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006

あけましておめでとうございます。

今年も月曜更新で頑張らさせていただきます。

よろしくお願いします。

実のところ、アルフレッドはそこまで落胆してはいなかった、案の定とというのが素直な感想だ。

目的は船を手に入れることであり、元より乗組員などほかのことに期待してなかった。

役立つ者を道中で探すという案は、あの場の思い付きではなく最初から考えていたことだ。数は少ないが、有力な人材に目星も立てていた。

強いて想定外を上げるのなら、目の前の少女こそが想定外の存在だった。


「お前こそ、どうなんだ?本気であの蛇を殺したいのか?」


「うん、もちろん」


「なぜ、そこまで強い想いを抱ける?言っちゃあなんだが、俺みたいに本気であの蛇を殺してやりたい奴は少数派だ。故郷でも潰されたのか?」


嫌味で言っているわけではない。ヨルムンガンドによる被害を考えたら、珍しい話でもなかった。

この首都も新しく建てられたものだ、旧首都は五十年以上前になるがヨルムンガンドによって瓦礫の山へと変えられている。


「実際に故郷を潰されたとしても、復讐心を抱く奴は少ない。大概は、諦めるんだ。世界を七周するほどの大蛇だ、生き物よりも自然災害に近い存在なんだ。復讐心よりも諦観が強くなるというのは、十分理解できるだろうさ」


ヨルムンガンドによって、故郷や家族を失うなんて話そこらへんで

ありふれた不幸話だからこそ、皆一様に諦められる。


「だからこそ分からねえ、何がお前をそんなに駆り立てるんだ?」


尋ねられたミカの瞳には、憎悪はなかった。代わりに、そういった感情とは別種の、だがそれ以上に強い感情が渦巻いているのが見て取れた。


「……聞いても笑わない?」


「たぶんな」


「目は口ほどに物を言う」というべきか、目は明白に、笑ったら承知しないと告げていた。


「ボクは職人だ。だから、自分の腕に誇りを持っているし、それだけは他の誰にも負けたくないとも思っている」


「すでに、世界有数の征界船を作り上げたんだろ?それじゃあ、ダメなのか」


アルフレッドの目は夜に覆われた街の中であっても、目立つ大きな影を捕らえていた。

薄らと浮かぶシルエットは、国を囲む外壁のさらに外にあった。全貌は見えないが、壁を超えていることからかなりの大きさを誇ることが容易に理解できた。

アルフレッドの視線を追ってミカも、征界船の影に目を向けたていた。その眼差しは成果や作品を見るような無機質なものではなく、まるで我が子を見るかのように暖かい。

およそ船に向けるべきではない視線の熱に、アルフレッドは若干引いていた。


「ああ、征界船(あれ)はボクの自信作だ。断言するけど、世界中のどこを探したとしても、あれに比類しうる船は()()無いよ」


気付けば、ミカが征界船に向ける視線は愛情と呼べるものから変化していた。


「……そう。まだ、なんだよ。今は世界最高峰のあれも、きっといつか追い越される。いや、もしかしたら僕が知らないところで、すでに追い越されつつあるのかもしれない」


そう語るミカは寂しげに、そしてそれ以上に悔しそうだった。


「分かるかい、アル?技術ってやつは、どうしたって日々進歩しているんだ。ボクが作ったあの船だって、いつか来る未来に必ず追い越されてしまうんだ」


「言いたいことは、()かる。わかるが、それがなぜヨルムンガンドを倒すことに結びつくんだ?お前がしたいのは技術の進歩に抗うことだろ?決して、武勲を立てることじゃないはずだが」


「ふふん、君が言うとおりヨルムンガンドを倒すこと自体には興味がない。ボクの望みは、ヨルムンガンドの亡骸さ」


満面の笑みが広がっていたが、その笑顔は生憎可愛いとは言えなかった。狂気にも近い熱意が、その笑顔にあったからだ。


「証明するまでもなく、ヨルムンガンドは世界で最も巨大な生き物だ。だからさ、その巨大な亡骸で、世界で最も巨大な機械(マシン)作ったなら、未来永劫誰にも超えられることはないと思わない?」


馬鹿だこいつ、と思った。

きっと、本当にヨルムンガンドのことなんて恨んですらいないのだろう。

自分の誇りと底なしの熱意のためだけに、意味があるかわからない冒険に人生を費やそうとしている。

熱意。それはもしかしたら、憎悪よりもずっと厄介な感情かもしれない。


「もしかしたら、ボクも他の人たちと大差ないのかもしれない。ヨルムンガンドを倒すことに興味は無いんだ、ボクにとってヨルムンガンドを倒ことはついで、なんだよ。でも、この願いは嘘偽りない本気だよ。ごめんね、アル。ボクはボクの夢ために、君を利用させてもらうよ」


戦う術を持ちあわせない職人(ミカ)が、アルフレッドに面と向かって「利用する」と言い放ってみせた。

つい数時間前、百人以上の戦士を叩きのめしてみせたアルフレッドに向かってだ。

夢を語っていた時とは打って変わって、その表情には緊張が隠せていない。


「くふっ、ふはっ。はははははっ」


夜空に笑い声が木霊していた。笑い声の発生源は、他ならぬアルフレッドの口からだった。


「んなぁ。わ、笑うなぁ!」


さっきまでの勇ましさはどこに行ったのか、今にも泣きそうな声で抗議してきていた。


「ああ、悪ぃ悪ぃ。あまりにも可笑しくて。つい、な」


「つい、じゃない!ボクは本気なんだ、可笑しくなんかない!」


さっきの威勢はどこに行ったのか、顔を真っ赤にして憤慨していた。


「いいや、十分可笑しなことさ。こんなバカげた夢を掲げたやつが俺以外にもいるなんて、可笑しいにもほどがあるだろう?」


「くそっ、バカにしやがっ、うん?……俺以外にも?」


「最初の質問はたしか、俺が目指すものはなにかだったな」


雰囲気が変わったのが分かった。

百の戦士たちに囲まれたときですら、ここまで気迫が満ちていなかっただろう。

ミカの細い喉から、息をのむ音が聞こえた。


「英雄になること。古今東西どこを見渡したとしても、並ぶものがないほどの偉業を成し遂げて、誰にも塗り替えられることのない伝説を打ち建てること」


もしかしたらアルフレッドもミカも、実現性に乏しい夢を掲げている点では、あの国王とそう大差がないのかもしれない。


「なあ、ミカ。俺もお前と一緒で、自分の武勇が誰かに追い越されるのがたまらなく気に食わないんだ」


あの王と異なるとしたら、それは他の誰か頼みではなく、自分の腕ならできるという確信があることだ。

傲慢にも近い自信こそが、二人の原動力だった。


「これからよろしくな、ミカ。お互い、馬鹿げた夢を叶えに行こうぜ」


「……うん!」


剣士一人に、職人が一人。

成しとげようとする偉業に対して、人手もなにもかも足りないのが現状だが、なんとかなるような確信めいたものが二人にはあった。



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