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勢いを増して左へ流れ始める家々、はあっという間に数を減らしていった。代わりに水田が増え始める。刈り入れが近いのだろう。縦に横にと並ぶ黄緑のパッチワークが彼方の山裾まで連なっていた。
やがて稲田の右縁を濃い緑の土手が一斉に仕上げたかと思うと、そのすぐ向こうに大きな川が見えてくる。Y川だ。
水面は涼やかな青藍を張っている。穏やかで堂々たる流れだった。
河原にはごろごろとした石ころ、所々に丈の短い草が覗いている。それと似たような地面の中洲を二、三囲いつつ、川はゆったりとうねりながら遥か遠くの橋まで続いていた。
景色を目にしている僕の両肩から力が抜けていくのが分かった。
前に見たのはいつだったろう。
……大学のサークル活動、その締めくくりとなる合宿からの帰り道か。あの時は確か仲間の一人も一緒で。……いや、そうじゃないのか。僕は今と同じように車両の端に座っていて。その向かいにいたのが彼一人だったというだけだ。他の連中もあちこちの席にばらけていた。みんな相応にくたびれた顔をしていたけど、一緒にいた。一緒に……。
車窓の景色も流れていく。記憶も更に遡る。
Y川の向こう岸、河原から堤防、そして土手も近付いてくる。こちらの土手にはアスファルトの小道が走っていて、それに沿って日傘を並べるかのように立派な松が植えられていた。
あの土手の上から、夜空に上がる花火を何度か見た。小学生の頃の話だ。
うちの家族は母親が大の花火好きだったから、家族揃って車でよくY川の花火大会を見に行った。田舎町の小さなイベントではあったけど、ほぼ真下に近い所から見られるのと見物客が少ないという良さがあって、僕もその時期が近付いてくると心を躍らせていたものだ。
ああ、花火大会といえば最後の夏は雨で――
そうやって過去の記憶や思いを連ねていった僕はようやく理解出来た。今こんな有り様な自分にしてみれば、下り方面の電車に心惹かれるのはごく自然なことだったと。
そう、いつだって僕の味方でいてくれたから。こっちの景色は。
今目に映るそれはY川も松の土手も越えてしまっていた。
やがて、Y駅のホームに着いた電車はゆっくり停止する。
僕はふらふらと立ち上がり、冷房の効き過ぎた車内に別れを告げ、狭いホームへと降りた。