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くたばれ、聖剣(ホーリーブレイド)  作者: トットライザー田中
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村にて



煙のでている近くに行くと、そこは炭焼き小屋だったようだ。

炭焼き職人らしき人物が、黙々と作業をしている。


ルドは警戒させないようにわざと音を立てて歩き、咳払いを一つしてから声をかけた。

「あー、すまない。道に迷ったのだが、この辺りに村があるか?」


男は、警戒するまなざしをルドに向けていた。

森の中から突然男が現れたのだ。無理もない。

手に持った木の棒を持つ手に力も入るというものだ。


ルドは両手をあげて敵意がないことを伝える。


「村に行ってどうする」

「食料を譲ってもらいたい。それから、道を聞きたいんだ」


少しの間をおいてから、男は手に持った棒で行き先を示した。

ルドの身なりや言動で問題ないと考えたのかも知れない。


「あっちだ。こまかい事はジョンという男に聞け。看板が出ているから判るはずだ」

「助かるよ。ありがとう」


男の言うとおりの場所に村はあった。

数えられる程度に家屋が点在し、畑作と牧場が営まれている。


「この村で補給?」

「そうだよ。で、ダイトか少なくとも、お前を買い取ってくれそうな場所に行く。お前を売り払って、失せもん探しのまじない師にグラーベンさんを渡す。俺は、その金でしばらく遊んで暮らす。シンプルだろう?」

「今は飢えそうだからそんな発想なんだよ。貧困は民の敵だ。かわいそうに」

「ほっとけ。その忘れちまった使命とやらは、次の持ち主にでも託すといい……あれがそうかな」


近づくにつれて建物が見えてきた。

看板がぶらさがっている、周囲の建物と比べてひときわ大きな建物だ。


ルドは、剣を鞘に完全に納めて扉をあける。

強盗と勘違いされてはたまらないし、魔剣や頭蓋骨と会話する所を見せつけたいわけでもない。

ただでさえ薄汚い身なりで、歓迎はされにくいのだ。

何もない田舎で放浪者バガボンドが冒険者を名乗ったところで、喜んでくれるのは、一部の物好きか何も知らない子供くらいである。


「いらっしゃい」


扉を開けると、内側についていた棒きれがぶつかって、乾いた音を立てる。鳴子の理屈だ。

音を聞きつけて、奥から男がでてきた。


「ここは宿屋と……道具屋であってるかな。炭焼きの人に聞いてきたんだけど」

「そう。宿泊は銅貨10枚、食事は2枚ってところだ。道具が要るなら聞いてくれ」


店内を見回すと、いくつか食事のとれそうな机があり、棚には道具が並でいる。

何でも屋、と言うのがふさわしい店であった。


「宿と食事を。ダイトを目指してるんだが、どうにも道が悪くてな。賊が通行料をせしめようとしていたり、橋が流されたりで遠回りしているのさ」

「それはツイてない。不運ついでに申し訳ないんだが、今は仕込み中でな。今日は客がくると思っていなかったから、スープとパンぐらいしか残ってないんだ」


それでも注文をすると、愛想の一つもよくなる。


「本当に客なんだな。じゃあ、その辺に座ってくれ。言った通り以上の物は……うん、無いな」

「十分だよ。保存食がなくなってロクに食べてないんだ。あ、保存食は幾らだ?」

「今あるのだと、銅貨20枚だ。干し肉や干した果物だから、あまり大量には無いんだよ。夜の食事に少し良い物をつけるから、勘弁してくれ」

「ああ、それで手を打とう」


宣言通りの簡素な食事だが、ルドからすれば十分にうまい。

少量のほし肉しかない食生活に比べれば天国だ。

温かい塩気のあるスープでパンを食べる喜びに手がとまらず、あっと言う間にたいらげてしまった。


「悪いが汚れを、外の井戸で落としてくれ。お湯は銅貨一枚いただくが、水なら外の井戸をつかってくれてかまわない」

「お湯は寝る前に付けてもらおうか。身体を拭きたい」

「わかった。晩飯の後に用意しよう。俺はこれから、汚れを落としてもらってる間に部屋を用意するよ」


ルドは外の井戸で靴についている汚れを落としたり、顔を洗って汚れを落とした。

今から特に出かけるつもりも無い。晩まではゆっくりと道具の点検をする。


「暖かい食べ物ってのは嬉しいもんだ」

「僕には理解できないなあ」

「食事はいいものだ。こうなる前に最後に食事をとったのはいつだったか……確か契約前夜、最後の晩餐。そして……」

「はい、しんみりするのでやめよう。なんか良くないオーラでそうだし」


魔剣も売り物ということで、洗った布で拭く。

便利なもので、それ以上の手入れはさほど必要が無い。魔力って凄い。

手入れせずとも切れ味は続いて、錆びない武器というだけでも魔剣の値段が高い事が頷ける。


「しかし炭焼きの男もそうだが……自分が旅をしていた頃、もう少し会う者からの反応は良かったぞ」

「騎士様相手なら、流石にもそっと良い反応があるだろうけどな」

「婦人に囲まれて、ほほえみかければ武勇伝をせがまれたものだ」

「いま貰えるのは悲鳴くらいでは」


ルドは小声で突っ込むと、頭蓋骨グラーベンは「聞こえてるぞ。しかし、その通りだなぁ」と寂しげに呟いた。

ちょっとだけ哀れに思ったので頭蓋骨も幾らか拭くことにする。

今の光景を見られたらシャレにならない構図なのと、うっかり破壊すると祟られそうなので、気は遣ったが。


「これでよし、と」

「かたじけない」

「手入れついでに契約を」

「どういたしまして。あ、契約はしない」

「ケチだなぁ」


そうしてメンテナンスを終えて片付けると、晩飯に期待しつつ横になるのだった。




何事も無く街に行けるといいですね…

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