
こう大人数で囲まれてしまえば、街の人達に逃げ場はない。そうなると消耗戦になるわけだから、いずれは必ず街に侵入される。
「急いで帰らねぇと!」
翼を合わせるように閉じて、一気に急降下を始める。とは言っても翼は風を切っているから垂直落下という訳ではなく、ある程度の方向転換は可能である。
「っ!?」
だが、そう簡単に行かせてくれないのが辛いところ。街を囲っている敵の真上を通り過ぎようとした所で数人が火矢を俺に向かって放ってきた。
「くそっ」
徐々にその数は増えていき、やがて空を火矢が埋め尽くす程になった。
「だ、だめだっ」
『このまま街に入ろうとすれば、数本の矢を受けることになります。一度引いて下さい!』
「しゃーねーな!」
【解析者】が切羽詰まった様子で言ってきた。確かに【解析者】の言う通りこのまま飛行を続ければ火矢を必ず被弾するだろう。火矢だから、かすることすら許されない。
飛んでくる火矢を、いわゆるローリングでかわす。矢は街に近づけば近づくほど量が増している。街に直接着地することは諦め、近場の茂みの中に身を隠す。今、あの集団の中に飛び込んで戦いに行ってもいいがここは慌てず敵の事を観察することにした。敵が近接武器を使って戦ってくるのか。それとも弓で遠くから狙い撃ってくるのか。今のところ、弓を持っていることは確定したな。
「…そもそもこの集団を動かしている奴らがどっかにいるはずだからな」
流石にこの量を一人で操っているとは思いにくいし、小分けにして司祭のように操っている者がいるはずだ。
「そいつを叩けば…」
そいつを見極め、倒すことができればこの大軍と直接戦うよりもマシな筈だ。
「【解析者】、集団の中にこの集団を操っている人間がいるかどうかわかるか?」
『…それは厳しいかもしれません。特徴が分かれば別ですが…』
「そっか…」
司祭のようなリーダー格がひと目でわかればいいのだが、集団の中に潜伏されてしまえば俺は手出しが出来なくなる。集団を構成している大半が悪の心を持たぬ人だからな。
「…」
『殲滅』という手段は最後に取っておきたい。いかにしてピンポイントで、リーダー格の者を倒せるか。なんなら、そのリーダー格のさらに上にいるであろう者を倒してしまってもいいが…、いまはこの集団の洗脳を解く方を優先したい。権力者を倒したところでリーダー格の者達の意思が残っていれば意味が無いからな。
「…く」
こうしている間にも、こいつらは円を窄めるようにして街との距離を詰めてきている。目に見て分かるタイムリミットが、刻々と迫って来ている。
自分でも無意識の内に爪を噛んでいた。
なにか。なにかこの状況を打破する方法は無いのだろうか。
「…あ」
『なにか思いつきましたか?』
「いや、大したことじゃないかもなんだけど…。一時的にでも洗脳を解いてしまえば、その洗脳を行っているやつの場所が分かるんじゃないかと」
『それはそうですが…』
「…なら、勝機はある」
『え?』
【解析者】があっけに取られた声を出す。うん、そりゃ【解析者】が思いつかないのも訳ないか。こんなこと考えるやつなんぞいねぇだろうし。
『近づきすぎるとまた矢を放たれますよ』
「あぁ、わかってるよ」
できるだけ気付かれないように羽音を立てないようにして上空から地面を見下ろす。前のように魔力を消費させて空を飛んでもよかったのだが、敵に少なからず魔力を操られる輩がいる時点でそれだと居場所を悟られる可能性がある。可能な限りローリスクで行動しなくては。
「完璧にできる自信はないが、いっちょやるしかねぇ!【毒霧】!」
敵の大群の真上で、【毒霧】を発動。闇夜と同化した紫色の霧が下へ下へと下っていく。
ちなみに言うと【毒霧】なんていう魔法はない。ソウカの能力で大量の蛇毒を作り出し、それを風魔法で空気に乗せるようにしてばら撒いただけだ。蛇毒、といっても致死性のあるものではない。意識を朦朧とさせる効果のある蛇毒を相当薄めてばら撒いたのだ。
「【解析者】!魔力の発生源を探る用意をしといてくれ!」
『っ…。え、ええ。わかりました』
どうやら【解析者】は俺の思考を読み取り何をしようとしているか悟ったらしい。
『【毒霧】、到達しました!』
【解析者】がそう言った瞬間、頭の中に大量の情報が流れてきた。それは今、地上で魔力を発している人間の居場所。
催眠効果のある魔法は対象が意識を失っている間は強制的に解除される。もちろん、催眠魔法を放っている者はその後も催眠魔法をかけ続けなければならないから一瞬だけ魔力の発信源がわかるという訳だ。
『発信源が分かりました!』
「よし来た!マーキング頼むぜ【解析者】ァ!!」
翼を開いて、闇夜に舞い上がる。俺の視界には地上の大群の中に赤い点が所々に映っている。それは【解析者】がマーキングした、催眠魔法を放っている者たちを表しているのだ。
こうして区別が着いていけばこっちのもの。短剣を引き抜き、翼をたたんで急降下を仕掛ける。
「っと」
地面とあと数メートルのところで群衆から大量の矢が放たれた。思ったよりも催眠魔法の復活は早かったが、やはり余裕が無いのか放たれた矢は火矢でもなくただの矢で尚且つ狙いも定まっていない。
「く、来るなぁァァァ!」
しっかりと【解析者】にマーキングを受けた男が手を突き出して声を張り上げる。
「おせーよ」
もちろん、容赦などしない。急降下の勢いをつけて短剣を男に突き立てる。
刹那、生暖かい液体が返り血として、俺の全身に降り注ぎ周囲の農民達は糸が切れたかのように倒れ伏した。
「…」
ごぼり、と血に浸った短剣を男の体から引き抜く。切っ先からは深紅色の水滴が、糸を残して垂れていった。
「さて、あと何回。これをすればいいのやら」
視界に映る限りでは、あと十数人。それを倒しきるまで街でも防衛ラインが持つかどうか。
剣についた血を、振るって落とす。
再び短剣を握り締め、倒れた農民達の隙間を通るようにして次の標的の元へ向かう。
「神のみぞ知るってか」
風になびく髪の毛を押さえつけながらボソリ、呟いた。
ちょっと無理矢理感あるよな…
流石ノープロッターあきゅう