糸と人
作者も新大学生としての生活が始まりましたので、大学生活でのちょっとしたネタで、書いていこうと思います。
これはその中のひとつ目ということです。かなり短くなってしまいました。すいません。
その日青年は、目覚まし時計のタイマーを三十分もフライングして目を覚ました。心臓の鼓動が耳に反響し、上手く寝れなかった。何日か前から落ち着きがなくなり、自分の意識だけが体からほんの少しだけ浮き出ているような感覚になっていた。
ある大学の入学式。これが青年を緊張させている原因だった。大学に進級して、初めて同級生と顔を合わせる日。これからの大学生活を孤独で自由に生きるのか、友達を作り、和気あいあいと過ごすのか、その大きなかじ取りを迫られる日である。青年は大学を孤独に過ごしきる勇気も自信もなかった。誰か一人でもいいから、一緒に大学にすごせる仲間がほしい。その思いだけだった。
茶髪に染めた髪をとかす、くしの流れる鋭い音と、黒く光る真新しいスーツを着るときの布のこすれる音。誰も話す相手のいない一人暮らしのアパートから、ほとんどこの音だけを響かせて、青年は支度を終わらせた。アパートの一室に鍵をガチャンという鈍い音をたてて閉め、階段を忙しく駆け下りていった。
受付を済ませると、もう人の塊がいくつかできていた。最初は一人一人だった人たちが、何気ない会話から数人のグループになり、それが繰り返されてさらに大きな集まりになる。まるで、一本の細い繊維が何本も何本も集まり、伸ばされ、纏められ、一本の糸になるかのようにのように。その周りでは、糸になり切れていない繊維が、何人かバラバラと散らばって、ケータイをいじったり、周りの迫力に圧倒されて、おどおどしたりしていた。青年は焦った。来てすぐにもうグループができているなんて予想もしていなかった。誰かに話しかければ一人ぼっちは回避できる。そんな優しい考えでは通用しないことが、雰囲気からしてわかった。大きな集団では、話が盛り上がっていて、入り込めなかった。
青年は焦りつつまだまとまりきってない小さな集団を探してみた。もう一つにまとまりきった、無垢な糸たちに何回かぶつかった。青年は、集団の圧力にやられ、ただ小さな声で謝ることしかできなかった。
そうして苦労した末に、会場の隅のほうで、まだ大きな集団になりきっていない小さな集団を見つけた。
青年は乱れた呼吸を戻すかのように、小さく息を吸い、その集団へと話しかけた。
もし感想などありましたら、ぜひください。今後の参考にさせていただきます。