手に入れた物は
叫び声が建物に響く。亡霊だってもう少し上品に叫ぶだろう。
思いとどまってしまったが、ルドは再び剣を大上段に構えた。
「脅かすつもりは無かった!剣を構えたまま話すのはやめてくれないか」
「剣の次は頭蓋骨。この後には喋る犬でも?」
「い、犬?とにかくこの姿になったのには訳があるのだ。我々は話し合える」
「聞きたくない。死ね」
『いや、もう死んでるんじゃないの?』
怯えているのか動揺しているのか、カタカタとなる頭蓋骨の声には、必死さと上品さがあった。
だからという訳では無いが、敵意を感じさせぬ物言いにルドの手も再び止まる。
『犬でも馬でも、もう驚かないでしょ。にしても会話できる死者って、相当な高位だね』
「その落ち着きぶり……腹立つなオイ。お前の言葉を信じて来たらコレだぞ」
「ふむ、そこな物語る魔剣が貴公をここに……興味深い」
「その訳知り顔はやめろ。野宿を避けるためにここまで来た。案内が魔剣。見つかった物は頭蓋骨だ」
二人?の言葉に平静を取り戻し、周囲を警戒しつつもルドは剣を下ろした。
魔剣の言う通り会話できる死者の類いは基本的に稀であり、なおかつタチが悪いとされている。
麻痺毒で動きを奪う者、魔法を扱う者、最上位になれば軍勢を従えたり吸血鬼に転じる事もある。
旅の中でルドが知った知識でも、知恵ある死者によって酷い目に遭った例はいくつかあった。
そういった意味では少なくとも敵対しない立場を取る死者というものは珍しい。
「どういった訳か、人も獣もここには何も来ない。休むなら心配無用だ」
「その言い方だと、お前がここの主というわけでもないのか」
人ごとのような言い方で察しはついたが、確認のためにも訪ねる。
「違う。我が身はいつの間にかこうなっていた。首から下はどうなっているのやら」
「その具合だと、元気にやっているとは思えないな」
「フ、まったくだ」
生きていたらさぞ絵になったような爽やかさで応じる頭蓋骨は、少し間を置いて切り出した。
「頼みがあるのだが」
「断る」
即答であった。ルドは手に持つ魔剣を換金すべく街を目指している途中なのだ。
迂回した結果たまたま訪れた場所で、怪しい頭蓋骨の頼みを聞く意味は無かった。
「謝礼はできるぞ」
「聞くだけ聞こう」
『うーん、クズい』
魔剣の言葉を無視しながら、ルドは話の先を促す。
「身体を取り戻したい。失せ物探しの術が使えそうな者の元へ連れて行ってくれないか」
「ああ、そういう……」
「お主だけが、この長い夜に見いだした希望だ。先ほども言ったとおり、ここには誰も来ないままだからな」
「ここについては、そっちの方が詳しいんだろうな。で、謝礼は?」
「宝石の場所を知っている。貴公が騎士の名誉にかけて誠意を尽くすと誓うなら、その場所を教えよう」
「騎士?悪いが俺は単なる流れものだよ。ま、宝石の価値次第だが受けてもいい。荷物袋に入ってもらうが」
「しかし魔剣を……いやいい。袋詰めもかまわん。さて流浪の者よ。我を助けると、その名に誓うか?」
「努力する事は誓うよ、名無しの頭蓋骨さん。どうせ街には向かうつもりだからな。それで、宝石は?」
『うわ、制約なのにあっさり』
「口約束とはいえ、報酬が出れば依頼は守るつもりだぞ。自分の都合が最優先だけどな」
『そういうもんじゃないんだけど……はぁ』
「うむ、確かに誓いは交わされた。宝石の場所は、この壺の下、そして我が身の下だ。隠されているが、今日まで続くような魔力のある宝石だぞ」
ルドは壺をどかして宝石を取り出す。すると、確かに深紅の美しい宝石が現れた。
細かいことは判らないので、適当に状態だけ調べる。確かに買い取ってもらえれば良い金になりそうだ。
「交渉成立だ。どこかの魔剣と違って話がわかるだけマシだな」
『あ、何か酷くない?確かに何かあったじゃん』
「フワッとしすぎだろ……さて話がまとまったことだし、晩飯のためにも火を起こすか」
『ルドって切り替え早いよね』
宝石を腰にぶら下げたベルトポーチの中に入れると、ルドは野営の準備にとりかかる。
喋る魔剣と喋る頭蓋骨がいるため、その夜は森の中の一人旅とは思えない賑やかさであった。
次回、森を出て今度こそ街を目指そうとする一行ですが。
【現在のルドが持つアイテム】
・喋る魔剣
・魔力を持つ紅い宝石
・喋る頭蓋骨
すごく……呪われてそうですね。