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第44話 吸血鬼となつかしき日常

「…と、こういう経緯があって今俺はここにいて、『神石』を探してんだよ」

あれからソウカに一通りの俺の経緯を話した。もちろん『元男』であるということも含めた。

「はぁ…ようするにシスコンってことね」

「あぁ?」

ソウカはがっくしと肩を沈め、深々とため息を吐いた。

「普通、自分だけ異世界に行って妹が取り残されたら助けに行くだろ?」

「…シスコンの中のシスコン…。けほんけほん、まぁ、それであなたが男らしい喋り方とか、態度とか、考えをしてる訳だわ。…外見は飛びっきり可愛いのに、中身がこれじゃあねぇ」

「そんなに俺の外見とこの口調合わねぇのか…?」

俺は鏡に写らないから自分がどんな顔立ちをしているのか分からない。周りの反応を伺うに、なんとなく想像は出来るがやはり自分の目で確認しない限り己の顔というのは分からないものなのだ。

「えぇ、例えるなら焼き魚にソースを掛けて食べているようなものよ。あなたに一目惚れして、声をかけた男はさぞかし残念がるでしょうね」

「…いや、別に残念がられて問題ないんだが?」

「いくら心は男だろうと体は絶世の美女なのよ?…多分この先何人もの男を侍らせてあんなことやこんなことをするのは避けられない…///」

「おい待て何勝手に顔赤く染めてんだよ。俺ん中身は男だっつーの。男とそんなことする訳…」

勝手に体をくねらせて顔を真っ赤にするソウカ。一体全体、こいつの頭ん中の俺は今どんなことをされているのやら…。

「あなたがしようと思っていなくても、ある日突然路地裏に連れ込まれて無理矢理…っきゃぅん!?」

「いい加減にしろ…」

これ以上ソウカの話がエスカレートしないように彼女の脳天に手刀を決め黙らせる。

「な、なにすんのよ!!」

「自業自得だ!こんにゃろ!」


静まり返った夜の街に二人の叫び声が響き渡った。



---



「ルントの旦那ァ~!三人でいつものなー!」

「あ、いらっしゃいませ。三名様ですね?どうぞ、こちらの席にお座りください 」

「「「…」」」

とある昼下がりのルントの店。常連客と思わしき三人組が木製の扉を引いて来店した。俺はファミレスの熟練のホールのように三人組を空いている四人席へと誘導したのだが…。

「…ルントとナーサの隠し子か…っ!?」

「な、なわけねぇだろ!臨時雇に決まってんだろ!」

「で、でも臨時雇にしては…」

「「「可愛すぎる~」」」

「…」

三人組のおっさんが赤く、蕩けた顔で見つめ合っているのを見て思わず一歩たじろぐ。なんという地獄絵図、ルントの店は地獄と繋がっていたのか…。

「君、名前は?」

「どこから来たの?」

「こんなとこいないで俺とイイ事しない?」

三匹のおっさんがぐいぐいと距離を詰めてきた。逃げようにも、ナーサどこからともなく引っ張り出してきた着物を着させられているため足の自由が上手く効かない。

「っ!?」

そして足がもつれ、後ろに重心が傾きよろけてしまう。

その拍子に、伸ばした手の平から魔力の塊が放たれ、それに直撃した三人組のおっさんはまるでボーリングのピンのように吹き飛ばされ、そのまま背後の壁に背中を打ち付ける。

「ひゃぅっ!?」

しかし俺の方も無事に済まずバランスを崩したまま床に後頭部から地面に倒れ込んでしまう。

ゴンッと鈍い衝撃と共に一瞬意識が飛かけるが、髪の毛を軽く結い上げていた為それがほんの少し衝撃を和らげてくれたおかげかなんとか踏ん張ることが出来た。

「だ、大丈夫かい!? 」

するとどこからともなくその音を聞きつけたナーサが銃弾のような速さで駆けつけてくれた。

「いっつつつ…慣れない着物なんか着せるから…」

ナーサに支えて貰いなんとか体を起こす。地面にごっつんこした後頭部を軽くさするとぽこりと小さなコブが出来ていた。まぁ、コブ程度で済んだのだから良しとしよう。

「…えっと、何があったんだい?」

ナーサが入り口側の壁に背中を預け伸びている三人のおっさんを指差して問う。

「あいつらがその娘に手だしんたんだよ。そいつらは

ほっといていいんじゃねぇの?どうせ自業自得だし」

それに答えたのは近くの席で昼間から酒の入っている冒険者の客だ。どうやら一部始終(といってもこれだけの騒ぎだったら見てない人の方が少ないか)を見ていたらしく真実をナーサにそのまま語ってくれた。

「はぁ…。取り敢えずその三人は放っておくとして…ティアーシャ、怪我はないかい?」

「たんこぶ出来たくらいかな…別にそんな大したことないから大丈夫」

吸血鬼だって、強く後頭部をうち付ければ死ぬんだぞ。まったく勘弁してくれ。

「そうかい…ならよかった。もし気分悪かったら休んでくれて構わないからね」

「ん。でも大丈夫だから」

ナーサは安堵からか詰まった息をほぅっ、と吐き出し軽く微笑んだ。転んだの、この格好のせいの気がするの俺だけ?

「あの三人の『処分』は私がしておくから」

「あ…あぁ」

『処分』、するのか…。殺したりだけはするんじゃないぞ?


その後、ナーサは片腕で三人組のおっさんを担ぎ上げ店の外へと出て行った。どんな『処分』が行われたのかは…あまり考えないようにしようか。


「お姉ちゃん、お水貰える?」

「はーい」

お昼時を過ぎ、大分客入りが落ち着いたころ。俺は氷の入った水差しを手にして俺のことを呼んだ女性の机へと足を運ぶ。

「うーん、ここで働かせるのは勿体ないくらいに美人さんだよね…」

「へ?」

女性のコップに水を注いでいる最中、女性は俺の髪の毛を手にとり手触りを確かめながら言った。見たところ、武器やら防具やらは身につけていないので冒険者では無さそうだ。

「あなた、名前は?」

「ティアーシャです」

「ティアーシャ…。いい名前ね」

女性は俺の名前を口の中で噛み締めるようにして言うと、こちらと目を合わせにっこりと笑った。

「私の名前はセルナ。よろしく」

女性、セルナはすっと手を差し出した。俺は水差しを机の上に置いてその手をきゅっと握った。

俺の名前を聞いても大した反応を見せなかったので、一年前の俺のことを知っている訳では無いようだ。

彼女は栗色の髪の毛をショートカットにし、梅の花に似た花を象ったヘアピンを一個付けている。黒色の澄んだ大きな目に形の整った鼻。小さくきゅっと締まった唇。整った顔立ちに女性らしい体つき。一言で言えば美人だ。

「私、家で仕立て屋をやっているんだけど…。どう?お仕事の時間が空いたら来てみない?」

「仕立て屋…?」

「えぇ。あなたのことを見ていたら色々と似合いそうな服を思い出したからね。その着物も素敵だけど着慣れていないでしょう?」

「まぁ、無理矢理着させられてますからね。店に出るような服が無かったもので」

一瞬、スナックのママになった気がしたくらいだし。そもそも着る服がないからといって着物をチョイスするナーサの気がしれない。

「そう、じゃあそれまで待っていようかしら?」

「お昼時も過ぎているので構いませんが…そもそも自分の仕事も減ってきているので。ちょっと確認してきます」

俺はその場で軽く一礼してから、また転ばぬように小さな歩幅でその場を離れた。


---


「いいんじゃないのか?別に今は客入りも少ないわけだし…」

「…まぁ、確かにそうなんだけど…」

調理場にいるルントに料理と皿の受け渡しをする小窓で確認してみた。ルントはいいと言っているが…。

「だって初対面だし、そんな初対面のやつにわざわざ声掛けて自分の店に誘おうとするかな?」

「よほど特別な理由があるか、客入りが少ないとかじゃねぇかな?」

ルントは苦笑しながら言った。

「…はは」

「取り敢えず、行くなら着替えて行けよ?そんな格好して外出たら何人にナンパされるかわからんし」

「ん、了解」

…とは言われたものの、着物の脱ぎ方なんて知らないんだけどな…。ナーサに手伝ってもらうしかないか…。

「あ、そうだ。ティアーシャ、お前、目はどうなったんだ?」

「目?あー、右目は大分回復したんだけどね…」

確かに右目はセルナの顔がはっきりと見えるくらいにまで回復している。“右目 ”は、である。

「右目はってことは?」

「左目がこれっぽちも見えるようにならなくてさ…。所謂ガチャ目な訳よ。まぁ、大丈夫。解決策はとっくに見つかってるから」

解決策、というのは『魔眼』を行使すれば魔力が関わっているものであればくっきりと見えるというものだ。ただ、普段『魔眼』を発動してない時は左右の目の視力差で結構疲れるものだがな。




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