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第24話 吸血鬼と新しい決意

えっと…ランクについて詳しく聞かせて頂けませんか?」


「わかりました。冒険者には大きく分けて五段階のランクがあります。上から順に【白金】【金】【銀】【銅】【青銅】となります。一般的な冒険者は【青銅】から【銅】。主に上位モンスターの討伐、及び駆除や重要人物の護衛を行うのが【銀】から【金】です。【白金】は…いまだ私も見たことがありません。もしこのプレートに【白金】の文字が刻まれたらそれはもう世界中から英雄と称されるくらいになり得ましょう」


「…じゃあ【銀】ランクはそこそこ上の位だということですね?」


「そうなります。【コブナントスパイダー】をあの短時間で討伐したこと。魔法を織り混ぜた戦い方。少し時間がたてば【金】などすぐかもしれませんね」


…そうなのか?


まだまだ現役雑魚モンだと思ってたけど、いつのまにかそうでも無くなってた感じなのか?


 


 


「それに…ふふっ」


「?」


 


女性は苦笑いを浮かべた。


 


「冒険者はいかつかったり。柄がわるかったり。すぐ暴力沙汰になったりしますからね。あなたみたいな可愛い方がいてくれたらギルドもなごむだろうなぁ…と思いまして」


「え…あ…どうも…」


 


どうしてもまだ『可愛い』と言われることに慣れていない。そのせいかそう言われると一瞬戸惑ってしまう。


 


「あなたは【亜人】のようですからね。成長が早そうですけれど。きっとあと数年もしたら美人さんになれますよ」


「…えっと…【亜人】?」


 


確かに俺は攻撃を受けたら再生するけど…包帯をグルグルに巻いたお化けみたいなのは出せないし…。


 


「えぇ。人間以外の種族のことを【亜人】と言っています。あ、安心してください、この町では【亜人】も人間も平等ですから。気にならさないでください」


「そうなんですか…」


 


でも吸血鬼が人間と平等に扱われるとはそうそう思えないのでこれから種族を聞かれる機会があれば【亜人】と名乗ることにしよう。おそらく、シーカー一家もそうしているのだろう。


 


「さて、そろそろ戻りますか?それとももう少しここで休んでいきますか?私はどちらでも構いませんが…」


女性は俺に問いかける。


 


「…じゃあもう少しだけ。…えっと、あなたの名前…教えていただけますか?」


 


今さらながらこの女性の名前を聞いていなかったことに気がつく。


よくよく考えてみればこの女性は俺が今まで出会ってきた者の中では一番まともなのではないだろうか。


 


「私の名前ですか?…私は“コエ”と言います。あなたは?」


 


「おrげふんげふん。私の名前は“ティアーシャ”です」


 


まだ慣れない。女口調に慣れるのは相当先の未来な気がした。


 


「ティアーシャさん…ですか。とてもきれいな響きですね」


「いえ、そちらこそ。コエさんはなんのお仕事をされているのですか?」


「私はこのギルドでの看護を担当しています。…とは言ってもほとんど経理の仕事しかしてませんけど」


 


 


時折笑いを交えながら、俺達はしばらく会話を楽しんだ。


 


 


‐‐‐


 


 


「おぉ!あの子があの大蜘蛛を倒した嬢ちゃんじゃねえか!?」


「おぉ!やっぱり生で見るのと映像で見るのだと違うな!こっちの方が断然可愛いじゃねぇか!」


「はっは!違いねぇ違いねぇ!どうだい?嬢ちゃん、俺と一杯」


「てめぇ!せこいぞ!?あの嬢ちゃんとの相席は腕相撲で一番強かったやつっつったじゃねぇか!てめぇドベの癖して誘ってんじゃねぇぞ!?」


「あ!?うるせぇ!!早いもん勝ちだ!早いもん勝ち!」


「んだとぉ!?」


「あぁ!?」


「やんのかぁ!?」


「上等だおらぁ!」


 


コエの部屋から出て、ギルドのロビーに行くとこの有り様である。


酷い。酷すぎる。見る目もない。


 


「っしゃぁぁ!!腕相撲大会俺の勝ちぃ!!あの子との相席は俺の者ぉ!!」


「ちっくしょぉぉぉ!!」


 


ベギッ!


 


「ってぇ!!おめぇ!やりやがったなぁ!!」


 


ボコッ!


 


「くそったれがぁ!!」


 


ズゴッ!


バキッ!


ドカッ!


 


 


 


 


「…」


「所詮、【青銅】ランクも【銅】ランクもこの程度だ。あまり気にするな」「ギルドマスター…」


目の前の惨状に対して唖然としていた俺は後ろから歩み寄っていたギルドマスターに声をかけられる。


 


「銀髪ロリ魔法少女は俺の嫁!!」


「ふざけんな!てめぇみてぇなブスにくれてやるもんか!」


「ふっ!どうだい?お嬢ちゃん。私と一緒に食事でもっぐぼぇぁっ!?」


「てめぇイケメンだからってでしゃばんじゃねぇ」


「おらぁ!」


「ぐはぁっ」


「喰らいやがれっ」


「ぐぁはぁぁっ」


 


「…ひっ」


 


口から悲鳴にも近い声が漏れた。やはりまだ男から異性として見られることに恐怖心があるようだ。


俺はとっさにギルドマスターの背中に隠れる。


 


「あ!もしかしてその子ギルドマスターの隠し子かぁ!?」「相手誰だよ!相手!コエちゃんか!?コエちゃんなのか!?」


「ギルマス!お前元から子持ちだろ!?不倫か!?」


 


すると今度はギルドマスターに目標ターゲットが移る。ちらりと彼の顔を覗くと髭まみれのその顔は異様なほどにひきつっていた。


 


 


…そしてついにその口が開かれる。


 


「おい…てめぇら…舐めた口聞いてっと…殺すぞ?」


 


ギルドマスターの全身から殺気が溢れる。それはもう、どこぞ歩く破壊兵器がぶちギレした時に匹敵するくらいの。


 


「「…」」


 


その殺気に今までお祭り騒ぎだったロビーも一気に静まり返る。皆、顔を真っ青にして硬直してしまっている。


 


「なにが浮気してる白髪ジジイだこのやろぉ。お前らの酒代も生活費も、支給してやってんのはこっちなんだよハゲどもが。次にそんな口聞いたらリアルで殺るからな?あぁ、安心しておけ。ちゃんと事故死に見えるように偽装しておくし、手もうっておく。お前らが死んだところで俺には何も不利益が生じないようにしてやるからな?あぁ?」「「すんませんしたぁぁ!!!」」


 


ガラの悪い男も格好がチャラい男も、その気迫に押され皆一斉に頭を下げたのであった。


 


‐‐‐


 


「ただいまもどりましたー」


「あー!ティアーシャさんお帰り。…大丈夫?」


 


シーカー一家の旅館の裏口の扉を開けそこに倒れ込む。


出迎えてくれたのはシーカーの父親のジャックさん。


ここの旅館で働く人達と同じ格好をしていることから今は勤務中なのだろう。


 


「…あ、ごめんなさい。勤務中なのに」


「いや大丈夫ですよ?今からちょうど休み時間でしたから」


 


ジャックがそっと微笑みかけてくれる。


 


「…で、ギルドの件はどうなりましたか?」


 


そして表情をいささか不安げなものに変えて聞いてきた。俺はズボンのポケットからステータスプレートを取り出し、ジャックの方にかざす。


 


「銀ランクでした」


「…銀…ランク……?」


「はい」


 


次にジャックは俺のステータスプレートを見ながら硬直した。


「なんでも、【コブナントスパイダー】を倒すのにかかった時間が短かったのと、戦闘スタイルが評価されたみたいです」


「【コブナントスパイダー】まで倒したんですか…」


 


ジャックが唖然とした表情で俺を見つめてきた。


 


「なら今晩はご馳走を作らなくてはなりませんね。…どうします?お疲れのようですし、お風呂にでも入りますか?」


「…じゃあお言葉に甘えさせていただきます。…あ、そういえばリーコさんはいますか?朝から姿を見ていないのですが…?」


 


朝、俺と会ったのはジャックとギルドまで道案内をしてくれたシーカーだけだった。


 


「ああ、リーコは夜の当番なので今は寝ていますよ?起こしてきましょうか?」


「あ、いえ大丈夫です!」


 


まだ女流の風呂の入り方になれていないからリーコに助けてもらおうとしたのだけれど…寝ているのを起こすのも悪いからな。自分が覚えているだけの知識を振り絞って入るとしよう。


 


 


‐‐‐


 


 


「…ぃしょ」


 


剣を腰にさすのに使っている疑似ベルトを外してから髪につけているヘアピンなどを外す。


 


「…ナーサ…」


 


このヘアピンも、おさげをまとめるビーズ状の物も。全てナーサからもらったものだ。


俺の存在を認め、助け、支えてくれた大切な人の証。


最後は俺の思いとあの人の思いが衝突したけれど、あの人が、ナーサがこの世界での俺の原点、母親だ。


 


「…絶対に楓を連れて会わせにいくから。…待ってて」


 


まだこの世界と俺が元いた世界を繋ぐ方法はわかっていない。けれど、その方法が存在することは【解析者】が教えてくれた。


 


『…アナタナラデキマス。諦メズニ、例エ挫折ヲシテモシッカリト己ノ道ヲ進メバキットデキマス』


 


「…ああ、だな」


 


けれど俺は強くならなくてはいけない。


チートも、特別な能力もこれと言ってないただの吸血鬼だけど…


 


「俺は強くなる。なって楓に会いに行く」


 


決して簡単な道のりではないだろう。楽な道のりではないだろう。そこに辿り着くまでたくさんの悲しみを、絶望を目の当たりにするだろう。


でも俺は諦めない。


 


「待ってろよ、楓。兄ちゃんが会いに行くから」


 


ぐっと、ヘアピン達を握り締めた。

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