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 むわっとする生暖かい外気にどこかほっとする思いで、僕は階段の方へと歩き出していった。


 そういえばあの花火大会の季節は毎年今ぐらい、八月の終わりじゃなかったか。ぼんやりと思い出しながら階段を上がっていく。上がり切った後に狭い通路を進んで最後に改札を出る。突き当たりの壁に粗末な掲示板があった。

 窮屈そうに並ぶ貼り紙は大体が町の観光案内だ。ただ中には無味乾燥な白紙しろがみなんかもあって、その左隣の比較的新しいポスターはすぐ目に付いた。夜空に高々と上がる花火の絵。開催日は。


『Y川花火大会 20XX年 8月30日』


 そこまで目を通した僕の口元から思わず苦笑いが零れた。つまり僕はちょっとした偶然に期待していたらしい。それにしても何だか最近はこういうことが増えた気がする。勿論、8月30日は昨日だ。

 改めて周りを見回せば待ち合わせているような人は僅かだ。先にそのことに気付くべきだった。いくら田舎町の花火大会でもこのまばらさはない。当然に浴衣姿の女の子もいる筈がなかった。

 

 別に花火を見にここへ来たわけではないのだ。そう言い聞かせるようにして僕は南口の階段を降りていった。


 小さなロータリー。寂しげに数台のタクシーが停車するそこから左へ折れていく。

 マンションのすぐ前を伸びていく歩道は無駄に広かった。街路樹の両側にほぼ同じだけの道幅が設けられているのだ。おまけにだだっ広いその通りには犬を散歩させるおじさんが一人いるのみ。車道は車一台走っていない。もっともこの先はY川の土手に突き当たるので、そのせいもあったかもしれない。


 ともあれそんな寂しくて虚ろいだ空気に毒されたのかもしれない。あるいは、傾き始めたとはいえまだ十二分に照り付けてくる日差しにやられたのか。

 何とも言えず奇妙な可笑しさがこみ上げてきた。


 確たる目的があるわけでもなし、自分を待っている人がいるわけでもなし。そんな人間が昼日中にこんな閑散とした所をうろつく理由など本来どこにもない。ひいてはそんなことに時を費やしている人間自体にも意味は……。


 半ば自失ともいう(さま)で、僕は川音のする方へ歩いた。


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