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誰でしょうね?週2投稿目指すとか言っていたくせに、初週からできないかったやつは?

ほんと緊急対応のため急遽出張とか勘弁してほしい。

すいませんが、暫くは週1の投稿になります。

「ラス王国5代目国王、ヒルハルド陛下のご登壇です」


司会の言葉を受けて、ヒルハルドは壇上へ登る。

幼少の時から叩きこまれた所作は、己の気分が反映されているかのように軽やかだ。

ヒルハルドは今、気分が良かった。

伝説の幕開けを一目見んと観客席にひしめく民たち、舞台に集った数多の強者たち。

その誰もがヒルハルドに注目し、言葉を待っている。その事実がヒルハルドの機嫌をよくしていた。



――ヒルハルドには見えていない。

観覧席に押し寄せた多くの国民の目にあるのは、期待なんかでは決してない。その目を濁らせるのは、娯楽への飢え。

見たいものしか見ようとしないヒルハルドには、民の諦観など目に映らない。己を肯定する色眼鏡でしか、物事を見ることが出来ない故に。


ヒルハルドの口元にある魔法具は、彼の朗らかな声を遠くまで広げていく。


「今日という輝かしい日に、諸君らに集まってもらったのは、ひとえに諸君らの実力を示してもらうためだ。我らがこの世に生を受けるよりもはるか昔から生きる「ヨルムンガンド」を君たちなら倒せると、余と民たちに証明してくれ!」


道具にとっては、政治事情も民意も関係は無い。それは、魔法が込められた道具であっても変わらない。ヒルハルドの認識と民衆の認識に温度差があろうが関係なく、設計された機能を過不足なくただただ発揮してみせる。


「ここに、英雄選抜式(アルゴロワイ)の開会を宣言する!」


ヒルハルドにとって、この試みは思い付きだった。


「前代未聞の偉業を成すためには、多くの英傑の力が必要だろう。だが、絶えず移動し続ける『ヨルムンガンド』を、一団を率いて追いかけるのことは困難だ。『ヨルムンガンド』を倒すには人手が必要不可欠であるが、大勢で『ヨルムンガンド』を追いかけることは困難。この矛盾する課題を解決できず、多くの先人は膝を屈してきた」


思い付きが故に、足らない部分はいくつかあった。それこそ、日夜移動し続ける『ヨルムンガンド』を、いかに探し出すか等。


「だが、余は歴々の先人たちとは違う。この矛盾に対する答えを用意した。その答えとはすなわち、船だ。余は船を用意したのだ!……その船は、船でありながらも大地を駆ける足を持ち、大陸を駆け大海を渡ってみせる。新たな時代の船、『征界船』を用意した」


『征界船』という流行りの存在は知らずとも、王都のすぐそばで造船している様子は目立っていた。だから、市民であっても、今日の発表よりも前から『征界船』の存在を知っていたのだろう。

感嘆の声に交じって、納得の声もまばらに聞こえてきていた。


「だが、かのヨルムンガンドを討つにはまだ足りないものがある。それは、船員だ。どれだけ優れた船であっても、運ぶものが無ければただの木箱にすぎない。武を誇る船員、そしてそれを束ねる統率者が必要なのだ」


もちろん、船だけあってもヨルムンガンドを討つことは叶わない。生き物を殺す以上、なによりも必要なのは武力だ。その武力こそが、こうして集まった彼らだった。


「守らねばならない国がある限り、余が君たちと共にあることは叶わない」


最初は、自ら陣頭に立つことを考えたが、船内で何年も不自由な生活を強いられるのは嫌だった。


「したがって、余に代わりに諸君らを率いる船長を決める必要がある」


舞台、船、船員、ここまでヒルハルド自身が望むものは全て揃っていた。最後のピースが、これから決まる『船長』だ。


(ああ、なぜ余の成すことはこうも上手くいってしまうのだろう?)


ヒルハルドは自分のことながら、自身の天運に末恐ろしさすら感じていた。

この調子なら、ヨルムンガンドなんぞ来年の今頃には倒されているのではないだろうか。

憎きヨルムンガンドが居なくなれば、その巨躯に隔たれていた国境が解放されるだろう。

ならば、ヨルムンガンド討伐を果たしたという威光をもって、大陸全土へと支配の手を広げていくこともできる。

始めは隣国「アルス」、その次は竜交国家「リンドブルム」、最後に「スーヴァ共和国」。

10年も待たずして大陸全土に、己が名声が広がっていることだろう。

今日という日は、栄光への第一歩となるだろう。


「諸君らには、その腕を競ってもらう。最後まで立っていたもの。つまり、今日!ここに!集った者の中で一番の強者を船長に任命する。そのほかの船員の任命権は、その者に一任することとする」


貴族たちも、それぞれ目をかけている騎士を何人か参加させている。

彼らでなくとも、余が最高の舞台を用意したのだ、きっと誰か素晴らしいものが勝ち残るだろう。


「皆も思っているかもしれぬが、船長という責任ある立場を力で決めることは、野蛮なことだろう。だが、かの邪悪を討つには何よりも……


――ヒルハルドは知らない。

自分が思い付きで用意した舞台に、幼き頃からヨルムンガンドの討伐を夢見て、そのために準備を続けてきた『本物』がいることを。


「なあ、おい。王さま、よぉ。話が長いんだけどさ、要約するに最後まで立っていたやつが船長ってことでいいんだよな!?」


苛立ちを隠す様子もない荒々しい声が、ヒルハルドの声を押しのけて周囲に響き渡った。

威勢はいいようだが、みすぼらしい恰好は並みいる参加者たちを押しのけて勝ち上がってくるとは到底思えなかった。


「……うむ、そうだ」


見栄っ張りな性格が許さなかった。


「はっ、いいねぇ。話が早い」


聞こえてきた言葉の意味を頭が理解するよりも先に、男の手が隣の参加者へと伸びていた。

手の伸びた先にあったのは、隣の者の顎。

男は無造作に顎を掴み、捻る。


一見、軽い動作に見えたが顎関節が砕け、顎が九十度回転し横向いた。

上顎と下顎がT字を描いている。肌が歪に弛み、舌先と下の歯が真横を向いている異常な状況。

数瞬前まではまっとうに人の顔だったものが、幼子が描いた絵のように歪んだシルエットへと変貌を遂げていた。


痛みに見開かれ膝をつくも、喚くことは許されなかった。

歪な顎へ、容赦なく膝蹴りが叩き込まれ、出張った顎が平らに均される。

激痛故か、脳震盪故か定かではないが戦士は気を失っていた。

白目をむいた戦士が膝から崩れ視界からフェードアウトしていったことで、自然と視線はこの凶行の主である赤毛の青年に戻される。


「ひぃっ」


そこには、笑顔があった。

獰猛に、凄惨に、そして楽し気に歪んだ笑顔。

ヒルハルドがいる壇上から、男がいる闘技場まで随分距離があるはずなのに、自分は安全圏にいるはずなのに、本能が恐怖を訴えていた。


「くははっ、結末は分かりきってんだ!ちゃっちゃと!終わらせようかッ!」



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