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第26話 吸血鬼と夕食

「あ、ティアーシャ。お風呂上り?」


「ん?あぁ、そう」


「なんかぐったりしてるけどー?大丈夫?」


「ま、まぁ」


 


風呂からあがって、居間で横になって休んでいるとそんな俺を見下ろすようにしてシーカーが声をかけてきた。


 


「いろいろと…あったんだよ…」


「…?」


 


苦笑を、とびっきり苦い笑いを浮かべた。


というのも、湯船に浸かっていたら酒でベロンベロンになったおばちゃん達に囲まれ、身体中しわしわの手でベタベタと触られ、前に言われたように温水を炎魔法と水魔法を合わせて出そうとしたら火加減を間違えて熱湯が出たり、今度は冷水が出たり。風魔法と炎魔法を合わせて作った温風をドライヤー代わりにすると言うのを【解析者】から聞き、実践したら間違えて【風刃】を使ってしまって隣にいたおばちゃんの髪の毛を空に舞わせてしまったし…。


 


「はぁ…風呂に入るだけで…んでこんなに疲れんだよ…ったく」


「また男言葉使うー」


「良いだろ?お前以外には使わないように気をつけてるんだし。口調を変えるのって結構疲れるんだからな?」


「むぅー。まぁ…いいよ。私といるときだけにしてよね?…まぁ…そのうち本当の女にしてやるんだけど…」


 


ほっぺたを膨らませるシーカー。しかし後半はぶつぶつと何かを呟き、悪い笑みを浮かべていた。


 


「…何か言ったか?」


「ふぇっ!?い、いや?何も?」


「…ふぅん。まあいいか」


 


ま、聞いたところで話してくれるわけでもないし。放っておいていいだろう。


「あ、そういえばお父さんがご飯できたからティアーシャを呼んできてくれって。なんでも銀ランク冒険者誕生祝いだってさ。きっと豪華な食事だよ?」


「あー、待って。行くから、起こして」


 


ご馳走と聞いたら行かぬわけにはいくまいて。


しかし体が重い。だから手をシーカーの方に伸ばす。


 


「んっ…と」


「ありがとさん」


 


それをシーカーがぐっと握り起こしてくれる。


 


「さ、行こっか。お父さん待ってると思うし」


「ん、場所案内よろしくな」


「了解了解ー!」


 


よっぽど飯が楽しみなのだろう。満面の笑みで弾むようにして歩いていくシーカーを小走りで追いかける。


 


‐‐‐


 


 


「ではティアーシャさんの銀ランク冒険者承認に!乾杯!」


「「乾杯!」」


「…ありがとうございます」


 


各々が自分のグラスを掲げて乾杯する。


 


場所は俺達しかいないリビングのような場所。そしてテーブルの上に広がるのは数多の皿とその上に綺麗に盛り付けられたたくさんの料理。


面子は俺、シーカー、ジャック、リーコの四人。リーコはシーカーに起こされここにいる。寝起きで酒を飲み、飯を食って…大丈夫なのだろうか?


 


「にしても銀ランクかー。すごいよねぇ」


「…運がよかったんだよ」


「運で銀ランクにはなれません。全部ティアーシャさんの実力のたまものですよ」


 


鶏肉の塊のようなものにテーブルナイフを入れながらジャックが言った。


 


「…そんなことないですよ」


 


グラスに注がれた、赤紫色の液体を飲み干す。口に広がる果実の香り。ワインだろうか?


 


「でもコブナントスパイダー倒したんでしょー?」


「…う。できれば思い出したくないよ…あの蜘蛛の毒の痛さときたら…」


「うぇ…蜘蛛の毒って…あの緑色の唾だよね?」


「…そ。あの粘着感…ついた腕の痛み…剥がしたくても離れない絶望感…うぇ…」


 


頭の中に溶かされていく自分の腕が見えた。


すかさず気分が悪くなったので、頭をぶんぶん振って頑張って他のことを考える。


「シーカー、ティアーシャさんが苦しんでるわよ?…でも…苦しんでいるティアーシャさんもかわいいわぁ…今夜にでもやっぱり襲撃しにいこうかしら?」


「リーコ」


 


頬を赤らめてうっとりするリーコにジャックの冷ややかな声が降りかかる。シーカーも眉をぴくっと動かして反応していた。


 


「…」


 


なんとも居たたまれない空気の中、俺は冷や汗を流しながら絶品な料理をひたすらに口へと運んでいた。


 


 


‐‐‐


 


 


「ふぅあぁぁ…」


 


料理を食べつくし、重いお腹を抱えて食器の片付けを手伝ったり、剣の手入れを行っていたらもう空が橙色に染まる頃になっていた。


最近まで俺は夜型だったからか、どうも眠くてしょうがない。瞼も重くなってきている。


 


「…ちょっとだけ…寝かせてもらうか…」


 


ジャックに言って少しだけ寝かせてもらおう。このままだと夕飯を食いながら寝てしまうかもしれない。


 


「…あの…ジャックさん…ちょっと眠いので…部屋で寝させていただいてもいいですか?」


 


旅館の受付を行っているジャックのもとへ行き、声をかける。


 


「えぇ、大丈夫ですよ。冒険者の試験でお疲れでしょうし、ゆっくりとお休みになってください。一応、お夕食ができたときには声はかけますので」


「…すみません。ありがとうございます」


「あ、あと!」


 


軽く頭を下げ、使わせてもらっている部屋に向けて足を動かそうとするとジャックが切羽詰まった様子で声を上げた。


 


「…?」


「部屋には必ず鍵をかけておいてください。…なにがあるのかわからないので…」


 


少しだけ彼の目が泳いでいた気がする。まあ、これから寝るわけだし戸締まりはしっかりとしておかないといけないしな。


 


「わざわざありがとうございます。…では失礼します」


「…、はい。ごゆっくりお休みになってください」


 


再び彼に礼し自分の部屋へと向かう。


 


 


 


 


 


「えっと…」


しかし旅館は広い。たくさんある部屋の中から自分の部屋を探すのは骨が折れる。


一応、部屋番号は『25』なのだが…それがどこにあるのかわからない。


 


「あ、ティアーシャ。何してんのー?」


 


そんな時、背後からシーカーの声が聞こえた。


…いいタイミングで来てくれるな、全く。


彼女なら俺の部屋の場所もわかるだろうしな…。


 


「シーカー、ちょうどいいところに来てくれた。俺の部屋の場所がわからなくてさ…教えてくれないか?」


 


振り返りながら体の向きを反転させる。


 


「んー?いいよー?たしか25号室だよね?」


「あぁ」


「それならすぐ近くだよ?案内するからついてきてー」


「悪い、助かる」


 


そして彼女と目があった。合ってしまった。


 


「いまだっ!【魅惑】!」


「っ!?」


 


刹那、シーカーの黄金色の瞳が深紅色に染まり俺の体が硬直した。


 


「シー…カー?」


「ほら、案内、するから?ね?」


 


目だけを動かして彼女のことを見る。すると彼女はまるで、新しい玩具をもらった子供のように満面の笑みを浮かべていた。


 


「ほら、25号室に行こ?」


「…体…勝手にっ!?」


 


シーカーがそう呟くと、今まで硬直していた体が急に動きだし歩き始めた。


しかし、俺が足を止めようとしても俺は歩くのを止めようとしない。まるで体を別の誰かが動かしているような…。


 


 


 


 


…【魅惑】…か。


 


俺がナーサと共に暮らしていて町に盗賊が押し寄せてきた時、『吸血衝動』が起きていてまともに動けなかった俺を助けようとしたルントをこれを使って操り避難させた記憶がある。


 


対象を自分の思うがままに一定時間、操ることができるこのスキルを使って彼女は俺を動かしているのだろう。


 


 


「はい♪到着だよ」


 


そして、俺とシーカーはいつの間にか25号室までたどり着いていた。


シーカーが楽しそうな声を上げて部屋のドアを開ける。すると俺の体はそれを待っていたかのように足を動かし、部屋の中へと入りベッドの上へと仰向けに寝転んだ。


「さてさて♪じゃあ準備するねー♪」


 


シーカーも部屋に入り、カーテンをとめる紐を手にとってベッドで寝ている俺に近寄ってきた。


 


「…シーカーさん?一体なにを?」


「ふふ…安心して♪私がティアーシャを『女の子』にしてあげるだけだから♪」


 


そう言うとシーカーはなぜか慣れた手つきで俺の両手足をカーテン紐で縛り付けた。


 


「…『女の子』にする…って?」


「んん?わからない?…まぁ、実際にやってみた方が早いからねー。説明は省略するよ」


 


そしてシーカーは俺の上に馬乗りになり、俺の服に手をかけた。


 


「…嫌な予感が…。シーカーぁっ!?」


冷や汗が溢れる。


 


彼女は俺の服を次々と脱がしていく。


 


 


…そして数分後には何も身に付けていない状態になってしまう。


 


「綺麗な体…ふふっ…誰かの手で汚される前に…私色に染めてあげるわっ」


「ひんっ!?」


 


シーカーが俺の体を撫でるように触り始める。ゆっくりと…ゆっくりと…。


 


「ここなら邪魔は入らない。さぁ…」


「や、やめっ…」


 


自然と目の縁に涙がたまっていた。


 


 


 


「私のものにしてあげるっ!!」


 


 


「やめ、やめろぉぉぉぉっ!?」


 


 


 


‐‐‐


 


しばらくして、俺はシーカーに『女の子』にされていた。リーコも同じようなことをしようとしていたのだと考えると背筋が凍る。


 


「ふ…ふふ…ティアーシャは…私の……もの…」


 


なぜだか知らないが、シーカーは彼女が満足した後俺に覆い被さるようにして寝息をたて始めた。


 


俺ももとから眠かったと言うのもあって、何も衣類を身につけず、両手足を縛られたまま寝てしまった――。


 


 


 


‐‐‐


 


 


 


「ティアーシャさん…お夕食の用意ができま…………シーカーァァァァッ!!!」


 


バァン!と扉が壁に叩きつけられる音で目を覚ました。


 


「あれほど手を出すなと言ったのに!お前はなんてことをっ!!」


「んみゅ?」


 


俺の上から重みが消える。


ふとそちらに目をやると、目を半開きにして眠たげな表情を浮かべるシーカーがジャックに抱えられていた。


 


「ティアーシャさん!大丈夫ですかっ!?」


 


そして彼はシーカーを床に置いた後、俺の手足を縛り付けていたカーテン紐を解いてくれた。


 


「…ジャックさん…?」


「本当に申し訳ありません!!!うちの娘がとんだ粗相を!!」


 


ジャックは頭を下げた。ちなみにその粗相を犯した張本人は床で目を閉じて夢の世界に訪れている。


 


「…ぅ…ジャックさんは…なにもしていませんし…謝らないでください…」


 


強ばった体の上半身をゆっくりと起こし、ジャックに体を向ける。その途中で自分が衣服を着ていないことに気がつき、あわてて近くで脱ぎ捨てられていた俺の服をかき集めて体を隠す。


 


「本当にすみません!!私が目を離した隙に…っ。シーカーは私がきっちりと叱っておきますのでっ」


「…本来なら…そこは私が『あまり叱らないであげてください!』とか言うのが普通なのでしょうが…きっちりとした制裁を下しておいてください…少なくともこれ以上人を襲わなくなる程度に…もしあれだったら私も手伝いますので…っ!!」


「むぎゅあっ!?…んん?何?どうしたの?」


 


枕を掴んで爆睡しているシーカーに向かって投げつける。


「…えぇ、自分がやったことの罪の重さの自覚もなし。あまつさえ、忘れるなど…ティアーシャさん、いえ、銀ランク冒険者のティアーシャさん。手を貸していただいても?」


「もちろん、喜んで」


 


 


この後、シーカーが全身ぼろぼろになって夕食の席についたのは言うまでもないだろう。

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