第3話 吸血鬼の出会い
―数分後、いまだに俺らの鬼ごっこは続いていた。
「あれを売ったら金になる!絶対に捕まえろ!」
「わかってますってば兄貴!」
「おってくんじゃねぇってばぁ!」
洞窟に響き渡る三人の叫び声。これに気がついて誰か来てくれないか!?
『前方ニ、障害物ヲ探知。【壁登り】ヲ行使シマス』
「えぇ?何をぉぉぉぉっ!?」
【解析者】が何かおかしなことを言ったと思えば突如あらわる渓谷の壁。本来なら行き止まりで詰み、なのだが。
「兄貴ぃ!?」
「んだそれぇ!!」
俺はその壁を歩いていた。
これが【コブナントスパイダー】の能力か。まじやべぇ!
と、調子に乗っていられるのもつかの間。
ガァァァン!という発砲音と共に足に焼けるような痛みが走る。
銃か何かで撃たれたのだろうか。
思わず体勢を崩し、壁から落下する。
「わぁぁぁぁぁっ!?」
ぼごっ!と派手な音を立てて地面に着地する。幸い、それほどの高さではなかったため大きな怪我はしていないのだが…。
「おぅふ…」
獣の顔をしたオジンのが二人、そこにいたのだった。
「さてさて、いい運動になった。たっぷりと休憩させてもらおうか?あぁ」
「あぁ?」
あー、ヤバイな。まじでアカンな。これから先のことは大体予想がつく。
「「ヒャッハァァァァァ!」」
「ちょっとあんた達!何をやってるんだい!」
奇声を上げて飛びかかってきた二人が、威勢のいい図太い女性の声がかかると動作を停止し固まった。
「その声は…ナーサ!」
「そんなにあたしが来て、嫌そうな顔するんじゃないよ全く」
のっそりと男達の背後から現れた一人の女性。ふくよかな体に抹茶色の作業着。オレンジ色の綺麗な髪を三つ編みにして後ろで纏めている。
そしてその手にはツルハシと鉄製のバケツが握られている。
「また女の子いじめかい?ったく、懲りないね!あんたらが留置所に連れていかれそうになったのを助けたのは誰だい!?」
「へぇ…ナーサさんです」
「わかってるじゃないか、ならさっさとお行き!この子は私が面倒見るから!」
「「ひー!!!」」
二人はまるで疾風の如く駆け出していった。さっきとは大違いな速さだなぁ。
「…ふぅ。悪かったね、いきなり声をあらげたりして」
「…」
「大丈夫かい?あいつら女癖が悪くてね。でももう大丈夫、私はあんたを助けに来た。…で、あんた名前は…?」
さて、困った展開になったぞ?さすがにこの場で「荒幡ススム、24歳!元サラリーマンです!」とは言えない。だからと言って名前は…。
「もしかして…名前を持っていないのかい?」
ナイス、とりあえずそういうことにするために首を縦に振る。
「…悪いこと聞いちまったね。とりあえず、ここを出よう。何、私はここの鉱石採取を仕事にしてんだ。私にとっちゃこんなとこ家みたいなもんさ」
なんと、こちらの聞きたいことを俺が言う前に答えてしまったぞ?まさか超能力者か?
『彼女ハ解析結果、人間デス』
まじか、くそこわい。
「ほら、じゃあ行こうか。とりあえずこれを羽織な」
ナーサは俺に向かって一着の外套を放り投げた。ありがたくそれを受け取り、全裸を脱出する。
そして、ナーサに手を引かれ渓谷を出ようとしたところで足に痛みが走り転んでしまう。
「っと、…あいつらこんな子供に対して銃まで使うのかい。ほんとに何を考えてるんだか…ほら、私の背中に乗りな」
ナーサは手際よく俺の怪我した足に布切れを巻き付け出血を抑制させるとかがんで俺が背中に乗りやすいようにしてくれた。
やべぇ、めっちゃいい人だ。
お言葉に甘えてその背中におぶさると何とも言えぬ暖かみがそこにあった。ストーブやこたつなどとは明らかに違う、心の底から暖まりほぐれていくこの感じ…。
そうしていつの間にか、俺はそこで寝息を立てていた。
「ふふっ、寝ちまったか。まあしょうがない、もとはと言えばあいつらが悪い。この子に罪はないしな」
ナーサも心がほんわかと暖まっていた。
「久しぶりだねぇ、こんな風に背中に子供をおぶって歩くのは」
彼女は美しい少女の銀に輝く髪の毛をそっと撫でた。
「名前、考えないとな」
どんな名前がいいだろうか。女の子だから可愛い名前がいいのか、華やかなのがいいのか、それとも凛々しいものか。ナーサは苦笑をこぼしながらあれこれ考えた。
「決めた、今日からあんたの名前は
ティアーシャ、だ」
ティアーシャ…聞いたことがある人はいるかもしれません…私と知り合って6ヶ月位の人は…