序 ある荒野にて
その日、『主なき剣の国』カリヴィアの片隅で諍いがあった。
自治すら怪しまれる、暴力が雄弁たる主なき土地。
低く垂れ込めた暗雲が光る。
暗雲に照らされたのは二人の男。
「もはやこれまでか」
諦める言葉と共に吐いたため息には、深い疲れが混じっている。
「その命、もらい受ける」
剣を構えたもう一人の男の表情は堅い。
虚ろ、と言っても差し支えないだろう。
死刑宣告が終わり、男は何度目かの剣撃を加える。
一合、二合、三合。
三度目で剣が折れると、折れた剣の持ち主は膝を付いた。
すべてが失われていくような表情。胸に突き立てられる剣。
「……これも違う。無駄だったな」
折れた剣を一瞥して、男は興味を失ったかのように去って行く。
開けた野原に男が一人横たわっている。
多くの裂傷、流れ出た血の量が男の末路を示していた。
すなわち、死と敗北。
戦っていた相手はすでに不在であった。
空は今にも雨が降りそうな暗い色で染まっている。
ぬるい風が吹いた。男の体をなぜる死神の手だろうか。
「遅かったか」
別の男が、ややあって現れた。男の状態を見て、慌てて駆け寄る。
だが、どうすることもできないことがわかった。
もう一度風が吹く。
そのたびに、少しずつ男の命がぬぐい去られるような気がしていた。
「ここまで、か」
一呼吸、一つの言葉と引き換えに、男の命は散っていくようだった。
「……そうだな。そうらしい」
「あと、始末、頼めるか」
「わかった」
「すまん」
それが最後の言葉だった。
駆けつけた男はしばらく黙祷し、頼みに応えるべく埋葬の準備を始める。
「ち、想像以上だ。これが魔剣遣いの末路か……」
穴を掘りながら、駆けつけた男は天を仰ぐ。
彼は、穴を掘り終わるか雨が降るのかの競争になりそうだ、と思った。
誤字脱字は後から気がつけば直す方向でいきたいと思います。軽く書いていきたいですね。