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第46話 吸血鬼の中の蛇

「…ぁ…」

俺が小さく口を開くとその美少女も口を小さく開いた。俺が右手を上げるとその美少女も右手を上げた。

「…ティアーシャさん?なにを?」

「え、あ、いえ。なんでもないです!気にしないでください!」


(【解析者】、吸血鬼は鏡に写らないんじゃないのかよ!?ばちこり映ってるんだが!?)


『ええ、【吸血鬼】は鏡に写りませんよ』


(じゃあ…なんで?)


『今のあなたは()()()【吸血鬼】ではないということです』


()()()吸血鬼じゃない?…どういうことだ…?)


『あなたがあなたの連れの蛇女を吸血したからだと思われます。あなたの能力に蛇女の能力が追加されたと同時にあなたの遺伝子がほんの少し、蛇女寄りに書き換えられたようです。まぁ、とは言っても鏡に写る程度の変化しかないでしょうが…なんです?そんなに鏡に写りたくないのですか?』


(いや、そういうことじゃないんだけどさ…)


【解析者】は不機嫌そうな声で言った。

なんというか、俺ってこんな見た目してたのか。と、感心せざるを得ないというか。逆によく無事だったなというか、とりあえずこんな美少女が『俺』とか言ったらそりゃシーカーも口調を直そうとしようとするわけだよ。俺だって直そうとするもん。


「えっと…ティアーシャさん?」

「……。っ、あ、すみません。ついぼーっとしちゃって…」

鏡に向かって手を振ったりしていたことがぼーっとすることなのかは不明だが、セレナは何故か信じてくれた。まぁ、ここで吸血鬼であることを明かしても良いのだが、色々面倒くさくなりそうなので止めておこう。

とりあえず、今着させられてるこの服だけでも買ってさっさとお暇させて頂こう。これ以上着せ替え人形になる訳にもいかんしな。

「じゃ、じゃあこの服ください…」

「はい!ありがとうございます!…じゃあ次はこれを…」

「…」

えぇ…。まだやるの…?いい加減帰らせてくれよ…。



---




結局あれから一時間ほどして、ようやく俺はセレナの着せ替え人形の刑から解放された。やはり俺は女性の推しに弱い。

…逆に俺が涙目&上目遣いでお願いしたら皆言うこと聞いてくれるんじゃね?

「ただいま…っと」

ナーサの家の扉を開けて、独り言の様に呟く。この時間帯、ナーサは洞窟に篭ってるだろう。別にルントの方を手伝ってもいいのだが、今お昼時を過ぎているため、片付けがメインになるだろう。しかし、俺は長時間水に触れられないため、皿洗いなどは出来ない。いても足でまといになるだけだろうから、行かなくてもいいだろう。



「…ちょうどいい機会だ」

ならば前々から試してみたかったことをやってみるいい機会だ。


---



肩甲骨の辺り、翼の付け根に力をぐっと込める。


『翼を使って飛ぶ練習ですか』


「ん~、まぁな。」


『別に魔力を使って飛べるのですから…。今更練習しなくてもいいのではないでしょうか?』


「まぁそうなんだけどさ。せっかくある翼だし、使えるようになっておいて損はないだろ?それに飛ぶ時くらい魔力を温存したいしな」


『まぁ…蝙蝠が地面から飛び立つことは出来ませんがね。まぁ、吸血鬼は蝙蝠ではありませんから、微妙なところですが』


確かに蝙蝠で枝とかにぶら下がっている状態から飛ぶイメージあるしな。


「よっしゃ!とりあえず練習、練習!」


だいぶ空が橙色に染まってきた。このぐらいだったら体が消滅することもないだろう。


---


数十分後。


「…疲れた」

疲労困憊、新しく買った服を突き破るようにして生える翼(実際にはやぶれていない。何故か服を貫通している)の根元がもう疲れてしまっている。


『まだ初めてなのですから。気を負わずにゆっくりとやって行きましょう』


「あぁ…」

今まで勉強だとか、魔法だとか。そういうのは必ず誰かに教えられて学んできて、そして身につけてきた。しかし、()()()()()()という行為を教えてくれる人なんぞどこにもいない。要するに1から10まで、全てが独学なのである。


『もっと空気を捉えるように、大きく羽ばたいてみてはいかがですか?』


もちろん【解析者】も、精一杯の応援はしてくれている。だが、なにかピンと来ないというか…。

「まぁ、そう都合良く行くはずないもんな。…ちょっと休んでもう一回やってみるか」

くぁぁ…。と欠伸をしながら大きく体を反らし、翼を折りたたんだ。翼を使って飛ぶことが出来なくても、自由に動かすことは出来るようになった。これも、一歩前進したということでプラスに考えておこう。

「…ん?ソウカ、起きたんだ」

とりあえず、家の中に戻ろうとドアを開けるとそこには薄着の服に身を包んだ(俺が前使ってたやつ)ソウカが腕を擦りながら蛇と戯れていた。

「…あぁ、ティアーシャおはよぉ。布団で寝るのって良いもんだよねぇ。暖かくて、一生寝てられるよ」

「冬眠してんじゃねぇか」

確かに、ずっと洞窟にいたソウカにとってふかふかのベッドと布団で寝る、というのは初めてのことなのだろう。ちらりと寝室を覗いて見たら掛け布団にくるまって、まさにとぐろを巻いて寝てたからな。よっぽど心地よかったのだろう。

「おかげで寒くって寒くって…。ほら、蛇も寒がってる」

「…あぁ。確かに」

そんなもん分かるか、と突っ込んでやろうかと思ったが直感的に()()という感情が頭に飛び込んで来て、その言葉は口で留まった。

そういえばソウカを吸血したから俺にもソウカと同じ能力が付与されているだっけな。…まぁ、長年その能力を使ってきているソウカには流石に劣ると思うが。

「で?ティアーシャは?何してたの?」

「…わ、わたしは翼で飛ぶ練習でもしようかなって」

「…え、それ使って飛べなかったんだ…」

ソウカは俺の背中の翼を指さして苦笑いを浮かべる。

「っていうか、どうしたの?いきなり()()()なんて言っちゃって。遂に自分がおんにゃのこって自覚しちゃったのかな?」

ソウカがケタケタ笑いながら指摘してきた。

…しかし、俺が図星をつかれ黙りこくっているとソウカも笑うのをやめ、驚きの目をこちらに向けてきた。

「…え?本当に?」

「あぁ。俺って…あんなに美少女だったんだな」

「凄い今更感…。でもどうして?前、自分の姿を見る術が無いってボヤいてたじゃない」

「前にソウカに吸血しただろ?」

「ええ、確かこの街に来る前に雨で濡れて弱ってて…」

「そう、その時にソウカの能力と他にソウカの遺伝子が俺の体の中に取り込まれたらしくて…鏡に写るようになってた…」

「わ、私のい、遺伝子ぃ?」

ソウカは顔を赤くしてその顔を手で覆った。

違う。そういう意味じゃない。

「とは言ってもそこまで何かが変わったわけじゃないな。その鏡に写るようになったくらいだし」

「…。まぁ、そこまで影響がないのならよかったわ」

ソウカはほっと肩をなでおろした。

「ならお前が吸血鬼になってみるか?」

軽く冗談交じりに呟いてみた。

「嫌よ、私だってたまにはお日様の光くらい浴びたいって思うわ」

それをソウカは微笑交じりに答えた。

「まぁ、そう言うだろうって思ってたよ」

むしろ、普段から吸血鬼の不便さを目の当たりにして吸血鬼になりたいと思う人なんているのだろうか?

「…。じゃあ俺はもうちょっと外にいるから」

「えぇ、行ってらっしゃい」

…こうやって、このままこういう日常を過ごすのも悪くないな。そう心のどこかで思ってしまっている俺がどこかに存在した。命をはってあそこへ帰ることに何のメリットがある?俺はあっちではもう死んだことになっているんだ。いまさら戻ったって。




…馬鹿野郎。

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