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序章「はじまり」
少女にとって兄は誇りだった。
誰よりも疾く地を駆けるその姿は人々の希望だった。
彼は町の英雄。
もうすぐ少女の兄は結婚する。
兄の婚約者はとても感じのいい人で、少女は彼女のことが大好きだった。
そういえば今夜、彼女が料理を持ってうちにやってくることになっていた。
少女は彼女に何かプレゼントをしてあげたい気持ちになった。
町はずれの森に、綺麗な実をつける大きな木がある。
あの実は彼女の美しい髪に似合う気がした。
本当は花をプレゼントできたらいいのだけど、それだけはどうしてもできない。
よし決めた。
少女は大きくうなずいて、家を飛び出した。
危険だから一人で森に入ることは禁じられていたけれど、もう何度も一人で森に入って無事に帰ってきているから、きっと今日も大丈夫。
少女は森へと急いだ。
空は、少しだけ不機嫌な表情をしていた。