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第27話 吸血鬼と妹と美少女と

「…ティアーシャさん…疲れてます?」


「…そういうコエさんこそ…寝不足なんじゃないですか…?」


 


あまり寝れなかった夜の翌日。俺はギルドの保健室でコエとお茶をしていた。


 


「私は大丈夫ですよ。この目のくまでしょう?これ、いくら寝てもなおらないんですから。気にしないでください。それよりティアーシャさんはどうしてそんなにげんなりと?」


「寝込みを襲われました…」


「っ!!」


 


コエが口を押さえて立ち上がり、哀れみの目で俺を見つめる。


 


あぁ、言い方がまずかったな。


 


「宿の看板『娘』にです。安心してください」


「へっ…あっ…。…なんだ…びっくりしましたよ…」


 


コエはへなへなと椅子に腰かけた。


 


「でも、その手のことは初めてだったんですから…。…これからは寝るのが怖いですよ…」


 


はぁ…、とため息をついて顔を片手で覆う。


これからはシーカーに会ったら真っ先に『魅惑』をかけてジャックのもとへと連行だな。さもないと昨日の二の舞になりかねない。


 


「なるほど、それは眠くなるわけですね。くれぐれもダンジョンの中で寝ないように気を付けてくださいね?もしそうなったら今度はただではすみませんからね?」


「…善処します」


 


ぐっ、と湯飲みのお茶を飲み干し席から立ち上がる。


 


「では私はそろそろ…」


「えぇ、頑張ってくださいね」


 


デスクワークに戻る彼女に軽く頭を下げて保健室を出る。


この保健室は彼女の仕事場だ。普段は経理の仕事もしているようで、俺と話しているのはいい気分転換になるらしい。


毎日というわけにはいかないができる限り、ギルドに来たときはここを訪れるようにしよう。


 


後ろ手で保健室の扉を閉め、ギルドのロビーの端にある受付へと向かう。


 


「依頼を受けたいんですが…」


 


何かの書類を手際よくまとめている受付嬢に声をかける。


 


「はい…えっと、あなたは確か先日銀ランク冒険者認定された方でしょうか?」


「はい」


「ギルドは初めてですか?」


「依頼を受けるのは」


「でしたら、すぐそこの依頼表をご覧になってください」


 


受付嬢が指を指したのは受付のすぐ隣に設置された木製の掲示板のようなもの。そこにはいくつかの紙が貼られていた。


 


「あそこから受けたい依頼の書かれた依頼表をとって受付に出してください。あ、高難易度に設定されているものは受けられるランクが決まって…いますけど銀ランクなら心配ありませんね」


 


受付嬢がこつんと自分の頭を叩いていた。


それを尻目に俺は数人の人が集まっている掲示板へと足を運ぶ。


 


「お、あの子ってあれだよな?このあいだ銀ランクになった」


「へー、あの子が…」


「あの身なりで…?すげぇな…」


 


俺が掲示板の前につくと辺りが少しざわめき始める。しかし無視だ。それを聞いていたところで俺には何のメリットもない。


 


「…『薬草回収』に…『討伐部門』…『お手伝い部門』…ふぅん、いろいろとあるんだな…」


 


掲示板に貼られている紙に一枚ずつ目を通していくと、依頼の内容にも結構種類があるようだった。なるほど、モンスターを倒して稼ぐだけが冒険者の仕事だけじゃないってことか。


 


「ま、でも『討伐部門』が妥当だろうな」


 


『推奨ランク:銅ノ上』と書かれた依頼表を手にとって、それを固定している画鋲から取る。


どうやら、一つのランクの中でも上下関係があるようだ。そうなると俺は銀ランクのどの辺りにいるのだろうか?


 


「はぃ、討伐部門ですねー」


 


そんなことを考えながら、依頼表を受付嬢に手渡す。すると受付嬢はそれに焼き印で印を付け、傍らにある木製の、ファミレスとかでよく見るレシートを入れるあれに似たケースに丸めて入れた。


 


「確かに受理いたしました。どうぞ、討伐部門の方はあちらの扉にお進みください」


 


再び受付嬢が指を指したのは木製の人一人通れるくらいのサイズの扉。そこにぞろぞろと防具を着こなした冒険者が入っていくのが見える。


 


――えっと…討伐ってなにすればいいんだ?


適当に『討伐部門』の推奨ランクを見て適当にとったので、何を討伐すればいいのかわからない。


 


『ハァ…。チャント依頼内容ヲ確認シテカラ依頼ヲ受ケマショウヨ…。今回ノ依頼ハだんじょん内ノ中級モンスター、種族名:【ベヒモス】ノ討伐デス。カナリ強イ相手ナノデ気ヲツケテ…トイッテモ【コブナントスパイダー】ヲ倒シタアナタナラ心配ハ不要デショウガ…』


 


――ベヒモスって、すっげぇ強ええイメージがあるんだけど…。うぇ、変な依頼を受けちまったな全く…。


 


軽くため息をついてぞろぞろと人が入っていく扉に向かう。まぁ、今回は俺の自業自得なんだけどさ。


 


「ま、なるようになれってんの」


扉の前に列を作る冒険者達の後ろに並ぶ。


 


――にしても討伐部門は人気なんだな。


 


『マア手ッ取リ早ク稼ゲマスカラネ。【薬草部門】ニハソコソコノ薬草学ヤ鑑定すきるガ欠かせマセンシ,【お手伝い部門】ハ一日分の食事代ニモナラナイクライニ稼ギガ悪イデスカラ。ソウ考エルト、脳みそガ筋肉デデキテイル三流冒険者達ニハ討伐部門ガ一番合っているノデショウ。剣一本デモアレバハジメラレマスカラ』


 


――まぁ、そうなんだろうけどさ…。ってかさ最近【解析者】…毒舌じゃね?


 


『ソウデショウカ?本当ノ事ヲ言ッテイルダケナノデスガ…』


 


――それを毒舌って言うんだよ!!


 


最近、人間らしくなってきたと思ったがやはり思ったこと考えたことがすぐ口に出てしまうのは変わらないようだ。


 


「おいお嬢!後ろつまってんだから早くしろ!」


「ん?あぁ、悪い」


 


いつの間にか扉の前まで来ていたようで、後ろにいたモヒカン冒険者に声を上げられて我に返る。


 


「悪いと思ってんなら…俺とパーティー組まね?」


 


そして勧誘に移行するモヒカン。どう見ても不審者である。


 


「拒否」


「んがっ…」


 


たった二語で断られたことがだいぶ心に響いたようで、モヒカンは白目を向いて後ろに倒れそうになった。


 


「少なくともお前みたいなゴロツキ丸出しなやつとは組まねーよ。悔しかったらもっとまともなやつになってきな」


 


軽く軽蔑の目を向けて、扉を潜る。


なぜだか、あの場に並んでいた冒険者達が「やっべ!しゃべり方と容姿のギャップがやっべ!でもそれがいいやっべ!」とか「俺、あの軽蔑の目で睨まれて足蹴にされてぇ!」とか言っているやつがいたが…気にしないでおこう。気にしたら負けな気がする。


 


「はぁ…」


 


深々と、ため息をついた。


 


 


‐‐‐


 


 


「先輩~、駅前にオシャレなカフェできたんですけど~。一緒に行きませんか?」


「カフェ…。あ、ごめんね、今日はちょっと…」


「…?まぁ、用事あるなら大丈夫ですよ。また今度誘いますね?」


「えぇ、お願い」


 


…用事なんて…ない。


でも…行きたくなかった。


 


私がこんなに楽しい思いをして、笑って、遊んで、いいのだろうか?


 


いじめを受けていた私に寄り添ってくれた義兄ちゃん…いや、お兄ちゃんは…まだ確定じゃないけど会社の仲のよかった人に殺されて。


もし本人に話したら悔しがるだろう。苦しむだろう。


 


そんなお兄ちゃんを置いて、私だけ楽しむなんてこと…


 


「できないよ…」


「先輩?」


「え?あ、ごめん。何でもないから気にしないで。じゃあ私今日は上がるから」


「わかりました、また明日~」


「じゃあね」


 


部活の道具を簡単にまとめて、学校指定のバッグに詰め込み学校を後にする。


 


「…」


 


私の中でお兄ちゃんがいなくなった穴はとても大きかった。油断すればすぐに涙が溢れそうになってしまう。


 


「…まるで…恋人が死んじゃったみたいだよ…」


 


“恋人”という言葉は否定できなかった。私はお兄ちゃんを“兄”としてではなく一人の異性として、一人の“男”として好きだったんだと思う。


一時には将来、この人と結婚できたらなぁ。なんて妄想をしたこともある。


 


「気持ちだけでも…伝えたかったよ」


その気持ちを告げたら嫌われるかもしれない。変な目で見られるかもしれない。そんな不安が、私を躊躇させている間にお兄ちゃんは…。


 


「…」


 


オレンジ色に染まる帰路を歩く。とぼとぼと、ゆっくりと…。


 


アパートの階段を登る。バッグの横のポケットに入れてある鍵を取り出す。


自分の部屋の階について、そこのドアの鍵穴に鍵を差し込んで…


 


「…え?」


 


思わず目を疑った。家の前に一人。人間が倒れているのだ。しかも全裸で。


 


「こ、子供?」


 


体を丸めているので詳しくはわからないが、その小ささからして子供ということはわかった。


「…とりあえず、家の中に…っ」


 


鍵穴に差したままの鍵穴を回し、部屋のロックを解除する。ドアを限界まで開けて閉まらないようにバッグを置いて子供を持ち上げる。


 


「…綺麗」


 


非力な私の力でも持ち上がるくらい軽い子供の顔はとても整っていて、細く、長い宝石のような銀色の髪の毛がさらに美しさをアップさせていた。


 


「…やましい気持ちなんてないから…確認するだけだから」


 


これで男だったら相当ショックを受けると思う。だから今のうちに確認をしておこう。決してやましい気持ちなんてない。


視線を子供の顔から雪のように白く、極め細やかな肌にずらしていく。


そちらの方はまだ発展途上なようだ。これだけじゃまだわからない。


 


「っ」


 


思わず、唾を飲んだ。


大丈夫、性別の確認だし!決してやましい気持ちなんて!


 


「――っ!…ほっ…」


 


そして安堵のため息をついた。よかった…美少女だった。


 


「にしてもなんで全裸でこんなところに…」


 


足を動かして家に入り、靴を脱いで少女を寝室のベッドの上に寝かせる。


 


「なにもなければいいんだけど」


 


このルックスだし、事件とか犯罪とかに巻き込まれてないといいのだけれど。


 


「ま、事情はこの子が起きてから聞こうかな」


私は少女の頭を軽く撫で、外に起きっぱなしのバッグを取りに踵を返した。


 


‐‐‐


 


「…なんかご飯でも作っておこうかな」


 


少女が目覚めた時にすぐに食べれるようなご飯を作って起きたいのだが…、そもそも容姿から日本人では無いだろうしなぁ。言葉通じるのかな?英語は得意だからなんとかなるけど、ロシア語とか『Здравствуйте!(こんにちは、または英語でいうHi的な)』くらいしかわからない。


ご飯だって日本食が食べられるかどうかもわからない。


あぁ、パン切らしてる!朝食べたので最後か!


 


「どうするかなぁ」


 


こういう時にはお粥がいいんだろうけど、お粥ってお米の匂いが強くなるからね。普段から日本米になれてる日本人は大して気にならないみたいだけど、他の国の人には鼻につくみたい。


こんなときに多くの国で食べられてる万能食材のパンがあればなんとかなったのに…。うわぁ、朝の私許すまじ。


 


「どうするかなぁ…ん?」


 


台所と面向かって独り言をぼやいていると、太もも辺りにつんつんとつつかれた感覚が。


 


「ってうひょああぁっ!?」


 


ちらり、そちらに目を向けると寝ているはずの全裸の美少女が。


 


「なななな、なに?どうしたの?」


 


 


 


 


 


 


 


「おねーちゃん!おなかすいた―!」


 


 


 


 


 


 


美少女は満面の笑みで空腹を訴えた。

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