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第43話 吸血鬼と日常の始まり

「それじゃぁティアーシャの帰還を祝って…乾杯!」

「「「乾杯!!」」」

俺、ナーサ、ルント、ソウカは各々のグラスを掲げ、乾杯した。

「…にしてもまさかティアーシャが帰ってくるとはな。…ってかなんでいなくなったんだっけ」

まず口を開いたのはルントだった。そういや、俺の目的を伝えてあるのはナーサだけだったっけ。この様子だとナーサも他人に伝えてないみたいだな。

「まあ色々と」

とりあえず流しておこう。一から説明すると長くなるんでな。

「随分と立派な体になったねぇ。その体で何人くらい男を堕としてきたんだい?」

「堕としてないわ!」

ブッと、ソウカが吹いた。よしこ〇す。

「で?そっちの嬢ちゃんは?なんなんだい?」

ナーサがシュウマイを摘みながら箸を向けた。

…この世界では箸の作法というものが緩いのだろうか。

「あぁ、まだちゃんと紹介してなかったっけ。こいつはソウカ。まあ色々あって俺の冒険について来てくれることになった、所謂相棒ってやつかな」

「ふぅん、ソウカって言うのかい。よろしくね」

差し伸べられたナーサの手をソウカはそっと両手で握る。

「は、はい。よろしくお願いします。…えっと…ナーラさん?」

「だから奈良じゃねぇって。ナーサだよ、ナーサ」

「は、はぅぅ…っ!。すみません」

ソウカはナーサの手を離し、一歩離れる。

いつも強気なソウカの割に今日はなんだか下手だな…。

「いや、なに。気にしないでおくれよ。まだこっちだってろくに挨拶してないんだしね」

ソウカはほぅっ、とため息をついた。…だからどうした。

「…ソウカらしくない。なんでそんなにオドオドしてんだよ」

ソウカの椅子との距離を縮め、耳打ちする。

「だって仕方ないじゃない…。私の中の直感が、ナーサさんに対して過去最大規模の危険信号を発しているのよ?…こんな危険を感じたのは、巨大鷲に狙われた時以来かしら」

「蛇の天敵と同じくらいの危険って…」

まぁ、歩く最終兵器だ。蛇女の直感に引っかかるのも無理はあるまい。

「それで?ティアーシャ達はいつまでここに居るんだい?ずっとここにいるっていうわけじゃないんだろ?」

すると突然、ナーサが言った。最後の方は声が小さくて上手く聞き取れなかったが…。

「昼間に目をやられてさ。視力が回復するまではここにいるよ。もろもろやりたい事もあるし」

なんとか、物の形が分かるくらいにまでは回復したのだが、それで今後戦いをしていくことはかなり危険で、リスクが高い。

元通り、とまで行かなくとも相手の表情や細かい動作などは最低限見られるようにならなくてはならない。

「目を?あぁ、その大怪我の原因の奴らかい?」

「そ。光魔法を直視しちまってさ。…そんな訳でしばらく厄介になるけど、大丈夫かな?」

まる一年間、何も連絡を取ってなかったからな。もしかしたら不都合なことがあるかもしれない。そうだったらこの村の宿に泊まるしかないだろうな。

「娘が帰ってきて、家に泊めない親がどこにいるってんだい。何も問題はないよ、ソウカもちょっと狭くなるかもしれないけどまだスペースならあるから」

「す、すみません」

ソウカがぺこりと頭を下げた。

…こいつただのツンデレだと思っていたが、ちゃんと礼儀はなってるんだよな。てっきり『べ、別にあなたが泊めてくれるって言ったんから泊まるんだからねっ!勘違いしないでよねっ』と、ツンデレのテンプレなセリフを言うと思っていたのだが…。

「出て行くまではまたルントの店を手伝うかな」

ちらりとルントに目をやると、彼はキラキラとした目でこちらを見ていた。思わず俺が引くくらいの。

「助かるよォ。ティアーシャがいなくなってから、『ティアーシャちゃんの行方を突き止める会』っていう、うちの店に出入りする冒険者達の会ができて、『ティアーシャちゃんはどこや!言わんと店潰すで!!』って脅してきたんだよ…。これで店を潰されずに済む…」

「『行方を突き止める…会』…?」

思わず顔が引きつった。そんなストーカー紛いのことをこの店の客達はしていたのか…。勘弁してくれよ、本当に。


---



「…」

スっと、涼やかな夜風が髪を靡かせた。空に浮く欠けた月が辺りをほのかに照らしている。

「…ナーサさんも、ルントさんも、いい人ね」

「あぁ」

突如背後から声を掛けられるも、振り返りはしない。縁側から見える外をぼんやりと眺めながら素っ気なく答える。

「あなたがこの村に執着する訳がわかったわ…」

声の主、ソウカは半分呆れたような口調で言った。しかしその言葉の半分は同情、そして哀れみの感情が混ざっているようだった。

「…こんなに幸せな場所があるのに、それを捨ててまで叶えたいものは一体何なの?」

半ば、彼女の声は独り言の様だった。というよりかは、自然と口から零れた、と言った方が適切かもしれない。

「…そう言えば言ってなかったな。俺が、『神石』を手に入れてまで叶えたいもの」

腕を支えにして、その場で立ち上がりソウカがいるであろう方向に踵を返す。ピリリと、腹と腿に痛みが走り顔を顰めた。

「…教えてやるよ。俺が叶えたい…いや、俺がなぜこの世界にいるのかを」

「…」

心地よかったはずの夜風が、まるで皮膚を切り裂くかのように冷たく感じた。

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