第42話 吸血鬼と母親
しばらく投稿しないといったな…。あれは嘘や(字数は少ないけどね!)
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「…く…う…?」
暖かい。柔らかくて、ふわふわとしていて…。
「…布団?」
腕を動かして、体の上に被さっているものをそっと持ち上げる。
「あち…」
その時、腹と腿に激痛が走った。しかし、そこに手をやってもその原因らしきものはなく、唯一あるものとすればその場所に包帯らしきものがぐるりと巻かれていることくらいだ。
「…夢じゃなかったみたいだな」
目の前で手をぶんふんと振ってみる。確かに視力は回復してきているが、まだ元通りには戻っておらず、辛うじて色と形を認識できる程度だ。
「あ、ティアーシャ。起きた?」
「…その声は」
視界にスっと緑色が入り込む。この声はソウカのものだろう。
「えぇ、私。…ったく、あなた、私がいなかったらどうなっていたのやら…」
頭に冷たく、湿ったタオルのようなものが乗せられる。
「ん…。正直結構やばかった。やっぱり目が見えないのに空飛んで戦うべきじゃなかったかな」
軽く苦笑を挟みながら答える。恐らくあの時、魔法を使用しようとしていた敵をとめ、倒したのはソウカなのだろう。もしも、その時ソウカがいなかったら。俺は死んでいたのかもしれない。…我が家の前で。
「っ…。あなた!あと少しで死んでたのよ!?」
「っ!?」
ガバッと全身に体重がかかり、視界が翠色に覆われ、荒くなった息が頬を擽った。
「本当にっ…本当にっ心配したんだから!!」
ぎゅうっと全身が締め付けられる。けれど、それには痛みなど感じられず感じるのは彼女と触れ合っている場所の温かみのみ。
「わ、わかったから!ソウカ、ちょっとどいてくれ!」
けど、寝床の上でずっと抱きしめられていると流石に羞恥心が生まれてくる。もしもこんなところ見られたら、確実に誤解されるに決まってる。
「え…?あっ…」
少し力の入らない腕でソウカのことをぐっと押し離すと数秒後彼女は我に返ったのかそそくさと俺の上から撤退した。
「テ、ティアーシャのっばかぁっ!!」
近くで緑色が大きく揺れていた。
「なんだいなんだい…、まったく騒がしいねぇ。泥棒でも入ったのかい?」
すると、少し遠くから巨大な足音と共によく聞き慣れた声が耳に届いた。
「…ほら、ティアーシャ。あなたのお待ちかねの人が帰ってきたみたいよ」
「…うん。とりあえず起こしてくれ」
「わかったわ」
ソウカが背中側から支えてくれ、なんとかして俺はベッドの上で体を起こしそのままそこから降りて立ち上がることができた。
傷の確認のために体を見回すと、傷を負った場所には包帯らしき白いものが巻かれていて衣類らしきものは身につけていなかった。
「血まみれだったのよ。決してやましい気持ちがあったわけじゃないわ」
「わぁってるよ」
すりすりと腕に巻きついている白い蛇の頭を撫でながら返答した。
「えっ、あなたその蛇…」
「あぁ。こいつにはめちゃくちゃ助けられたよ」
ソウカのことを吸血して、新たに手に入れた能力『生物操作-蛇』『言語理解-蛇』。
体に銀製武器がぶっ刺さった時にこの回復能力を持つ白い蛇に何とかして回復を頼んだ。初めてだったから心配はあったが、なんとか成功し俺の体の、銀製武器による消滅は避けられたのだ。
「さて、じゃあナーサも帰ってきたみたいだし…一年ぶりの再会といきますか」
俺がこの村を出てからもう一年経っていたのだ。逆に言えば、一年間しかたっていないのにも関わらずこの村が、この家がとても懐かしく感じる。
--ガチャリ
部屋のドアがゆっくりと開かれ、その隙間から漏れていた光が徐々に太くなる。
「…っ!!」
「…久しぶり…」
そして、そこから現れたのは目を真ん丸に開いて立ち尽くすナーサだった。
「…あんた、ティアーシャかい?」
「正真正銘のティアーシャだよ」
「…生きてたのかい?」
「…ん?」
ナーサは目を潤ませながら、俺の元に近寄ってきた。
生きていたのかいって、俺死んだと思われてたのか?
「あの後、処刑場からどうやって逃げ出したんだい?」
「…」
それを聞いて、ようやく理解した。
ナーサの言っている『ティアーシャ』は、俺が名前を貰った、昔ナーサと共に冒険者パーティを組んでいた方の『ティアーシャ』なのだろう。
「違う。…『俺』は一年前にここを出ていった『ティアーシャ』だよ」
…本当なら伝えるべきじゃないのかもしれない。この行動は戦友の『ティアーシャ』が生きているかもしれないという希望を、可能性を、ビリビリに破き去ってしまうものだから。
「…ティアーシャ…?あ、あぁ、そっちのティアーシャかい…」
「…ナーサ」
それを伝えた刹那、一瞬だけ彼女の顔が歪んだ。が、まるでそれを隠すようにして、すぐにナーサらしい笑顔を取り繕った。
「…いや、悪かったね。姿形そっくりだったもんだからてっきりそうかとね。…とりあえず、おかえり。ティアーシャ」
「あぁ。…ただいま」
こうして俺は、一年ぶりにこの村に帰ってきたのだった。