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第49話 蛇の闘い

---


街の、少し高い家の屋根の上から辺りを見回しながら蛇との視界を共有し、警戒を行っていた。

「あとどのくらいで奴らは到着しそうだい?」

ナーサが樽やら机やらで防壁を作りながら問いかける。

「…。…かなりの量だからっていうのもあって、そこまで早く行動出来ないみたいです。早くてあと数十分くらいかと」

「数十分か…結構厳しいかもしれないね」

この街にあるギルドの中で屯っている冒険者達にはあらかた声をかけ街の防衛に力を貸してもらっている。しかし、小規模とはいえ街は街だ。奴らがここに到着する前までに、防壁を築き上げるのはかなり厳しいだろう。

「引き続き監視を頼んでもいいかい?」

「…い、いえ。私も手伝っ」

ソウカが座っていた屋根の上からズルリと滑り落ちる。

「っ!?」

それを見たナーサは手に持っていたテーブルを地面に投げ捨て慌てて体を動かし落下してくるソウカを受け止める。

「大丈夫かい!?」

「…ぅ、ぅ。す、すみません…」

ソウカは明らかに魔力切れの状態だった。

普通の魔法攻撃であれば魔力を消費するのは一瞬だ。けれどソウカはこの街についてからずっと複数の蛇と感覚を共有させている。そんなことすればたとえどれだけ魔力を保持していようとすぐに魔力切れに陥ってしまうだろう。

「とりあえず横になって休んでな。…あんたはこの戦いで必要になるからね」

「…ぅ、ぅぅ。すみません」

ソウカはなるべく汚れの少ない場所でゆっくりと横たわった。すると、今までの疲れがどっと出たのかソウカは自然と夢に落ちて行った。

「無事で…」

一言。呟きながら。


---


そこは、暗かった。一切の光の届かぬ闇の世界。地の奥の奥に存在する場所。

「ん、んぅ……?」

自分が目を開けているのか、それとも閉じているのかわからないくらいに。

おそるおそる腕を動かして、辺りの状況の把握を試みる。

「…?」

いやにざらざらとした手触り。まるで岩や石のようだ。

「一体何なのよ…」

なぜ自分がこの場にいるのか、そしてここは一体どこなのか。それを知るべく、己の思考を読み取ろうと試みる。

「…あれ?」

しかし、思い当たる節がない。それどころか、自分の名前すら思い出すことができなかった。いや、思い出すというのは少しおかしいかもしれない。そもそもの記憶が存在しないのだ。本来、そこにあるであろうものがすっぽりと抜け落ちてしまっている。

「な、なんでっ?」

私はその事実を知った瞬間、頭から血が引いていくような感覚に陥った。不安とはどこか違う、絶望のようなもので頭がいっぱいになってしまった。

そんな時だった。

「ひうっ!?」

地面に這わしていた手に、何かにゅるりとした感触があった。それは、手先から腕えとどんどん範囲を広めていく。

「な、なにっ!?……こ、これっ!?」

そして、時の経過にともない腕にかかる重量も増えその場から動くことができなくなった。

「いっつぅっ。う……う゛う゛う゛っ!?」

やがてそれは首から顔へと達し、口内から体内へと侵入を始めた。

「う゛んんっっっ!!!ぐがっ!!」

呼吸が出来ず、吐き気を抑えきれない。




死にたくない。




そう思った瞬間、意識が飛んだ。



---


「んん……」

眩しい。ただひたすらに眩しかった。まるで先程までの暗闇が嘘みたいな…。そもそも存在しなかったかのように。

「……夢……?」

ぐるりと辺りを見回してみるとそこにあるのは先程の感触通りの岩、岩、岩。

「洞窟だったんだ…。よっと」

地面に手をついてゆっくりと立ち上がる。ついでに体についたであろう砂を払おうとすると、あることに気がついた。

「…なんで」

思わず体がわなわなと震えた。

「…なんで!!なんで全裸なのよぉぉぉ!!!!」

慌てて自分の大切な部分を腕や手を駆使して隠した。周りには得に誰も見当たらないが。

「…一体なんで私はこんなところに…」

視界が効くようになって、状況把握ができるほどに余裕が出来た。改めて周りに何か無いかどうかだけ確認してみる。

「…なにも、ないか」

あるのはいくつもに分かれた細い道。あくまでも憶測でしかないが、かなり洞窟の深い場所のようだ。

「うわ、何この腕…」

まじまじと観察してみると、細く真っ白なうでの所々に固くなり、逆だっている場所があった。それはまるで何かの鱗のように。

「…さて、と。どうしたものか…な」

こんな場所に他に誰かいるとは考えにくい。となると、ここからの脱出を優先するべきなのだろうが…当てずっぽうにやったってかえって洞窟の奥に進んでしまい二度と出れなくなってしまうかもしれない。さすがにそれだけは勘弁して欲しいものである。

「にしても、なんなのよ…。この腕は」

見た目の割にツルツルとしているその腕はまるで蛇の肌を連想させた。

「蛇、ねぇ」

なら私の顔も、蛇のような顔をしているのだろうか?蛇のような顔というのがどいうのか想像がつかないが。

「とりあえず、こっから出ないとね」

口をつぐみ、耳を研ぎ澄ます。この洞窟がどこかにつながっているとすれば何かしらの音がするはず。もしも何か手がかりになりそうな音が聞こえれば、そう半分賭けのようなものだが、やらないよりはマシだろう。


--シャ


「ん?…今なんか…」


-シャ…


「…こっちからだ」

洞窟の分かれた細い道の奥の方から微かに音がした。石が落ちたり、水が垂れたりした時に発されるような音とは違う、不思議な音が。


---


「…蛇…?」

耳でかすかな音を探り当て、たどり着いた所にいたのは体が真っ白で目がまるで宝石のような赤色をした一匹の小さな蛇だった。

「なんだぁ…蛇かぁ」

正直期待外れでがっくりと肩を落とした。そこまで大きな期待はしていなかったが、もう少しなにか役に立ちそうなものがよかった。

「…ん?どうしたの?」

そんな私に、その蛇は地面を這って近づいてきて足元でピタリと頭を差し出すようにして止まった。

「?」

蛇の意図はよく分からないが、とりあえずその小さな頭を指先で軽く撫でてやる。

「っ!?」

刹那、体が何かに飲み込まれるような感覚に陥った。体がグルグルと回っているようで思わず目を瞑った。

「…一体何が…」

恐る恐る目を開けると、そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がいた。

「えっ!?」

驚愕し、先程蛇の頭を撫でていた手を引っ込める。

すると、翠色の髪の少女も驚いた表情で伸ばしていた手を引っ込めた。

「…え」

言葉が出てこなかった。よもやと思い私は右腕を挙げます。すると目の前の少女も右腕を挙げた。

「これ………私?」

私が口を動かすとやはりその少女も口を動かした。

試しに、蛇の頭をもう一撫ですると、今度は何かが体に流れ込んでくる感覚に陥り、いつの間にか翠色の髪の少女()は見えなくなっていた。

もう一度、蛇の頭に触れる。するとやはり翠色の髪の少女()が見えるようになる。一度離して再び触れるとまた見えなくなる。

「つまり…視覚を共有したということ?」

なぜ、私にそんなことが出来るのか。はたまたこの蛇がそのような能力を持っているのか。そんなこと分かったこっちゃないが、色々と試してみることにしよう。他にも、何かあるかもしれないから。


---


昼か夜かも分からない。時を知る術の無いこの状況でどれくらいの時が経過しただろうか。少なくとも、もうかれこれ一週間は経過したのではないだろうか?


その間、私は様々なことを知った。蛇の視覚を共有できるのは私の能力で、視覚に収まらず全ての感覚を共有することができる。そして全ての感覚を共有することによってその一つ一つの感覚から受ける情報をより鮮明に受け取ることができる。

最近ではあの蛇と感覚、意識を完全にリンクさせて洞窟を探索している。探索をしていく内に、改めてこの洞窟の深さ、そして広さを実感した。ここから少し行ったところに渓谷がある。底までは頑張れば降りることが出来そうだが、一度降りてしまえばあそこを登りきることは不可能に等しいだろう。

「さてと…」

そろそろ真剣に脱出を考えなくてはいけなくなった。()()()はエネルギーの消費の効率が良いのかそこまで頻繁な食事は必要ない。しかし、だからと言って何も食べないわけにはいかない。あの蛇はそこらの虫やらで食い繋いでいるみたいだけど、私は虫なんぞ食べたくないし、食べたところで満腹になるまで一体何匹の虫を食べればいいのやら。

「とりあえず、1回渓谷にでも行ってみるか…」

出口とは言わなくても、何かしらの手がかりが自分の目で見ることによって得られるかもしれないから。



「…深」

渓谷に着いて、最初に出た感想はそれだった。蛇視点で見た時より明らかに深い気がする。

しかし、底が見えないわけでもないわけではない。壁を伝っていけば降りることは出来そうだ。

だが、今の私にここを降りる理由はない。それに一度降りてしまえば再び戻って来るのにかなりの時間を要するだろう。

「とりあえず、ここに来れただけでも大収穫よね」

そう自分に言い聞かせて、踵を返そうとした時だった。


--だぁ!!

--ギャァ!!


人の、声が聞こえた。


「!?」


慌てて音の発生源を探るため、体ごとぐるりと回り辺りを見回した。

しかし、渓谷は広く深い。いくら目が見えるようになったと言え、それはすぐには見つからなかった。

「…くっ」

それでも、何がなんでも見つけなければならない。今のは明らかに誰かの声、しっかりとした言語だった。もしかするとその人に着いていけばここをでられるかもしれない。


--ドサッ!!!!


そしてその次の瞬間、洞窟全体を揺らすほどの大きな音と震度が生まれた。

「…あっ」

今のは明らかに渓谷の底からの音だった。

私は急いで体を乗り出して洞窟の底を見渡す。すると底に、目を見張るほど巨大な蜘蛛と、なにか人影のようなものが見える。

「っ」

それを目にした途端、体が勝手に動き、この渓谷の急な斜面を下っていた。

この機会を逃すわけにはいかない。そう思って所々突出している岩に足や手をかけて正確に、そしてできる限り早く渓谷を降りていく。



その人影は近づけば近づくほど、姿が明らかになっていった。それは、だいたい10歳ほどの体型をしていて、私と同じように服を着ていなかった。(私は体に薄く鱗があるので気にならなくなった)ざっと見た感じ性別は女だ。白銀の長い髪の毛を生やしていて、腕や足は握ったら折れてしまうほどに細く白く、弱々しかった。

「ねぇ!起きて」

そんな少女の肩をトントンと叩いて声をかける。

「…ん、ぅ、ぅう…」

「ね、ねぇ!」

少女は苦しそうな呻き声を上げて、額にべっとりと汗をかいていた。

「…っ!ひ、ひどい怪我を…」

少女は全身を酷く打っているようで、擦り傷や打撲。酷いところは骨を折っている様だった。

「でも…どうしようも…」

成す術が無かった。そもそも私はこんな大怪我の治療の仕方など知らない。いや、知っていたのかもしれないが、全て忘れてしまっている。

「…」

しかし、言ってしまえば赤の他人。私にこの子を治療する義務は、ない、のだが。

「放っておける訳ないじゃない」

この洞窟で、初めて会う()なのだ。この子が死んでしまえば、二度と誰かと出会うことは出来ないかもしれない…。

「…どうすれば…」

私は祈ることしか出来なかった。全身を強く打ち付けてしまっているから、無理に彼女を動かす訳にはいかなかった。


--か?

--っす


「っ!?」

しかし、そうやって模索している時間も無くなって行く。洞窟のどこからか、複数人の男の声が反響して聞こえてくるのだ。それも、その音源はそう遠くない場所だろう。

今誰かに会うのはかなり危険だ。こちらは一人が瀕死の状態で、二人とも服を着ておらず武器すらない。抵抗することが出来ない女を、誰も来るようなことの無いであろう洞窟で見つけて、まともなことをする男などほぼほぼいないだろう。

「…少しでも隠さないと…」

なるべく少女の体に負荷をかけぬよう、できる限りゆっくりとその体を引っ張る。

「くっ…引っかかって…」

しかし、少女のか細い足が近くで死んでいるであろう巨大な蜘蛛の下敷きになっていて、上手く引っ張り出すことが出来ない。

「う~!!」

なるべく足の怪我をしていない所を掴んで引っ張る。

「しょぉっ!!」

蜘蛛の重みと格闘すること数十秒、少女の足がようやくそこの下から抜けた。

「は、早く隠さないとっ」

しかし、少女を引っ張り出すことに体力の大半を持ってかれてしまったようで、少女の体を、近くの岩の物陰まで隠すには無理があった。




(…ごめん)




私は、悩んだ末に少女を見捨て近くの岩場の影に隠れた。心の中で、彼女に向けて謝罪しながら。



---


「っ…」

ふと、意識が覚醒する。

「…ゆめ…」

目の前に広がるのは橙色に染まりかけている空。どうやら洞窟にいたのは夢だったようだ。

「…なつかしいわね」

そしてその夢は見覚えのあるものだった。それは、四年ほど前の私の記憶。そして、初めて彼女(ティアーシャ)と出会った時の事。…思い出したのはいつだっけ。いつの間にか彼女がティアーシャであるということを思い出し、そのティアーシャがあの洞窟で初めて出会った人だったということに。

ティアーシャは別の世界から来たと私に教えてくれた。そして、この世界に来た時、彼女はあの洞窟でナーサに救われ、しばらくはこの街で暮らしていたのだ。

私はナーサに運ばれる彼女のことをバレないようにして追って、ようやく出口を見つけたのだ。それから洞窟を出て、ずっと遠くの森の深くで暮らしていた。

ナーサに着いて行くのも手だったかもしれないが、一度彼女を見捨てた身としてその行為をすることは、どこか罪悪感があった。

その後、ただひたすらに自分を強くするために低ランク冒険者の多い洞窟に潜み、彼らを狩っていたところで思わぬ再会をしたのだ。その時は、彼女も見かけが大人びていたし、分からなかったがこの村に連れてこられてナーサと会ってティアーシャがあの時の少女だと確信したのだった。

もし、あの時私がティアーシャと共にナーサと暮らしていたら彼女は何か変わっていたのだろうか?元いた世界に帰ろうという思いを、無くすのだろうか。私という者が彼女の隣にずっといたら、彼女の心の空いた穴は埋まっていたのだろうか。

「いえ、きっと無いでしょうね」

私はゆっくりと体を起こした。寝ていたと言っても数十分程度のようで、辺りが暗くなり始めた頃だった。

もし、隣に私がいても彼女は元の世界に戻ることを決意し、実行しようとしただろう。そして、隣の私も、それを共に実現するべく汗水垂らして彼女に着いて行っただろう。

だが、今の私に彼女の純粋な思いを叶える権利はあるのだろうか?力無き冒険者の血と、悲しみで塗りたくられた私に、共に彼女の隣を歩き、共に笑い合うことは許されるのだろうか。

久しぶりの投稿で、かなり日本語がバガバだったと思います。申し訳ありません_(┐「﹃゜。)__

次の更新は期末考査後になるのでまた2週間ほど更新はお休みさせていただきます。

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