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くたばれ、聖剣(ホーリーブレイド)  作者: トットライザー田中
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ダイトにて 2

ダイトには、鍛冶屋も何件かある。

人が集まれば、それだけ道具に需要が出る。

ルドが探したのは、特に武器を扱っている所だ。


鍛冶屋にだって得意分野がある。

剣を鍛える鍛冶屋がいる一方、農具や家庭用品が得意な鍛冶屋もいる。

消耗品上等な精神で大勢が取り組む鍛冶屋もいれば、一人、あるいは少人数で商いを続ける鍛冶屋もいる。

ひとくくりで考えるのは難しい。

神の加護を得た者や、異種族――――有名なドワーフを筆頭に色々、のような例外もいると聞いた。

ルドはお目にかかった事がない。ただ、武器を引き取ってもらうなら、武器屋の方がいいだろう、というのがルドの目論見だ。


ルド自身、魔剣を拾う前は鉄の短剣を装備していた程度だ。

いつから使っていたのか思い出せないが、それで事足りていたように思える。

時々は手入れが必要になるため、この街でも鍛冶屋の世話になった。それがここだ。


「まだ営業してるよな、さすがに」


買い取りに不安を覚えながら記憶にある場所へ向かう。

看板が出ており、工房らしき場所から、槌を打つ音が聞こえていた。

店舗も構えており、中をうかがうと客はいない。

女性の店員が退屈そうに帳簿を付けている。


こちらに気がつくと、身なりをみてから短い挨拶をされる。

「今日はそれの手入れ?そうじゃなきゃ、新しい武器が必要?」


もう少し怪しまれると思っていたが、今のルドは剣をぶら下げている旅人だ。

短剣一つでさまよっている時とは、印象も違うのだろうか。


「いや、これを買い取ってくれないかと……俺のことを覚えてるのか?」

「ハッキリとは覚えちゃいないよ。ただ売ってる品のクセは覚えてる」

行き倒れた男の破損した武器を差し出すと

店員は状態を見たり、重さを大きな天秤で計るなどした。

「この剣はお払い箱って事?申し訳ないけど、盗んだものは買い取れないよ」


突然の発言に、ルドは面食らった。

「いや違う。待ってくれ、持ち主は確かに俺じゃない。だが……」

あわてて言い返すと、鍛冶屋の店員は笑いだす。


「そんなに慌てるなら十分さ。悪いね。厄介ごとは困るからカマをかけたんだよ」

「勘弁してくれ。しかしよく俺の剣じゃないって判ったな」


慣れてるからね、と言ってカウンターに銀貨を何枚か積む。

「重さと質を考えると、このくらいかな」


ある程度は買いたたかれる想定だったため、問題ないと判断する。

店内の武器を見ると、どれも悪くなさそうに見えた。

短剣の手入れも依頼し、その場を後にする。

世間話をしながら、翌日受け取りに来る段取りになった。



少し早いが宿に戻ると、すでに部屋に入れるようだ。

念のために外で服を一通りはたき、埃を落とす。

少し前に宿に泊まっていたこともあり、さほど手間がない。


そうして部屋に入る。心おきなく、食事まで引きこもる時間である。

売り払って懐に余裕があるので心が穏やかだ。

売れない剣は大きな街まで売りに行こう。

そう決めて、寝るときに使っていたマント荷物を広げる。


剣、鎖、頭蓋骨、保存食料に寝具一式。金貨・銀貨・銅貨。

ブーツに仕込んでいた小さなナイフも取り出す。

そういえば扱いに困った、よく判らぬ地図もあったか。


「やっと袋の外か。しかしルド殿も、ままならんなあ?」


颯は言うが、グラーベンは楽しそうな声色であった。

剣の売却については袋の中で聞いていた形になる。


「ふふん、僕を売ろうとする方が間違ってるのさ」

「結局の所は、お前に価値が付けられないって話だからな。ダメな意味で」

「がはは。にしても、そう、それよ」


グラーベンが興味深そうに尋ねた。


「権能だの何だのと言う話もわからんのだが、端的に言ってお主自分の事を、どこまで判ってるのか?」


ルドも同感であった。別に剣としては悪いものじゃない、というのは感覚的にあるが

だからといって特殊な能力だとか、これは凄い、と判るような出来事があるわけではない。


「う、それは……」

「わからんのか」

「怪しい勘が働くくらいか?こうやって出会わせるような」

「そりゃあ何となくね。だからって中身までは判らないよ」


困ったのう、と呟くグラーベンだが、別に深刻そうな雰囲気は無い。

それにしても随分饒舌になったものだ、とルドは思う。頭蓋骨に舌は無いが。


「そっちは、どんな具合だ。あの場所から動かしてここまで持ってきた。危険な寄り道もしたが……」

「新鮮な事ばかりで気分が良い。推測だが、あの洞窟で色々あった辺りから余計そう感じるよ」

「おいおい、そのうち自分で動けるようになるんじゃないか?」

「さすがにそれはどうかと思うが……『これができるようになった』」

『あ、すごい!』


ルドの頭の中に声がする。今までどう喋っているか判らなかったが、これは更に判らない。

「不気味だ」

「元々こうやって喋れるのも不思議だがね。何となく、しゃべり方を、その剣に習ったら上手く行った」

「喋る剣も変だが、そっちも大概だな。習った、て。どういう世界が見えてるのか判らんがむちゃくちゃだ」

「生きている時と大して変わらん。記憶にある限りでは、今の方が色々見えるくらいだ」

「大したもんだな、それは……魔女の呪いが大したもんなのか」

「ハハハ。これでいつでも喋りかけられるぞ」

「程々にしないと別料金な」


道具に不足がないか点検して、ナイフは元の位置に仕込み直す。

下の階が賑やかになってくる。食事の準備が出来たのだろうか。

食事を取って寝て、明日は魔術師の家に行かねばならない。

剣を持ち、腰からぶらさげる。ぼろ布で柄を隠して、変に人目にはさらさないようにした。


『ふうん、どういう風の吹き回し?』

「護身用の武器代わりだ」

『じゃ、このまま契約』

「しない。でも売るまでは放置も出来ない。とりあえず使えるから使うだけだ」


階段を降りると、酒と人と料理の匂いが一層感じられる。

さあ、今晩はどうするか……そんな方向に思考をを切り替えて、ルドはメニューに思いを馳せた。

連続投稿できて嬉しい…。

次回は失せ物探しに、魔術師の家へ訪れます。

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