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くたばれ、聖剣(ホーリーブレイド)  作者: トットライザー田中
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戻るつもりだったけど

ルドは、意気揚々と来た道を引き返していくつもりであったが、今や道に迷っていた。

そもそも辺境を目指すときに渡った橋が鉄砲水で流されていたり、ごろつきの集団が通行量をせしめようと待ち構えていたので迂回したのである。


「街道沿いに行けば問題ないと思ったんだが」


独り言を言って見るも、別に目の前に道が開けるわけでもなかった。

川沿いにいけば何とかなろう、という程度の行き当たりばったりで迂回することにしたのだ。

今のルドは漂泊者バガボンドである。確かに剣は使えるが、それは我流で振り回しているうちに覚えた程度に他ならない。実際には鈍器でも振り回した方が良いのだろうが、剣であれば吊しているだけで脅しになるので好んでいる。

もちろんロマンもある。流浪の剣士という身分は吟遊詩人に唄われる題材の一つであるし、この土地が『主なき剣の国』カリヴィアの界隈であるということにも関わっている。


『主なき剣の国』カリヴィア。剣王と呼ばれる人物を頂点に、力ある騎士達によって始まった国。故に、騎士という肩書きは貴族の爵位とは別の観点で語られる武力国家である。

剣王が崩御した後も、剣王に仕えた騎士達は認めるに値しない貴族が王として居座ることを是としなかった。

現在、王位は空のまま貴族と有力騎士の合議制による運営が続いている。

何らかの理由で王が見いだされて座に付く時というのは、世界が狂乱し、混沌とした時代であるとされている。歴史も、それを証明していた。


故に、貴族とは別に選出される十三の騎士達は、この土地に暮らす人々の憧れだ。

選出基準は明確にされていないが、少なくとも出自に関係は無い。

だからこそカリヴィアの人々は、上は貴族から下は乞食まで、騎士である姿に近づける努力をとがめる事は無い。むしろ一度は騎士を夢を見て旅や修行をする事がステータスであるくらいであった。


幸い、今のカリヴィア主なき剣の国である。つまり、世界が乱れているわけではない平和な時代。陰謀や内乱は消え去らず、魔物が闊歩するが遺跡もある辺境は放置されている。

だが、それでも大飢饉や疫病がはやったり、人の暮らす大地を異世界の魔物が暴れ回るような出来事ではないだけマシとされていた。


適度に仕事があり、適度に暴力を振るえば生きていける。贅沢とは無縁であるし、何か不幸があればあっさりと転落するが、頑張れば成り上がれることもある。

この世界とはそういう程度に、優しいが厳しい。


ルドは何度目かで革袋に入っていた水を飲みきってしまったので、川で汲む。

都合良く泉が見つかるわけでもないし、雨に期待するには状況が悪い。

せめてもの悪あがきにボロ布で水をこしてから革袋に詰めた。

休憩しながらあてもなく歩いてきたため、太陽は西の空に傾き始めている。


「結局、野宿か。あの魔剣遣いの荷物様々だな」

ボロ布のために鎖の戒めを説かれた剣は、沈黙していた。

「おとなしいな?」

取り出してみる。剣は早口で罵声の思念を浴びせてきた。

「元気そうで何よりだ」

『最低!クズ!信じらんない……はぁ。で、売り場に着いたの?』

「わからん。俺はダイトの街を目指していたが、今となってはな」

『ははん、ざまあみろだ。僕の言うとおり契約していれば、少なくとも何をするか迷うことは無かったよ』

やけに自信ありげに断言する剣をみて、こいつ記憶喪失とか適当な嘘をついているのではないだろうか?とルドは訝しんだが、疑っても仕方ないので飲み込むことにした。

一人で歩き続けて退屈していたこともある。

「契約を迫ってくる奴にロクなものはいなかったからな。別に契約抜きで食事と寝床のある場所へ案内してくれてもいいんだぞ。知ってるんならな」

『知るわけないじゃん、あるわけないじゃん。寝言は寝てから言うもんだよ、ルド』

ルドはそっと鞘を手に取って、再び納めようとする。

『あっあっごめんなさい待って話を聞いて』

「そうやって最初から下手に出てれば聞く話もあるぞ」


どうせ野宿になりそうだからな、というと剣はため息をついたような気がした。

『あのね、もう少し西に歩くと何かを感じる場所がある』

「えらく大雑把な話なんだが。距離は?感じるって何を?俺にどうしろと?」

『仕方ないでしょ!そうとしか言いようが無いんだから。でも目的地が決まってないなら悪い話じゃ無いと思うんだよ。運が良ければ野宿せずに済むだろうし』

「その正体不明の何かに期待しろって? ま、言うことに一理はあるな」


三人の屈強そうな山賊に勝てる見込みは薄いし、荷物を抱えた状態で無理矢理に渡河するのも濡れてしまうので嫌だった。だが迷っている今の状況ではいずれ行き倒れるだけだろう。

「夜になるまでは、お前の言う場所に向かってみるとするか」

『そうこなくっちゃ。ついでに契約とか……』

「あ、そういうの別にいいんで」

『あっそ。ケチ!』


ルドは剣を構えたまま、森の奥を目指すことにした。

もう少し上流で待ち構えていた水生魔獣ケルピーは、残念ながら餌を食べそびれたようであった。


次回、ある日の森の中。出会ったのは……

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