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満月までの約束

新撰組のイメージを壊したくない方の閲覧はお勧めできません。




目が覚めても、やはりそこは和室だった。

夜。

どうやら完璧に寝てしまったらしいが、そのおかげで頭の重さはだいぶよくなったかんじがする。


母さんは、先に帰ってしまったのだろうか。

そっと布団から起き上がると、近くで人の気配がした。


「やあ、驚かせてしまったみたいですまないね」


「あ、えと」


先ほどの眼鏡だった。

「私は、山南という。こっちにきてくれないかな。話さねばならないことがあるんだ」

母さんはどうやら先に帰ったらしい。

眼鏡…いや、山南にしたがってそちらに行くと、お茶を出してくれた。

もちろん、湯のみに緑茶。

彼は着物を着ていた。

さすが本家、夜でも昼でも和服らしい。

「君の名前を、聞いてもいいかな」


「え?母さんから聞いてないですか?俺、稜っていいます。時枝稜、分家なんですけど」


「ふむ、時枝君、か」



なにかがおかしい



「君は、ここに来たときのことを、覚えているかい?」


「ここにって、本家には・・・葬式に、母さんと着ましたよ。勝手に井戸覗いたのはごめんなさい、でも、あれは俺のせいじゃなくて、女が…」


「随分、混乱しているようだ、無理もないよ。私が君を見つけたとき、君は何者かに斬りつけられ、追いかけられていたんだ。こんな言い方では恩着せがましくなってしまうが、私がいなければ間違いなく命はなかっただろう」


「斬りつけ…?」


「覚えていないかい?」


「いや、それは…」


じゃないのか?


追われていたのも、斬られたのも…

やつらの足音も、

雨も

すべて、夢ではないのか


「鴨川の川べりでね、倒れていたんだよ。お母さんと一緒だったのかい?」


「い・・・え・・・」


「家がわかるなら、送ろう。お母さんも無事ならいいんだが」


「あの、待ってください。ちょっと…鴨川って…俺、井戸から落ちたんすよ。ここって、時枝の本家じゃないんですか?」


「残念ながら。ここは、新撰組の屯所だ」






は?








「しん・・・せんぐみ?きょう・・と?」




「そうだね、京だ」


「まって、ちょっと待て。おっさん、ふざけてるだろ。もーいい、電話貸してよ。電話したら迎えきてくれるかも。たぶん母さん探してるし」


「デンワ…」


まさか…



「おっさん、電話しらねーの?」


「はは、すまない、無知だったようだ。どうしたら、呼べるのかな?」



つーことはもしかして、これ。。。。


幕末じゃね??


「マジかよ。どこなんだよここ~~」





山南は、家も親も、どこにいるかわからないという稜にほとほと困り果てた顔をしていたが、今晩はとりあえず泊まり、明日になったら家を探してくれるとのことだった。

だが、ここは幕末。

俺の家なんてあるはずも見つかるはずもない。


唖然とする俺を、慰めるように

眼鏡は優しく、俺の頭をなでた。


親父とタイプはまったく違うが

なんか

父さんみたいだった









……りょう……

「時枝稜」

「うわっ」




「静かにしなさい。山南が起きたらこまるでしょ」


口を手でふさがれる。


外はまだ暗く、先ほどまで寝ていた稜の視界は、まだはっきりとしなかった。


しかし、声の主である女の顔がかなりの至近距離にあり、見覚えのあることがすぐにわかった。


そう、この女は



「お、おまえは…あのときの井戸女!」


「何よ、井戸女って。あなた、やっぱり、あの時ついてきちゃったのね」

「あの時って・・・」


「あの井戸を、ここに繋げたの。時間がないからよく聞きなさい。もうわかってるみたいだけどここは、幕末の時代。

あなたは、私の時の枝について来て幕末の京都に来てしまったのよ。

元の場所に返してあげたいのも山々なんだけど、私があなたを連れて戻るくらい力が戻るのは、満月の日なの。それまで、あなたには、ここで生き延びてもらわなきゃならない。わかるわね」


「待てよ、なんだよそれ」


わかるわけがない。

そもそも、本当にありえない話をされているのだ。


「戻してあげるっていってるんだから我慢なさいよ。

とにかく、次の満月まで約一月、ここで身を守りなさい。山南さんにまかせれば大丈夫だから、いいわね。あとは、こっちで手を打っておくから。ここで、おとなしくしてるの、わかった?」


「ほんとに、かえれるんだな?一月で」


「ええ。あなたには、それしかない。満月になったら、迎えにくるわ」


知らない場所にいきなり来てしまい、瀕死の怪我を負い、そして帰れないと告げられた稜。


良くも悪くも、稜には、この女を信じるしかなかった。


ほとんど初対面でも、信用できるかどうかなんてのも、すべて関係なく、すがるしかない。


すがるべき相手が、今は彼女しかいなかった。



「わかった」



「いい子ね。

これ、私の指輪だから、あなたは親指につけなきゃ大きいかもしれないけど。預けておくわ。

満月に、またあいましょう、稜」




そういったかと思うと、彼女はするりといなくなっていた。


風のように、音もなく。


ただ、指に感じる冷たい感触だけが、あの女が夢ではないと証明していた。




















ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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