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第11話 吸血鬼は怒る

「俺、雑魚モンなのか?」


新しく生え変わった腕を見つめて呟く。


『マア、ホンノ少シ防御力ノ高イ雑魚もんすたーデハナイデショウカ?モット上位ノ魔物ハ、傷ヲ再生スル以前ニ傷ヲ負イマセンカラ』


「あらま」


そういう奴らをぶった押すのに聖剣えきゅちゅかりう゛ぁー!とかなんならが必要なのな。なるほどなるほど。


「…、よし。腕もなおったし。行くか」


『エエ』


俺は全力疾走で家の中に戻り、日傘を取って再び外に出た。


___


「意外に活気溢れた町なんだな」


『イイコトデハナイデスカ。活気ガアルコトニ越シタコトハアリマセン』


「んん…まあな」


というのも俺は昼よりも人が少ないことを期待していたのだ。そうなれば人目にはつかないし、なにより伸び伸びと散策できる。だが、現実はそう甘くない。




視線が痛いわ。




さっきからよ、「かわいい」とか「萌えー」だとか「将来の嫁にするわ」とか言って隣にいる彼女にぶん殴られてるやつとか。とりあえず視線が集まってくるのだ。

それはまるでアキバをさ迷うオタクのようだった。


正直のところやめてほしい。俺の中身は男なんだから。俺にモテたくないし見られたくもない。


「はぁ…」


『オ疲レノヨウデスネ』


「これだけ熱い視線を向けられて疲れない方がおかしいっつーの。それに俺は基本、人に話しかけなかったし、話しかけられなかったからな。こういう風にジロジロ見られることにゃ慣れてねぇんだよ」


俺が話す相手といえば、妹と会社の後輩である新橋くらいだったと思う。俺が就職決まって、一人暮らしを始めてからは中々妹に会う機会も無かったし。…そう言えば俺、新橋が入社してくるまで誰と話してたんだっけな。


「まあいろいろあったのよ。地味で目立たない生活を営んだほうが楽で快適だしな」


『デスガ今ノアナタニハソンナ望ミ、カナウ余地モアリマセンネ』


「うっせ」


【解析者】はこうやって時々辛辣になる。


「なあ【解析者】、お前に今の俺って………ん?」


何かが聞こえた。黄色い声の中に一つ。それとは異なるものが。


――ぇんだよ!


――て…


――…れよ!




「…これは…」


『解析シマス…解析シマシタ。ココカラ約100めーとる程北西方向ニ進ンダ場所ガ音源ト思ワレマス』


「…わかった。行ってみよう」


ほんの一瞬、それも言葉の意味が聞き取れた訳でもない。ただ無性に気になって仕方なかった。


忘れもしない、俺が前世で遇ったことを…。




「あっち行けよ!」

「きめぇーんだよ!」

「ごめんなさいっごめんなさいっ!」


夕方から夜へと変わりかけている橙色の空の下に少年の嘆きが響き渡る。


「…やっぱりな」


複数人でそれ以下の者を見下し、手を上げる。それが物理的でなくて言葉だけだったとしても、俺はやってはいけないことだと思っている。


「あ?…っぷ!ぎゃははははっ!おい見ろよ!白んぼがこっち見てんぞ!?」

「っははははっ!なんだ?お前も苛めてほしいのか!?あぁ?」


その正体は俺が服屋の帰りに出会った三人組であった、『アンジャイ』『オスネ』『タノビ』(全て仮名である)だった。何か気に入らないことがあったのか『アンジャイ』と『オスネ』は『タノビ』のことを一方的に殴ったり蹴ったりしている。



「…弱いもの苛めが好きだな。親の尻にへばりついて、自分の物でもない権力を矛にして…ったくなにしてんだか…」

「あぁ?なんつった!?もういっぺん言ってみろよ!」


まずいな、『アンジャイ』を刺激してしまった。

人に暴行を加えることになんの躊躇いも持たぬやつだ。もし俺がターゲットにされたらかなりマズイことになる。


「とりあえず、弱いもの苛めはやめな。…後で痛い目みるから」

「んだとぉ!?」


『アンジャイ』が全力でこちらに飛びかかってくる。あわてて横にジャンプして避けるも日傘が『アンジャイ』の通過した時の風圧で吹き飛ばされてしまう。


「あっ」


まずい、あれがないと俺は灰になる。仮に助かったとしてもただでさえ面倒くさいこいつらに正体が知られてしまう。


どうする?


「くっそ!よけやがった!」

「?」


『アンジャイ』の言葉で我に返る。自分の体を見回してみてもどこも灰になっている様子はない。


『太陽ガ完全ニ落チマシタ。コレナラバ灰ニナルコトハナイト思ワレマス』


――まじか、あっぶね。超ラッキーだったな。


俺は胸を撫で下ろし、『アンジャイ』に向かい合う。

しかし、俺の視界には『アンジャイ』が写っていなかった。代わりに小石が俺の眼中にまで迫ってきていた。




「あがっ!!!」




次の瞬間、視界が赤で覆われたのだった…。






――ピンポーン


いつもは軽快に聞こえるインターフォンの音が、今はとても重々しく低くなっているように感じる。

私は通話ボタンを押してそのモニターを見やる。


「…はい」

『警察の者です。荒幡ススムさんのことでお話があるのですが…』


シャキッとした真っ黒なスーツに身を包んだ浮かない表情の警察の男性がモニターに写っていた。


「…どうぞ。鍵は開いています」


そう言ってもう一度通話ボタンを押し、モニターの画面を消す。そして次に玄関の方からガチャリと音がし、警察の方が入ってきた。





「早速、本題に入らさせていただきます」


その人を応接間に通し、私も一緒に席について息を飲んだ。


「お兄さんが亡くなられたのは事故だと、私どもはお伝えしました」

「えぇ…」


お兄ちゃんはお酒を飲んで酔っ払っているところを車に引かれたのだとそう伝えられている。


「しかし、司法解剖や現場の鑑定から事故以外の可能性が明らかになりました」

「え?」

「ひき逃げでしたから、調査を続けていたのです。そしてわかったことは…」


一秒かかる時間がとても長く感じられた。


「お兄さんは殺意を持って殺された。つまり殺害されたのです」






「えっ」








空気が凍りついた。




‐‐‐




「っはぁっはぁ…」


『体ノ損傷ヲ確認―再生シマス』


「ひっ!あ、あれ!さすがにヤバイって!」

「おおお俺だってわざとじゃっひぃっ」

「…」


目が潰れた。比喩なしに。至近距離で小石を投げつけられ、偶然…か、どうかはわからないがそれが俺の目玉に直撃した。

しばらくは視界が真っ赤だったが今は片目だけ光すら感じなくなっていた。


「おい…やってくれたな?」

「ひっ」


この様子は本当に偶然らしいな。

まあこのまま軽く脅して帰って貰うのが手っ取り早いが、それではまたこいつらは弱いものを苛めるだろう。

権力的な強者が弱者をいたぶる理由。それは強者が弱者の持つ痛みや苦しみを知らないからだ。

だとしたらそれを変えさせる方法は意図も簡単だ。


こいつらに痛みを教えてやればいい。



「痛みを教えてやる」


俺は無詠唱で【風刃】を使う。血に染まった俺の右手から放たれた風の刃は空気を切り裂き、二人の腕を軽く切る。


「「ぎゃあああっ!?」」


ほんの軽い傷であるのにも関わらず、二人は絶叫し悲鳴を上げた。


「その程度で嘆いてどうする…、その子が負った痛みや苦しみはそんな程度じゃない!」


俺は二人の方に力強く一歩、踏み出す。


「くっくそっ!覚えてろよっ」

「お父様に言いつけてやる!」



こうして『アンジャイ』と『オスネ』は撤退してくれた。


「ふぅ…」


『修復ガ完了シマシタ』


「ん?あぁ」


目元についている血液を脱ぐって潰れた方の目を開ける。するともうすでに真新しい目玉ができていて見えるようになっていた。


「よし、これで目は…ぁ」

「…」


新しい目で辺りをぐるりと見回すと一人目があった。


そう『タノビ』である。


「…」


彼は目を見開き口をパクパクさせて絶句している。






見られた…。

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