表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くたばれ、聖剣(ホーリーブレイド)  作者: トットライザー田中
12/16

ささやかな祝宴と夜



洞窟から出るまでに一年近い時間が過ぎた気がする。

実際には数刻の話だ。一年などというのは、もちろん気のせいである。

だが、ルドの中で、どこかそんな奇妙な感覚があった。

洞窟で味わった苦労は、何ヶ月も働いたかのような疲労感を与えてくる。


「外だ――」


わざわざ言う事もない当然の事。

それすら、洞窟で困難を超えた3人にとって、意味のある言葉だった。

呼吸一つとっても、爽やかさと清浄さが包み込んでくれる気さえしていた。

全ては恐ろしい出来事による気のせいだとしても、彼らには十分だ。

互いに顔を見合わせて、村に向かう。そこには奇妙な連帯感があった。


村に戻った一行は、その恐ろしい経験を超えたことで英雄となった。

これが物語であれば吟遊詩人が語り終えて拍手の一つでもあるかもしれないが

実際には、後始末をどうするかという、重く面倒な会合が行われることになった。


「もう全部倒したんで、あとは任せていいか」

ルドは関係ないとばかりに報酬の食料やら消耗品やらの報酬を確かめる。

ついでに銅貨が幾らか積み上げられていた。

「まあ、そうだな……もう少しゆっくりしていっても構わないが」

「とりあえず身体を洗わせてくれ。だが明日には立つ。長居するとまた面倒な事になりそうだ」

宿の亭主は、まあな、と言って笑ってから、お湯を用意してくれる。


『ここは、もう少しこのまま長居して名声を高めて、成り上がっていくところでは?』

『いやです……』

用意する間に、何で?と妙な圧をかけてくる剣。

鞘にしまっているはずなのに、頭の中で語りかけるとは?

ルドは嫌な予感がしてきたが、深く考えると良くない事に気がつきそうなので、現実から目を背ける事にした。


用意してもらった湯で身体を清める。

嫌な匂いも随分薄れ、気にならなくなってきたあたりで部屋に戻り、再び荷物の点検をする。

何かの拍子で頭蓋骨が粉々になっているんじゃないだろうかと思ったが、しっかりしていた。

相変わらず酷い絵面であるが、何となくの義理とか報酬の関係もあるので、そこは折り合いを付ける。


「あの洞窟に行ってから、なぜか頭がスッキリとしてな。何か思い出したわけじゃ無いが……」

「魔神だっけか。あれのせいか?止めてくれよ、急に呪ってくるとか襲ってくるとか」

「いやそれは流石に無理だろうて……好き勝手動けるなら苦労せんわ」

「まあ、それもそうか……とにかく小銭と食料もあるんだ。遠慮無くダイトの街に向かうことにするさ」


小声でのやりとりを終えて、荷物を整える。

下に降りると、ささやかながら宴が始まるようであった。


「結局のところ教会にも来てもらう事で決まったよ。獣が洞窟に来ても厄介だから、明日、遺体の類いは焼く」

「やるのは炭焼きの男と狩人か?」

「俺含めて、男連中総出だよ。運び出すのに人手があった方がいいし、万が一もありえるからな」

ルドからしてみれば、最初からそうしろと言いたいところだ。

だがあの戦いを振り返ると村の選択が正しかったのだろう。

村の人々が少しずつ酒や食べ物を持ち寄って集まっているので、決起集会も兼ねているようだ。

こういった村長の采配で、この辺りは上手く回っているのだろう。


「君は成し遂げられる奴だったというわけだ。尊敬に値する」

「そうかな」


ちやほやされるのは、まんざらでは無い。とはいえ囲まれて脅される形でもあったのだ。

何とも引っかかる部分だが、確かにこうやって成し遂げた以上、対立する材料は無い。


「君の旅の無事を祈るよ」

「どうも」


村長が乾杯の音頭を取る。

酒と食事もそこそこに、村人から洞窟の中の話をせがまれた。

炭焼きと狩人にも何人かが話を聞きに行っているようだ。

炭焼きと目が合うと、肩をすくめられた。狩人は上機嫌で話していて、こちらに気付いていない。


「かいつまんで話すが……詳しいことはあの二人に聞いてくれ」


ここで白けさせると面倒なのをルドは知っている。

調子よく炭焼きと狩人の活躍を盛り、夜は更けていった。




一方その頃、ある場所。魔力によって赤黒い光を放つ魔方陣。

刻まれていた刻印のごく一部が一瞬のまたたき、光を失った。

とはいえ、赤黒い光をたたえた魔方陣は変わらずに光を放つ。

「む?」

黒衣の存在がそれを見ていたが、それ以上の変化は起きていない。

「気のせいか。いや、そうでなくても構わない」

やがて興味を失い、黒衣の存在は静かに瞑想を始めた。

夜の闇は深い。




そして夜が明けた。

寄り道が終わって本来の目的地を目指します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ