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第37話 吸血鬼と出発

---


「え~!?ティアーシャ行っちゃうの!?」

「そ。一年近くここにはお世話になった割に、なんにもお礼らしいこと出来なかったんだけど…」


【神石】を手に入れるべく、俺はシーカーの家、もとい旅館を後にすることにした。


「で、そっちの人は?誰?彼女?」

「アホか」


シーカーはむへへと汚らしい笑みをこぼしながらソウカのことを指さした。

そんな彼女の頭を軽く叩いてやる。

…見た目は全国のロリコンさんが喜びそうなくらい良さげなんだけどなぁ。この性格がなければ…。


「こいつはソウカ。まぁ…いろいろあって出会ったんだよ。いろいろあって」

「…いろいろあったことを強調しないでくれるかしら」


ソウカはムスッとして俺のことを見やった。

だっていろいろあったんだもん。噛み噛みされたりだとか噛み噛みされたりだとか。


「今紹介があった通り私はソウカ。種族は…蛇女って言うのが適切かしら?」


ソウカはこてん、と首を傾げてこちらを見てきた。いや、俺に聞くなよ。


「っていうか、…お前は大蛇の姿がノーマルなのか?」

「いいえ?一応この姿で普段は生活しているわ。だってあの体だと、食べ物が鳥の卵だとか、カエルだとか、ネズミとかなのよ?どれも安定して手に入れられるようなものではないし、そもそもあんまり美味しくない…」


ソウカはうえ…。と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「ソウカさん。わかりますよ、その気持ちよぉーくわかります。私達吸血鬼だって、あのにんにくって言う食べ物の美味しさは絶対に理解できないんですから」


「いや…あれは料理にアクセントを加えるためのものだろ…。それに、それは対吸血鬼用兵器であってそもそも吸血鬼であれを食べようとするやつはいない」


そう。覚えている。

俺がルントらの元にいた時のこと。料理の手伝いを厨房でしていた時、隣のシェフがいきなりにんにくを切り刻み始めたんだ。もちろん、至近距離だったためもろに匂いをかいでしまい、一時的に意識を失ったという苦すぎる思い出があるのだ。

前世では結構好きだったんだけどなぁ。種族が変わるとこうも変わるんだなぁ、とその時実感したのだ。


…とりあえず、にんにくは滅びよ。


「まぁ、その話は置いておいてだな…。明日の朝出発させて貰う予定だから今日はお礼として、俺の手料理を振る舞わせて貰うよ」

「…え?」


俺は担いでいた、食材がたんまりと入った麻布の袋を見せつけた。


---


「お待たせしましたっと」


両手に大皿を持って俺はそれをテーブルにそっと置いた。

その他にも、湯気のたつ料理をソウカとシーカーが手分けして持ってきてくれている。


「…おぉ…」

「いい匂い…」


お世話になったリーコやジャックにお礼をするのにあたって今回手料理を披露することになった訳だが、もちろん普通の料理を作る訳がない。

そこそこの費用で、美味いことは勿論、彼女達が食べたことのないもの。

そう、前世での料理。いわゆるお惣菜ってやつだな。

ルントの元にいた時もそうだったがこの世界では前世の料理、特にお惣菜の受けがいい。

今回用意したのは鯖味噌、豆腐の味噌汁、人参やこんにゃく、小ぶりの芋を使った煮物だ。

味噌はそれっぽいもので代用させてもらった。完全に、というわけではないがほとんど味も風味も同じものなので支障は無いはずだ。


「ほへぇ…」

「…こんな料理見たことないんだけど…」


シーカー一族は興味深々にそれらを眺め、ソウカはまるで毒でも見るかのような目で睨みつけている。


「そりゃ…一応生まれ故郷の料理だから。結構遠いだろうし、食べたことないと思って」


生まれ故郷(前世)であり、遠いどころか世界そのものが違うんだけど。


「よし、じゃあ皆席について…。よし、じゃあ始めよう。…シーカーの命の恩人、ティアーシャさんが今日をもってここを出て行くことになった。理由は知らん!…で、同じテーブルを囲うのは今日をもってしばらく終わりだ。…そしてなんと!今日はティアーシャさんが遠い故郷の料理を作ってくれたんだ!」

「おおぉぉぉ!」


やけにノリノリなジャックの音頭にシーカーが手を叩きながら乗っかる。


「…では、頂くとしようか。…ティアーシャさん、今日までありがとうございました!」

「いえ、こちらこそ長い間お世話になりました」


ジャック、リーコ、俺、ソウカはビールもどきが注がれたグラスを、シーカーはジュースが注がれたコップを掲げ、乾杯した。


「ふもぉぉぉぉぉ!ティアーシャ!これ美味しすぎるよぉ!」


ジュースを一気飲みしたシーカーが頬いっぱいに鯖味噌を詰めもぐもぐと咀嚼している。


「シーカー、全く行儀が悪いぞ…。どれ、じゃあ俺も」

「そうね」


シーカーに注意を促したジャックとリーコが鯖味噌を頬張る。


「「ふぉぉぉぉぉ!?」」


そして次の瞬間、親子三人。全く同じような顔になった。注意を促した本人達が一番行儀が悪い気がする。おーい、鯖味噌頬張ったままビール一気飲みすんなー。


「…なかなか…美味しい…わね」


ソウカはそんな風に一気に頬張ったりすることはせず、一見行儀良さそうに食べている。しかし、口と皿の間を行き来する箸の速度が異常に速いが。


「…。ソウカ」

「…?」

「…その、神石のある洞窟っていうのはどこにあるんだ…?詳細な場所は聞いてなかったよな」

「…そうね。確かに言っていなかったわ。場所はここから南東。【コルミヤ大森林】を越えて、ずっと先よ」

「っ…」


【コルミヤ大森林】。それは俺が狼に襲われていたシーカーと初めて出会った場所。つまり、今いるこの町【コルミヤ】に来たルートとは逆の方向であるということだ。それは…つまり…。


「…ナーサ…」


ぽつり。

特に意識した訳でもないのにも関わらず、その名が口から零れた。

この世界での俺の母親の名が。


---



『…大丈夫、ですか?』


--ん。俺は大丈夫だよ。それよりも、そっちこそ大丈夫だったのか…?【解析者】。


なんとなく、予想は着いている。なぜソウカと戦っている最中で急に傷が癒え、しばらくした後でそれが再発したのか。


--俺のダメージを、受け継いだんだろ?


『…』


図星のようである。【解析者】は、俺を、自分のことを犠牲として助けようとしたのだ。

俺の負ったダメージを、【解析者】が一時的に引き継いだのだ。


--そんなこと、しなくても…。


『あなたは私です』


--?


『そして、私はあなたです。一心同体。これ以上にふさわしい言葉はないでしょう。私もあなたと一緒にいるうちに心を持ちました。感情を授かりました。私はもう一人のあなたです。…ですから、あれくらいのことは…』


--やめろ。


『っ…』


--お前が犠牲になって、俺が生き残ったって、俺は嬉しくなんかない。絶対に悔やむ。苦しむ。だから、やめてくれ。お前は、生きて、俺と一緒に。俺の故郷へ帰ろう。


『…。はい』


【解析者】の声は、小さかった。


二章、完結。

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