表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/135

第17話 吸血鬼の日常は崩れ去る



「お疲れさん、助かったよ」

「…ん…どういたしまして…」


作業開始から二時間程経過し、俺はナーサの手伝いを終了した。

もうすぐ夜中ご飯(人間とは時間感覚が逆。人間でいう昼飯)の時間だ。そろそろ閉店時間であり、閉店すると俺の分の飯を作ってくれるのだ。


俺は人間と昼と夜の感覚…というよりは生活の快適さが逆転しているから、基本的にナーサ達が床についている時は一人だ。まあそうは言っても俺には人間臭くなった【解析者】もいるし話し相手には困らない。それに魔法の練習だってしなくてはならない。毎日の努力でその魔法そのものが強化されるというのは【風刃】で実証済みだ。


「…じゃあご飯食べてくるから…」

「うん、私はこれが終わったら寝ちまうから。お休み、ティアーシャ」

「…ん、お休み。ナーサ」

「…」


ナーサはそっと微笑んだ。

しかしその笑顔は本物の笑顔ではないのではないか、と俺の中で引っ掛かるものがあった。

けれど、まあ彼女に何かやましい気持ちがあるとは思えないので気にしないでおこう。





「うまそうな匂いだ…」


汚れた服を着替え、厨房の方へと向かうとルントの店の前にはうまそうな匂いが漂っていた。


「今日は何を作ってくれるのやら。楽しみだな」


相変わらずルントとその弟子達の作る料理の味はピカ一だ。おそらくそれも、彼らのチームワークの良さから生み出されているのだろう。


「っ」

「…。失礼。この辺りにティアーシャと名乗る者がいると聞いたのですが…お心当たりはございますか?」


とんっ、と肩に軽い衝撃。その後に背後から、低く響きのあれ声が発された。


「…誰だ?」


俺は手を払いのけて体を反転させる。


「いや、誠に悪いと思っていますよ。で、ご存知ありませんかな?ティアーシャと名乗る者を」

「…」


そこには、甲冑に身を包んだ兵隊のような格好をしている者が五人立っており一番近くにいる、俺の肩に手をかけていたであろう者は顔が見えるようになっていた。

一見、強面にも見えるその顔はきりりと引き締まった眉に生気の溢れる青色の瞳。高い鼻。短く切った金髪が覗いていた。アメリカンな顔立ちである。


「…ティアーシャって人に…何の用が?」


少なくともいい予感はしなかった。たかが話をする程度で兵士が五人もいるだろうか。

ここは別人を装って逃げるしかないな。


「はっはっはっ!面白いことを言いますね!あなたは!ティアーシャという『人』?あれが『人間』だというのですか!?」


「っ!?」

「おや、どうかしましたか?お嬢さん…いや…ティアーシャ」


「なっ!?」


この兵士達は知っている。ティアーシャという少女が人間ではない吸血鬼で、その吸血鬼が俺だということを。


「その様子だと図星のようですね。…さあ、我々と来ていただきましょうか」

「…」


悪い予感は確信に至った。俺はこいつらから一刻でも早く逃げなければならない。


「…だが断る」

「は?っうおぉぉぉっ!?」


【浮遊】で周囲の石ころを浮かび上がらせ、兵士達に一斉射撃をかます。


「はぁっ!!」


そして同じ魔法で地面を引っこ抜き、大地に叩きつけて土煙を起こす。


「くっ!吸血鬼風情が!全員!構えぇっ!!」

「「はっ!!」」


土煙で時間を稼いでいる内に、ルントの店へと向かう。もし中に入ることができればそこにいるであろう冒険者達がかくまってくれるはずだ。


「逃がすな!追え!」

「「はっ!!」」


しかし、しょせんはただの土煙。子供相手ならまだしも大の大人相手には大した効果は得られなかったようだ。


「【水球】!!!」


そして追いかけてくる兵士の一人が水初級魔法【水球】を放った。

そいつとの距離がたいして開いていなかったからか、それは俺の背中に命中。全身に激痛が走った。


「が…ぁっ!?」


そのまま、急に襲ってきた脱力感に負け膝をついてしまう。

息も切れ、体が動かなくなっていた。


「た…かが…【水球】…一発で…っ!?」


『吸血鬼ニ対シテ炎攻撃ト水攻撃ハ非常ニ有効デス。――魔法名:【水球】ニヨル多大ナだめーじヲ確認シマシタ』


「あ…が…ぐ…」

「哀れなものだなぁ。この程度でくたばるなど。それでも吸血鬼かっ!?」

「ぎ…あ…ぁ…」


動けぬ俺を顎をしゃくりながら近づいてくる顔の出ている兵士。そしてそいつは俺の首根っこを掴み、持ち上げた。


「吸血鬼はモンスターだ。排除せねばならない。そして、人間に紛れ、生きようとした罰として最も残酷な罰をやろう」

「ひ…ぁ…ぅ…」


掴んでいる手を引っ掻いたり、全身でもがいたりしてみても甲冑につつまれているせいもあり、対した効果は見られなかった。


「ぅ…ぁ…」


やがてその手にも力が入らなくなり、世界が歪み始める。両面からは苦痛による涙が溢れていた。


「吸血鬼には生きる価値などない」


そんな言葉を最後に、世界は閉ざされた。


意識を失う寸前、瞼の裏に母さんと父さんの姿が見えた気がした――。




‐‐‐



「…ややこしいやつだ。なぜこんなやつが選ばれたというんだ…」


己の少してかりのある、紫色の髪の毛を弄りながら膨大な数の書類一枚一枚に、アダマスは目を通していく。

この書類には人生を終え、また新たな命を授かる『転生者』についての情報が記されている。『転生者』といっても、死んだ者全てがいわゆる『転生』をするわけではない。

数多の神々によって、一生を終えた全次元の生物から抽選によって『転生』させる者を選ぶのだ。

そしてその『転生者』に命を与え、導く神々の中の一柱がアダマスであった。


「…幼少期に殺害履歴あり…。被害者は…実の母親の再婚相手…と」


今回、彼女が受け持った者の前世での名は『荒幡ススム』という。


「何に転生させるか…。…、よし…履歴からもこれでいいだろう」


アダマスは羽根ペンのような物をインクボトルに浸し、滴ができないように軽くその容器の縁で払うと書類に文字を刻んでいった。


「…っ…。そうだな、この種族では何も知らない世界で生きていくことは困難だろうからな。こいつをつけてやるか」




そう独り言を呟きながら、彼女は更に書き込みを続けていった。



‐‐‐



「…ぐ…」


ぐったりと全身が重かった。うまく体も動かせなかった。


「お…。目覚ましました!」

「…」


いまだに掠れている視線の先には甲冑の顔の部分を開け、口に手を当てて叫ぶ兵士がいた。


「…ぐっ…あああぁぁぁぁっ!?」


体を無理矢理動かそうとすると、ガチャガチャと鉄同士の擦れる音が聞こえた後、全身に激痛が走った。


「無駄無駄、お前はそれに磔られてんだからよ。やめとけやめとけ」

「ぐぁぁぁっ…はぁ…はぁ…」


しばらくして、激痛が収まった。代わりに異常なまでの倦怠感が体を襲う。


――【解析者】…。何がどうなって…


『…』


――【解析者】?


『…』


「くっ…」


【解析者】の声が聞こえない。黙っているという訳ではなく、【解析者】のいた空間そのものから【解析者】がいなくなってしまったような感じだった。


「【風じ…】がぁぁぁぁぁっ!?」

「だから大人しくしろって」


【風刃】さえも使えない。使おうとすると、再び激痛が駆け巡る。


「~~っ!!はぁっはぁっ…はぁ…」

「…その様子だと相当参っているようだね」


カツンカツンと足音を響かせながら、もう一人。兵士が現れた。俺のそばにいる兵士と同じような甲冑を…。いや、新しく来た方が甲冑に宝石のような物が散りばめられていて豪華だった。


「ターミシャル様!まさかあなたが直々に来られるとは!」

「いやなに、私もこの穢れた吸血鬼がどんな悲鳴を上げて助けを求めるのか聞いてみたくてね」

「…変態野郎が…」


わざと相手に聞こえるように呟く。


「変態…野郎?」


ターミシャルと呼ばれた男は怒りを現れにしていた。声を震わせ、手で拳を作った。

どうやらかなり自尊心の高い奴らしいな。


「…人が苦しむのを見たい?そんなの…ただの暴虐じゃねぇか…」

「ふん、この私が暴力でこの地位を得たとでも言うのか?それに…私は人間が苦しむことを見たい訳じゃない。私は“吸血鬼”である貴様が苦しむのを見たいだけだ。吸血鬼は人間じゃない」

「んだとぉぉっ!!??」


両腕を左右に広げて、嘲笑を浮かべるターミシャル。

そんなこいつが、俺を人間として見ないこいつが、俺の殺意を掻き立てた。


「あぐぁぁっ!!」


けれど、その殺意は体を襲う激痛によって阻まれてしまう。


「…くそ…くそっ!!!」


目の縁から、滝のように涙が溢れてきた。そのせいでターミシャルの顔が…、全てが歪んで見えた。


「ふぅん、吸血鬼にも涙腺はあるのですねぇ。ま、結局は人間の皮を被った吸血鬼だ。裏を返せば血に飢えるただの化け物になる。…人間を恐怖に陥れる…な」


ターミシャルは踵を返してもと来た道を戻っていった。見張りの者もそれに続いていく。


「俺は…一体なんなんだよ…」


薄汚れた石のタイルにいくつものシミが出来上がる。


「…ナーサやルントが特殊なだけなのか…?」


ナーサは過去に吸血鬼の戦友がいた。

その吸血鬼と立てた誓いに従って俺を今まで養ってくれていたのだ。ルントだってナーサの説得を聞いて俺と一緒に住まうことに対して首を縦に振った。


じゃあ、もしナーサと彼女の古き友であった吸血鬼が出会っていなかったら?

俺が彼女に吸血鬼だとバレていた時点でこんな目に逢わされていたというのか?

結局は、そうなんだ。吸血鬼は妬み嫌われているんだ。それと同時に俺も妬み嫌われている。


いくら俺が周りに尽くしたところで俺に対する視線は変わらない。モンスターとして、化け物として見るその視線は何も変化しない。


「…俺は…俺は…」


俺が何をした?俺は盗賊から己の身を守っただけだ。決して、人間に危害は加えていない。


なのになぜ、俺はこんな目に逢わないとならないのだ?

確かに人間に害を為した者は例えそれが人間であってもそれ相応の罰を与えるべきだ。

なのに、俺は…俺は…なぜ…。



「殺されないといけねぇんだよ…」

よいお年をっ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ