第45話 吸血鬼の姿
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「すみません、お待たせしてしまって…」
「いえいえ、全然大丈…」
しかしセルナの口は途中で動くことを止めた。
「えっと?」
「あ、ごめんなさい。あなたに合いそうな服を考えてしまって…」
セルナは苦笑を浮かべた。
「その服、よくお似合いですよ?」
「え、あ…ども」
今着ている服はシーカーの家で部屋着として使っていた物だ。白を基調としたオフショルとショートパンツの組み合わせ。まぁ、全部シーカーに選んでもらった訳だが。
「さ、行きましょうか」
セルナは机の上にお金をカタリと置き、席から立ち上がった。
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『それでは怪我や事故のないように。充実した夏休みを送ってください』
「よっしゃー!ようやく終わったー!」
「お前らこれからどっか行く?カラオケにでも行かね?」
一学期の終業式が終わり、周りがざわめき始める。
「楓ぇ~。この後、クラスで打ち上げやるんやけど、楓もきいひん??」
「打ち上げ?なんの?」
ずっと立ちっぱなしで固まった腰を伸ばしていると背後から声をかけられる。
「一学期おつかれパーティ的な感じちゃう?夏休み入ったら皆しばらく会えんくなるやろ?」
「なるほど」
こうしてみると、改めて私のクラスメイトは仲が良いなと実感する。確かに女子同士のグループのこぜりあいが無いとは言えないのだろうが(私は無所属)、それでも良いクラスだと思う。
「じゃあ、行くだけ行ってみようかな?」
軽くはにかんで言うと彼女はニカッと笑って言った。
「言ってくれれば途中で抜けても大丈夫やから!無理せんといてな!」
「うん。…ありがと」
心の中で、何かが少しだけほぐれた気がした。『あの日』以来、人と接することは避けていたけれど、こうして声をかけて貰えるようになって…。
「ありがとう」
自然と口が動き、視界がうっすらと滲んだ。
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「これなんていかがですか?」
「…えっと…」
見た目的にお淑やかそうなセルナであったが、仕事の話になると性格が変わるタイプなのだろうか?次々と女物の服を持ってきては俺に押し付けてくる。
俺は女物の服のこと、よく知らないからな。強いて言うのであれば楓が彼女の服を買うのに付き添ったくらいだ。むしろ普通ほ男で女物の服に詳しいやつとかいるのかよ!…今俺女だけどさ…。
「これとか、試着してみては?」
「し、試着…?」
セルナが突きつけてきたのはもちろん女物の服。まぁ、幸いなことに露出度はそこまで高くないものだが…。
「これはビスチェセットアップドレスっていうものでして…」
「ビ、ビスケット?」
長い。長すぎる。服の名前にそんな長い名前つけてどうすんだよ。男なんて「お前その服ええなぁ、どこで買ったん?」「これ?UBIKURO」っていう風にメーカーとか販売店言えば終わるんだよ!なんだよバスケットセットアップドローレスって!!
「さ、さ、フィッティングルームへどうぞー」
「ちょ、まっ!待ってって~!!」
俺はそのまま試着室に強制連行されるのであった。
-数分後-
「…」
「よくお似合いですよ」
セルナに無理矢理着替えさせられた(翼は下着の中に隠しているのでバレていないはず)服は案外肌触りが良く、見た目とは裏腹に随分と軽かった。
「ティアーシャさんも鏡を見て確認して下さい」
「えぇ…」
そうか、セルナは俺が吸血鬼だという事を知らないのか。一年前に起きた騒動で、この町で俺が吸血鬼だという事を知らない人はいないと思うがそれ以降にここに住み始めた人であれば無理もない。
「…悪いんですけど、自分は鏡に…」
少し考えて、自分が吸血鬼だという事を告白しようとする。驚かれたら、ちゃんと一から説明しよう。
「…鏡に写らないんです」
「…?」
すぐ側にいるセルナに向き合うと、彼女は首を小さく傾け頭上に『?』を浮かべていた。
「鏡に写らない?…写ってるじゃないですか」
「へ?」
一瞬セルナの言っていることが理解出来ずにいた。
そしてゆっくりと、試着室の中の縦鏡に目をやると…
「…」
唖然とした顔でこちらを見つめる銀髪の美少女がそこにいた