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第28話 吸血鬼と冒険と銀髪美少女と

‐‐‐


 


「なるほど、洞窟に繋がってる感じか」


 


扉を潜るとその先は地下へと続く階段になっていてそこを数分下ると巨大な地下洞窟に行き着いた。


そこにはいくつもの小さな洞窟(とはいっても高さはだいたい三メートルはあるのだが)が空いていてその入り口にはそれぞれの推奨ランクが書かれていた。


 


「えっと…確か『銅ノ上』だったよな」


 


今回受ける依頼の推奨ランクの書かれた洞窟を見つけ、そこへ向かう。


 


「ステータスプレートをお出しくださーい!あ、そこの冒険者さぁん!ステータスプレート!ステータスプレートを!」


「…?」


「ステータスプレートをご提示くださらないと、この先に通すことは認められませんので、ご了承ください!」


洞窟に入ろうとしたところで、茶髪ポニーテールの女性に引き留められる。


なるほど、そこそこ高めの依頼を受けるにはステータスプレートを提示しないといけねぇのか。まあ、低ランクのやつがそこに入ってサヨナラすりよりはいいけど…。


 


「…ん、ステータスプレート」


 


「はい、どうも。えっと…えぇっ!?銀ランクぅ!?」


 


渡されたそれをまじまじと見つめた女性が叫んだ。


 


「銀ランク?」


「銀ランクだって?」


「銀ランクぅ!?」


 


それを聞いた周囲の冒険者達がざわめき始める。


 


「…メッ」


 


女性をぎろりと睨み付けてやる。


それを受けた女性はあわあわと取り乱してしまう。


 


「もももも申し訳ありましぇん!まさかこんなに小さくてかわいい子が銀ランク冒険者だなんて思わなくて…」


「…」


 


青筋がたった。さりげなく俺のことを馬鹿にしやがった。これは到底許されることじゃない。しっかりとお仕置きしておかねば。茶髪ポニテめ。


 


「ひっ」


「いいか?次に俺に向かってチビだとか可愛いとか言ったらその首は繋がってないと思え。いいな?」


「わかったか?」


「ひゃい!」


 


茶髪ポニテの喉笛に剣をかざして脅す。元々男でまだまだ心は現役で男である俺は決して“可愛い”だなんて言われて喜ばない。「ほら、ステータスプレート返せ」


「あ、ひゃっごごごごめんなしゃい!」


 


噛みながら両手でステータスプレートを返してくる茶髪ボニテ。


 


「ん」


 


それを片手で受け取り、剣を鞘へとしまい洞窟の中へ入った。


 


――【解析者】、洞窟の中の解析を頼む。洞窟のマップとモンスターと人の反応がわかればいいから。


 


『…若イ人ヲ脅カスノハアマリ感心シマセンヨ?洞窟内ノ解析ヲ開始シマス…。解析シマシタ。マップヲ表示シマス』


 


目の前に現れる近未来型の薄い水色のディスプレイ。そこには洞窟のルートと、緑色の自分を表す点、青色の人を表す点、赤色のモンスターを表す点があった。


「…どれがベヒモスだ?」


 


しかし、どの赤色の点が今回のターゲットである【ベヒモス】だかわからない。このマップ、優秀過ぎるが故に指定された場所の周囲のモンスターを表示してしまうからどれがどのモンスターなのか全く見分けがつかない。


 


『【ベヒモス】ハ…発見シマシタ。コレデス』


 


すると、マップ上の一つの赤点が点滅を始める。どうやらこれがターゲットのようだ。


 


「それほど遠くないけど…こいつの周りに青点が数個あるのが気になるな…」


 


しかし、そのターゲットのそばには三つの青点があった。おそらく俺と同じ冒険者だろう。


 


『マア、依頼ガ重ナッテシマッタノデショウ。トリアエズ向カッテミマショウ。モシカスルト、漁夫ノ利ヲ得ラレルカモシレマセンカラ』


「…そう…だな。行ってみるか」


 


あまり他の冒険者と争い事になるのは望ましくないのだが、この際仕方のないことだろう。俺の目的としては報酬よりもステータスの上昇だからな。


 


「位置は…このまままっすぐ行って…突き当たりを右折だな」


 


レベルが銅ノ上というだけあってこの洞窟はかなり入り組んでいる。


たくさんの別れ道に横穴、それに妙にくねった道などなど、俺には【解析者】特製のマップがあるからまだましだがそれが無かったら確実に迷ってしまうだろう。他の冒険者達は一体どうやってこの中を探索しているのだか…。


 


‐‐‐


 


「…近いな…」


手元のマップで自分の現在位置を再確認する。


ここを右折してすぐのところにある少し広い空間にターゲットのベヒモスと他の冒険者がいるようだ。


その証拠に時折人の声と獣の声が響いてくる。


 


「まあ…ちろっと様子を見ようか」


 


さすがに瀕死のターゲットを横取りしたら、ただの糞野郎になりかねないし、争い事にだってなりかねないしな。


最後にマップでベヒモスと冒険者達の位置を確認して、頭に叩き込む。


 


「…マップを閉じてくれ」


 


『了解』


 


 


【解析者】に頼んでマップを消してもらい、ベヒモスのいる空間へと足を動かす。


 


――くそっ!回復薬が切れた!おい、お前らもってねぇのかっ!?


――あったら使ってるわ!


 


――俺達はボロボロなんだ!あんたはまだいけるだろ?前線出てくれ!俺達でカバーするから!


 


「…ふむ」


 


近づいていくと、冒険者三人のものと思わしき叫び声が鮮明に聞こえるようになってきた。


声の高さから二人が男で一人が女といったところだろうか。


 


まぁ、会話の内容を聞く限りは冒険者側が劣勢のようだ。これなら、戦いに混ざっても争い事にはならないだろう。


 


「行くぞ、【解析者】。周辺のモンスターが寄ってきていないか確認しておいてくれ」


『了解シマシタ。さぽーとニ専念シマス』


 


もしかすると戦闘音を聞き付けて他のモンスターが寄ってくるかもしれない。それを事前に察知できるよう、【解析者】に周辺の警戒を頼む。


 


そして剣の柄を握り締め、鞘から引き抜く。


刹那、洞窟内の僅かな光を反射し、その刃が輝いた。


 


「…俺の冒険者デビュー戦だ。華やかな結果になることを祈るぜ…?」


 


地を力強く蹴ってターゲットのいる空間へと躍り出る。


 


「【風刃】!」


「ギュァッ!?」


 


そしてベヒモスに【風刃】を放つ。いくつもの風の刃がその体を切り裂いていく。


ベヒモスが苦痛に満ちた鳴き声を上げる。


 


「おぉ!ナイスタイミング!やっぱり英雄ヒーローは遅れてやって来るって……子供ぉ!?」


「うおっしゃあ!ありがとさ……。はぁっ!?こ、子供ぉ!?」


「そう簡単に死んでたまるかってんのっ!!って子供ぉ!?」


 


 


 


 


「…一応助けてやったのに…その反応はねぇだろ…」


 


俺よりも後ろで尻餅をついている冒険者三人に冷たい視線を送る。


精一杯かっこよく登場したつもりなのだが…やはり容姿でそれはぶち壊されてしまった。


 


「ギュ、ギュロォォォ!!」


「っち、くそ。やっぱ一発じゃ無理か!【水球】!」


 


腹部を血で濡らした、二足歩行をする象のようなモンスター。【ベヒモス】は雄叫びをあげながら俺に突っ込んできた。


それに対し、軽く悪態をつきながら、剣を持っていない空いている方の手のひらから【水球】を放つ。


 


「ギュォッ!?」


 


それはベヒモスの腹に直撃し、反動でその巨体が大きく傾く。


 


「【雷電】!」


 


その隙に手を指鉄砲の形にして電気をまとった弾を発射する。


 


「ギュッアアァァッ!?」


 


対象を痺れさせるこの魔法がベヒモスに直撃し、さらに大きな隙ができる。


 


「はぁっ!!」


 


そのチャンスを逃すまいと一気にベヒモスとの距離を詰め、握り締めた剣で喉笛を切り裂く。


 


「ギュッ…ギャボッ…グゥゥゥ…」


 


初めは喉からあふれでる血液をどうにかして止血しようとしていたが、とうとうその体も動かなくなり地に横たわった。


 


「…っと。案外あっけないもんだな…」


 


ズボンのポケットから加工してある動物の皮を取り出し、剣についたベヒモスの血と肉を拭く。このまま放置しておいたら錆てしまいかねないからな。


 


「…で、あんたらは…大丈夫?」


 


ちらり、横目で三人の冒険者を見る。


 


一人は翡翠色の髪に瞳をした女性。髪は後ろで一つに結わえられていて、その手にある弓と、背中に矢筒を背負っていることから【弓士アーチャー】であることが推測できる。


二人目は橙色の髪に瑠璃色の瞳。髪はショートカットで、その両手で握っている大剣から【重戦士タンカー】だと思われる。ナーサと同じタイプなのか。


 


三人目は黒髪に黒い瞳。髪はスポーツ刈りに近い、青春を横臥するであろう日本のスポーツ少年によく似ている。手には何も持っていない。いったいパーティーの中ではどのような役割をなしているのだろうか?


 


三人とも揃って唖然とした表情を浮かべている。


 


「…あ、あんたは?」


 


その内の一人、黒髪でスポーツ刈り、武器なし男が口を動かした。


 


「…質問に質問で答えないでよ…。おれ…じゃなかった、私はティアーシャ。冒険者」


「…俺達は三人でパーティーを組んでる冒険者だ。この緑色の髪の女は『ラルド』、オレンジ色の髪の筋肉は『サンス』、俺が『ハルキ』だ」


「あのさぁっ緑色って言うのやめてって言ってるじゃん!これはエメラルドグリーンとか、翡翠色って言うの!」


「俺は筋肉じゃねぇ!それだったら武器も持たずに戦うお前が筋肉だろ!」


「あぁっ!?」


 


「…さっきまで尻餅ついてびくついてたのに…元気だねぇ…」


 


『…ッ…、デスガソウイウ風ニホノボノトシテイル余裕ハ無サソウデスヨ。付近ノもんすたーガユックリト、ココヲ中心トシテ集マッテキテイマス』


 


「それって…こいつらの口喧嘩が原因だよな…」


 


『エェ。ソレ以外ニ原因ガ見ツカリマセン』


 


ただでさえ、細い洞窟の中でこれだけの声量で騒いでいたらそりゃ寄るもんも寄ってくるわな。


とりあえず、この三人を落ち着かせなければ。


 


「…おーい、ちょっと静かに…」


 


「筋肉はお前だ!!」


「いいやお前だ!!」


 


「…」


 


しかし、前世での野太い声ならまだしも、今のか細い声じゃこいつらの口喧嘩には掻き消されてしまう。


 


「はぁ…」


 


俺は深々とため息をついて、頭を抱えるのだった。


 


 


‐‐‐


 


 


「…はむっ…はむっ…」


「美味しい?」


「うん!お姉ちゃんお料理上手だねー!!」


 


リビングの椅子に座り、だぼだぼの服を着て…というよりは服の中に入って、お茶碗に入ったお粥を貪る銀髪美少女。


 


「お粥にまずいも旨いもあるのかしら…」


 


そんな少女の称賛に、思わず苦笑いを浮かべてしまう。


まぁ、日本のお米が食べられるという点は非常に助かった。


 


「…お嬢ちゃんはおうちどこなの?」


 


箸も器用に使っているし、日本在住外国人の可能性がある。というかそうに決まってる。


もしも近場なら送り届けてあげよう。


 


「ここ」


「…んが…」


そう思っていたら近すぎた。思わずテーブルに頭を打ち付ける。おでこがひりひりとした。


 


「そうじゃなくて、あなたの住んでた場所だよ。ここから近いの?」


「わかんない」


「わからない?」


 


かつり、美少女は箸を机に置いた。


 


「うん、だって目が覚めたらここにいたんだもん」


「…全裸でね」


「なにか言った?」


「別に?」


 


そうして美少女は再び箸を持ち、口にお粥を運んでいく。


 


「そういえば、あなたの名前は?」


「…ほふふへ?」


 


口一杯にお粥を詰め込んだせいで、うまく返事ができなかったようで大急ぎで租借し飲み込んでいる。


 


「お名前?どうして?」


「いや、あなたを呼ぶときに『あなた』だけじゃ嫌じゃない?」


「…うん…。でも…お名前…わかんない…」


「…え?」


 


美少女は顔を暗くした。


 


「わからない…って」


「なんか、思いだそうとすると頭の中にもやもやって…」


「…」


 


わからないというよりも、思い出すことができないの方が正しいのかもしれない。


今朝見た夢をはっきりと覚えていないのに近そうだ。


 


「…ぅ…」


「ちょっ…大丈夫?」


 


必死に思いだそうとしているのか、美少女は頭を抱えていた。


しかし、やがとその額に脂汗が滲むようになり手から箸が床に転がり落ちた。


 


「…ぅ…ぅ…ぇ…で…」


「…?」


 


何かを言っている?


しかし、うめき声のようにしか聞こえない。


 


「…ぁ…ぅ…」


「えっ」


 


そして、私は驚愕した。


思わず立ち上がった。


 


彼女の銀色の髪の毛が徐々に毛先から紫色に変色していっているのだ。


 


「ちょっと、大丈夫なのっ!?」


 


あわてて彼女のもとにかけより、肩を掴んで揺する。


 


「ぅ…ぁ…?…お姉ちゃん?」


 


「へ…あ…戻った?」


 


すると数秒後、美少女は私の顔をぽかんとした表情で見つめていた。


それと同時に変色していた髪の毛も元の銀髪へと戻っていく。


「どうしたの?」


「え?いや…その…大丈夫?なんか辛そうだったけど…」


「辛そう?どうして?…あれ?お箸お箸…あ、あった」


 


美少女はキョロキョロと辺りを見回して、椅子の足の傍に落ちている箸を見つけた。


 


…どうやら、今のことは全く覚えていないらしい。


 


「あ。そのお箸貸して。床に落ちちゃったし、新しいの持ってくるから」


「…ありがとう」


 


美少女が差し出した箸を受け取り、台所から新しい箸を持ってきて渡す。


 


「ごめん、ちょっと一人にしちゃうけどいい?すぐ戻ってくるから」


「うん、大丈夫だよ」


 


そうして再び箸を動かす美少女を見てから、その場を離れ玄関でポケットからスマートフォンを取りだし電話帳を開いてその名前の書かれた番号をタップして電話をかける。


 


『はい、井上です』


 


数回のコール音の後に聞きなれた女性の声が聞こえる。


井上 いのうえあらた。男らしい名前だと思うが、本人はその真逆で綺麗な女性。スタイル抜群、顔は凛々しく、優しく、時に厳しく。お兄ちゃんの事件を担当している女刑事さんだ。私の家にもよく訪れてきている。


 


「あ、井上さん。お忙しい中すみません。今、大丈夫ですか?」


 


『ん?あぁ、大丈夫だけど…どうかした?』


 


「えっと…家の前に銀髪美少女が全裸で倒れてて…とりあえず家の中に入れたんですけど…」


 


『銀髪…美少女…だとっ?』


 


「え、あ。はい」


『来た!ついにこの時が!しかも全裸だとっ!?想像しただけで…ぶほぉぁっ!!ちょ!井上さん!?大丈夫ですかぁ!?』


 


「…」


 


なんだろう、今電話の向こうは地獄絵図になっている気がする。いや、考えちゃだめだ。考えたら負けな気がする。


 


一見完璧に見える井上さんだが、実は幼女好き。いわゆるロリコンというやつだ。


そんなロリには目がない彼女がこの銀髪美少女を見たらどうなるだろうか…。


 


「あー。井上さん?」


 


『な゛、な゛んだ!』


 


鼻声である。


 


「その…銀髪の少女の捜索依頼が出ていないか確認していただきたいのですが…」


 


『わかった、確認しておく。ふっふっふ…銀髪美少女ちゃんの喜ぶ顔を想像したら…うっほほーい!プツン――ツ――ツ――』


 


「…」


 


引きつる顔を押さえつけ、スマートフォンをポケットにしまう。


これなら始めから110番した方がよかったかもしれない。

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