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現状最弱の吸血鬼に転生したのでとりあえず最強目指して頑張ります!  作者: あきゅうさん
外伝第2章 美しきにも毒はある
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外伝2-2 邂逅


「ちょっと老けた?ティール」

「馬鹿言え、俺はそもそも老けねえよ」


ティールはちょいと肩を竦め、苦笑混じりに鼻を鳴らした。

トコル。小人族と人間を半々に持ち、体格はその産まれ故か十歳程度の子供と同じ程の女。

鍛造や武器の製造・開発に秀でており、ティールの愛用している短剣も彼女が自ら作った物である。他にもこの世界に普及している銃火器の数々や、工事用具など、知らぬ者はいないであろう道具の数々を彼女は生み出してきた。


「どうよ、店の方は」

「食べて行けるだけの分は稼いでるよ。後は又甥の面倒見に使うようだね」

「とか言って、相当貯め込んでる癖に」

「あ、バレた?」


トコルは小さく舌を出し、自身の頭を軽く小突いて見せた。どうやらお調子者の性格は、ずっと昔から変わっていないようである。


()()()は元気か?」

「もう手に余るくらいには元気だよ。あの子からしたら相当な東縁だろうに、何の疑問も持たずに工房を走り回ってるよ」

「俺も……血は繋がってないけど又甥に……なるのかな?」

「でも出来た子だし、歳以上にしっかりしてる。オマケに神聖力も少し使えると来た。……君の妹に似たのかな……」

「……神聖力を……。凄いな、色々と終えてやろうか?」

「でも会ったこと無いでしょ。今度合わせてあげるよ」


工房は様々な工具やら道具で散らかってはいるものの、鋭利な物や刃の着いているものはキチンと片付けられている上に、機械や設備の角にはクッション材が貼り付けられていて、小さな子供がぶつかっても大きな怪我にならないようにされていた。

口には出さない、彼女なりの配慮なのだろう。


「で、その子が連絡に書いてあった?」


そう言ってトコルは小首を傾げながら、こちらに歩み寄ってヘイゼルの足元からその顔を見上げた。

ヘイゼルは少し困ったようにトコルとしばらくの間目を合わせていて、助けを求めるように尻目でティールの方に視線を動かす。しかし彼女は後方で腕組みをして二人を見守っていた。

思えば、ティールと出会ってから、殆どの事を彼女に任せてきた。いづれ彼女の元を離れる身として自分の事は自分でやらねば。ヘイゼルはそう思い立ち、ゆっくりと口を動かした。


「は、初めまして。ヘイゼルです」

「お、初めまして。ヘイゼルちゃんね、話は聞いてるよ~」


トコルが差し出した手を、ヘイゼルは少し膝を曲げて両手で掴んで握手する。


「この子は色々訳ありなんだって?ティール」

「そ、本人曰くほとんど記憶が無いらしい。だから俺も詳しくは知らない」

「……へぇ……」


トコルがジロジロとヘイゼルの顔を眺め、何かをブツブツと呟くので、ヘイゼルは小っ恥ずかしくなって思わず視線を逸らした。

そんな様子を見て、トコルは動物園に訪れて檻の中の動物を茶化す子供のようにカラカラと笑った。


「でも悪い子じゃあ無いことは目を見たら分かるよ。何か、大切な物を守ろうとしている。そんな目だよ」


何か大切な物?ヘイゼルは首を傾げた。

もちろん言うまでも無く、ティールやソウカ、ヴィオラなどの関わりのある人達は大切な存在だ。だが、そのどれも今のヘイゼルの力を借りずとも勝手に生き抜いていくような者達だ。それ以外で何か守ろうとしているものはあっただろうか……。


「今日はこの子の武器を作るんだっけ?」

「うん。ヘイゼルが使うのは短槍と弓。どちらも体に合うのが家の倉庫に無くてさ」

「ティールの家の倉庫も相当年季入ってるしねえ。……それとティールも短剣、整備でしょ?」

「お、ご明察。……というか前に言ったっけ」


ティールは腰のベルトから鞘と短剣を外し、トコルに手渡した。彼女はそれを受け取ると、まるで何年も会っていなかった子供と再開でもしたかのように柔らかな表情を浮かべると、鞘から抜いてその刃の表面を極限まで目を近づけて観察し、次に柄に巻き付けてある革の具合を見て、最後に刀身と柄の接合部を軽く触り、再び鞘に戻した。

そうして近くの作業台に短剣を起きながらトコルは満足気な表情をこちらに向けて言った。


「うん、よく手入れされてるね。刃こぼれもしてないし。少し傷が目立つのと、強いて言うなら柄と刃の接合部が若干グラついてるくらいかな。今日は刃研ぎとそこの簡単な整備だけしておくよ」

「助かるよ」

「ティールの短剣はすぐ済みそうだから先に終わらせてしまおうかな。その後でヘイゼルちゃんの武器は作ろう。しっかりと体のサイズにも合わせてね」

「あ、ありがとうございます……」

「もう始めちゃっていいかな?ヘイゼルちゃんは暇だったらここの工房の中を適当に歩き回っていてくれても構わないし、二階のベッドとかで寝てても大丈夫だよ」


トコルは頭に着けていたゴーグルを下ろすと、短剣を持って近くの椅子に腰を下ろした。


「邪魔で無ければ近くで見ていても大丈夫ですか……?」

「お、何?鍛冶師希望?全然構わないよ!今日は大して特別な整備をする訳じゃないけどね」


そう言うと彼女はもう一つ自分の脇に椅子を置き、そこへ座るようにヘイゼルを促した。

ヘイゼルも興味津々な顔でそこへ座り、輝く眼差しでティールの短剣を眺めていた。


「ティール、神聖力を」

「ん」


トコルが小突いた短剣の位置にティールが指先を当て、そこから神聖力を流し込むと、まるで剣と彼女が共鳴するかのように淡い黄金色になって輝き出した。


「……わあ」


その幻想的な光景にヘイゼルは思わず感嘆の声を漏らす。神聖力の注がれ、光を放つ剣を観察していると、その表面に木の木目が薄らと浮かび上がっている事に気が付いた。

そして所々に目立っていた表面の傷は、少し時間が経過すると、その光に飲まれ跡形もなく消え去ってしまう。それはまるで、剣が生きているかのように。


「ティール、止めて」

「ん」


神聖力を注ぐのを止めても、すぐにその輝きは失われず、仄かな光を剣身は放っていた。

トコルはその剣を手に取ると柄の方に頬を当て、目をギリギリまで近づけて剣の表面を睨みつけるようにして観察する。そして作業台の隅に置いてあった砥石を手に取って目の前に置くと、ゴリゴリと力を入れて剣先から順に刃を研ぎ始めた。


「……この剣、もしかして木ですか?」

「ご明察。神聖力を良く蓄える、とある木で作った剣でね。木の柔らかさもあるし、鉄以上の硬度もある。オマケに意識して神聖力を流すと小さな傷だったら直るのさ。……ただし木の成長が始まって刃が無くなるからこうやって研いでもらわないといけないんだけど」


こうやってトコルが剣をといでいる様を見ていると、到底その材料が木であるとは信じ難い。しかし、研石から出ている粉は紛れも無く木のものであるし、それによって放たれる匂いも、新築の家のような、優しい木の匂いであった。

時折水をかけ、刃の研ぎ具合を確認しては研ぎを繰り返す事数分。見違える程にその刃が美しく輝くようになったその短剣に、トコルは軽く息を吹きかけて表面に浮かんだ粉を払う。


「流石は大樹から貰った木で作っただけあるね。この頑丈さ、鉄にも劣らぬ切れ味。研いでるだけでよく分かるよ」


柄に巻き付けてあった白色の革を丁寧に剥がすと、長さを合わせた新しい革を取り出し、へたりが起きにくいように隙間を詰めて力強く巻いていく。

この短剣を手に持って使う事は殆ど無いため、別に特段革を巻く必要は無いのだが、やはり腰に刺して見える部分であるが故、それなりに見た目は整えておいた方が良い、というのがトコルの言い分ある。


「この短剣、どういう仕組みなんですか?……中に何か特別な仕組みがある訳では無いですよね……」


ヘイゼルが目を細め、トコルの手元を眺めながら問いかける。確かに外見上は普通の短剣と何ら変わりない。特別な機構や装置が備わっている訳でも無いだろう。それにヘイゼルやヴィオラが魔力を注いだ所でピクリとも動く素振りは見せなかった。


「口で説明するのは難しいんだけど、実はこの短剣の中は空洞でね。中には私が特別に作った()()()()()()()液体を入れてるんだ。だから、ティールの魔力を覚えた液体が内部で剣を引っ張り自由自在に操れるって訳。魔力を流すとこの液体は重量も摩擦も慣性も、一切の外からの力を受けなくなる。魔力を通していない時は中で固化して動かなくなるから普通の剣としても使えるわけだね」

「……??????」

「……??????」

「何で何十年も使ってる本人が仕組みを理解してないの?」


ヘイゼル、そしてティールが頭上に『?』を浮かべて回しているのを見て、トコルは苦笑を浮かべ、再び視線を剣の方へと戻した。

確かに武器の開発や、製造に携わっていない人間が、この機構を理解しようとするのは中々容易では無いだろう。それに、決して製造が簡単という訳では無く、何度の試行錯誤を重ねてようやく作るの事の出来た屈指の力作なのだ。メンテナンス程度なら訳ないが、もう一度新しく作ってくれ、と言われたら同じような使用感で作るのはトコルにも不可能かもしれない。


「はい、出来た。大した事はして無いけど、一応確かめてみてよ。万が一不備があったらすぐ直すからさ」


柄の皮の端をはさみで裁って、仕上がった短剣をティールに手渡す。彼女はそれを受け取ると、手に負荷のかからないよう軽く握って振るい、その握り心地を確かめた。

そして満足気に一人頷くと、今度はおもむろに剣を手から離し、魔力を流してその挙動を安定させる。

魔力を注いだ事により中の物質が液化し、空中で静止する事によって剣が浮いたように見えている。そこへティールが軽く指先を動かすと、それに呼応するかのようにして剣は彼女の周りをペットの如く回り始める。


「問題無さそうだね」

「ああ、いつも助かるよ」

「そしたら次は君かな」


惚けるようにして剣の動きに目を取られていたヘイゼルは、急に自分に話が振られてハッと我に返った。

気が付くとトコルはどこからともなく取り出して来た幾本かの木の棒を作業台の上に広げ、その内の一本を手に取ってヘイゼルに渡した。


「確か短槍を使うんだったよね?まずは柄の長さを決めたいからその棒を片っ端から振るってみてよ。そこから合う長さと太さを決めよう」

「は、はい!」


いよいよ自分の番。まさか本当に一から作って貰えると思ってもいなかったヘイゼルは目を宝石のように輝かせると、それまで腰掛けていた椅子から立ち上がり、一本一本手の感触を確かめながら棒を振るい始めた。


ティールはそんな彼女らの姿を微笑ましそうに見守っていたかと思うと、おもむろにふらりと店の外へと出ていってしまった。

物音一つ立てずに出て行った為、作業に集中している二人は気付く余地も無い。


「……ふう」


店から一歩出ると街を歩く人々の熱気が全身に当たり、ティールは思わず息を吐いた。

家族連れ、商人、小さな子供。そんな活気溢れる人々の群れの中から、元々戦闘狂であるティールの神経を逆撫でする雰囲気の持ち主がいる。


「そんな殺気立てんなって。落ち着いて座ってもられねえ」


ティールが尻目で横を見ると、そこには店の壁に寄りかかり腕を組みながら不敵な笑みを浮かべてこちらを見ている一人の女がいた。

燃えるように真っ赤な癖のある髪の毛を腰辺りまで伸ばした女。口からは笑みが溢れ半月状に割れ、鋭い犬歯が覗いている。

どうにもその姿には見覚えがある。唯一違うところといえば、片腕が見慣れない金属製の義手となっているところだろうか。


「ウゥルカーナ、だっけか」


その名を口にすると、女は表情を変えぬまま、眉をぴくりと持ち上げた。

ウゥルカーナ。またの名を『剛腕』。ヘイゼルとティールが初めて出会った時に傍にいたのが彼女であり、以前一度拳を交えている。その際は、ウゥルカーナがティールに敗れ、片腕を失っていたのだが。


「覚えていたのかい、アタシの事を」

「忘れたくても忘れねえさ。あれが俺とヘイゼルの出会いだったんだからな」


ティールはようやく踵を彼女の方へと向け、お互い正面に向かいあった。ティールは手を腰に刺してある整備したての短剣へと伸ばし、ウゥルカーナの方は手を握り、お互いに応戦の準備は出来ていた。


「……」

「……」


睨み合う事数分。


「……ふっ」


ウゥルカーナが溜め込んでいた息を吐き出した事によって、張り詰めていた緊張は解け、お互いに臨戦態勢を解いた。


「今は辞めておこう。こんな往来のある場所で戦ったって、注目を引くだけだ。俺もお前も、何も利益は無いだろうさ」

「意外と分かるじゃねぇか。アタシも殺り合うためにここに来た訳じゃない」


そう言うとウゥルカーナはずいと距離を詰め、ティールに耳打ち出来る程まで近付いた。


「お前に教えてやる。この国には今、『剛腕』『業障(ごうしょう)』『寛解(かんかい)』『繁茂』がいる。……どいつも『悠久』を狙ってな」

「……お前達が『悠久』を狙うのはあいつの力を奪う為か?」

「……へえ、気付いてたか。まあ、アイツが本能的に心臓を食らっているのを見ただろうから、気が付くのも時間の問題かな」


ケッヘッヘ、と嫌味な笑い声を上げる。


「……何故それを俺に?お前らにとって、あの子を守る俺は邪魔な存在だろう。伝えて一体なんのメリットがある?」


目を動かさずに言うと、ウゥルカーナが無理矢理視界に入り込むようにして言った。


「無論アタシ達に協力関係は無いからだ。アタシ達が徒党を組んだところで、結局その心臓を奪い合うだけだからな。……それに、アタシはどちらかと言うとアンタに用がある」


声色が一気に落ちた。

ウゥルカーナは鉄になった自分の腕を持ち上げ、ティールのきめ細やかな白髪をその手で撫でて見せた。


「この腕の借りは、変えさせてもらう」


そう言うとウゥルカーナは素早く体を引かせ、二人の間に三歩程の距離を取り、おちょくるようにして肩を竦めさせた。


「だが今日の所は置いておこう。アタシも本調子じゃないもんでな。……今日は本当にこれを伝えに来ただけだよ」


そう言って身を翻し、人混みの中に消えていこうとする彼女の背中にティールは問いかけた。


「ウゥルカーナ、あの子…………『悠久』は、一体何者なんだ?」

「………………もし、アンタらがこの国から生きて出られたとしたら」


彼女は続けた。


「海の底にでも、答えを知ってる奴がいるだろうさ」


「……………………は?」


そうして、彼女の姿は街を闊歩する人混みの中にフェードアウトしていった。

街の中は色とりどりの装飾を施されているというのに、ティールはその世界がまるでモノクロになったかのように見えていた。




外伝も2部目に入ったのでおさらいがてら少しずつキャラ紹介を行っていきたいと思います。


ティール:本名はティアーシャ、彼女の母親と同名の為区別出来るようこの名で呼ばれている。

外伝では本編より100年以上経過しており、それゆえ性格も成熟しかなり落ち着いている。感情の起伏は少なくなったものの、男的な口調は未だ治っていない。

髪は親譲りの絹のような銀髪で、透かしてみると薄らと赤色が混じっている。以前は時折髪を結ぶ程度だったが、頭は殆どをハーフアップにして過ごしている。本人曰く肩が軽いらしい。

度重なる魂への干渉を受け、体の操作に時折不具合が出る。現在は手に力が入らない悩みを抱えている。その為冒険者業を引退し、自ら建てた学園で教鞭を取っている。

武器はトコル手製の短剣を好んで使い、魔力を流す事によって浮遊させて使う事が出来る。


追記:5/6修正を行いました。『黎明』→『繁茂』。

変更理由:『黎明』がエルティナの扱う錫杖の名前と被っていた為。

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