日溜まりに溶ける
「未確認来訪者」シリーズを楽しみにしていた方、待たせてしまい申し訳ありません。
明日から第二章がスタートします。
春風がカーテンを撫でる。
日の光が窓側の僕の席に落ちる。
暖かくて眠ってしまいそうだが、今は授業中だ。
僕は黒板に書かれている方程式をノートに書き写す。 僕がその答えを出すと同時にチャイムが鳴った。
「起立。気をつけ。ありがとうございました。」
今日の授業が終わり、教室から人はいなくなっていく。
僕も教室を後にし、借りていた本を返しに図書室に向かった。 僕の名前は律。
この高校につい1週間程前に入学した高校一年生だ。
部活動にはまだ所属していないのでこうして図書室で時間を潰すのが日課になっている。
図書室は静かで考えごとをするのに打ってつけの場所だ。
今日も時間を潰す為に図書室に寄ったが、そこには先客がいた。
彼女は確か、同じクラスの女子だっただろうか。
まだ新しいクラスに入ってすぐなのであまりよくは知らないが、入学式の日に告白されたと噂になっている。
確か、名前は陽奈と言っていた。
そんなことを考えながら僕は借りていた本を返し、次に読む本を探していた。
次は心理学の本を読もうと思っていたので哲学の棚に向かった。
その棚には色んな本があったが、とある本のタイトルが目に入ってきた。
『恋愛心理学』と言う本だ。 僕は今まで恋というものをしたことがない。
だが、興味がない訳でもない。
僕は気になりその本に手を伸ばした。
その手は小さな手と触れた。 その手の付け根を辿ると陽奈さんがいた。 夕日の逆光の所為で表情は見えない。
「あっごめん。これ読む?」
彼女はそう言ってくれた。
だが僕には特別この本にこだわりはないので譲ってもらうのは申し訳ない。
「いえ、大丈夫です。僕は他にも読みたい本があるので先に読んでください。」
どんな学問も最初に具体的な値で実験をする。
僕も最初は恋愛小説を読んでみようと思う。
僕は小説のある棚の方へ向かった。 そこにある適当な本を手に取った。
タイトルは『10年後に咲く恋心』か。
10年間も誰かと一緒にいてようやく気づいたのか、それとも10年越しに実った恋なのか。
タイトルから考察しても仕方がない。
取り合えず読もう。
僕は適当な席に本を持って行きそこで表紙を開いた。
視界の端では先程の本を読む陽奈さんの姿が見える。
そんなこんなで僕は初めて恋愛小説を読んだ。
まるでその本の主人公になったかのような錯覚に陥るほど僕はその本に集中できた。
途中まで読んで時計に目をやる。
もうすぐ図書室を閉める時間だ。
続きは明日読むことにしよう。
ふと陽奈さんの方を見ると彼女は幸せそうに眠っていた。
起こさないとまずいだろう。
仕方なく僕は陽奈さんを起こす。
「陽奈さん。起きてください。もう図書室閉まりますよ。」
「んぇ、あ〜、おはよう」
そんな感じで呑気に起きる彼女。
「この本返します?」
「あっ、うん、もう読み終わったから。とても興味深い内容だったよ。」
そういう割には本は中途半端なページを開いている。 まぁ元々僕が読もうしていた本だから彼女なりに気を使ってくれたのだろう。
「じゃあついでですしこの本借りますね。」
そのページには大きく
『一緒にいて安心する人は実は相性がいい』
と書いてあった。
僕は小説を返した後に本を借りる簡単な手続きをした。
図書室にはもう陽奈さんはいないが、彼女の座っていた席に鍵があった。
きっと彼女のものだろう。
家の鍵か自転車の鍵かは知らないがどちらにせよ無ければ困るものだ。
僕は急いで図書室を出た。
下駄箱に着くと陽奈さんが手紙のような物を見て固まっていた。
まだ校内にいることを確認して少し安堵していた。
だが、彼女は靴も変えずにそのまま何処かに走って行ってしまった。
鍵を渡す為になんとなく隠れながら僕も彼女について行った。
彼女は体育館裏に来ていた。
そこにはもう1人クラスの男子がいた。
「好きです付き合ってください。」
クラスの男子が陽奈さんにそう告げた。
どうやら告白をしている所だったらしい。
隠れていなければ凄く気まずかっただろう。
「ありがとう。気持ちは嬉しい。でもごめんなさい。付き合うことはできないです。」
深々と頭を下げながら彼女はそう答えた。
クラスの男子はその答えを聞き諦めたような笑みを浮かべていた。
「そうか〜まぁそうだよな〜ごめんな態々呼び出して」
そんなことを言いながら彼は足速に帰って行った。
今飛び出して彼女に鍵を渡すのは不自然だろうか。
彼女の顔色を伺うと彼女は心苦しそうな表情をしていた。
今鍵を渡しに行くのはいい判断ではないだろう。
幸いにも彼女は上履きのままなので下駄箱に行かなければならない。
そこで待っていれば彼女が来るのは確実だ。
僕は下駄箱に向かおうとしたが、足元の枝を踏んでしまった。
「誰かいるの?」
その音で彼女は僕の存在に気づいた。
「陽奈さん、図書室に鍵忘れてましたよ。」
僕は何事もなかった様にその鍵を渡した。
深く踏み込む必要はない。
「あっ、律くんありがとう。これがなかったら家に入れなかったよ。」
彼女も何事もない様に振る舞う。
自分のことで他人に心配して欲しくないのだろう。
用事は済んだので僕は1人で家に向かった。
次の日、当然だが僕は学校に来ていた。
今は今日最後の授業中だが、少し気になり陽奈さんの方を見る。
彼女は真面目にノートを取りつつ、時折少し悩んだように頭を抱える。
何故か目を離せない。
一応授業中なので前を向き、ノートを取り問題を進める。
黒板に書かれた小問を解き終わり、少し別のことを考える。
恋愛か、
あの本を読んでも心当たりはない。
あの本で陽奈さんのことを思い出し、なんとなくまた陽奈さんの方に目を向ける。
あの様子からして分からない問題があったのだろうか。
そんなことは考えても仕方ない。
彼女から目を離すと終業のチャイムが鳴った。
「起立、気をつけ、ありがとうございました」
号令も終わり全員が解散する。
僕も教室を離れて図書室へと足を向ける。
とりあえず借りていた本を返したら昨日の小説の続きでも読もう。
図書室の扉を開けた。
中には誰もいなかった。
とりあえず本を返して昨日の小説を探そう。
僕は本を指定の位置に返した後、昨日僕が本を戻した棚へ向かった。
棚にその本はなかった。
貸出中だろうか。
仕方ないので他の本で気を紛らわせる。
本を探していると図書室の扉が開けられた。
扉を開けたのは陽奈さんだった。
彼女の手には『10年後に咲く恋心』というタイトルの小説があった。
昨日僕が読んでいた物だ。
昼休憩中にここに寄ったのだろう。
もし彼女がその本を返すならその本の続きでも読もうか。
そんなことを考えながら僕は教科書とノートを開いて解いてないであろう問題を解き、彼女が本を棚に戻すのを待った。
「律くん数学の問題解いてるの?」
いきなり陽奈さんに声をかけられた。
「えぇ」
少しびっくりした所為でそんな返事しかできなかった。
「実は今日習った所よく分かんなくってさ、教えてくれない?」
「分かりました。」
特に断る理由もないので陽奈さんに数学を教えることにした。
陽奈さんは僕の隣に座り自分のノートと教科書を開いた。
僕のノートと彼女のノートが少し重なる。
「じゃあさ、ここ分からないんだけど、なんでこうなるの?」
「ここは前のページのこの定理を使うとこんな式が出て、式をまとめるとこの式が出るから。」
「なるほど、だからその式が成り立つのか」
理解が早くて助かる。
質問箇所から察するに頭が悪い訳ではないそうだ。
「ありがとう。凄く分かりやすかった。あ、後この問題どこが間違っているか教えて。」
陽奈さんはそう言って自分のノートのバツの付いた問題を指差した。
「立式は合ってると思いますけど、あっここ計算ミスしてるからですね。」
「え?どこ?あホントだありがと助かった。」
そう言うと陽奈さんは図書室を後にした。
本を返したかっただけなのだろう。
廊下には陽奈さんの友人らしき人がいた。
さて、今日はどの本を読もうか。
ふと思い出したが、明日は委員会を決める日だ。
委員会は全員参加だから何処に所属するかは第三者候補まで決めておいた方が良いだろう。
そんなこんなでいくつか委員会の候補を決めた。
何かを忘れている気がしたが、その日は委員会を決めてから帰った。
次の日、今は委員会決めをしている。
今はクラス委員が決まり、その人が進行して全員の希望を聞いている所だ。
僕の第一候補は風紀委員。
風紀委員はクラスに男女1人ずつが定員だが、よほどのことがない限りそもそも取り合いにすらならないだろう。
そんなことを考えていると風紀委員立候補の希望を取る番になっていた。
僕は迷わず手を挙げたが、それよりも早く手を挙げていた人が1人だけいた。
陽奈さんだった。
僕に続くように男子が2人手を挙げる。
よほどのことが起こってしまい、取り合いになった。
風紀委員に深いこだわりはないが、風紀委員を譲る理由もない。
だが、態々風紀委員を決める為だけに抱負を言っていたら日が暮れてしまう。
風紀委員に立候補した男子3人でじゃんけんが始まる。
運良く僕は一人勝ちできた。
そんなこんなで少しハプニングは起きたが僕は晴れて風紀委員になれた。
他の委員も続々と決まり全員の委員会が決まった後に終業のチャイムが鳴った。
「起立 気をつけ ありがとうございました」
号令の後、クラスメイトはそれぞれ教室を出る。
だが帰る為ではない。
それぞれの委員会の説明の為に各委員がそれぞれ別の教室に移動しているのだ。
「律くん、一緒に行こ」
陽奈さんにそう誘われた。
「はい。」
目的地は一緒だし、着くまでの退屈凌ぎとしては丁度いい。
少し話しながら一緒に行くとしよう。
「風紀委員選んだんですね。」
「うん、楽しそうだったし」
風紀委員を楽しそうと思うだなんて少し独特な感性を持っているな。
「楽しそう、ですか?」
ついそんな疑問をこぼしてしまった。
「え?変かな?」
「いえ、ただ今までそんな考えはあまり聞いたことが無かったので」
「あ〜確かに風紀委員を楽しそうって言ってる人見たことないかも」
「あはは、」
なら何を根拠に楽しそうと思ったのか、
そんなことを言う彼女につい苦笑いが出てしまった。
「逆に律くんは何で風紀委員をしようと思ったの?」
意外にも予想通りの質問が来た。
「こう言うのもなんですが、楽そうだったからですね」
「そっちも大概変わった理由じゃない⁉︎」
ツッコミを入れる彼女
確かに風紀委員が楽と言う話も聞いたことはない。
「風紀委員の仕事の関係上、放課後の時間は潰されにくそうじゃないですか。」
「確かに、そうなのかも?」
彼女は少し首を傾げながらもそう答える。
そんな話をしていたら目的の教室まで着いた。
僕らは隣の席に座った。
「ごめんメモ用紙持ってない?」
座った後に陽奈さんは申し訳無さそうに少し小声でそう尋ねてきた。
先生は来ていないのに何に気を使っているのだろう。
「はい。持っていますよ。」
そう言って僕はメモ帳を1ページ切り取り陽奈さんに渡した。
「ありがとう。」
また少し小声で返ってきた。
軽く会釈のように体を屈めて意思表示をした。
そうして先生が入ってきて委員会の説明を始めた。
今回はまだ初日なので委員会は10分程度で終わり生徒は皆解散した。
僕も図書室へ行こうとすると陽奈さんが話しかけてきた。
「今日も図書室に行くの?」
「はい、本読むのが好きなので」
「じゃあ私も図書室行きたいから一緒に行こ?ついでにそこで委員会の話しとかもしたいし」
「じゃあ行きますか。」
目的地は一緒なのだから断る意味はない。
「そういえば律くんはなんで読書好きなのに図書委員にしなかったの?」
「図書委員に入ったら放課後も貸し出しの手続きの為に図書室に行かなきゃいけなくなると思ったからです。」
「でもいつも図書室行くじゃん。」
「仕事の為に行っても本は読めないと思いますよ。」
「確かに。あれみたいだね幼稚園児位の子がケーキ食べたいからケーキ屋さんになるって言うけど実際はそんなに食べれない的な」
「まぁ言われてみれば似ているようにも感じるような、」
そんな他愛のない会話をしていたら図書室に着いた。
本棚からどの本を読もうかと探していると、見覚えのある本を見つける。
「10年後に咲く恋心』
そういえば昨日はこの本の続きを読もうとしたけど結局忘れてそのまま帰ってしまった気がする。
僕は棚からその本を取り、席に持って行きその本を読む。
向かいの席には陽奈さんが座って来た。
構わず僕は小説に目を通す。
陽奈さんも自分の持って来た本に目を通している。
しばらく僕らの間には無言が続き、ページをめくる音が時折聞こえた。
僕が本を読み終えた時に陽奈さんが話しかけてきた。
「その本どうだった?」
彼女はこの本の内容は知っているはずなのにそんな質問を僕にしてきた。
「とても興味深い内容でしたよ。初めて読んだラブコメだったと言うのも相まって予想外の展開も多くて印象に残りました。」
「あっラブコメ初めてなんだ。えじゃあさこのシーンとかどう思った?」
「えっと、このシーンですか、そうですね、」
僕らは小声で会話をする。
だが、小声でも会話は盛り上がってきた。
「ラブコメ興味持ったならこの本一緒に読む?」
盛り上がっていくうちに陽奈さんがいきなりそんなことを言ってきた。
「陽奈さんのおすすめの作品ですか。」
「いや、まだ全然最初の方しか読んでない。でも2人でラブコメ読んでみたい。」
やはり彼女は変わっている。
本を一緒に読もうと誘われたのは初めてだし、今まで読んできた小説でもそんな描写を見たことはなかった。
「じゃあ、一緒に読みましょう」
だからこそ僕は未知の体験に身を委ねてみたかった。
僕は先程まで読んでいた本を棚に戻した後、陽奈さんの隣に座った。
陽奈さんは本を中心に寄せる。
僕もちょっとだけ中心に寄る。
そうして物語は始まった。
恋愛小説にしては感情表現の少ない1ページ目だった。
いつもなら1ページ目を読んですぐ次のページに行くが、今は陽奈さんのペースに合わせて本を読む。
読み終えてもすぐに次に行けないスピード感が物語の余韻を感じさせて不思議と不快感はなかった。
「ページめくっていい?」
陽奈さんが僕に聞いてきた。
「はい、いいですよ」
陽奈さんはページをめくった。
陽奈さんが少し体を近づけてくる。
僕もまた少し体を中心に近づける。
小さくて読みにくい字を見る為だ。
そうして5ページ程読んだ頃だろうか。
陽奈さんがまた体を近づけてきて肩同士が触れた。
陽奈さんは気にしていないようだ。
僕は左肩の熱に違和感を覚えながらも小説に目を通す。
「ページめくっていい?」
読んでいる途中でそう聞かれた。
もう読み終わったのか。
「すみません、まだ読みきれてないです。」
陽奈さんはここまではもう一人で読んでいたのだろう。
だから読むのが早いのは当然である。
そのページの残りを読み終えて彼女に告げる。
「めくっていいですよ。」
そうして何ページか読んでいると、気づけばもう図書室を閉める時間になっていた。
僕らはそれに気づき同時に席を立つ。
左肩の温度は消えていつもより冷たく感じる。
「じゃあまた明日」
陽奈さんはそう言うと荷物を持ち、本を棚に戻した。
僕は陽奈さんが忘れ物をしていないかを確認しながら自分の荷物を持つ。
そうして僕も図書室を出た。
夕日の光が背中を刺して廊下に1人の影を作る。
静かな廊下に僕の足音だけが響く。
いつもと変わらない廊下のはずなのに何かが足りないような気がした。
そういえば今日は本を借りていない。
何か足りないと感じたのはきっとそれのことだろう。
明日は何冊か借りてから帰ろう。
それから階段を降りて歩いてようやく下駄箱が見えた。
誰も居ず静かな下駄箱。
春風が僕の体を撫でる。
それでも左肩だけは未だに少し冷たかった。
春風を受けながら門へ向かう。
駐輪場に用はない。
左側から受ける風は暖かいはずなのに今は冷たく感じた。
夏でもない限り気温が体温を超えることはそう無い。
さっきまで左側には陽奈さんがいたのだから相対的に冷たく感じるのは当然だ。
当然のはずだ。
次の日の朝、僕はいつもより早めに学校に来た。
教室には誰もいない。
静かな教室の中、僕は自分の席に座りノートを開く。
特別なんの教科のノートというわけではない。
筆記用具も出して僕は考えた。
何を考えるべきかを考えた。
意味もなく適当な関数を微分する。
そうして出てきた関数をまた微分する。
そんな単純作業の繰り返し。
どうせやることも無いし次に誰か入ってきたら図書室に行って本を借りよう。
流石に誰もいない教室を開けっぱなしにしておくのは気が引ける。
そんなことを思いながら微分を続けているとその関数は定数になってしまった。
この関数の導関数を繰り返し出しても定数になるはずがない。
そう思いよく見ると7回目の微分で計算ミスをしていた。
7回目以降の関数を消していると教室に1人入ってきた。
「律くんおはよういつもより早いね。」
教室に入ってきたのは陽奈さんだった。
「おはようございます。陽奈さんはいつもこの位の時間に来てるのですか?」
暇が潰れるなら態々本を借りる必要もないと感じた僕は陽奈さんと雑談をすることにした。
「いや〜何か昨日寝れなくてオールしちゃったからさ、せっかくだし早めにきた。」
前図書室で寝ていた陽奈さんが眠れないなんて珍しい。
「え?眠くないんですか?」
「眠いけど寝れない。授業中寝ちゃうかもだから後でノート見せて。」
「先にノート見せてって言う人初めてみました。ていうかそれ授業中寝る前提じゃないですか。」
そんな雑談をしているともう1人教室に入ってきた。
「あれ陽奈じゃん今日早くない?大丈夫?体調悪いの?」
「早く来ただけでそこまで心配される?」
入ってきたのは陽奈さんの友人の梨乃さんだった。
流石に2人で話している間に入ってまで話そうとは思えないので僕は教科書を開いて今日の授業の予習をする。
「てか梨乃っていつもこの時間に来ているの?」
「え?まぁ、うん家近いし」
「あそうなんだってことはこの辺に住んでいるから中学は、」
話の内容が少し聞こえる。
「てか、陽奈さっきそこの子と話してたけどお取り込み中だった?」
「うん、ちょっとノート見せてってお願いしてた。」
「あーどこのノート?見せようか」
「じゃあここなんだけど」
「今日の範囲じゃねぇか!」
「うん授業中寝ちゃいそうだから」
「そんなん言われたら困惑するだろ。ごめんなうちの陽奈が」
梨乃さんが同情するようにこちらに話しかけてきた。
「いや、まぁ陽奈さんって少し変わってるし」
「だよな、陽奈って変わり者だよな」
「え?律くんもそう思う?」
「うん」
簡単に返事をした。
「まぁそこが陽奈のいい所なんだけど」
確かに陽奈さんの考えは新鮮で興味深い
「委員会の時も思ったけど陽奈さんって世界の見え方が他人と違うような気がする。とても興味深いと感じます。」
「なんか急に褒められ始めた」
「分かる。陽奈って考えが独特ってゆーか考えすぎて一周回っているってゆーか、なんか抜けてるんだよな」
「でもそういう所が陽奈さんらしくて素敵だと思います。」
なんだか少し話が盛り上がる。
3人で話していると時間はあっという間に過ぎてしまい気づいた頃には朝の出席確認の時間になっていた。
梨乃さんを含めたクラスメイトは先生に視線を向ける中、陽奈さんだけは眠っていた。
出席確認と連絡が終わり先生が教室を出た後は各々が話をし始める。
僕はなんとなく陽奈さんの所へ行った。
「陽奈起きろー」
先に梨乃さんがそこにいて陽奈さんを起こしている。
「んぅ、もうちょっと寝かせて」
「はいよ」
そんなこんなで実質梨乃さんと2人っきりになった。
「んで律って言ったっけ?陽奈とはどれくらいの付き合いなん?」
梨乃さんがそう聞いてきた。
「そんな長い付き合いじゃ無いですよ。初めて話してから1週間もしてないです。」
そういえば何気にまだ1週間も経っていないのか。
「へぇー、にしては陽奈と仲いいんだね」
「梨乃さんはいつから陽奈さんと友人なんですか?」
「入学してからずっと」
「僕とあんまり変わらないと思いますよそれ」
仲が良すぎて中学からの友達なのかと思っていた。
いや、まぁ朝の会話からして中学は別々なのは分かっていたが、
「でも陽奈と仲良さそうだったし、この前も陽奈に勉強教えてたから付き合い長いのかなって」
「付き合い自体はそんな長くないですよ」
そんな感じで2人で陽奈さんについて話しているとそろそろ席に戻らなければならない時間になった。
「陽奈起きろー授業始まるぞー」
梨乃さんは陽奈さんを起こしている。
あの2人は丁度前後の席なのでいつも一緒にいる。
「んぅ、あと5分だけ」
「目覚まし時計とちゃうぞ」
梨乃さんが起こしても陽奈さんは起きる気配がない。
寝る子は育つと言うが寝すぎもどうかと思う。
とりあえず僕はいつもより少し丁寧にノートを取る。
とは言っても板書はすぐに書き写してしまった。
僕はメモ用のノートを取り出し、簡単に要点をまとめる。
今は退屈凌ぎだが、テスト期間になればこれが役に立つ。
要点をまとめていると授業が終わる。
号令の後、僕は次の授業の準備をする。
陽奈さんは起きて梨乃さんと話している。
あの感じからして今起きた所だろう。
なんと言うかマイペースな人だ。
次の時間は余裕があるから少し陽奈さんを観察してみても面白そうだ。
授業開始のチャイムが鳴った。
始業の挨拶の後は丁寧にノートをまとめ、陽奈さんの方に目を向ける。
陽奈さんなりに眠らないように頑張っているのだろうか。
そんな感じで授業を受けていたら気づいたら今日の授業は全て終わっていた。
「陽奈、今日も図書室行くのか?」
「うん」
「そっか、じゃあまた来週」
「また来週」
どうやら陽奈さんは授業中殆ど寝て目が冴えているらしい。
「律くん、一緒に行こ」
「ええ、行きましょうか」
僕らは一緒に図書室へ向かう。
「明日は休みだ〜。律くんは休みの日何するの?」
「さぁ、特に決まったルーティンとかはないので行き当たりばったりです。」
「やっぱ律くん変わってるよね」
「そうでしょうか。」
「なんて言うか何かを言い切ったりしないって言うか、」
「どんな学問も始めは疑って取り掛かるのが僕のポリシーですから。」
「へぇー、なんかかっこいい。学者みたいで。」
初めてそんなことを言われた気がする。
「陽奈さんって人のことをよく見てないと気づかなそうなことに気づきがちな気がします。」
「唐突だね」
「誠実さも伺えて陽奈さんのそういう所、興味深くて好きです」
僕がそういうと陽奈さんは少し黙ってしまった。
何かまずいことを言っただろうか。
「律くんも困っている人を放って置かないし、よくみんなから頼られてるよね。」
陽奈さんの言葉が気まずい沈黙を破った。
「そうですかね。」
「うんそうだよ。本人はこういうの気づかないと思うけど律くんってみんなから凄く頼りにされてるからさ、いい人なんだろうなって。よくノート見せてくれるし」
やはり陽奈さんの考えはよく分からない。だから一緒にいて楽しいのかもしれない。
「そういえばどの授業のノートが取れてないんです?」
「えっと、確か数学と英語と保健」
「午前中ずっと寝てたんですね」
「あはは、眠たくてつい」
「しっかりと睡眠は取らないと健康にも悪いですよ」
「はい!明日から気をつけます!」
まぁ陽奈さんなら多少授業中に寝てもテストには影響は出ないだろう。
そんなこんなで色んな雑談をしていたら図書室に着いた。
僕は早速席に着き、陽奈さんにノートを貸した。
陽奈さんがノートを写している間、僕は本を借りてくるとしよう。
いつも通り小説が置いてある棚に足を運ぶ。
適当に3冊ほど手に取り席に戻る。
陽奈さんはノートを写している。
「ねぇ律くん。」
席に座ると同時に陽奈さんが話しかけてきた。
「どうしました。」
「恋ってしたことある?」
「まだ無いですね。」
「そっか。」
いつもより返事がぎこちない。
ノートを写しているからだろう。
「陽奈さんは恋したことあるんですか?」
「分かんない」
やっと陽奈さんらしい変わった返事が返ってきた。
「分かんないなんてことあるんですか。」
「うん、その人のことが好きなのかよく分かんなくて」
だから陽奈さんは恋愛心理学の本や恋愛小説を借りていたのか。
自分の中で妙に納得した。
「そうですか。」
アドバイスすることも無いので僕はそう返す。
それからはお互い無言で自分のことを進める。
陽奈さんの好きな人か。
陽奈さんは変わっている人だが、そんな陽奈さんにも好きな人がいたのか。
いやまぁ正確には好きかもしれない人だが、
陽奈さんが今まで告白を断ってきたのもその人のことが気になるからなのか。
いや、誠実な陽奈さんなら告白相手の本気な気持ちに中途半端な答えを出せなかったとも考えられる。
読んでいる本の内容が入ってこない。
まだ1ページ目だから内容に入りきれていないのだろう。
それなら集中が切れてしまうのも普通だ。
「律くん。ノートありがとう」
色々と考えていると陽奈さんがノートを返してくれた。
「あぁいえ、どういたしまして」
考えている途中だったので少し変な返事になってしまった。
「そういえば陽奈さんが好きかもしれない人って誰なんですか。」
気づけばこんなことを聞いてしまっていた。
まぁ、それを知れば読書に集中できるかも知れない。
「えぇ!えっと、えぇ!」
陽奈さんは今までに無いほど驚いたような反応をした。
「あっ、え、律くんって恋バナとかするんだ。」
「はい、少し気になったので」
「なんか意外かも。」
「そうですか?まぁ僕もあまりこのような会話をしたことが無いのは事実ですが。」
少しずついつも通りに戻る陽奈さん。
「で、その好きな人って誰なんですか。」
「言えないよ。」
まぁそうか。
よくよく考えれば好きな人を聞かれてすぐ答える人こそ珍しい。
「そうですよね。すみません。」
「いや、びっくりした。律ってなんかそう言う恋バナに食いつくイメージなかったから。」
「すみません。気にしないでください。」
「あはは、じゃあ用事は済んだから今日はもう帰るね。」
「そうですか。じゃあ僕もそろそろ帰りますか。」
「じゃあ下駄箱まで一緒に行く?」
「はい」
そうして僕たちは図書室を後にした。
しばし無言が続く。
「明日から休みだね。」
陽奈さんがその無言を切る
「そうですね。」
また無言が続く。
「休みの日とか何してるんですか。」
「午前中は寝て、午後はゴロゴロ。」
「いい休日の使い方ですね。」
「自分で言うのもなんだけどそうでもなくない?」
お互いにいつも通りのテンポに戻れた所で僕らは下駄箱に着いた。
「じゃあまた明日、じゃなかった、また来週」
「また来週」
そこで僕たちは解散した。
陽奈さんの返答はどれも面白いものだからそれがいきなりなくなると全員が帰った後の教室のように静かになってしまう。
陽奈さんが好きな人か、
いやまぁ正確には好きかもしれない人なのだが、
何故未だに気にしてしまうのだろう。
いや、気になるのは普通のことか。
隠された物に興味を持つのは人として当然なことだ。
特にそれが僕みたいな研究者気質な者であればその性質は顕著に出るだろう。
だが、人には知られたく無いこともある。
それにこの情報は無理に知る必要もない。
でも、それでも考えてしまう。
家に着いた。
玄関の扉を開けて靴を脱ぐ。
いつもなら理学的なことを考えている頃だろう
だが今は陽奈さんのことが頭から離れない。
洗面台で手を洗う。
陽奈さんが気になる人とはどのような人なのだろうか。
そもそも、僕は何故そんなことが気になるのか。
部屋に着く。
きっと、未知への好奇心だろう。
半ば無理矢理納得し、制服を脱ぎ私服に着替える。
いつも通り机に向かい、ノートを開き勉強を始める。
学校の授業だけでは物足りない。
ノートに自作の問題を書く。
まだ陽奈さんのことが気になる。
考える理由が分かっただけで考えていることの答えが出た訳ではない。
気になるままなのは当然だ。
少し問題の難易度を間違えただろうか。
いつもより難しい気がする。
陽奈さんとその人はどんな関係なのだろう。
いつ出会った人なのだろう。
問題とは無関係な思考が飛び交う。
記憶を一度整理する為にも一度仮眠を取ろう。
ベッドに横たわり目を閉じる。
眠気はあるが眠れない。
また陽奈さんの気になる人のことを考えてしまう。
無理矢理目を瞑る。
何も考えないというのは難しい。
特に今は無意識に陽奈さんのことを考えてしまう。
だが、このままベッドで横になっていたらいつかは眠れるだろう。
僕はそのまま長い間ベッドに横たわった。
目が覚めた。
デジタル時計には20:04と書いていた。
随分と長い間眠ってしまったらしい。
晩御飯の支度でもしよう。
そのままキッチンに向かう。
今は家には僕しかいない。
両親の仕事の関係でよくあることだ。
明日の昼頃には帰ってくるだろう。
今日は簡単な料理だけしてすぐ食べて風呂に入ってから寝よう。
まだ寝る前と同じようなことを考えてしまっている。
どれだけ考えても意味は無いはずなのに、
どうしてもそのことが気になってしまう。
どうしても陽奈さんのことが頭から離れない。
食卓は、いつも1人で食べる時より静かに感じた。
日は沈みきっており、窓の外には暗闇とそれを紛らわす街灯の光だけが点々と光っている。
食器を下げ、軽く洗う。
ダイニングの照明が手の影をシンクに落とす。
洗い終えた食器の水気を拭き取り、食器を乾かす。
陽奈さんがここにいたらどんなことを言ってくれるのだろうか。
着替えを用意し、脱衣所へ向かう。
陽奈さんとの会話に意味はあったのか。
頭と顔を身体を洗い水で流す。
浴槽に入る気にはならなかった。
風呂場から出て体をタオルで拭く。
陽奈さんと初めて図書室で会った日に借りた本にはどんなことが書かれていたっけ。
新しい服に腕を通す。
陽奈さんといる時はなんだか安心できている気がする。
歯磨きとスキンケアをしてから再び部屋に戻る。
部屋の時計は既に22時を回っていた。
寝れる気がしない。
陽奈さんも昨日は眠れなかったと言っていたな。
今日はもう寝れているのだろうか。
また陽奈さんのことを考えてしまう。
月明かりが僕の部屋に落ちる。
心臓の鼓動がいつもより速い。
胸の奥が締め付けられているような感覚がする。
こんなことは初めてだった。
身体が少し熱くなってきた。
少し水を飲もう。
ベッドから降りる。
時計は0時23分を示している。
陽奈さんはもう寝ているだろうか。
キッチンに行き、ガラスのコップに水を注ぎ、氷を入れる。
外の街灯は殆ど消え、星と月の光だけが暗闇に点々と浮かんでいる。
コップの中の水を飲む。
火照った身体を水が内側から冷ます。
水を全て飲み終わった後、僕は部屋に戻り眠りに着いた。
朝日に当てられて目が覚める。
学校の夢を見た。
時計は7時を指していた。
ベッドの上でまた陽奈さんのことを気にしてしまう。
今日も明日も休みだから会うことはできない。
僕がここまで陽奈さんを考えてしまうのは何故なんだ。
陽奈さんは誠実で面白くて一緒にいると落ち着けて、頭もよくて、でも少し抜けてるところがあって。
思えば一緒に本を読んだあの日から少し違和感があった気がする。
もう僕にとって陽奈さんはただのクラスメイトではないことは分かっている。
じゃあ陽奈さんは僕にとって友達か?読書仲間か?委員会仲間か?
どれもしっくりこない。
窓の外では桜の花弁が舞っている。
陽奈さんはまだ寝ているのだろうか。
この感情の意味は分からない。
分からないまま朝食の準備の為に部屋を出た。
キッチンに着くとガラスのコップと少し溶けた氷があった。
簡単に朝食を準備する。
テレビのニュースを見る。
今日は一日中晴れるとのことだ。
ニュースの内容はどれも頭に入ってこない。
時計は既に9:03を表していた。
いつもなら陽奈さんと軽く雑談をしている時間だ。
もし今隣に陽奈さんがいたらいつものように雑談をしていたのかな。
もうすぐ春が終わる。
なんとなく今のうちに陽奈さんへ向けたこの感情を整理したいと思えた。
僕は陽奈さんをどう思っている?
いつも陽奈さんと一緒にいるのは何故?
偶然、図書室で会うから?
確かにいつも図書室へ行くが、最近は図書室以外でも一緒にいることが多い。
一緒に同じ本を読んだあの日は偶然ではなかった。
なら同じクラスだから?
確かにクラスメイトでなかったらここまでお互い一緒にいることは無かっただろう。
だが、それだと僕がこんなにも陽奈さんのことだけ考えてしまう理由が分からない。
同じ風紀委員だから?
風紀委員として陽奈さんと話したのは委員会が決まった日だけだ。
陽奈さんと僕は友達だからか?
きっとそうだろう。
少なくとも一緒にいたり話したりする理由はそうなのかもしれない。
だが、友達だとしてここまで陽奈さんのことだけ考えてしまうのは何故。
陽奈さんのことを考えると胸が痛くなるのに、それでも考えてしまうのは何故。
コップの中の氷が溶けきった。
好きだったんだろう。きっと、
その日初めて、僕は恋を自覚した。
外は快晴だった。
まだ陽奈さんのことを考える。
恋だと分かって見れば確かにそれは恋だった。
今はまだ陽奈さんについて考えていたい。
陽奈さんには気になる人が居ると言っていた。
そんな中陽奈さんに告白をするべきか?
陽奈さんなら気を使って付き合ってくれるなんてことはしないだろう。
問題は付き合えるかどうかではない。
陽奈さんは誠実な人だから僕のことが好きでなければ断るだろう。
でも同時に、陽奈さんは優しい人でもある。
きっと断ることは陽奈さんの心を疲れさせることでもある。
だからこそこの気持ちを伝えるべきか悩んでいる。
いや、きっと伝えない方がいいのだろう。
その選択は確かに僕の後悔に繋がるかもしれない。
だが、陽奈さんを傷つけないまま友達で終われる。
でももし、
いや、期待するのはやめよう。
食器を洗いながらそんな思考を繰り返す。
朝ごはんを食べ終わってからずっと食器を洗っている気がする。
そういえば今は何時だろう。
時計を見ると既に昼を回っていた。
まだ冷静ではないらしい。
昼を回っていることを自覚し、食器を片付ける。
もしこの恋が僕を狂わせるならキッパリと諦めるべきなのだろう。
もし僕が淡い期待を抱いているならその期待すら無くせばいいのだろう。
でも陽奈さんの心を傷つけてまですることか?
部屋に戻り告白をするかしないかの葛藤をする。
淡い期待を抱くことすら淡い期待なのだろう。
好きだと知ってすぐ告白する意味も特にない。
陽奈さんの様子からして付き合っている人もいない。
もう陽奈さんは気になる人が好きな人だと気づいたか。
それとも既に知っていてはぐらかしたのか。
そもそも、先に恋バナを始めたのは陽奈さんだったか、
何故あのタイミングで恋バナを始めた?
僕が持ってきた本が恋愛小説だったから?
僕を見て一緒に読んだあの本を思い出したから?
なんにせよきっとあの時はまだ陽奈さんもそれを恋だと確信はしていなかっただろう。
もしかしたらそれが本当に恋ではないのかもしれない。
陽奈さんに色々聞いてみるか。
この前は誰のことが気になっているかを聞いたから陽奈さんも答えられなかった。
なんとなく僕でないことを確信できる程度にその人について聞くのが良さそうだ。
とりあえず方針は決まった。
僕が諦めるきっかけを作るだけなら態々陽奈さん告白をしなくてもいい。
あとはいつも通りにしていれば全て上手く行くのだから。
きっと僕の初恋は失恋で終わるだろう。
色々と考えていてつい時間を忘れていたがリビングの方がやけに騒がしい。
両親が帰ってきたのだろう。
静寂がなくなり色々と覚悟が決まった。
夕飯までは適当に問題を解いて時間を潰そう。
まだ陽奈さんのことを考えているが、その思考は優しく僕の側にいるだけだった。
「律、夕飯できたよ」
お母さんの声が聞こえた。
もうすぐでこの問題も解き終わる。
問題を解き終えてから食卓に向かっても支障はないだろう。
未だ陽奈さんのことを考えている。
諦めたと言っても恋は恋なのだから当然そうなるだろう。
だが問題はいつも通り解けて僕はダイニングへ向かった。
それから僕はいつも通りの休日を過ごした。
休みが終わり学校に着く。
今日もいつもより早く学校に着いた。
今、教室には陽奈さんと僕しかいない。
「陽奈さんおはようございます。」
「律くんおはよう。休日はどうだった?」
「いつも通り行き当たりばったりでした。陽奈さんもゴロゴロしてたんですか。」
「うん、いつも通り朝は寝て昼からゴロゴロしてた。」
「いい休日ですね。」
「前も言ったけどそうでもなくない?」
いつも通り雑談をする。
「そういえば、陽奈さんの気になる人ってどんな人なんですか。」
少し思い切った話題を振る。
「じゃあ私の質問にも答えて。律くんは最近進展ある?」
「えぇ、少し気になる人が、」
「うぇ‼︎誰誰誰⁉︎」
「言わないですよ。」
確かに誰が気になっていると聞かれたら困惑するな。
「ごめんごめん。えっと気になる人がどんな人かだっけ?うーん、少し変わっていて、みんなから頼りにされている人。」
この情報だけではまだ確信できない。
「いい人そうですね。いつから気になっているんですか?」
もう一度情報を集める。
「えっと、それは、ノーコメントで」
まぁ答えづらい所もあるだろう。
「じゃあ私も聞いていい?その人って同じ高校?」
陽奈さんも質問をしてきた。
単純に恋バナがしたいのだろう。
実際、僕も少し楽しくなってきた。
「はい、同じ高校です。」
ただ、僕の場合は好きな人から誰が好きなのかを問われている為、なんだか変な感覚だ。
一緒に恋バナをしていると教室に1人入ってきた。
「陽奈、律くんおはよう。月曜日の朝ダルい。」
「おはよう梨乃。」
「おはようございます。」
梨乃さんは気怠そうに机に伏せた。
「2人ともなんの話してたの?」
「恋バナ」
「え、いいじゃん私も混ぜて。陽奈って誰が好きなん?」
梨乃さんに少し活気が戻った。
「そこは伏せておきます。逆に梨乃って好きな人いるの?」
「えっ、まぁ、いるけど、言わないよ。律くんは誰が好きなん?陽奈とか?」
「もしそうだとしてもこの場ではいって言える訳ないじゃないですか。」
初っ端すごい質問をぶっ込んできた。
恋バナってこんな感じなのか。
そんなこんなで3人で出席の時間まで恋バナをした。
だが、陽奈さんの気になる人が僕でないと確信できる情報は出なかった。
今日の授業が全て終わりみんな帰る時間になった。
僕は陽奈さんに話かける。
「この後いつも通り図書室行きますか。」
「うん一緒に行こうか。」
僕たちは一緒に教室を出る。
「なんか一緒に図書室に行くのも久々な気がする。」
「そうですね、つい先週一緒に行ったばかりなのに。」
「なんだかこうして一緒に図書室に行くのも懐かしい気がするね」
「そこまで久々だとは思ってませんでした。体感だと三ヶ月ほどしか経ってないと思っていたので。」
「三ヶ月って結構長くない?体感だと二ヶ月位だったんだけど。」
「二ヶ月で懐かしいって感情は芽生えないですね。」
「え、そう?だって今から二ヶ月前って考えたら卒業式練習してる位の頃でしょ?そう思うと懐かしくない?」
「あれは体感二年前のできごとですから。」
「まぁ確かに。」
雑談をしながら図書室に向かう。
「そういえばまだ入学から2週間しか経ってないのか、体感だと半年位一緒に図書室行ってたと思ったんだけどな。」
「話してて思ったんですけどお互いに体感バグってますね。」
「まぁ高校生だし?」
「関係ありますかね。それ」
話しているうちに図書室に着いていた。
「律くん、あの本一緒に読も?」
「あの本ですか。確か前途中まで一緒に読んだ本ですよね。丁度僕も一緒に読みたいと思っていました。」
「じゃあ読みますか〜」
例の本を手に取り、陽奈さんと隣同士で座る。
改めて陽奈さんを好きと思ってからこの距離で本を読むと少し意識してしまう。
いつもより心臓の音がうるさい。
陽奈さんに聞こえていないか心配になる。
陽奈さんが少し身をこちらに近づけてくる。
本格的に心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
前回読んだ所から読む。
また陽奈さんが寄ってきて肩が触れる。
「陽奈さん、あの、肩が、」
上手く言葉が出ない。
心臓の音はより一層大きくなる。
「ご、ごめん」
陽奈さんと僕の間に少し空間ができた。
全然内容に集中できない。
ページは一向に進まない。
少し陽奈さんに触れた左肩が熱い。
それからどれほど時間が経っただろう。
結局1ページも進まないまま図書室を閉める時間になっていた。
「一緒に下駄箱まで行こうか」
「はい」
まだ少し心臓の鼓動がいつもより速い。
またあの日みたいに無言が続く。
「あの、陽奈さん。明日も一緒に図書室行きましょう。」
「うん」
少し話してはまた無言が続く。
いつも通りにできない。
恋ってこんなにも難しい物だったのか。
殆ど無言のまま下駄箱まで着いてしまった。
「じゃあまた明日。」
「また明日」
その場で僕らは別れた。
結局陽奈さんの気になる人が自分でないという情報も得られなかった。
まだ心臓の鼓動が速い。
左肩に不自然な温かさだけが残る。
明日はただの友達として振る舞えるだろうか。
僕は学校を出た。
その次の日も僕は朝早く学校に来ていた。
今日は先客が2人いた。
「陽奈さん、梨乃さんおはようございます。」
「律くんおはよう」
「おはよう」
「なんの話をしてたんですか。」
「恋バナしてた。梨乃は進展あったって」
「うん、昨日好きな人と一緒に帰ってさ。思い切って告白したの。」
「付き合ったんですか。」
「いや相手が少し考えさせてって言うから返事は今日に持ち越された。」
「だから梨乃今めっちゃ緊張してるんだって」
「言わないでいいから!」
「2人の幸せを願います。」
「いやだからまだ返事待ちだって。」
「でも殆ど脈アリなんでしょ?」
「まぁそうだけど、てかそう言うあんたらはなんか進展あった訳?」
「うーん、現状維持かな、」
「僕もそんな感じですね。」
本人を前にこの話題をいきなり振られると一瞬何を言っていいのか分からなくなる。
「まだその人のことが好きなのか分からないの?」
「うん、なんかこれが恋なのか分からなくて」
「僕もなにせ今まで恋をしたことがなくて。」
「まだ2人とも若いね」
同じ学年の人に言われた。
「いや私たち同い年でしょ」
そこに陽奈さんがツッコミを入れる。
そんな感じで今日も恋バナで盛り上がり出席確認の時間まで3人で話した。
最近、恋バナをすることが増えた気がする。
そこに純粋に恋バナを楽しんでいる自分もいれば陽奈さんの気になる人が自分でないことを確認しようとする自分もいる。
にしても告白か、
梨乃さんは告白をして今日返事を貰うらしいが、僕も告白をしたい。
だが、陽奈さんには好きな人がいる。
それを知っておきながら告白をするべきなのか。
そんな葛藤をずっとしている。
せめて陽奈さんの好きな人が僕で無いと分かれば簡単に諦めることができるのに。
そんな思考が巡っている中、まともに授業を受けれられるはずがなく、今日のノートは真っ白なままだった。
全ての授業が終わり帰る時間になった。
僕は陽奈さんに図書室へ行こうと呼びに行く。
「律くん、ごめん、呼び出されちゃったから先に図書室に行ってて。」
だが、その前に陽奈さんが僕に話しかけてきた。
「いいですよ、教室で待っていますから終わったらきて下さい。」
きっとまた告白だろう。
初めて話した日も陽奈さんは告白されていたっけ。
あの日のように着いて行きたかった。
でも着いていく理由が今の僕には見つからなかった。
「あれ、律じゃんまだ残ってたの?」
教室に戻ってきた梨乃さんが僕に話しかける。
「はい、今陽奈さんを待ってて」
「なるほどね。」
「梨乃さんは行かなくていいんですか。」
「うん、アイツのクラス、まだ帰りの連絡終わってなくて」
「そうですか」
梨乃さんと2人だけで喋ったことは殆どないから気まずい。
「律。あんた陽奈のことが好きなんでしょ?」
「よく分かりましたね。」
「告白しなくていいの?」
「陽奈さんに好きな人がいるって知ってますから。」
「それで律が告白したら陽奈は断ると思っているの?」
「えぇ、ですが陽奈さんに断らせるのは気が引けて」
「そっか、なんか分かんないけどさ、告白したらいいと思うよ。もしそれで上手く行かなくても陽奈のことだからまだ友達としてお互いやっていけると思う。」
「でも、もし友達としてもやっていけなくなったら、どうしたら」
「告白ってさ、相手を慰める為にする物でも、付き合う為にすることでもないと思うんだ。想いを伝えるだけでもいい。陽奈ならそれを理解してくれる。」
梨乃さんが言っていることは最もなのかもしれない。
きっと僕は陽奈さんに迷惑がかかると言って告白することから逃げていただけなのかもしれない。
「ありがとうございます」
僕は梨乃さんにそう伝えた。
「じゃあまた明日。」
梨乃さんはそう言うと教室を出て行った。
正直に言うとまだ悩んでいる。
陽奈さんに告白するべきなのか、
「ごめん、律くんお待たせ。」
陽奈さんが教室に入ってきた。
「じゃあ、行きましょうか」
いつも通りにできただろうか。
昨日ぶりに2人っきりになった。
昨日の帰りと同じで途切れ途切れの会話を続けていたら図書室に着いた。
「今日はさ、別々の本を読まない?」
陽奈さんからそう言われた。
陽奈さんもこの空気が苦手なのだろう。
「はい、分かりました」
僕らは昨日とは別の本をそれぞれ選んだ。
本を取ってからお互いに対面で座る。
お互いの本をめくる音だけが聞こえる。
内容は頭に入ってこない。
ただ、読んでいるふりで誤魔化す。
陽奈さんのページをめくる速度がいつもより速い気がする。
告白をするかしないかの葛藤をするだけで時間が過ぎていく。
そしてついに図書室を閉める時間になってしまった。
「陽奈さん!」
席を立つ陽奈さんに声をかける。
陽奈さんは驚いたように止まっている。
陽奈さんの目を見て話したのは久しぶりな気がする。
心臓の鼓動がいつもより速い。
覚悟を決めよう。
「好きです!付き合って下さい!」
会釈をするように僕は頭を下げ、陽奈さんに告白した。
今、陽奈さんはどんな顔をしているのだろう。
下を見る僕の視線には、図書室の机と先程まで読んでいた本しか見えない。
僕の心臓の音以外聞こえない。
一瞬ときが止まったかのように思えた。
一生にも思える一瞬だった。
日差しがいつもより眩しい。
「はい。」
陽奈さんの声と共に時間は動き出した。
顔を上げると陽奈さんはいつも通りの笑みを浮かべていた。
その笑顔を久しぶりに見れた気がした。
心臓の鼓動が静かになった。
やっぱり夕日はいつもより眩しかった。
「じゃあ、今日も一緒に下駄箱まで行こうか。」
「はい。じゃあ行きましょうか。」
夕飯が僕らの背中に当たり、影を作る。
桜は既に散って緑色の葉をつけ始めていた。
僕らはいつもよりも近い距離で
図書室を後にした。
長編シリーズの宣伝用に書いた短編小説でしたが、書いている内に感情移入してました。
なので今なら胸を張って言えます。
『日溜まりに溶ける』を最後まで読んで下さり、ありがとうございました。




