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自給自足の生活

掲載日:2026/07/16

 料理の音が好き。

 卵を割る音。かきまぜる音。

 肉の焼ける音。油の跳ねる音。

 トーストのジジジジ。

 コーヒーメーカのこぽこぽ。

 一通りの喧騒が終わると。

 なんだか寂しくなる。

 プレートには、黄色と茶色。

 彩りが足りない。

 料理の最後の仕上げ。

 家庭菜園に向かう。

 小さな園芸用の鋏を持って。

 庭に。置いてある。

 ソーラーパネル付きの、

 ラジオの電源を入れる。

 私が聞くのではない。

 野菜たちに聞かせるため。

 クラシックを聞かせると、

 育ちが良くなるからだ。

 けれどまだ、

 朝のクラシックの時間には、

 少し早かったみたい。

 ニュースが流れる。

 県内で、失踪した男女が、

 一年で十三組にのぼり、

 警察は、事件として捜査を、

 なんて、アナウンスをしている。

 全く物騒な世の中になったものだ。

 私はそんな世俗から離れ、

 自給自足の生活をおこなっている。

 今日は特別な日だから、

 いつもは二個だけれど、

 今日は三個。

 ミニトマトを収穫。

 それから、リーフレタス。

 新芽を間違えて、摘まないように。

 今日は、六枚。

 キッチンに戻り、トマトとレタスを、

 土を落とすくらいに、さっと水洗い。

 プレートに加える。

 食べる分だけ、採ればいいのだ。

 コーヒーをカップに注ぎ、

 ミルクを加える。

 プレートとカップを、食卓の上に置く。

 ちょうど、庭のラジオから、

 クラシックの音楽が聞こえる。

 サン=サーンス『白鳥』。

 静かに流れる時間と音楽の中、

 私は朝食を摂る。

 まずは、野菜から、

 フォークで、ミニトマトを刺して、

 噛み潰す。

 ナイフで、食べやすいように、

 こんがり焼かれた。

 ぎゅっと手を、握っている。

 柔らかそうな、赤ん坊の腕。

 を切り分ける。




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