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プロローグ ~サラリーマン、は転生する~

「くぅあー!やっぱ仕事帰りの一杯は最高だな!」


豆を食べながら、ぐいっと何かを飲む青年がいた。


「先輩、そんないきなり大丈夫っすか?」


それに軽く目をやって声をかけるまたまた青年。どうやらこちらの方が身分は下のようだ。


不思議なものだな。身分の高い者が身分の低い者に注意されるなど。


「いいんだよぉ!おらぁなあ、酒さえ飲めりゃそれでええんだよ!」

「なんか脱サラした後、失敗したおっさんみたいっすね」


脱サラ…というのは何だか知らんが、まあ…この青年らの冒険のようなものなのだろうか…?


「よっしゃー!とことん今日は飲むぞー!新橋!付き合え!」

「はぁ…」


ほお、この身分が下の者は新橋と言うのか。先程から見ているとこちらの方が頼りになりそうだな。


「おばちゃーん!生ビールおかーり!」

「はいはい、飲みすぎんといてよ?」


おばちゃーんという者にまで注意されている…、本当に大丈夫なのか?この青年。


それにこの…生ビールと言うのか?黄金色で容器の底から泡の出る飲み物は…一体どのように作られているのだろうか。なにやら人を麻痺させる効果があるみたいだが…。

麻痺薬だとしたら、この者たち。なぜ嬉しそうに飲んでいるのだ?

この者たちは…実験されているのか?






店を出た二人はゆっくりと歩いていた。新橋という青年がもう一人の男を抱えるようにして。


「なあーーつが~来たひにゃぁ…」

「先輩…大丈夫っすか?側から見れば完全に駄目サラリーマンっすよ?」

「あぁ?んなもん知るかぁ?ひーぐらしーないたーひにゃぁ!」


先程の麻痺薬の効果には個人差があるのか?

なにやら妙な呪文を唱えているが。


「じゃ先輩、俺はここで。…また二日酔いして遅刻したら課長に怒られるっすよ?」

「へいへい、あのバカ課長を怒らせないように気を付けまーす」






新橋と別れた後、青年はふらふらとしながら歩いていた。


「あ?」


その体を何かが照らした。パァーと音を出しながらものすごい勢いで突進してくる猪のような物によって。


青年はそちらに首を向けたが、次の瞬間その体は宙に舞った。






「いっつ…」


えっと…どこだ?ここは…。


沢山の本が敷き詰められた本棚がぐるりと囲うようにして配置された部屋。

社長がふんぞり返っていそうな立派な机に立派な椅子がその真ん中にあるが、誰も座っていない。


「…なんでこんなとこにいんだ?」


確か新橋と居酒屋で飲んで、帰ってる最中だったよな…。


「目が覚めたか」

「?」


誰もいないのに声が聞こえる。どこかにスピーカーでもつけているのだろうか。それらしい物は見当たらないが。


「よっと、お前の資料を集めるのに手こずってな」

「うおっ!?」


目をそらした隙に、一人の紙束を抱えた少女がその椅子に腰かけていた。


「いつの間に…?」

「えっと…なんと言ったか…。…これだ、荒幡あらはたススム…で合っているか?名前」

「…あぁ」


なんで俺の名前を?

それによく見たら、この子かなりの美少女だ。薄紫色の髪の毛をストレートに伸ばし、ヒスイ色の瞳をしている。黒色のローブを着ていてなんとも謎の多い少女。

少女は数十枚の資料を数秒目を細めて見つめると俺の名前を口にした。


「そうか、では荒幡。お前の詳細を言わせて貰おう。一応確認としてな。平成六年に東京都目黒区に産まれ……」


その後、少女が言う俺の経歴はピタリピタリと当たっていた。好きな食べ物から元カノの名前まで。


「そして二十四歳、後輩の新橋と酒を飲みその帰り道、くる…まに跳ねられて即死。二十四年と三ヶ月の生涯だったと」


少女は「疲れた」と言わんばかりに紙束から目を離しため息をついた。


「恐ろしい位に当たっているんだが…なんだ?俺は死んだのか?」


別に何か未練があったわけでもない。しかしせめてしっかりとした彼女くらい欲しかったな。

「ほぅ、死んだと聴いてそこまで反応がないのは初めてだ。なかなかお前、度胸があるな」


少女は珍しい物を見るかのように俺をじろじろと眺めた。


「じゃあこの俺は…なんだ?死んだんじゃないのか?」

「あぁ、それはお前の魂を集めて実体化させたものだ。数時間しか持たないからな」


魂を…実体化?何を言ってんだ。このガキ。


「で、俺のことだが。その資料、全部あってるよ。よくそんなの作ったな。俺のストーカーか?お前は」

「すとーかー?なんだそれは?」

「?ストーカーも知らねえの?」

どれだけ箱入り娘なんだ。

今、このご時世。女子がストーカーという言葉を知らないのはかなり問題があるのでは無いだろうか。


「私にはお前の住んでいた所の言葉などに興味はない。それよりもススム、お前。もう一度人生をやり直してみないか?」

「…は?人生をやり直す?そんな漫画みたいなこと…」


できるわけが…


「私にとっては容易いことだ。生き物に命を与え、その肉体を作ることなどな」

「…一体何を言ってるんだ?」


普通ならただの子供が「あ、ヒーローとかに憧れちゃったタイプか」と受け流しているのだが、この少女の放つ言葉にはなぜだかいやに説得力というものが存在した。


「おっと、自己紹介が遅れたな。私の名前は『アダマス』、生命監督機関の人型を担当している。創造神とでもお前らは呼んでいるらしいな」

「そうぞーしん…あぁ創造神か」


一瞬、想像心と勘違いしてしまった自分がいた。


「ふうん、まとりあえずお前が偉いのは分かった。で?人生をやり直す。とはなんだ?」

「…私…一応創造神なのに…もっと感激してくれても……ゴホンゴホン、その事か。私はさっき言ったように創造神だ。お前の魂を取り出して別の新たな肉体に定着させる…簡単に言うとこんな感じか」

「なるほど、で、一つ質問していいか?お前は死んだ奴一人一人にこうやって話しかけているのか?」


世界では沢山の人が死んでいる。その膨大な死者にいちいち人生のやり直しを提供していたらきりがないだろう。サラリーマンならではの質問だ。


「いや、やり直しを提供するのは…私の気まぐれ…というよりはいわゆるクジだな。といってもクジで引かれるのはお前の世界だけとは限らないからな。その中から選ばれたのは光栄なことだぞ?」

「そっか、なら早く生き返らせてくれ」

「?誰が生き返らせると言った。私は今、生まれ変わらせる。と言ったのだ。さっきも説明しただろう。記憶能力もないのか。そもそもお前の死体に魂を入れ直したとしてもその体の損傷から持って数秒だと思う」


アダマスは顎に指を当てて考える仕草をとった。


「じゃあ俺は…何になるんだ?」

「それは『転生』してからのお楽しみだ。さあ、行ってこい。新たな人生を心ゆくまで楽しめ!」


アダマスがこちらに向かって手のひらを向けると、俺の体は白菫の色に包まれた。


「うっ~す、楽しんできま~す」

新たな肉体を手にする前の言葉がこれである。


「転生者に我の加護があらんことを―――」


視界が、白に染まった。


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