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第21話 吸血鬼と吸血鬼

―現状最弱の吸血鬼に転生したのでとりあえず最強目指して頑張ります!―





season 2 †吸血鬼†










ナーサと別れてからしばらくして、食料や装備を整えるために俺は森に入って近くの街、【コルミヤ】へと向かっていた。

ここの森、【解析者】によると【コルミヤ大森林】と言うらしい。


森に入った訳は、木々の葉による天然のカーテンにより日差しを大幅にカットできるから。…とは言っても基本的には夜に移動して昼に休憩をするような生活を送っているから大して日光の影響はないのだが…。まぁ、家がない今、寝ている間に灰になってましたなんてことになったら笑い事にならない。


『…近クニ魔獣ヲ探知シマシタ。まっぷヲ表示シマス』

「魔獣…か、おけ。頼む」


次の瞬間、俺の目の前に次世代的なディスプレイが表示される。そこには自分の位置を表す印と、赤く表示された【敵対】の関係にある生物の印があった。


「…近いな。数は四体か?でも一体は動いてないみたいだし…」


『モシカスルト狩リノ最中カモシレマセン』


「ああ、なるほど」


俺がおさげをいじって悩んでいるところに【解析者】の一声。


「じゃあ行ってみるか。もしかすると漁夫の利が得られるかもしれないからな」


『了解シマシタ』


マップに写っている魔獣の位置をおおよそに覚えてマップを閉じる。

狩りに夢中になっている魔獣を倒すのも、襲われて疲弊している魔獣を倒すのも。どちらも普段よりも低リスクで高い利益を得られる可能性が高い。


俺は出来る限り足音を消して森の中を走った。






「あれ…か…」


『種族名【ワーウルフ】ヲ三体、確認シマシタ。残リ一体ハ目視ガ無イト確認デキマセン』


数分後、狙いの魔獣たちを見つけた。円形に陣を組んでいる薄灰色の魔獣、【ワーウルフ】。大きさは俺の膝あたりくらいまでしかなくどちらかというと犬に近いのかもしれない。

そしてもう一種類、おそらくそれを囲うようにして狼達は円上に自身達を配置しているのだろう。

ちょうどここからでは狼の影になっていてその姿を確認することはできなかった。


「まあいい。優先して狼を狙っていこう」


俺は腰に刺してある剣を引き抜いた。剣といってもそこまで長いものではなく、刃渡りは精々30センチ程、柄は獣の革のようなものをグリップのようにして巻かれている。

俺の恩人であり、この世界での俺の母親である、ナーサの、今は亡き戦友の吸血鬼、ティアーシャの愛剣であったこれを、同じ名を継ぐ者として今、俺が使っている。


「…っ…」


特別な装飾も、高貴な宝石も、高値が約束されるようなものでもないこの剣は、今や俺の愛剣になっていた。

俺にとっての初めての戦友…ってとこなのかも知れんな。


「…【雷電】」


剣を持っていない左手を指鉄砲の形にして、その人差し指を狼の一匹に向ける。

指先に魔力を集中させるとそこに黄色の小さな幾何学模様の魔方陣が現れ、その中心部から電気を纏ったビー玉サイズの玉が勢いよく発射される。


――バリバリッ!!


「グギャァァァッ!?」


それを受けた狼はその場で体を反らせて飛び上がり、体中を駆け巡る痛みと電気に悶え、辺りを転がり始める。


「ギャゥン!ギャゥン!」

「クゥ?」


そんな仲間のことを見て、『んだこいつ』と首を傾げている狼二体との距離を一気に詰める。


「はっ!!」


右手に持った剣を振り上げて、斜めに落とす。

まるで豆腐でも切るかのようにあっさりと、狼の首はその胴と離れた。


「ギャゥ!!」

「ぐっ…」


しかしその隙にもう一体が位置を変え、俺の脇腹にタックルを決めていた。思わぬ方向からの攻撃に体勢を崩してしまう。


「まず…」


重心を元に戻そうと、足に力を入れるがもう狼の鼻っ面は目の前だ。ここはあきらめて左腕を盾に…


「【投槍】!」

「ギャアゥン!!」

「ヴェッ!?」


目の前の狼の腹に黄金の、槍の形をした物が突き刺さり鮮血が飛び散った。

身構えていた俺の口からは思わず蛙のような声が漏れてしまった。


『種族名【ワーウルフ】、三体ノ死亡ヲ確認シマシタ』


「…えっと…」

「…」

「…」

「…」


剣を握り直して、俺は“それ”を見つめた。

燃えるような赤い髪の毛を、やや位置高めのツインテールにまとめ、金色の大きな目をくりりとこちらに向ける少女を。


「人間…?」

「じゃないよー」


ぼそりと呟くと少女はケタケタと笑いながら言った。

身長は俺と同じくらい…か。


「そんな君も人間じゃないんでしょー?」

「まぁ…」


俺は剣を鞘にしまう。


――【解析者】。こいつの解析を頼む。


『了解シマシタ。解析シマス…解析シマシタ。脳内ニすてーたすヲ表示シマス』




名前:シーカー


種族:吸血鬼【バンパイア】


特性:体力…28


   魔力…12


   攻撃力…15


   俊敏…11


   技能…5


耐性・スキル:『吸血耐性・スキル強化』『吸血強化』『夜目』『魅惑』『蝙蝠化』『飛行』『光耐性-Ⅸ』『水耐性-Ⅵ』『闇耐性Ⅲ』『魔力上昇Ⅱ』『満月強化Ⅱ』『近接攻撃耐性Ⅱ』『近接攻撃力Ⅰ』



―――――――――――――――


俺のは


名前:ティアーシャ


種族:吸血鬼【バンパイア】


特性:体力…27


   魔力…28


   攻撃力…15


   俊敏…16


   技能…2


耐性・スキル:『熱耐性Ⅰ』『光耐性-Ⅹ』『闇耐性Ⅹ』『水耐性-Ⅴ』『月強化』『吸血強化』『夜目』『吸血耐性強化』『空腹耐性Ⅰ』『修復能力Ⅰ』『魅惑』『近接攻撃耐性Ⅵ』『毒耐性Ⅰ』『壁歩き』『吸血衝動』『吸血強化Ⅱ』



だ。

順番や並び方の違いは習得した順なのだろう。


…シーカーっていうのか。

こいつも俺と同じ吸血鬼で…。ふむ、全体的にステータスは俺の方が上だな。シーカーにはまだ『吸血衝動』がついていないし…。


あと俺のスキルには『吸血強化Ⅱ』というものが追加されている。

あれだな、自分の腕を食って強くなるやつ。でも『吸血強化』とは別物みたいだな。



「私はシーカー。君は?」

「ん?あぁ…俺はティアーシャ。吸血鬼だ」

「奇遇だねー。私も吸血鬼だよ。…にしてもティアーシャは不思議だねー。そんななりして『俺』って」

「え?…あー、特に意識してなかったな…。おかしいか?」


確かにそれについて深く考えたことはなかった。確かにルントんとこの店の客にあった時は“俺”と言うのは避けていたけど…。


「うん、変」

「…」


さすがにそこまでストレートに言われると凹むぞ…。

仕方ねぇだろ、前世の名残なんだから。


「そんなかわいい姿して、俺なんて言ったら男に逃げられちゃうよ?」

「いや…なら好都合なんだが…?」


男が寄ってこないならいいじゃないか。

俺なんて数々の変態達に絡まれてきたんだぞ?


「でもダーメ。俺じゃなくて私にしなさい!私!」

「まだ会って数分のお前になぜ一人称の改正を要求される…?…。まあいい、そのことは置いといて、シーカーはなんであんな狼なんぞに襲われてたんだ?」


少なくとも最後の一体を仕留めたくらいの魔法が使えるのであればあんな狼三体くらい、簡単に倒せるのではないだろうか…?


「あー。えっとね…その…」

「?」


シーカーが雪のように白い顔を赤く染め、モジモジし始めた。


「…迷っちゃって…お腹空いて…魔法一回使えるかどうかわかんなくて…」

「…あ…はい」


そうか、俺には【解析者】特製のマップがあるけどこいつには無いもんな。

まぁ…迷うのも仕方ないのか…。


「…悪いけど今持ち合わせの食料が無いもんでな。ちょっと待てる?この狼焼くから」

「え…?い、いいの?」

「うん。俺も腹減ってたしな」


踵を返してシーカーの元を離れ、血まみれになって死んでいる狼の尻尾をつかんで再びシーカーの元に戻る。


「こらー。女の子なんだから、腹減ったとか言わない!お腹が空いたって言うの!」






「…。うぜぇ」









「…シーカーってどっかに住んでたりするの?」


俺は狼の毛皮を愛剣で剥ぎながら問うた。


―パチリ。火初級魔法【発火】で起こした薪が弾ける。


「あるよー。私は今日、茸とりにこの森入ったから」

「したら迷った、と。その様子からだと採った茸も全部食っ…食べちゃったみたいだな」

「お腹空いてたからね」


そう言ってシーカーは俺が下処理している狼を見つめた。その視線からは『早く食べさせろ』と訴えかけられている気がした。


「ちょっとくらい待てないのかよ…」


薪の中で軽く炙り、剃り残した毛を無くす。

そして次に内臓を取り出していく。ルントのところで教わった獣の解体の仕方が役に立ったな。ルントは解体の仕方を教えるときだけはやけに目を輝かせてたな…。

彼なりに、料理人のくせして幼女に料理を教えるどころか、逆に教わるという事態になって凹んでいたからな。自分が教える、というのは嬉しいことだったのだろう。


「待てないよー。生肉でいいから早く頂戴」

「腹壊すからだめだ。あと、俺は調理したのが食いたい」

「あー!また男言葉ー」


「…」


こめかみに青筋を浮かべつつ、下処理の終わった狼の肉を近くに落ちていた木の棒に突き刺して焼き始める。

時々、肉から滴る脂が火にかかりジュッという音とともに香ばしい匂いを舞わせていた。


「…で、シーカーは自分の家の場所わかるか?」

「いや、わからないよ。わかってたら迷子になったりしないよー」

「だよな…」


――【解析者】。シーカーの家の場所とかわかったりするか?


『エエ、ワカッタリシマスヨ。…少々オ待チ下サイ。――ワカリマシタ、ココカラ北北西ヘ四きろめーとる程、進ンダ所デス』


――ありがと。


四キロか、それじゃあ飯食ったらそこに送り届けてやろうかな。シーカーの親だって心配してるだろうし。


「ほら、焼け」

「ぱっ!!…はむっ!」


焼けた肉を串ごと持ち上げた刹那、それはシーカーの口の中に収まっていた。


「…俺の分…」


手に残る虚無感に、項垂れた。また一から下ごしらえしないとならないのか…。


「俺って言うのをやめたら分けてあげる。俺じゃなくて私って言って」

「…なんでお前が決めるんだよ…」

「ムシャ。ほらほら!はやくしないと無くなっちゃうよ?はむっ」

「うぎぎ…ぎぎ…」


時間が過ぎるにつれ、肉は小さくなっていきシーカーの胃袋に収まっていく。

このままだと、俺が新しい肉の下ごしらえを終える以前にエネルギー不足で倒れる。そうなれば食うものがなくなる。



どうする、考えろ…考えろ…。なにが今の俺にとって最善なのだ?




「…」

「はむっ…もぐっ…」

「…“私”にも分けてくださいお願いします」

「ごくっ…良くできましたー!はい、どうぞ」


最終的に、プライドを捨てた。


うまそうに肉を頬張るシーカーのことを見ていたら耐えられなくなった。



シーカーはちょうど半分程食われた肉をそれを突き刺した棒ごと差し出した。


「…いただきます。はむっ!!」


それを受け取り、すぐさま噛みついた。さすがに食用の肉のように柔らかく、いい匂いのする肉とはいかないが空きっ腹にはとても美味しく感じられた。





「んっんっ…ふぅ…」


しばらく無我夢中で肉を喉に押し込み続け、一度息をついた。


「…シーカーの町にこれから行こうと思ってるんだけど…さ。大丈夫かな?」

「え?なんで私の町なんかに?」

「いや、お前を送っていこうと思って。迷子だったんだろ?お…私はこの辺りわかるから」


【解析者】のおかげでだけどな。


「…ありがとう。じゃあそうさせてもらうよー。…着いたらお母さんとお父さんに頼んで泊まれるようにしておいてあげるよ」


シーカーはニコニコと微笑みながら言った。


「…いや、いいよ。これから【コルミヤ】に向かう予定だし」


【コルミヤ】はそこそこ大きな町らしい。

王様もいてお姫様もいるらしいのだ。





「じゃあもっといいじゃん!私の村、【コルミヤ】だよー!」





「…。……へ?」





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