水の北 山の南や 春の月
新撰組のイメージを壊したくない方は閲覧をお勧めしません。
広い、広い舗装されてない道に、俺はいた
雨が降ってて、その雨を吸った着物が重い。
しかも、寒い。
まとわりつく袴
少し熱をもった頭
そして、ズキズキと痛む背中
俺は、必死で逃げている
逃げて
逃げて
決してつかまらないように
早く
「おや、気がついたかい?」
目に入ったのは、メガネだった。
「うわぁぁぁぁぁぁっ」
「すまないね、驚かせてしまったみたいで」
メガネをかけた、ちょんまげの、着物をきたオヤジが、急に叫びだした俺の肩をさすった。
着物といい、ちょんまげといい、変なオヤジ。
しかし、少なくとも雨の中おいかけてきたやつらのように、俺を殺す気はないらしい。
「大丈夫かい?傷は痛まないか?」
傷?
とくに痛いところはなかった。
しかし、その代わりに手や足を動かそうとしても一切反応がない。
起き上がろうともがくが、腰にも力がはいらなかった。
「おきなくていい。君は大怪我をしているんだ。手当てはしておいたから、しばらく安静にしていなさい」
「あ、ありがとうございます」
初対面の人に傷の手当てまでしてもらうとは。しかも、傷とはなんの傷だ?
そんなに悪いものなのか。
そもそも、雨の中で追いかけてきた夢の連中のことも気になる。やけにリアルな夢だった。
だめだ。
なんで俺はここに寝てるのか
思い出せない。
「あの、俺って何してて・・・?」
「・・・覚えてないのかい?」
「あ、は・・・い」
オヤジは少し考えるような素振りをみせると、眉毛をたらして笑いかけた。
「今は、気にしなくてもいい。また話そう。とりあえず、今は寝ることだよ」
そんなこといわれても
なぞなことが多すぎて、はっきりいって落ち着かない。
母さんはどこだ?
純和室のこの部屋を見ると、ここはまだ時枝家の本家なのだろう。
ということは、あんなオヤジよりも母さんがここにくるはずだ。
息子の俺が怪我したんだから当然だ。
そうだ・・・
思い出した、女を追いかけて井戸に落ちたんだった。
だから、怪我したんだな。
あんな深い井戸に落ちて助かったってことは、水でも残ってたんだろう。
ラッキーだった。
女は
あの女は助かったんだろうか。
俺と違って、もろに頭から井戸に突っ込んだあの女。
歌いながら
まるで恐怖の表情はなく
自分から、つっこんでいった。
聞きたいことが、山ほどある。
しかし、おっさんの言うとおり、なぜか俺の頭は重かった。動かないし、まぶたはだんだん落ちてくるし。
しかたない。少し寝てやるか。
母さんに会うのも、あの女のことを聞くのも
また後でいいだろう。
「随分とかわいらしいコを拾ってきましたね。山南さん」
「総司」
うとうとし始めた少年の邪魔をしないよう、そっと部屋を出ると、クスクスと笑いながら話しかけてきた青年。
「安心してくれ、見られてはいないよ。ただ、どうしても放っておけなかったんだ」
「山南さんらしいです」
総司は、私を責めるような目で見ながら、またクスクスと笑った。
「さて、行きましょうか。土方さんが呼んでますよ。局長室で」
「ああ。そうだな。総司、君も一緒に来るのか?」
つれて来いといわれたのか、呼んで来いといわれたのか
彼らは、この件を…私をどうするつもりなのか
「いえ、私は後でお茶でももって行きますよ。あー、山南さん、さては寂しいんですね〜!?
大丈夫ですよ、ちゃんとあとで私もいきますからぁ」
茶化しながら、給湯室に向かう彼。
あの様子からすると、どうやら私の首は無事らしい。
「フ」
急に笑いがこみ上げる。
自分の首の心配をしなければならないほど、この組織での私の立場は弱いのか。
それは、もうだいぶ前からわかっていることだった。
自分の地位が
総長とい役割が
ただの
ただのお飾りだということに
ありがとうございました。
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